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ラピスの再生論  作者: 織野 帆里
Ⅵ 四世紀の眠り
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chapitre77. 太陽と月のあいだ

 サジェスに与えられた水晶端末(クリステミナ)を使って、ラムは下層の“春を待つ者(ハイバネイターズ)”とほぼ同等の情報を手にすることができる。

 どうやら下層では、ブレイン・ルームと呼ばれるシステムを用いて、集団における意思決定を迅速に行っているようだ。一日に数百件の単位で意思決定がなされ、その結果に基づいて自分たちの取るべき行動方針を決めているらしい。


 ハイバネイト・シティの全体像もかなり見えてきた。


 地上から移住してきたラピス市民が暮らす居住区域は、全体のなかではかなり浅い領域に属しているようだ。“春を待つ者(ハイバネイターズ)”が生活しており、サジェスや、眠るエリザがいると考えられる領域は、ここよりもずっと深部だ。

 その中間にある領域は本来は無人のフロアだが、銃を持った“春を待つ者(ハイバネイターズ)”のはぐれ者がうろついており、比較的中間層に近いこの第22層では、時折彼らが迷い込んでくる。

 ラムが観測している限り、その数は日に日に増えているようだった。同時に、彼らの現れる領域もだんだんと拡大しているようだ。アンクルたち第43宿舎の住人が暮らしている第22層のような下層の居住区域は、すでに安全とは言えない有様だった。


 上の階層に移ってもらう手筈を考えた方が良いかな、と思案しながら、ラムは彼らの使う食堂に向かう。銃弾が掠ったふくらはぎの傷が思ったよりも痛く、一歩踏み出すたびに顔をしかめた。


 彼らはすでに席に着いていて、ラムが声をかける前にこちらに気がついた。シャルルはいつも通り、豪快に腕ごと手を振る。サテリットは椅子に腰掛けたまま、小さく頭を下げる。アンクルは少し顔色が悪かった。昨日の夜の一件があるのだから、当然だろう。


「そうだ、君たちはもう聞いたのか?」


 アンクルとラムが“春を待つ者(ハイバネイターズ)”のはぐれ者に襲撃されたことを指して、ラムが問いかけると、サテリットとシャルルは頷いた。先ほどまで浮かべていた笑顔を消して、シャルルは眉間に深いしわを刻む。


「ここ数日で一気に増えたよな、あいつら、何なんだ?」

「分からない――だが、どうやら下層では混乱が広がっているようだな」

「すげぇな。そんなことが分かるのか」

「……ああ」


 失言だった。

 ラムはサジェスに借りた水晶端末(クリステミナ)を見ているから、“春を待つ者(ハイバネイターズ)”の内情がある程度分かる。だが、どこかから情報が漏れることを警戒して、今まで彼らには教えていなかったのだ。


 ラムがつい視線を逸らすと、サテリットがこちらをじっと見ていた。足が悪く、仲間たちに守られている構図の彼女だが、その視線は誰よりも鋭いように思えた。彼女がゆっくりと口を開いて「ラム」と問いかける。


「貴方はハイバネイト・シティにおいて何らかの特権を持っています、よね? もっと詳しく教えてもらえませんか」

「サテリット? どうしたの」

「だって、そう考えないとおかしい。どうしてラムは下層の様子が分かるの。どうして昇降装置が使えたの」

「……それは、そうだけど」


 具体的な点を挙げて説明されて、アンクルが引き下がる。シャルルが渋い顔で様子を見守っていた。彼らもおそらくは思い当たる節があり、薄々勘づいていたが言及を避けていたのだろう。「分かった」と呟いてラムは顔を上げた。

