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魔導帝国の英雄譚 〜そして少年は英雄になる〜  作者: 愚者
3章 学院生活編(下) 〜奇なりし絆縁〜
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76話 学院最強チーム

 

 とある日の昼休み。「校内選抜戦」の決勝戦に向けて訓練と調整を重ねつつ平穏な学院生活を送っていたアクト達は、午前の授業が終わるや早く、学院校舎本館にある食堂の一角を陣取り、賑やかに昼食を摂っていた。


 安くて美味しいと皆から愛される食堂は、うっかりしているとあっという間に席が埋まってしまう程の盛況ぶりだ。いち早く人数分の席を確保するために、アクトが超全力ダッシュで食堂に駆け込むというのが、最早見慣れた光景となりつつあった。


「いやー、皆さんおめでとうございます! 惜敗を決した去年から一転、大躍進じゃないですか!」


 そして、その日は少し珍しい客の姿があった。明朗快活そうな張りのある声を上げてアクト達を褒めちぎるのは、彼らと交流のある人物でもあった。


 アクト、コロナ、リネア、エクス、アイリス、……かなり大所帯になったテーブルに詰めて腰掛け、ちゃっかりマグナをどかしてアクトの隣を陣取った金髪の少女――学院広報部のヘレン=アルコニスだ。


 ちなみに、いつものメンバーであるマグナは、研究ばかりかまけてサボりにサボりまくった課題を終わらせるために、教室に残っている。今頃は涙目で購買のパンを齧りながら課題と睨めっこ中だ。


「それとアイリスさん、でしたか? 大躍進中のコロナ=イグニスチームに、いきなり無名の中等部生加わるって、私達の間では結構噂になっているんですよ? あなたにも是非、取材をさせて欲しいです!」

「え、えぇっと……それはまたの機会に、あはは……」

「おい、あんまりアイリスの事いじめるなよ?」


 初対面であるにも関わらずぐいぐい迫ってくるヘレンの勢いに押され、アイリスは苦笑を浮かべて曖昧に応じるしかなかった。ずっと他者と関わるのを拒み続けてきた彼女に、‟コミュ力”の塊であるヘレンの相手は相当にキツイだろう。


「しかし、アンタも物好きよねぇ。まさか、アタシ達を追っかけて帝都まで付いて来るつもり?」

「勿論ですよ! 皆さんの雄姿を残す為に私、あの有名なカノン工房製の高級射影機も買っちゃいましたし! ……まぁそのお陰で、今月どころか再来月くらいまでかなりピンチなんでけどね」

「お前、ホント記者魂逞しいよな……って、だから俺に昼飯奢らせに来たのかよ!?」


 そう、ヘレンと関わると何故かアクトの財布が軽くなる。彼女とは逆隣で熱心に昼食をつついているエクスの食費(しかも大盛り)も当然、保護者たるアクト持ちなので、ダメージ二倍である。


「おいテメェ、やっぱ良い度胸してんなぁ……?」

「お、落ち着いてください。代わりと言っては何ですが、先輩達の役に立つ情報を持ってきましたので!」


 拳を鳴らしてジト目を向けてくるアクトを苦笑いで宥めつつ、ヘレンは肩に提げていた革製の鞄を開け、数枚の文書を机に並べだした。


「多分、今の先輩達にとっては喉から手が出る程、欲しい情報だと思いますよ」

「ちょっとこれって……リネア」

「うん、凄いよこれ……」


 ざっと見るに、どうやらある人物達のプロフィールらしい。一枚につき一人、計五枚五人の人物についての情報が、添付された写像画と共に事細かにまとめられている。コロナとリネアには心当たりがあるようだ。


「それぞれの個人情報に、得意な魔法や戦闘スタイルまで……ヘレンさん凄いね?」

「だけじゃないわ。先月の魔力測定の結果から、個人のおおまかな魔法適正割振値(パーソナル・データ)まで……アタシ達が一年かけても殆ど集まらなかった情報を、アンタ一体どうやって集めたの?」

「ふふん、どうです? 私の事、少しは見直してもらえましたか?」


 驚異的な情報収集能力に二人が目を見開いて驚いき、ヘレンが誇らしげに胸を張る。そんな様子を流し目に、まだ状況が掴めていないアクトやアイリスが、並べられた文書を細かく見ていく。エクスは我関せずと一心に学食を食べ続けていた。


(確かに、詳しくまとめられてるな……ん? この人って……)


