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魔導帝国の英雄譚 〜そして少年は英雄になる〜  作者: 愚者
3章 学院生活編(下) 〜奇なりし絆縁〜
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85話 結成!奇なりし絆縁

 

「……どうやら、話は済んだみたいだな」


 二人の話が落ち着いたタイミングを見計らい、今まで静観を貫いていたアクトが横から割って入ってくる。心境の変化でもあったのか、その声色は少しだけ明るかった。


「あら、この短い間に随分とご機嫌そうじゃない。小細工から満足な結果が得られて満足かしら?」

「さぁな、何の事やら。で、話は変わってこれは純粋な疑問なんだが。お前ら、決闘のルールを決める時に互いの要求を言ってなかったよな。決闘は引き分けに終わったけど、もし勝ってたら何を要求するつもりだったんだ?」


 実際、事の張本人であるアクトとしても、そこが唯一の不確定要素だった。彼は魔法知識が豊富な剣士ではあるが、魔道士でない。他人の考えを覗き込んだり、誘導するなんてことは出来ない。


 今回の一件は両者が心の内に秘めていた同じ望みを上手く利用して、少女らを決闘という公平な舞台に立たせることが出来た。ただ、そこからどうするかはあくまでも当人達次第。アクトの及ぶところでは無い。


「で、どうするつもりだったんだよ?」

「……そうね。今となっては隠す物でもない、か。この際だしはっきり言うわ。コロナ、私が決闘で貴女に勝ったあかつきには……私を貴方達のチームに入れて欲しい、そう要求するつもりだったの」

「!」


 一瞬、思い悩んだような様子のローレンの告白を受け、目を見開くコロナ。アクトもやはりか、と半ば確信を持っていたようだったが、それでも驚く素振りを見せた。


 ――かつて離れたチームへの再復帰。醜き嫉妬心を誤魔化すため、一度は自ら遠ざけてしまった憧憬に、正々堂々と戦って勝つことが出来れば、今度こそ胸を張って共に戦えると思ったから。


 形だけじゃない。互いに肩を並べ、助け合って初めて自分達はかつての対等な関係に戻れる――そう考えたらこそ、ローレンはアクトが示した手段に乗り、コロナに決闘を仕掛けたのである。


「まぁ、引き分けに終わった今となっては意味も無い事よ。それに、もうこの嫉妬心(こころ)に嘘を吐いて誤魔化すのは止めたから、動機も薄れてしまったのだけど」

「って言っているが、どうする? 俺としては、決勝戦を前に戦力が増えるのは一向に構わないけどな。決めるのは、俺達をここまで引っ張ってきたリーダーのお前次第だ」

「……」


 扱いを委ねたアクトの言葉に、コロナは口元に手を当てて何事かを考え込む。やがて、自身の中で何かしらの結論が出たのか、ローレンの方へと向き直る。


「確かに、決闘で勝った要求にはそういう打算もあったわ。でも、決闘を受けた時はアクトの思惑に乗ってあげたけど、見込みが無いようななら切り捨てるつもりでいた……けど、アンタは力を示した。ローレン=フェルグランドは、本当に強い人間だった」

「えっ……?」


 ――あのままの関係では駄目だと思って、一度は自ら遠ざけたライバルは、想像以上の力と意思を引っ提げて自分の前に立ちはだかった。向こうはかなり複雑な感情を抱いていたようだけど、自分は全てを抜きにして彼女を認める……いや、とっくの昔から認めていた。


 だからこそ、だ。この先の戦いを勝ち抜くための信頼に足る仲間として、これ以上の適任は居ない――そう考えたからこそ、コロナはずっと前からそうしようとした、だがどうしても出来なかった提案をローレンに持ちかける。


「ローレン、アンタにその意思があるのなら、『若き魔道士の祭典(フェスタ)』優勝の為に協力して欲しい。出場選手以外でアタシ達に付いて来れるような生徒は、もうアンタぐらいしか居ないの」


 コロナの言う通りだ。既に有力な生徒は見並み校内選抜戦に出場し、既に敗退している。まだ無名の実力者を除き、決勝戦を前にした段階で出場する資格があるような実力者は、それこそローレンぐらいなものだろう。


