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沢渡龍也という男

私は、いわゆるメンクイというやつに違いない。


例えばアイドル大好きだし、二次元キャラだっていっつもイケメンキャラを好きになって推しにしてグッズを集めまくる、完全にメンクイだ。


でも、そんな私なのに、好みについて納得のいかないことがある。



それは_________













「夏美ちゃん、あなたって、彼氏とかいたことあるの?」


「え、あ、は、はい…」


私の名前は北川夏美きたがわなつみ


IT企業に勤める、入社3年目の25歳。


IT企業で更にエンジニアとして働いている私は、基本的に女という生き物がかなり少ない、男ばかりのむさ苦しい中で働いているためか、最近は女性との会話には少し身構えてしまうようになっていた。


そして私に話しかけているこの女性は、エンジニアとして働く数少ない同僚、古道由香ふるみちゆかさん。


私より2つほど上で、彼女はかなり腕の立つエンジニアの一人だ。


仲はいいけど、どうしても敬語使わないといけない時点で壁があるように感じさせてるのが、申し訳ないけど…


「…その、さ、彼氏ってさ、いたらどんな感じなの?」


「は、はあ…」


…由香さんは腕は立つかもしれないが、恋愛という意味ではあまり成就しているとはいえないみたい。


「別に、普通ですよ。デートしたり、お互いの家に行ってセックスしたり」


「…あなた、平気な顔して昼間かそんなこと話すのね」


流石、処女を貫いているだけあってこんなことでも照れるのね、由香さん。


「それよりどうしたんですか。そんな話題だして。好きな人でも出来たんですか?」


「そ、それは…」


顔が赤くなるところを見ると、どうやら正解っぽいな。


「会社の人ですか?」


「~~~~~!!!!!」


顔で丸わかりすぎてかわいい…


こっちまでにやけそう。


誰だろう?


「わ、笑わないで聞いてくれる?」


「はい」


耳元で、コソッと呟いた。


「営業の、沢渡さん」


…うーん、あ、あの人か。


顔を思い浮かべることが1秒の間で出来るレベルの有名人じゃん。


その男の名前は沢渡龍也さわたりりゅうや


爽やかなマスクを持つ、かなりのイケメン…にあたる人。


女子の多いところでは、イケメンがいれば他の部署の人のことでも「〇〇かっこいい」だの色々聞けるのに、ここでは数少ない女性が集まってもそんな話題すら上がらない。


まず、この部署だと女が2人しかいないのにさ、それも由香さんから男の話をしたの今日が初めてだよ?


その時点で御察しでしょ。


それなのに何故知ってるかと言えば。


沢渡さんはなんか知らないけどうちの部署にいっつも来るから。


まあ前に聞こえてきた話からだと、この部署に知り合いが大量にいるとかいないとか。


こんだけしょっちゅう顔を合わせると、流石に名前も覚えるの、普通だよね?


それに、この人イケメンって言ったじゃん?それがさ、ホントヤバいの。


初め見たとき、「めっさかっこいいな?」とつい口に出しそうになったくらいだし、大学時代にモテすぎて多分彼女を取っ替え引っ替えして性に荒れた4年間(大卒か院卒かは知らないし、もしかしたら6年かも)を過ごしてきたんだろうなって感じ。