 食事の後でアンクルの居室に集まり、ラムはポケットの奥に忍ばせていた水晶端末(クリステミナ)を3人に見せた。


「見たことはあるか?」

「図書館で似たようなものを使ってました」


 サテリットが水晶端末(クリステミナ)を持ち上げて、興味深そうに四方八方から眺めている。


「でも、ええ、本物の水晶端末(クリステミナ)に触るのは初めてです」

「嬉しそうだなぁ、お前」

「だって! バレンシアにはほとんどなかったじゃない。喜んじゃダメって言うの」

「ダメとは言ってねぇよ」


 シャルルが苦笑して「それで、おっさん」とこちらに水を向けた。


「この機械がどうしたって?」

「ああ。俺はこれを使ってELIZAのシステムを参照し、奴らの動向をある程度把握することができる。例えば――」


 ラムは水晶端末(クリステミナ)を操作して、ひとつの図を居室の壁に投影して見せた。アンクルがグラフを指先で辿りながら、ええと、と首を捻る。


「縦軸が、人数。横軸は【賛成】率……って、何ですか?」

「奴らは多数決で自分たちの動向を決めているようだ。例えば、どこの街にこんな攻撃を加えたい、という案が出たとして、賛成多数なら実行される。投票のため、洗練されたシステムが整えられているそうだ」

「と、いうことは」


 サテリットがこちらに振り向いて言った。


「つまり、下層の人間は――二極化しているんですね」

「察しが良いな」


 誰よりも先に、そのグラフの示すところに気がついたらしい。辺境の街で司書をやっていたというが、それには少し勿体ない頭の回転の速さだ。


 サテリットがグラフを指先で辿りながら、仲間たちにその意味を説明してみせた。


 各【賛成】率に対応する人数は、中央の50パーセント付近ではゼロに近く、両端に近づくにつれて加速度的に増えている。つまり、どんな提案だろうが【賛成】する者と、どんな提案だろうが【反対】する者の二極化が進んでいるということだ。こうなってしまうと、もはや多数決はほとんど意味を為さないだろう。各個人が個々の問題に対して理性的に判断するという前提があるから、多数決は有効なのだ。


「以前はもっと正規分布に近かった」


 そう言いながら、ラムは指先を使い、50パーセントで最大値を取るなだらかな山を描いてみせる。12月(デサンブル)の初頭あたりから、どういうわけか急激に二極化が進んだのだ。


「俺が、下層は混乱していると判断したのは、これを見てのことだ」

「何か事件でもあったのか」

「分からん。だが、俺たちのみならず、“春を待つ者(ハイバネイターズ)”からしても良くない状況だ。どう打開するつもりなのか」

「――ラム」


 水晶端末(クリステミナ)を操作して情報を参照していたアンクルが、疲れた顔で端末をこちらに手渡してきた。彼はどうにか笑顔を保とうとしているようだが、その口元は引きつっていた。


「すみません、これ以上は見ないでおきます。故郷が攻撃されているのは、あんまり気分が良いものじゃないので……」

「ああ……でかい火事があったみたいだな」


 シャルルが励ますように、彼の背中に手を置いた。彼らの生まれ故郷、バレンシアとハイデラバードの街境で大規模な火災があったという(しら)せには、ラムも目を通していた。百名以上が炎に飲まれて亡くなったと聞く。

 “春を待つ者(ハイバネイターズ)”は、強烈すぎる攻撃をしないよう調整しているという話があったが、何か手違いでもあったのだろうか。小規模な小火(ぼや)で抑えるつもりが、予想以上に火の手が広がってしまったというところかもしれない。


 吐き気を堪えるようにアンクルが口元を抑える横で、サテリットが「それでも私は」とこちらに片手を伸ばした。


「真実が知りたい。ラム、貸してください」

「君は君で、ずいぶんと豪胆だな」


 ラムは驚きつつも水晶端末(クリステミナ)を渡す。


「統一機関に欲しかった人材だ。まあ、もう無くなったが」

「私たち、統一機関の方のせいで苦労したので、あまり褒め言葉には思えませんけど……ありがとうございます」


 やや不服そうな顔をしつつも頷いて、サテリットは情報を壁に投影した。すでに慣れた操作で、形成された集合意志のログを見返している。数分ほど彼女は黙って情報に目を通していたが、あれ、と呟いて、スクロールした行を戻して読み返す。