「アタシ達には、どうしても勝たなければならない理由があるの。リネアとアイリスには後でしっかり説明しておく。だからお願い。アンタの力を貸して!!」


 互いの想いを語り、分かり合えた今ならば、信頼して背中を任せることが出来る。ローレンを真っ直ぐ見据えたコロナはベッドから降り、決然とした表情で手を差し出した。 


「……」


 差し出されたその手を取ろうと一歩前に踏み出す寸前、ローレンは躊躇うように固まった。コロナとのすれ違いを解消し、それでも僅かに残った心のブレーキが彼女にそうさせる。


 ――正直、「若き魔道士の祭典」に対して何か特別な思い入れは無い。仮に優勝したところで得られる名誉にも興味は無いし……フェルグラントから半ば勘当された自分の事など、別件でとにかく忙しい()()は気にも留めないだろう。


 ……だけど、ここで引いては駄目だ。こうして足踏みしている間にも、追い付きたいと欲する憧憬は……隣に並び立ちたいと欲するライバルは、更に手の届かない遠い場所へ行ってしまう。だったら、必死で喰らい付いていかなければ差は広がるばかりだ。


 何よりも、自分の力を貸して欲しいとライバルが、大切な友達が言ってくれている。そうだ。例えメリットなんてなかったとしても、己を賭すのには十分過ぎる理由だ!


「……えぇ、勿論よ。他ならない貴女がそう願うというのなら。一度は袂を分けた身ではあるけれど、喜んで協力させてもらうわ」


 確かな闘志と決意を秘め、覚悟を決めたローレンは残った心のブレーキを自ら取り払う。そして、一歩大きく前に踏み出し、力強くその手を取った。 


「私の持てる力の全て、せいぜい利用することね!!」

「言うようになったじゃない。良いわよ、存分に使い倒してあげるわ!!」


 二人の魔道士は、再び手を組み大きな困難へ立ち向かうことになる。固い握手を交わす両者の口元には、いつの間にか小さな微笑が浮かんでいた。


「ふぅ……やれやれ、ようやく纏まってくれたか。てな訳で、お前らも聞いた通りの決まりになったぜ。それで構わないよな?」


 そのやり取りを傍で見ていたアクトは、気付かれないように安堵の溜め息を吐くと、コロナ達ではない誰かに向けて話しかける。この場には自分達しか居ない筈なのに、と二人が怪訝な表情で彼を見た――その時。 


「ふふっ、どうやら話は済んだみたいだね」

「「――えっ!?」」


 しゃっ、彼らが居る寝台と医務室とを繋ぐ仕切りカーテンが、勢いよく開かれる。薬品棚がずらりと並び、窓から差し込む夕陽を受けた白い壁が黄昏に色付く部屋の中には……リネアとアイリスの姿があった。


「リネア!? アイリス!?」

「ど、どうしてここに!?」


 法医師先生の手伝いで医務室を離れていた筈の二人が何故!? コロナが素っ頓狂な声を上げ、ローレンですらも驚愕に目を見開いていた。予想外ではあるがさして驚く事でも無いのに、彼女らの慌てようはかなりのものだった。


「あ、あはは……どうも……」

「二人共、本当にお疲れ様。どっちも凄くかっこよかったよ。 え? どうして私達がここに居るかって? あー……詳しい事は、アクト君に聞いてね」

「アクトに……? どういう事よ?」


 気まずそうな表情で苦笑いをするアイリス。コロナ達へ賞賛と労いの言葉を送りつつ、何故か口ごもって話の矛先をアクトに向けるリネア。そんな彼女に誘導され、震える声でコロナは問う。


「手伝なんて、お前らが起きる前に済ませてたんだよ。でも、大勢が居たら本音で話し合えなくなるだろ? かといって、事情を説明し直すのも面倒臭い。だからこうして、息を潜めてもらってた訳だ」

「なぁっ!?」

「ちょ――っ!?」


 アクトがぶちまけた衝撃の事実に、コロナとローレンの狼狽えぶりは凄まじいものだった。そう、二人とも嫌な予感はしていた。先程見せた彼女らの驚きと慌てようは、ここにあったのだ。


 裏表を抜きにして本音で話し合いたい場においても、そこに居るのが当事者の一人でもあるアクトだけなら、まだ気にすることもなかった。むしろ、彼に自分達の行く末を見届けて欲しいという思いもあった。