少女漫画とかで高校時代にファンクラブできるくらいのイケメンが出てきたりするけど、そんな感じ。


ひどい偏見だな、改めて考えると。


「沢渡さん、確かに格好いいと思いますよ」


「え、やっぱり夏美ちゃんもそう思う?」


「はい」


こんなことで嘘をついても仕方がないし、否定する意味もないし。


あの人をイケメンと呼ばないで誰を呼ぶ?って感じだし。


「…夏美ちゃんも、好きにならないでね?」


…んー、よくありがちな言葉だな。


いや、わかるよ?この気持ち。でもさ。


もし好きでも、そんなこと言われても好きなものは好きだし、そんな牽制されてもどうしようもない。


それに。


「大丈夫ですよ。私、彼に興味ないので。イケメンだとは思いますが。」


そう、本当に興味がない。


というか、沢渡さんにだけじゃなくて、イケメンなのが駄目。


推しにはなれるけど、恋愛としては好きになれない。


それが、私の納得のいかないことだった。









「…ただいまぁ」


真っ暗で静かな部屋。


独り身の寂しさってやつがめちゃくちゃ漂ってくる感じ。


お風呂に入って伸びをしてれば、今日の由香さんの話が何となく思い浮かぶわけで。


「彼氏、か…」


由香さんにあんなことを言っておきながら、彼氏なんて、就活で忙しいときに別れた元彼が最後で、ここ最近で付き合った経験はないんだよね。


最後に付き合った彼は、性格がすごく合った、いわゆる友達の延長から恋人になったタイプで、顔に関しては彼氏を写真で友達に見せてもいつも微妙な顔をされるくらいの男だった。


私の方からすごく好きだったこともあって、別れて3年以上経つ今でも忘れられない人。


思い出すと、今の状況の寂しさだって感じるわけで。


歳的に、彼氏いないの焦ってもおかしくないじゃん?このさ、周りが結婚を考えてる人も出てきて、今の彼氏とこれから結婚する予定〜みたいなつもりの年齢っていうかさ。


私の職業的に、事務でもないから食べていけると思うと他の人よりは焦らないとは思うけど、それでも結婚願望はあるし…


由香さんの場合は、そんなこと抜きで、高校生みたいな恋をしてるみたいで見てて可愛らしかったけど。


「あんなイケメンを好きになれるの、むしろ尊敬するな…」


沢渡さん、絶対に昔からモテてただろうな。


中学ぐらいで彼女作って簡単に童貞捨ててそうだな。


…考えれば考えるほど、更に印象悪い想像しかできなくなってきてるじゃん、私、超失礼じゃん。


確かに、あのテの顔はモテるのはわかる。


でも、そんな幻想を抱けるような歳でもないし、今まで見てきた人とかの経験から、そんな甘ったれたような気持ちにはなれない。


「もうちょい、ピュアな自分でまだいたかったなぁ」


そんな軽い見た目の人相手に、一途に思えることが素直に羨ましかった。









「え、慰安旅行?」


「そうそう。北川、同期会兼ねてさ、行かね?」


同期で同僚の藤本武人ふじもとたけひとが、そう私に持ちかけてきたのは、ちょうど私が昼食に行くタイミングだった。


「んー、いつも行ってないのに今回だけ行くのもなぁ…」


「北川いねーとマジエンジニア枠からの女子ゼロだぞ!?!?部署ごとのレクでいっつも華がねえったらありゃしねーんだわ」


わかる。言いたいことはすっごくわかる。


だからこそ、女子まみれの受付の子達とうちの部署が合コンみたいになるのに、大体営業の方がみんなコミュ力あるからモテずに終わるのまで想像できるけど??


「…ま、今回の日程的に何も入ってないし、私も行こうかな」


「よっしゃー!」


「ふじもん喜びすぎでしょ…」


藤本改めふじもんは、一番仲よくて、よく話す同僚だ。


イケメン枠には入らないものの、個人的に好みなフツメン顔で、結構好きな友達でもある。


ちょっと言い方悪いかもだけど、今まで好きになった男のタイプとそっくりで…


ダメダメ、ふじもんはそんなんじゃないから!3年間も仲良い同僚で居続けたんだし!違う!


「あ、そうだ北川。このビラ、営業まで持っていってくれよ」


あれ、このビラって…


「え、何で今の話のビラを…?今、メーリスだってあるし…連絡方法古すぎない?」


「いや、あいつら返事がお前みたいに来ねーんだもん。こうやって無言の圧力を貼れば、気付かないなんて言えねーよなぁ?」


同期会の幹事としての役割が思ったより大変なのか、ふじもんは少しやつれて見えた。


ごめん、いつも通り行く予定ないし、いつもと一緒ってことで無視してた。


「…りょーかい」


営業って言えば、沢渡さんがいるところか。


由香さんの好きな人か、とかそういうイメージがやっぱりついちゃうと、そういう目でしか見えなくならない?