「――あの」

「どうした」

「ああ――アンは、もし聞きたくなかったら外に」

「い、いや」


 青ざめた顔で溜息をついていたアンクルが、はっとしたように顔を上げた。「聞くよ」とはっきり答えて背筋を正す。

 恋人に対する意地か、あるいは宿長としての矜恃か分からないが、いかにも若者らしい負けん気の見せ方に、ラムは懐かしいものを感じた。自分にもあのくらいの年頃があった。エリザと出会い、カシェと知り合った頃だ。もっとも、当時の自分よりは、彼らの方がよほど大人びている気がするが――


「おっさん?」


 声をかけられて、我に返る。


「どうかしたか」

「いや。済まない」


 彼らが不思議そうな顔でこちらを見ていた。ラムは額を抑えて、つかの間たるんでいた意識を引き締める。


「サテリットの話を聞こう」

「あ、ええ。ここの欄なんですけど――大丈夫なんでしょうか」


 いくらもしないうちに、彼女の指摘した情報がかなりまずいものであると気がつき、ラムは腕を組んで硬く目を閉じた。


 今までは生かさず殺さず、脅すことを目的とした攻撃がほとんどだったのに比べて、その作戦はあまりにも急進的に思えた。

 バレンシア・ハイデラバード街境の大規模な火災は、まだ、火の手が予想以上に広がってしまった事故とも解釈できる。しかし、今サテリットが指摘した攻撃計画は、もし実行されれば、ひとつの街全体が人の住めない場所になってしまうと予測できた。


 攻撃対象の都市は、ラピスの中心地ラ・ロシェル。


 実行予定日とされた日付は12月(デサンブル)20日。

 その日まで、あと3日しかなかった。

 

 *


 地表より500メートル、ハイバネイト・シティ最下層にて。


 コアルームに集まったソレイユ、カノン、ティア、サジェスの4人と、“春を待つ者(ハイバネイターズ)”内部の協力者たちは、奇しくもラムたちと同じタイミングで、ラ・ロシェルへの攻撃計画に目を通していた。

 資料は異言語で書いてあったので、言葉に慣れないソレイユが読み終わるのを、みんなが待ってくれていた。読み終わったという意思表示も込め、「これってさ」と呟いてソレイユは顔を上げる。


「まずいよね?」

「そうだ」


 サジェスが頷き、集まった面々を見回した。


「通常ならば、まず通らないような提案が通ってしまった。“春を待つ者(ハイバネイターズ)”の混乱が著しいためか」

「止めたりはできないの」

ELIZA(エリザ)をハックすれば不可能ではない。だが、多数決で物事を決めていくという“春を待つ者(ハイバネイターズ)”の前提を覆すことは、私たちへの信頼にひびを入れる」

「そうか……そうだよね」


 ソレイユが小さく頷くと、パネルの前で何か操作していたティアが振り返って「それに」と暗い顔で言った。


「先日からELIZA(エリザ)のシステムが不調で……時折、原因不明のエラーが発生するんです。無理にシステムに割り込むのは、現状、少し危険かもしれません」

「ありがとう。それでだ」


 サジェスがティアの補足を受けて、改めて全員に向き直った。彼は刺繍の入ったガウンの裾を払い、“春を待つ者(ハイバネイターズ)”の総代と名乗るのに足るだけの強い眼光で、ひとりひとりに視線を合わせていく。


「通常であればMDP(メトル・デ・ポルティ)に協力を仰ぎ、こちらの攻撃をある程度未然に防いでもらっていた。しかし、今回のものは流石に防ぎきれない。そこで、こちらから何人か派遣して、ラ・ロシェルからハイバネイト・シティへ移住してもらうため、補助をしようと思う――異議のある者はいるか?」

「ううん……最善の策だと思うよ」


 ソレイユは片手を上げて、でも、と言葉を続けた。


みんな(ハイバネイターズ)はさ、太陽の降り注ぐ地上を壊したかった訳じゃないよね? 取り戻したかっただけだよね。ラ・ロシェルに人が住めなくなったら、その目標はどうなるの。ぼくは、多少無理をしてでも、この提案そのものを棄却するべきだと思うんだけど」