 だが、そこにリネアやアイリスまで加われば話は変わる。別に、聞かれて困るような事ではないのだが……本心と本音を露わにしたこれまでのやり取りは、全部二人へ筒抜けだったことになる訳で……


「~~~ッ!?」

「アンタ、良い度胸してるじゃない……!!」


 本音もとい小っ恥ずかしい会話を思い返し、顔を真っ赤に染めるローレン。直後、羞恥と怒りで烈火の如き相貌となったコロナの左手に、炎が迸る。魔力はすっからかんにも関わらず、その手に宿る炎は凄まじい火勢を放っていた。


「よくもやってくれたわねアクト!! 燃やされる覚悟は当然出来てるんでしょうね……!?」

「うおっ!? わ、悪かった!! リネア達にもお前らの想いを聞かせられる、我ながら良い案だと思ったんだよ!?」

「やかましい! アンタは根本的に、アタシの事を舐め腐ってるわ! ローレンまで巻き込んで、一度きっついお灸をすえておかないとならないようね!!」

「お、落ち着いてくれ! マジで悪かったからその炎をどうか引っ込めてくださいお願いします!?」


 両手と両膝と額を床に着く、東方に伝わる『土下座』なる態勢で必死に宥めるアクト。だが、それだけではコロナの怒りを鎮めるには至らず、かえって火に油を注ぐ始末である。


「まぁまぁ、落ち着いてコロナ! アクト君を止めずに乗っちゃった私達も悪かったし、アクト君だって単なる嫌がらせの為に、こんな事をやろうとしたんじゃないと思うよ? 多分だけど!!」

「多分は要らねぇ!?」


 今にも噴火しそうなコロナを、見かねたリネアが焦りを浮かべながら宥める。さしもの彼女も、親友にそう言われたら暴れる訳にもいかず、己が内の怒りを何とか抑えた。


 そして、床に縮こまるアクトを眼下に捉えつつ、神妙な面持ちでしばし何事かを考え始める。ただ、考えながらも発せられる獣が如き低い唸り声が、彼の動揺に拍車をかけたのだが。


 ――はっきり言って、アクトのやり方は滅茶苦茶だ。本当に燃やしても文句は言えないだろうし、言わせない。それは本人も自覚があるらしく、口では慌てていても態度は大人しい。


 だが……コイツの言う事も一理ある。もしこの場にリネアやアイリスが居たのなら、きっと自分達は本心から語れなかったに違いない。ローレンをチームへ引き入れるのに彼女としっかり話を付けれたこの状況は、ある意味で理想的な状況と言える。


 そもそも、アクトがローレンに接触していなければ、自分達は戦い、こうして話し合ってすらいなかったかもしれない。そういう点においても、この不器用なデリカシー死滅男なりの配慮だったのだろう……まぁ、やり方は最悪だが。


「……ふんっ。覚えときなさいよ」


 一応の理解を示したコロナは、心底不機嫌そうに鼻を鳴らし、左手の炎を掻き消す。その代わりであったのか、床に伏せて丁度良い位置にあったアクトの頭を、溜め息を吐きながら軽く叩いた。


「まったく……これは一つ、貸しにしておくから」

「うっ……はい……」


 ローレンも同じ考えに至り、それでも心底呆れ果てた様子で、思わぬ怒りを買って縮こまった哀れな少年を見下ろす。そんな三人のやり取りを見守っていたリネアとアイリスは互いに顔を見合わせ、ほっ、と安堵の笑みを浮かべるのだった。


「……という事で、面識が無い子も居るから念のため。この度、貴方達のチームへ入ることになった高等部二年次生のローレン=A=フェルグラントよ。一応、フェルグランド公爵家の次女だけど、半ば勘当された身だからただの平民と大差無いわ」

「よ、よろしくお願いします……!」


 そんなこんなで、一行は改めて自己紹介を終えたローレンと共に、医務室内のソファーに腰掛ける。彼女と実質初対面になるアイリスは、少し緊張した様子で挨拶を返した。


「それで? 貴女達が本当に『若き魔道士の祭典(フェスタ)』で優勝するつもりなのなら、当然あの人達――『賢しき智慧梟の魔道士(オウル・ウィザード)』にも勝つつもりなのね?」