 偶然と言うべきか、アクトが文書の中から見知った顔を一つ見つけた――その時。


「お、おい、あの人達って……」

「えぇ、学院内で見たのは久しぶりだわ……」

「あれが……」


 がやがや……途端、食堂内が騒がしくなりだした。その流れは当然アクト達の方にも波及し、彼らも何事だと、騒ぎの発信地である食堂の入り口の方に視線を向けると、


「おっ、噂をすればってやつですね」

「あの人達って確か……」


 どよめく生徒達の波を掻き分け――正確には、生徒達の方から自ら道を譲るようにして食堂に入って来る、五人の男女の姿があった。しかもその五人は、一人を除いて文書に添付された写像画の人物と同じであった。


「アクト、よく見ておきなさい。あれが、これからアタシ達が戦うことになる相手よ」

「俺達が戦う相手……まさか」


 遅れてアクトがようやくそれに考え至った直後。彼らはアクト達の姿を見つけると、周囲の生徒達の視線を一身に受けながらゆっくりと近付いて来た。どうやら目的はアクト達らしい。


(こいつらが例の、別ブロックを勝ち進んでる学院最強チームか……!)


 チーム「賢しき智慧梟の魔道士(オウル・ウィザード)」、昨年と一昨年の「若き魔道士の祭典」優勝チーム。チーム名は、恐らくガラード帝国魔法学院の校章である(ふくろう)から取っているのだろう。 


 なるほど。こうして直に見ると、誰もが相当な実力の持ち主である事が分かる。アクトをして凄まじいと感じさせる傑物揃いだ。たった一世代でここまでの人材揃うとは、反則級の偶然と言える。


 彼らはこの二年間、顔ぶれが一切変化していないと聞く。高等部一年次の頃から並み居る上級生達のチームを押し除け、更には「本戦」で二度も優勝しているのだから、その実力は言わずもがなだろう。


「初めましての方は初めまして。そしてお久しぶりですね、コロナさん。リネアさん。そして、アクト君」


 一団の中で先ず声をかけてきたのは、アクトも知っている人物。艶やかな紫髪に、大人びた雰囲気を持つ女子生徒――生徒会副会長のシルヴィ=ワインバーグだ。


「お久しぶりですね、先輩。わざわざこんな所まで来て、敵情視察のつもりですか?」

「そんなつもりはありませんよ。ただ……お昼をいただくついでに、決勝まで勝ち上がってきたチームを少し見ておきたかったというのは事実ですけどね」


 去年戦った者同士、薄い笑みを張り付けて会話を交わすコロナとシルヴィ。……だが、雰囲気は一触即発寸前。周囲の生徒達は、二人の間にバチバチと火花が散っているのを幻視した。


(ま、マジかよ。敵対的な対応ではあるけど、上級生相手にも普通にタメ口で喋るあのコロナが敬語を使っている、だと!?)


 周囲の反応とは裏腹に、アクトは別のところで驚いていた。自分が認めた相手にしか真に敬意を払わないコロナがそうするという事は……彼女は本気でシルヴィを味方ないし敵と認めている相手だという事だ。 


(敵情視察じゃない……ってのは真っ赤な嘘だな。経験則的に、この手の読みづらい連中は、腹に何かしらの思惑を一つか二つ抱えてるもんだ。俺の事も普通に覚えてたし、事前調査はしっかりされているようだな)


 これから対戦するという相手に接触するというリスクを冒したのには、間違いなく理由がある。初めて出会った時もそうだったが、抜け目ない故に決して侮れない。アクトが表情に出さず警戒を強めると、


「俺はそんなの要らねぇって言ったんだぜ? 相手が誰であろうと、全身全霊でぶつかっていくだけだからな! でもよ、シルヴィとそこのデカブツがどうしてもって言うからさ」


 次に口を開いたのは、制服を僅かに着崩した屈強そうな茶髪の男子生徒だ。だが、そういう者特有の粗野で邪な気配は微塵もなく、むしろ真っ直ぐ過ぎて暑苦しい程の覇気が漲っている。‟熱血漢”という言葉が相応しい男だ。


 この男子生徒の名はディラン=カーシュ――ヘレンが調査してきたプロフィールに名前が載っている。学業での成績面だけ見ればお世辞にも優秀とはいかないが、実践形の授業では無類の成績を誇る武一辺倒の魔道士。


「ディラン君……確かにその通りかもしれませんが、流石に脳筋過ぎますよ」

「馬鹿かお前は。‟敵を知り己を知らば百戦危うからず”……東方の格言通り、相手の力量をよく見極めておくこそ、こちらも十全に力が発揮出来るというもの。個人戦ならともかく、集団戦で無策に突っ込むから、お前はいつも余計な攻撃を喰らうんだ」