沢渡さんに会いに行くことになったとか、由香さんに言ったら羨ましがられそう。別に私は好きでもないのにさ。


そうは言っても、営業って外回りも結構大変そうだし、いないだろうな、なんて思いながら、そそくさと営業の部署まで出向いた。









「あれ、君は…」


「どうも、お疲れ様です…」


営業の部署まで来たはいいけれど、待ち受けていたのは沢渡さんだった。


え、なんで。


沢渡さん以外で残ってる人は出入り口から遠いところにいるのがほとんどで、一番近い人は沢渡さんだったし、沢渡さんに話しかけるしかないし、向こうは知らないにしてもちょっと気まずい…


「あの、これをうちの藤本が49期の同期会についてのビラを渡すようにと言ってまして」


「あー、その話ですか」


そんなこと言いながら私の目を合わせることもなく、そのビラを読み始める。


ってか、何でこの人読んでるんだろう。部下の同期会でも気になってるのかな?


「託しましたよ、後はお願いします」


「ああ、待って、俺らで参加する人もうわかってるからもうこれを藤沢に渡して貰えますか?」


そして渡されたのは名前の書いた紙。


「営業って、こういうのをアナログで行うんですか…?」


「いや、全てがこんなもんってもんじゃないんですけど、いつもこういう連絡に関しては見ない奴が多くて、迷惑メールと紛れて忘れる奴が多いから、大体大事そうなのはアナログにしてるんです」


「はあ」


気の抜けた声なのは自分でも失礼だと思いながら、出てしまったものはどうしようもない。


なんかこの人と話すことないのに、何で中途半端な質問しちゃったんだろう。微妙に空気悪いんだけど。


「そろそろ行きますね」


「そ、うですか…」


そう言って私は名簿を貰ってそのまま踵を返した。


私自身、これ以上話を続けるつもりはなかったし、コミュ障とまではいかないにしろ、そんなに得意ではないから、沢渡さんの何とも言えない反応が肌に突き刺さった。









自分の部署に戻った時、ふじもんが立ちはだかってた。


「おつー」


「はい、これが参加者名簿だって。こういう出欠に関してはアナログの方が確実とか言ってたよ」


「りょ。」


そう言いながら名簿を渡す。


「そういやさ、沢渡さんからこの名簿貰ったんだけどさ、同期でもないのになんでこれ管理してるんだろうね。後輩に頼まれたのかな」


「…?は?何言ってんだ」


ふじもんの訝しげな顔。え?変なこと言った?


「うっそだろ…


ほら、見てみろよ」


ふじもんが見せてきた、さっき渡したばかりの名簿。


そこの一番下に


沢渡さんの名前が、入っていた。





入っていた。




「…え、沢渡さんって、49期の人なの…?」


「…えっ、お前、マジでそれ言ってんの?同期会来ないからだぜ?」


「私、てっきり…」


先輩だと思ってたんだけど!?





入社して3年目、


同期の存在を新たに知ることになった。

初めましての方がほとんどだと思います。

前に他の作品『World War Ⅲ』という話を書いていましたが(2年前くらいかな?)、作者名を変え、今回またオリジナル作品を書くことになりました。

今回からの作者名は、pixivにて書いている二次創作の時のペンネームとなってます。変な名前なので検索すればすぐ出てくると思うのでよければ是非(『僕のヒーローアカデミア』のNL二次創作です)

前作に比べて更新スピードは遅いかもしれませんが(これからの生活の忙しさと、pixivの方の進捗にもよりますが)、3月までには完成させて、順次更新していければと思います。

今後共々よろしくお願いします。


なお、次の更新は11月1日です。

嶺蘭

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