 コロナ達の顔を一通り見つめ、早速ローレンは目下最優先で取り組まなければならない本題を切り出した。


 チーム「賢しき智慧梟の魔道士」。去年、一昨年と続く「若き魔道士の祭典」二連覇チーム。現状、これからの戦いを勝ち抜こうとする上で、最大の障害と呼ぶべき存在。


「勿論よ。もし次で負けても‟ハンデ”持ちで『本戦』には上がれるけど、結局はどこかで対決することになる。なら、次もその次も同じ事よ。アタシだけじゃない。他の皆も、それぞれの道の為にこんな所で負ける訳にはいかないの」


 真剣な眼差しのコロナに続き、ローレンを除いたチーム全員が無言で頷く。負けるつもりは一切無いという彼らの確固たる意志を感じ取ったローレンは、満足そうに口元を緩める。


「それを聞けてよかったわ。でも、あの奇じ……変わり者の生徒会長は不参加のようだけど、聞くところによれば、代わりに入った一年次生もかなりの実力者。はっきり言って一筋縄ではいかない相手よ。間違いなく過去一番の苦戦を強いられると思うわ」  


 ローレンの言う通りである。彼らは高水準に鍛えられた個々人の戦闘能力もさることながら、何よりも卓越した連携を得意としている。その圧倒的総合力を前に、これまで挑んできたチームは悉く頓死・敗北している。


 それは去年、苦汁を舐めさせられたコロナ、リネア、ローレンは勿論、これまでの「校内選抜戦」で彼らの戦いぶりを観戦したアクトとアイリスも理解しているところだ。


「今のままでは、確実に勝てるとはとても言い難い……だから、私がこのチームに作戦を授けます。良いかしら、コロナ?」

「ええ。こういう状況でローレンが居るなら、アタシの出る幕じゃないしね。是非ともアンタが仕切って頂戴」

「ナーティル先生にはここをしばらく使っても良いって言われてるから、後一時間くらいなら大丈夫だよ」

「分かったわ。それじゃ、ちょっと待ってて」


 コロナの許可とリネアの補足説明を受けたローレンは、医務室を飛び出て夕暮れの薄暗い廊下へと消えていき……数分後。どこからか大きな紙を持って帰って来る。そして、それを中央の長机にばさりと広げ、紙面に何かを書き始めた。 


「先ずは、散々私を煽り散らかしてくれた男と、そこの貴女……アイリスさん、だったかしら?」

「え? は、はい!」

「コロナとリネアの能力はある程度知ってるけど、貴方達の事は正直、まったく知らない。知らなければ作戦の立てようも無い。だから、貴方達の能力、戦いの中で出来る事を、教えられる範囲で良いから教えて」

「お、おう。分かった……」


 活き活きとした様子でテキパキ場を仕切り出したローレンに、微かに目を見開いたアクトは無言でコロナに視線を投げかける。それに気付いた彼女は、アイリスと話しているローレンの背中に視線を一瞬だけ移し、薄く笑い返した。


(ふっ……やっぱり、人選は間違っていなかったみたいだな。ちょっとだけ迷ってたが、コイツにならエクスの事を教えても別に問題無いだろう)


 今も椅子に座る自分の膝の上で舟を漕いでいる剣精霊の正体を教えるのは、限られた人間だけに留めておきたい。「若き魔道士の祭典」を共に戦うのなら必然的に明かさなければならないが、アクトはとんだ杞憂であった事を悟る。


 これなら、多少苦労した甲斐も(そこまで何かをした訳でもないが)あったものだ。アクトは新たにチームへ加わった司令塔的存在へ、密かに期待を寄せるのだった。


「……あ。そういえばさ、チーム名はどうしよっか?」


 味方の手札、相手の手札、立地条件など……判明している情報を元に、一行が彼我の戦力分析などを協力して行っていると、リネアがいきなりそんな事を言い出した。


「チーム名?」

「うん。私達って、リーダーのコロナの名前でチーム名が登録されてるでしょ?」

「あー……そういえばそうだな」


 リネアは、恐らく「賢しき智慧梟の魔道士」の名前を見てこんな話題を出したのだろう。確かに、他の出場チームがそれぞれ練りに練った名前で出場しているのに対し、一つだけ「コロナ=イグニスチーム」なんて名前では少々マズイ。


