表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラピスの再生論  作者: 織野 帆里
Ⅴ この手に太陽を
50/217

chapitre48. 迷い人ふたたび

 ソレイユたちが地下に向かったのと同じ頃、バレンシアの集会所にて、差し込む朝陽とともにロンガは目を覚ました。見覚えのない天井に一瞬驚いて、それからいつもの宿舎ではないことを思い出す。暖かくて仲間のいたあの家にはもう――当分は帰れないのだ。

 朝の部屋は冷え切っていて、二の腕に鳥肌が立っていた。

 ロンガが起き上がって周囲を見ると、アルシュとリヤンがブランケットに身を包んで眠っていた。フルルのブランケットはすでに畳まれて、彼女の姿は見えなかった。


 外して床に置いていたイヤリングを付け直し、髪を編む。共用の水道で顔を洗って、眼帯で右眼を覆い隠す。眼帯を付ける前にちらりと鏡をのぞくと、相変わらず、右眼は異様な白銀色に変色したままだった。虹晶石に良く似た、およそ生物っぽさとはかけ離れた無機質な煌めきを(たた)えている。ここ数日の記憶が悪夢であってくれても良かったのだが、残念なことに真実らしい。


 集会所の廊下に設けられた、窓際の椅子に腰掛ける。

 しばらく棚に上げていた疑問について考えた。


 この瞳が何であるのかは、朧気(おぼろげ)ながら分かった。では、なぜ、他でもないロンガにあの存在が――大いなる力(ビヨンド)が話しかけてきたのだろうか。ロンガは目を閉じて、頭の中に大いなる力(ビヨンド)と出会ったときの光景を描いた。白い空間に浮かぶ、エリザの姿を借りた何者かの言葉を思い出す。


『ああ、ようやく会えたね、***。君が思い出してくれるまで10年も待ったよ』


 そうだ。

 思い出す、というのは結局何を指していたのだろう。「彼」自身のことではないだろう。2年前にティアと話した段階で、ロンガはすでに大いなる力(ビヨンド)について聞いていたのだから。


 あの夢を見る直前まで忘れていたことというと、それはひとつしかない。今のロンガの右眼と同様に、エリザの目もまた白銀色をしていたという事実だ。ロンガがそのことに気付いたから、大いなる力(ビヨンド)がロンガの意識に割り込めるようになったということか。


「それに対する知識を持っていることが、大いなる力(ビヨンド)が目を授ける条件?」


 ほとんど声に出さず呟いてから、いや違うな、と首を振る。


 例えば、かつての同居人シャルルは、幼少期に幻像の中でエリザと出会ったので「エリザの目が白銀色であること」を知っていた。そして今は、白銀色の目と大いなる力(ビヨンド)が関係していることも知っているが、今のところシャルルには手を出していないようだ。つまり、知っているだけでは不足なのだ。それに加えて何か、シャルルが満たしていなくてロンガが満たしている、追加の条件がある。


 思い出してくれるまで10年待った、と大いなる力(ビヨンド)は言った。ということは裏を返せば、もうひとつの条件は10年以上前から整っていた、という意味ではないだろうか。エリザが白銀色の瞳を保持していたことと組み合わせて考えると、その条件はひとつしか思い浮かばなかった。

 エリザとロンガの間には、生まれた瞬間に繋がれた、切っても切れないリンクがある。


「――血縁か?」


 白銀色の瞳の保持者と血縁であるならば、大いなる力(ビヨンド)の干渉を受けやすい。そう仮定すると整合性がとれる。10年前、ロンガとエリザが接触したことによって、大いなる力(ビヨンド)が干渉する条件が整ったものの、ムシュ・ラムらの手によってロンガの記憶が封じられたために、干渉する機会が奪われたのか。


 ふと、もしかしたらムシュ・ラムはこのことを知っていたのかもしれないな、と思った。自分たちを塔の上に閉じ込めたうえに、一度はこちらに凶器を向けた人間を好意的に見るのは難しいが、エリザの目に対する記憶だけが厳重に封じられていたのは、ロンガに手出しされないよう、ムシュ・ラムが策を講じたのかもしれない。