 呆れたようにシルヴィと共にディランを諫めるのは、少し堅い印象を抱かせる大柄の男性生徒だ。その堅実できっちりとした性格は、豪快な性格のディランとは正反対と言っても良い。……なのに、二人からは相性の悪さというものを一切感じられない。


 ライネル=フォスター――彼もまた、ヘレンが調べ上げた「賢しき智慧梟の魔道士(オウル・ウィザード)」の一員であり、文武両道に秀でた三年次生の中でもトップクラスの実力を持つ者。コロナと同じ、殆どの魔法に適性のあるオールラウンダーである。


「まぁまぁ、お二人とも。ディランさんもディランさんなりに真剣なのだと思いますよ。それに、チームは互いを補い合えばこそ。彼に足りない部分は、わたくし達が補えば良いだけの事ではありませんか?」

「む……まぁ、そうだな」

「あっ、エイラ先輩こんにちは!」

「はいリネアさん、こんにちは。前の専攻演習の実習以来ですわね」


 すると今度は、美しく長い金髪の女子生徒がシルヴィ達を宥める。敬虔な信徒なのだろうか、胸元には銀十字の聖印、制服の上に修道服のような衣装を羽織っている。


 その美貌や服装、静かで落ち着いた物腰も相まって、いかにも童話や伝説で語られる聖女のようだ。


 彼女の名はエイラ=フローレス、情報によれば治癒などを始めとした支援系魔法のスペシャリスト。他のメンバーとはまた、別ベクトルで非常に秀でている才媛だ。選択専攻は法医学科を選択しているため、リネアとは普段から交流があるのだろう。


「……あれ? そういえばシルヴィ先輩、あのいっつもうるさい人――生徒会長は?」


 ふと、何かに気付いたコロナが、しれっと何者かに向けた毒を吐いてシルヴィに尋ねる。それに対しシルヴィは、疲れたようにこめかみに手を当て、大きな溜め息を一つ吐いて答えた。


「それが……また‟失踪”してしまいまして……」

「あぁ……そういう事ですか。ご愁傷様ですね」

「失踪? って、大変じゃねぇか。捜索はもう始めているんですか?」


 言葉だけ聞けば、割と一大事なように聞こえる。だが、アクトは気付いた。生徒会長――実質的な生徒達のトップが消えたにしては、自分を除く全員の反応が、あまりに平然とし過ぎているような……


「あ、いえ。会長が急に失踪するのはいつもの事なので、そこに関してはまったく心配していません」

「何言ってんだ!?」


 返ってきたとんでもない答えに、アクトは素っ頓狂な声を上げた。学院生活を送っていると、生徒会長の名は度々耳にする。聞いている限り相当な変わり者だとは思っていたが、一体どういう人物なのか。アクトはますます分からなくなった。


「し、失踪するのがいつもの事なんですか!?」

「ええ、はい。なので私が心配しているのは、会長が放り出した事務仕事の処理だけですから。……それで今回は急遽、不在である会長の代わりに、彼をスカウトさせてもらいました」


 すると、引き攣った笑顔に青筋を立てたシルヴィの後ろで、ずっと黙っていた少年――五人目の男子生徒が前に出てきた。赤茶色の髪に、ひょろりとした長身痩躯。顔つきにはまだ若干の幼さが残るものの、その瞳には一人前に成熟した自信が宿っている。


 見る者が見れば、この少年も他の四人に負けず劣らずの実力者である事が瞬時に分かる。


「初めまして皆さん、僕は高等部一年の二コラ=ウォレスと申します。今回、不在の会長に代わって少しでも先輩方のお役に立ちたく、チーム『賢しき智慧梟の魔道士(オウル・ウィザード)』に加入した次第です」


 アクト達に向けて慇懃(いんぎん)に一礼し、少年は名乗った。


「聞いた事があるわ。確か今の高等部一年のトップ、教師とかの間じゃ『神童』とか言われてたわね」

「いえいえ、自分はまだぽっと出の若輩者。そのような大層な名を頂く訳にはいきません。それでも、まさかコロナ先輩に名前を覚えていただいてもらえたとは、光栄です」 


 コロナの言葉に、二コラが礼儀正しく応じる。どうやら、コロナを没落貴族のイグニス家だと嫉妬と共に蔑む輩では無いらしい。まぁ、そういう輩も、彼女の「校内選抜戦」における活躍と共に徐々に減りつつはあるのだが。 