「去年は何とも思わなかったんだけどね。アクト君やアイリスが入って、ローレンも戻ってきてくれたことだし、それじゃちょっと味気無いかなって思ったの」

「と言っても、他の名前を付けようにも直ぐには思いつかないです……」


 もし、このまま「若き魔道士の祭典」を勝ち抜いて表彰されるなんて事があれば……これはチームメンバー全員に関わる大事な問題だ。全員が手を止めて頭を悩ませていると、


「だったら……『奇なりし(ストレンジ・)絆縁(フェイター)』ってのはどう?」


 他のメンバーに考える暇を与えないように……たたみかけるようにリネアが言った。


「何だその名前?」

「うん。こういう時の為に、ずっと前から考えてたんだ。今更かもしれないけど、皆、ちょっと思い出してみてよ。私達って、凄く不思議な縁で繋がっていると思わない?」

「縁……?」


 リネアに促され、彼らは知り得る限りの知識から、これまでにあった沢山の出来事から、それぞれチームメンバーの素性を振り返る――


 一人は、たった一夜にして両親と大切な全てを失い、かつて栄えた炎の大家を取り戻さんと欲する没落貴族の娘。


 一人は、心に描いたモノを世界に反映するという、類稀な「異能」とも言うべき力を備えた‟ちょっと普通じゃない”女の子。


 一人は、魔法科学院に在籍しておきながら魔法を嫌い、魔法を使わず魔道士と戦う元・傭兵の剣士。


 一人は、古の禁呪によって呪われた血を受け継ぎ、その血を以て理不尽に抗おうとする獣の力持ちし少女。


 一人は、全てを与えられたが故に全てを失った少女に憧れ、自分だけの新たな道を切り拓かんとする大家の娘。


 男女比が偏っているのは、この際気にするまい。全員、産まれも育ちもてんでバラバラ。されど運命の悪戯か、奇妙な絆と縁で結ばれた者達……実に的を射ていると言えた。


「人の出会いって本当に不思議だよね。この魔法科学院という場所があったとはいえ、私達はよく巡り会えたなーって、この頃思うようになったの。あ、あはは……自分で言ってて恥ずかしくなってきたよ」


 そう言って、苦笑するリネアは僅かに頬を赤らめる。そんな彼女を見つめる彼らに、束の間の静寂が訪れ……直後、複数の愉快そうな笑い声が、医務室に響き渡る。


「……ふふふ、そうね。とても良いと思うわ」

「は、はい! 私も、素敵な名前だと思います!」

「あっははははははっ!! い、良いんじゃないか? 俺達らしくて合ってる」


 ローレンも、アイリスも笑いながら、由来が妙に合点のいった新しいチーム名候補に賛同する。アクトにいたっては、一体どこにツボがあったのか、腹を抱えて大爆笑である。


「そ、想像以上の気に入られっぷりで私は嬉しいよ。それで、コロナはどうかな……?」


 他のメンバーは了承した。後は、リーダーの返事を待つのみである。全員の胸中を代弁して、予想外の反応に戸惑いながらもリネアが壁際に背を預けていたコロナに問う。


「……はぁ。まったく、仕方ないわね。アンタ達がそこまで言うなら、別に構わないわよ。丁度アタシも、あのままじゃ駄目だと思ってたところだしね」


 リネアの問いに、コロナは淡々と応じる。だが、素っ気ない態度とは裏腹に、口元をニヤつかせている辺り満更でもなさそうだ。決して、自分の名前があっさり却下された事に軽くショックを受けていた訳では無いのである。


 そして、その反応が他の者達にも丸分かりであるのが、‟我らがリーダーの憎めない所だなー”と、彼らに生暖かい視線を送られている事に、彼女は気付かない。が、それは言わぬが花というヤツである。


「じゃあ、改めて――チーム『奇なりし(ストレンジ・)絆縁(フェイター)』、ここに完全結成よ!!!」


 かくして。遂に、不思議な縁と絆で結ばれし五人の仲間が此処に集い、チームが‟本当の意味で”完成したのだった。



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