「――諸君はどう思う」


 ソレイユの発言について、サジェスが協力者たちに意見を求めると、賛成や反対、あるいは中立的なものから、多少的外れなものまで様々な意見が飛び交った。ひとつひとつの意見をかみ砕いて頭の中で組み立てながら、ソレイユは久しぶりに議論に手応えを感じていた。


 10人いれば10通りの意見がある。10人が10個の質問に答えれば、100通りの答えがある。


 それが当然だと思っていたのだが、最近の“春を待つ者(ハイバネイターズ)”はどうも違うのだ。地上に見境なしに攻撃を加えるべきと考える過激派と、何もかもやる気を失った、穏健派というか無気力な人々への二極化が進んでいる。

 以前ソレイユが知り合ったイルドという“春を待つ者(ハイバネイターズ)”の青年は、最近はどんな提案だろうが【反対】していると言っていた。そのときの彼はあまりに意気消沈していたので、苦言を呈すことは憚られた。だが、問題の内容も読まずに投票しているようでは、多数決の意味がなくなってしまう。


 サジェスに協力している、このコアルームにいる人々は、“春を待つ者(ハイバネイターズ)”のなかでも自分から危機感を抱き、周囲に働きかけるだけの積極性を持っている。だからか、二極化の進むハイバネイト・シティ最下層においても、まだ自分の意見をしっかりと持っているようだ。


 15分ほど議論して、とりあえず意見がまとまった。


「では確認するが――ひとまず、非正規の手法でプロセスを中断できないか模索する。ただし、本当に中断するかどうかについては、諸君の意見を改めて伺うつもりだ。実行または中断、どちらの手段も取れるよう、まずは状況を整える」

「そうだな。実際に止められるか分からないうちから議論しても仕方ない」


 カノンが頷く。ソレイユは彼に何気なく視線をやって、ふと、彼の服装がいつもと違うことに気がついた。地下の居住区域は気温20度前後に保たれているので、防寒着は必要ないのだが、今日の彼は雪の日に着るような分厚い外套を羽織っている。部屋を見回すと、カノンの他にも何人か厚着の者がいた。


 何故かな、と首を捻ると、カノンが「では」と声の調子を変えて言った。


「それはシェル君たちにお願いして。俺たちは地上に向かいますよ」

「え? 地上って」

「何人かラ・ロシェルに派遣するって言ってたでしょ」

「――ああ。カノン君も行くってことね」


 ようやく事態を飲み込んで、ソレイユは頷いた。


 会議はそれで終わり、カノンを含む20名ほどの“春を待つ者(ハイバネイターズ)”が地上に向かって、ラ・ロシェル住民の避難を助けることになった。


 出発は明朝だが、それまでに色々支度をするということで、地上に向かわないソレイユも準備を手伝った。埃っぽい倉庫を隅から隅まで漁り、あらゆる事態に備えて装備を用意する。防護服やヘルメット、頑丈な靴といったものはもちろん、携行食や薬に携帯トイレまで。必要なものを一通り見繕ったら、今度は地上に向かうメンバーの体格と体力に合わせて、荷物を配分する。


 全てが終わった頃には深夜だった。何か飲もうと思って休憩室に向かうとカノンがいて、彼はソレイユを見て手を上げた。


「お疲れ」

「カノン君こそ。道中は気をつけてね」


 ソレイユが言うと、彼は何も言わず口元を上げた。コアルームでの会議では何も言及されなかったが、大多数の“春を待つ者(ハイバネイターズ)”の目を欺いて地上に向かうというのは、相当危険なことのはずだ。


「たった20人で大丈夫なの」


 ソレイユが問いかけると、カノンはひげの伸びた口元に意地悪い笑みを浮かべて「あんたも来るかい?」と言った。


「あの子に会いたいかい」

「そういう意味じゃない……まあ会いたいけどさ。心配してるのに混ぜっ返さないでくれる?」

「はは……悪いね」


 カノンは薄く笑って、天井を見上げた。


 青く塗られた天井には、白くて丸い電灯が吊されている。青空を模して改造されたそうだ。太陽をこの手に収めんとする“春を待つ者(ハイバネイターズ)”らしい発想だが、本物の青空を知っているソレイユに言わせれば、あまりにも完成度の低い偽物だ。もちろん、口が裂けても言えないが。