 少なくともエリザかムシュ・ラムのどちらか、あるいは両方が、大いなる力(ビヨンド)が自分たちの娘に干渉するのを良く思っていなかったのだろう。回り回って彼らに守られていた、ということになる。今はどちらも遠い記憶になってしまった2つの顔を思い浮かべて、ロンガは目を細めた。

 自分が彼らの娘であるという事実は、どう心理的に処理すれば良いのか、未だに分からない事実のひとつだった。


 考えるのにも少し疲れた。

 立ち上がって身体を伸ばしていると、玄関からフルルが戻ってくるのが見えた。ロンガが片手を上げるとこちらに気付き、「おはようございます」と軽く頭を下げた。


「早いな。どこかに行ってたのか?」

「はい、小型航空機(メテオール)の様子を見に。一晩経って復旧していないかと、一縷の望みをかけたのですが――ダメでした。置いていくしかありません」


 フルルは目に見えて落ち込んでいた。


 昨日の放送からずっと、何者かによって配電系統が制圧されている。電子機器は当分使えないと見るしかないようだ。


「この様子ですと、ラ・ロシェルに向かうにしても徒歩ですね」

「ああ、まあ、仕方ないな。2日ほどかかるが」

「はい。すでに経路は検討しました。幸い、MDP(メトル・デ・ポルティ)の管理している出張伝報局が中間地点にあるので、一泊できます。今日はそちらを目指すことになるでしょう」


 アルシュとリヤンも程なく起きてきたので、1時間後には用意をしてバレンシアを出発した。朝食は集会所で配られていた携帯食を食べたのみだ。第43宿舎での暖かい食事が脳をよぎるが、贅沢を言っている場合ではない。

 馬車のために整備された道があるので、ひたすらそれに沿って歩く。バレンシアは高台にあるので、最初の下り坂は見晴らしが良かったが、平地に降りてしまうとひたすら似たような道が続いていた。


 だが4人は退屈しなかった。話し合うべき内容がいくらでもあったからだ。


「昨日の放送では、地下に向かえと言っていたな。どう思う?」

「従う道理はありません。ですが、おそらくバレンシアの浄火を爆破したのが、向こうからすれば牽制なのでしょう。彼らの主張に従わなければ、いずれ危険な目に遭う、という」

「とすると、これ以降も攻撃が予測されるわけだよね。うーん、事前に予測できれば対策が取れるのだけど」

「それは向こうも分かっていて、だからこそ予兆は直前まで見せないようにしているだろう。彼らは恐怖を煽りたいんだ。そして、間接的に私たちを地下へ導こうとしている」


 ロンガ、アルシュ、フルルの3人が話し合っていると、あまり言葉を挟まなかったリヤンが「あの」と控えめに声を上げる。3人の注目を受けたリヤンは、顔を紅潮させながらも口を開いた。


「どうやって危険を凌ぐかも大切ですけど、それより、あたしたち、一体何をしちゃったんでしょうか。どうして攻撃されるのかが分からないと、その、永遠に解決しないような……」

「確かに」


 ロンガは頷いた。


「恨みを持たれているわけだよな。それが、そもそもなぜだろう」

「昨日の放送だと、彼らはもともと、我々に使役していたような口ぶりでしたね」

「それについてだけど、ひとつ仮説がある」


 先頭を歩いていたアルシュが振り返って言った。


「ロンガ、前にフィラデルフィアの調査結果について話したよね。覚えてる?」

「ああ、うん。ここ2年の電力不足の原因は、フィラデルフィア火力発電所のせいではない。あちらは以前と全く変わらず稼働している、という話だったよな」

「そう。それで、昔の消費電力量の6割が、私たちの知らない場所で生産されていた。ここまでが確認された事実。それで――その知らない場所、というのが、つまり地下なんじゃないかな。もしかしたら電力だけじゃなくて、あらゆるインフラが支えられていたのかもね」