(……ん? ヘレン、あの一年はあんまり調べてないんだな)

(すいません先輩。二コラ君に関しては、中等部に在籍している頃の記録しか無いから、そもそもの情報が少ないんです。シルヴィ先輩達のように、「校内選抜戦」に参加してた訳でもありませんし……)


 余白の欄が多い文書をアクトが見ていると、横からヘレンがそっと耳打ちしてくる。なるほど、たとえ「校内選抜戦」に参加していなくとも、無名の実力者はまだまだ居るという事か。


 そういう点においては、転入生(という設定)であるアクトも、無名の中等部生であるアイリスも同様だ。シルヴィ達も、不確定要素が多い二人を少しでも見極めるためにこうして訪れたのかもしれない。


「――あら、早くしないとお昼を食べ損ねてしまいますね。こう大勢でたむろしていては他の方の邪魔にもなりますし、私達も引き上げるとしましょう」


 互いの顔合わせが一通り済んだところで、シルヴィが切り上げをチームメンバーに指示した。それに従い、一行は顔合わせの間に空き始めてきた机の方へ離れていく。そして去り際に、


「コロナさん、私達は次の準決勝を勝ち抜き、必ずや決勝戦に上がってみせます。去年は、全てを量ることは出来ませんでしたが……新たな仲間を得て、より一層成長した貴女の……()()()の本当の力を見られることを、心より楽しみにしています」

「……えぇ。こちらこそ、アタシ達が貴女達を打ち任せられるその時を、楽しみにしています」

「ふふふ、それではまた」


 シルヴィの何か含みのある宣戦布告を残し、一行は去っていくのだった。


「先輩、お昼ごちそうさまでした! 私はもうちょっと、二コラ君の情報を集めてきます!」

「え? お、おう……」


 「賢しき智慧梟の魔道士(オウル・ウィザード)」の面々が去って生徒達のざわめきも収まってきた頃、ヘレンも昼食を食べ終えた木製のトレーを持って席を離れた。あれだけ高かった席周りの人口密度が、たちまちに減少していく。


「あれが、学院最強チームか……コロナ、あんな大口叩いて本当に大丈夫か? さっきの話を聞いてる奴も結構居ただろうし、負けたら超恥ずかしいぞ」

「ふん、当たり前よ。確かに先輩達は紛うことなき強敵だし、あの二コラって子も相当に強い。……でも、負けるつもりは一切無いわ」


 ニヤニヤと嫌味ったらしい笑みを浮かべてからかうアクトに、コロナは自身の勝利を微塵も疑っていない様子で返す。所々でメンタルが脆い点はあれど、やはりこの少女の自信と戦意は本物だ。


 ……だが、チーム全員がそういう訳でもなく、不安に思っている者は居た。  


「リネア先輩……私達は、本当に勝てるのでしょうか?」

「どうしたのアイリス? 心配しているの?」

「……はい。アクト先輩、コロナ先輩、リネア先輩のお力は勿論知っています。でも、たった四人であんな凄い人達と戦うというのに、私なんかが本当に先輩達の力になれるかと思うと、不安で……」


 アイリスにとっても、今回の「若き魔道士の祭典」はただの学生大会に非ず。彼の大魔女との約束が懸かった、自身の進退がかかった戦いでもある。それを目指して一歩面を踏み出した矢先、いきなり現れた分厚く高い壁に動揺するのは無理もなかった。


「大丈夫だよアイリス。ほら、見て」

「……え?」


 慈母のように穏やかな笑みを浮かべたリネアに促され、アイリスが視線を向けると、


「わざわざそんな事を聞くなんてアンタらしくも無いわね。何? 不安にでもなった?」

「はっ、それこそ誰に物言ってやがる。


 臆すどころか、むしろ滅多に出会えない強者と戦う機会を得て、猛烈にやる気が漲っている様子のアクト達が騒ぎ合っている。自分一人でも勝ち切ってやると言わんばかりの熱気だ。


「実のところ、私もちょっと不安なんだけど……あの二人を見てるとそんな不安も吹き飛んじゃうんだ」

「……そうですね。私達も、負けていられませんね」


 あぁ、やっぱり頼もしい人達だ。自分の力が三年次生の彼らに通用するかは分からない……けれども、自分に出来る精一杯を尽くして、あの人達を支えよう――アイリスは力強く頷くのだった。


 ――その後。放課後の魔法競技場を借りて、厳しい戦闘訓練に励んでいる四人の生徒の姿がちらほらと見られた。



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