「この手に太陽を、ねぇ……」


 自分と同じ名前の恒星を思い描いて、ソレイユは呟いた。


「そんなに大切なものなんだね、あれ」

「そうだなぁ。あんたはどうだい。地下に来て2ヶ月くらい経っただろう、太陽をまた拝みたいと思うかい?」

「うーん……別に、あんまり」

「俺もだ」


 ソレイユが正直に答えると、予想外の同意が得られた。2人は顔を見合わせて、吹き出すように笑った。


「殊更に崇めるような気はしないなぁ。まあ、太陽(ソレイユ)がないと作物も実らないし、気温も上がらないから、人間にとって大切なのは本当だと思うけど」

「はは……あんた、それ自分で言ってて恥ずかしくないのかい」

「え――ああ、ぼくの名前のこと? いや全然? だってただの記号だもの」


 名前はただの記号であって、ここにいるソレイユ・バレンシアという人間と、一億と五千万キロの彼方で燃えさかる超高温の光球とは何も関係ない。当然のようにソレイユが言い返すと、そうかい、と少し意外そうにカノンは目を見開いた。


「だってあんた、そんなイヤリングを付けてるじゃないか。名前に相当こだわりがあるんだなと思ってたよ」


 そう言って彼は、ソレイユの右耳で揺れている、太陽を象ったイヤリングを指さす。ああ、と呟いてソレイユはイヤリングを外し、手のひらに乗せて眺めた。


「いや、違うよ。これは月とペアになってるから意味があるんだ」

「――そうかい。あんたらは本当に、自分の相方(パサジェ)が好きだね。まあ名前からして、一対になることが運命づけられたように見えるが」

「大袈裟だなあ」

「あの子を誰より大切に思っているのは本当だろう?」

「そうだけど――今日のカノン君は何か変だな。そんな詩的なこと言うんだね。こっちが照れくさくなっちゃうよ」


 テーブルに肘をついて隣を見ると、カノンは見たことのない不思議な表情を浮かべていた。沈鬱で、それでいてどこか楽しそうな顔だ。アルコールは飲んでいないはずなのに、少し頬が上気して見える。


「あんたになら言っても良いかなと思うけどね――」

「何?」

「研修生だった頃、俺はあの子が好きだった」


 それを聞いて一瞬、息が止まった。

 ソレイユが目を見開く横で、カノンは淡々と言葉をつなげていく。感情の表出を抑えるために、無表情を保っているようだ。


「だからこそティア君から守ったし、脱出の手引きだってしたんだよ」

「え――それ、本人に言いなよ!」

「はは、楽しそうだな、あんた」

「えっ、ごめん。でもさ悪いけど、多分ぜんぜん伝わってないよ、それ! せっかく好きなのに勿体ないよ」


 ソレイユが言うと、カノンは「分かってるよ」と言って息を吐き出した。


「良いんだよ。友達になれたから」

「良いの? それで」

「太陽と月のあいだに割って入ることは、俺には無理だね」


 カノンはそれだけ言って立ち上がり、「お休み」と片手を上げて休憩室を出て行ってしまった。


 残されたソレイユは、呆気にとられたまま、太陽のイヤリングを眺めていた。カノンが最後に言っていたことが頭に残って離れなかった。


 自分が邪魔で、カノンは友人を素直に愛せない。

 そう言われたようだ。


 人間が他人に向ける、友情とはまた違う愛がある。カノンが友人に向けている感情も多分、それだろう。ラムを見ていれば、それがどういう性質の感情なのか理解できるが、ではどこが友情と違うのか、と言われるとよく分からないのだった。


 他人を(いつく)しむ気持ちに、種類や順位があるのだろうか。


 考えれば考えるほど分からなくなり、ソレイユは首を捻りながら居室に戻った。

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