「私たちの生活を支えるために、人知れず尽力していたということですか……」

「知らなかった、というのは言い訳にならないですよね」


 リヤンがぽつりと呟いた。


「あたしたちは皆、そういう犠牲があって生きてたんだ」


 4人の間に重苦しい沈黙が流れた。

 彼らはそれぞれ生まれ育った経緯こそ違うが、基本的には善良に生きてきたつもりだった。今まで何も気にせず踏んでいた地面が実は人の背中だった、何も気にせず食べていた食事が実は人の肉だった、大袈裟にいえばそのくらい衝撃的だった。


「でも」


 沈黙を打ち破ったのはリヤンだった。


「だからって、攻撃される理由にはならないです」

「そうだ、リヤンの言う通りですよ。やり口が暴力的すぎます。なぜ対話ではなく、こんな手段を取るのでしょう?」


 年下の2人が同調したが、アルシュは「うーん」と首を傾げた。


「暴力的なのは同意するけど、対話してるつもりはあると思うよ。少なくともこちらに譲歩してる、というか」

「配電系統を乗っ取られた時点で、本来なら負けたようなものだよな。本気を出したら、例えば軍部保有の兵器をアクティベートして、そこら中を火の海にするくらいできるだろう」

「そうなんだよね。何だか、向こう側にも葛藤が見える気がするんだ。こちらを攻撃したい。でも、皆殺しにしたいわけではない。そんな感じの」


 話しているうちに、今日の目標地点である出張伝報局に辿りついた。


 まだ陽は高かったが、ここを過ぎてしまうと夜を越せないので、今日の行程はここまでだ。出張伝報局には簡易的な宿泊施設が併設されていて、4人なら十分快適に過ごせる程度の設備が揃っていた。


 アルシュとフルルは屋上に向かっていった。伝令鳥(ポルティ)を呼び集めて各所に連絡をするのだろう。残されたリヤンとロンガは、手持ち無沙汰なので建物内部の部屋を見て回った。机と本棚が設けられた資料室、談話室、仮眠室にシャワー室。次の部屋をのぞいたリヤンが、わあと歓声を上げた。


「どうした?」

「見て、ここ、お料理できるよ!」


 調理室と書かれた部屋には、簡易的なキッチンが設けられていた。カセットコンロと水道、棚には皿やカッティングボード、ナイフといった道具がひととおり揃っていた。床下に貯蔵庫があり、干し肉や豆類が保存されていた。


「ねえ、せっかくだし、晩ご飯はちゃんと作ろうよ」

「いいな。そうしようか」


 一応、おおもとの所有者であるアルシュに許可を取ってから、2人は協力して料理を作った。ロンガの料理の腕も、この2年でそれなりに上達したが、まだリヤンの方がずっと上手い。基本的にはリヤンの指示に従う形になった。

 陽が落ちかけたころ、屋上に行っていたアルシュとフルルが戻ってきたので、彼らを交えて夕食を食べた。


「空より至り土へ還る、ラピスの恵みに感謝して頂きます」


 ロンガとリヤンが口を揃えると、ほかの2人は少し驚いた顔をした。考えてみれば、これはラ・ロシェルにいた頃は持たなかった習慣だ。バレンシアが農業の地であるからか、食事の恵みに感謝する文化が自然と醸成されていた。ロンガがアルシュとフルルにそう説明すると、2人も真似して「頂きます」と言った。


「素敵な文化だと思います」とフルルが微笑んだ。

 

 *


 その夜、仮眠室で眠りについていたロンガは、リヤンに肩を揺すられて目覚めた。


「ロンガの服から音がする」


 彼女が小声で囁くので、壁に掛けた外套を見に行くと、ポケットにいれたままの水晶端末(クリステミナ)が振動していた。深夜にも関わらず一瞬で眠気が覚める。情報系のインフラが麻痺して伝令鳥(ポルティ)に取って代わられてからというもの、電波を必要とする水晶端末(クリステミナ)が役に立つことはほとんどなかった。

 ポケットから水晶端末(クリステミナ)を取り出して操作すると、暗い部屋の壁に青白い文字が投影された。


MDP(メトル・デ・ポルティ)総責任者に知られないように外へ』


 メッセージは数秒で消えたが、短い文章を読むには十分な時間だった。ロンガは、一緒に見ていたリヤンと顔を見合わせた。この状況で水晶端末(クリステミナ)にメッセージを送れるのは、配電系統を支配している()()しかいない。出て行って安全な保障こそないが、向こうからコンタクトを取ってきたのは千載一遇のチャンスでもあった。


 何のために。

 なぜ自分たちに。


 その疑問はとりあえず捨て置いて、2人は音を立てないように玄関に向かった。扉を押し開けると、青白い月光が照らす草むらに、小柄なシルエットがぽつりと立っていた。外套を被っていて、その顔は影になっている。警戒してリヤンを背後に回しながらロンガが近づくと、その右手が動いて、外套を少し持ち上げた。


 その隙間から覗いた、黄金色の瞳にロンガは息を呑む。


「――ティアか?」

「そうです」


 2年前に見たときより背が伸びて、顔立ちも少し大人びたが、ロンガにとっては忘れようのない相手だった。別世界のラピスからやってきた少年、ティア。思えば、彼が統一機関にやってきた日が全ての始まりだった。


「お話があって来ました。――そちらの方は?」

「リヤン。友人だ」

「分かりました。リヤンさん、僕はティアと言います。貴方がたにお願いがあるのです」


 2年前にはこちらの公用語を全く解さなかったはずなのに、ティアの言葉回しは流暢だった。アクセントにはまだ少し違和感があるが、かなりこちらの言葉に慣れたようだ。リヤンが服の裾を掴んだのを感じ取りながら、「その前に聞いても良いか」とロンガは問いかけた。


水晶端末(クリステミナ)にメッセージを入れたのはティアか。つまり、電気を乗っ取った奴らの側だと見なして良いのか?」

「――端的に言うなら、そうです」


 ティアは外套のフードを脱ぎ、小さく頷いてみせた。


「でも、僕は貴方がたを攻撃しに来たのではない。そこだけ、まず信じてもらえませんか?」

「分かった」


 ロンガがあっさり認めたからか、えっ、とリヤンが小さく声を上げたが、異を唱えることはしなかった。2年前にティアと話したときの、彼のあまりに真摯な態度をロンガは今でも覚えている。だから信頼できる、そう踏んだのだ。


「ありがとうございます。――確かに僕は、“春を待つ者(ハイバネイターズ)”の仲間です」


 ハイバネイターズ、それが向こうの組織名らしかった。耳慣れない発音にロンガは首をひねる。


「ラピスの公用語とは語源が違うようだ」

「そうですね、冬眠する者たちという意味あいです。僕が生まれ育ったラピスで使われていた言語です――が、僕が名付けたわけではありません。もともとは創都前に付けられた名前で、旧時代ではこちらが共用語だったようです」


「旧時代?」


 後ろでリヤンが訝しげに呟いた。彼女はまだ、創都よりも前から世界があったということをよく理解していない。あとで教えると囁いて、ティアに続きを促した。


「お2人は昨日までバレンシアにいらっしゃったようなので、知っているかと思いますが、“春を待つ者(ハイバネイターズ)”は基本的には地上に攻撃を加える方針です」


 淡々とした口調で、彼は告げた。意図的に感情を排しているようだ。


「その理由は分かりますか?」

「何となく。地下の民、ティアが言うところのハイバネイターズたちによって、地上の生活は維持されていた。その報復なんだろう、これは」

「はい。そうです」


 冷酷なほどにきっぱりと肯定して、でも、と不意に表情を揺らがせた。満月の灯りの下で、彼のまとう雰囲気はひどく不安定に見えた。


「――でも。僕は、たしかにあちらの味方ですが、ラピス市民を傷つけたいわけではないんです。お願いしに来たのは、そのことです。攻撃予定地点と時刻をお知らせします。ですから、僕たちの攻撃から、MDP(メトル・デ・ポルティ)の力を使ってラピス市民を守って欲しいのです」


「え?」


 思わず声が裏返った。


「ティア、何を言ってるか分かってるか? それは……」

「それは味方への裏切りだ、ですよね」


 ティアは視線をまっすぐ据えて頷いた。


「分かっています。ですから、内通していると知られないように、あくまで自然な形で防衛して下さい。“春を待つ者(ハイバネイターズ)”に見抜かれればお(しま)いです。幸いなことにMDP(メトル・デ・ポルティ)は、伝令鳥(ポルティ)という電気に依存しない情報ネットワークを持っていますから、成功の可能性は十分あると思います」


「貴方自身の安全は?」


 黙っていたリヤンが問いかけた。


「そんなことして無事で済むの」

「済むわけがありません。だから、知られたらお(しま)い、なんです」

「そんな――」

「――分かった。決意は固いんだな」


 引き留めようとしたリヤンを制して、ロンガは話を進めた。ティアがここに来てしまった時点で、もう彼の裏切りは始まっているのだ。ティアの身を守るためにも、彼の願いを聞き届けるしかないようだ。


「それなら中で話さないか。直接アルシュと話したほうが――」

「それは出来ないんです」


 ティアが突然、激しく首を振った。なぜ、と聞き返そうとして、ロンガも気付いた。2年前、彼は罪を犯したのだ。当時のティアは激しい混乱状態にあったので同情の余地は広いが、それでも否定しようがなく、また取り返しもつかない罪を犯した。


 彼はアルシュの相方(パサジェ)を殺した。


 アルシュも当然、そのことを知っている。葬送で、最後の友人(デルニエ・アミ)として棺とともに船に乗っていたときの、やつれきった顔は忘れられない。今はその衝撃から立ち直り、反動のように大きなプロジェクトを動かしているが、それでも彼女がティアを恨んでいないわけがない。


「ねえ、どうしたの?」


 リヤンが聞いてくるので、ロンガは事態を要約して話した。説明を聞くとリヤンは難しい表情になって考え込んだが、やがて「でもさ」と言って、リヤンより頭ひとつぶん低いティアの顔に視線を合わせた。


「そういうの、ちゃんとアルシュさんにも言うべきだよ。隠したままは、良くないと思う」

「――でも」

「アルシュさんには、貴方に向かって怒る権利があるんだよ。それを乗り越えないまま、ちゃんと姿を見せないまま、仲間になんてなれないと思う」


 切実な口調でリヤンは訴えかけた。かつて兄を(うしな)った自身の境遇と、どこか通じるところがあるのかもしれない。ティアは青ざめた顔で、小さい手を震えるほど握りしめていたが、小さいながらもはっきりした声で「――そうですよね」と言った。


「ありがとうございます。中に入れてもらえませんか」


 ロンガは返事の代わりに小さく頷いて、玄関の扉を開けた。眠っているアルシュとフルルに声をかけ、仮眠室の電気をつける。上半身を起こし、目元をこすったアルシュの表情が、扉の向こうに立っているティアを見て強ばった。眩暈(めまい)を起こしたのか、よろめいた身体をフルルに支えられる。血の気を失った唇が、詰まりながらも開いた。


「貴方は――ティア・フィラデルフィアだよね?」

「はい。お話があって来ました」


 声を震わせながらも、ティアが答える。声にならない呻き声を上げて、アルシュは膝に顔を埋める。しばらくそうしていたが、やがて充血した目を上げて、「ごめん、出て行ってくれる?」と言った。


 彼女はティアに言ったのではない。

 他の3人に言ったのだ。


 2人で話をさせて欲しいということだろう。ロンガは頷いて、リヤンと、まだ状況が飲み込めないらしいフルルを連れ、談話室に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