70話 祓魔の死神
「――はぁ、はぁ、はぁ……」
長かった夜も遂に更け、分厚い雲に覆われていた空も徐々に明るみを帯びてきた暗天の下。魔物が踊るような木々が鬱蒼と茂る、闇夜の樹海の中を男――ミラージュ=スぺクルムは、失った左腕の傷口を必死に押さえ、道なき道を息も絶え絶えに歩いていた。
(次の門の座標まで、後少し……其処まで逃げ切ることが出来れば……)
――油断はあった。自身の幻術が破られる訳もないという驕りも確かにあった。……それでも、自分が負ける要素は何一つなかった筈だ。だというのに、
(彼は一体、何者なのか……)
カイル=ミラーノとしての記憶を探り、ミラージュは悔恨の思いで、アイリスを救い、己を退け、この計画を無茶苦茶に粉砕した少年の情報を整理する。
アクト=セレンシア――まさか、学院の生徒の中にあんな化け物が紛れていたとは。大陸最高峰の魔道士と名高きエレオノーラ=フィフス=セレンシア直々の推薦とあって多少は警戒していたものの、魔法科学院に在籍しておきながら剣を好んで扱うという、お世辞にも優れた魔道士とは言えなかった。
それがこの様である。注意を払っていなかった自分も自分だが、あれだけの不穏分子を放置しておきながら、数ヶ月前の学院襲撃部隊は一体何をしていたのだろうか。
(……いや、一度「あの方」の元に戻ったヴァイスさんが、手酷い傷を負わされたという相手……それが彼? だとしたら納得もいくというものではありますが……)
何にせよ、失敗の代償は少なくない。これまでの年月をかけて整えた準備が無駄になったし、部下として率いてきた信徒の多くも、今頃は帝国軍に捕らわれたことだろう。
(この場は潔く計画の失敗を認めるしかありませんね。……ですが、これで終わるつもりは毛頭ありません)
最悪、今回連れて来た者の殆どは下級構成員。正規構成員たる「信徒」も、組織の序列の中で下から数えた方が早い者達ばかりだ。組織が派遣した応援部隊には上位構成員が数名同乗していたようだが、それでも組織の中核に迫る情報は何一つ持っていないだろう。
今回は遅れを取ったが、戦闘準備の不足も敗因の一つだった。手間と時間を掛ければ、自分の幻術はあんなものでは無い。「あの方」に授かった魔法ならざる術式も総動員し、必ずや、今度こそあの少女を手中に収めてみせる。
次は、もっと上手くやろう。我らが悲願成就のために……そんな思いを胸に、ミラージュが歩みを早めようとした――その時。
「次があると思うか?」
闇より響く冷淡な男の声が、ミラージュの動きを縫い留めた。
「何者です!?」
手負いの身であっても、ミラージュは見事な反応速度で跳び退り、声がした方角へ注意を払う。こんな僻地に人間が住んでいる筈が無い。意図して自分を待っていたのか、追って来たのか……どちらにせよ自分の敵であることには違いない。ミラージュは魔力を熾し、即座に戦闘態勢へ入った。
丁度、上空の雲がゆっくりと切れ……月が、その姿を晒した。それに伴い、差し込んだ月明かりが真っ暗だった樹海を淡く照らし上げていき……闇の中から、草木を掻き分けてこちらに歩いてくる敵の姿が、ゆっくりと浮かび上がってくる。
軍服のようなローブを身に纏った、若くして完成された武人のような佇まいの青年だ。すらりと蒼い長髪を背中に垂らし、目に移った物全てを斬ってしまいそうな程に鋭利な青い瞳。腰に佩く優美な意匠が施された鞘には、詳細は分からないが、何故か自分に嫌悪感を与える謎の凄みを放つ剣が納められている。
「あ、貴方は……!?」
明らかになった敵の姿には――見覚えがあった。何故なら敵の正体はミラージュの、カイル=ミラーノとしての彼がよく知る人物――ガラード帝国魔法学院講師クラサメ=レイヴンスその人であったからだ。
「『九魔鬼』の一人、《幻鏡》のミラージュだな?」
「クラサメ先生……その魔道士戦闘服。という事は、帝国の「軍団」として来たのですね。何故、私の素性を?」
「教えると思うか? それにしても、私を『先生』と呼ぶという事は、やはり貴方は……いや、貴様は、私の知るカイル=ミラーノと同一人物で間違いないようだな」
敵の正体が同僚であると発覚したにも関わらず、クラサメは顔色一つ変えず刃物の如き鋭利な視線でミラージュを見据える。
とはいえ、それはミラージュの方も同じ事。同僚だからと言って一切の容赦は無い。
「貴様らテロリストにかける慈悲は無いが、かつての同僚のよしみで一応は警告しておく。両手を後ろで組んで跪き、大人しく拘束を受けろ。そうすれば、痛い目に遭わなくて済むぞ」
「帝国軍が誇る精鋭部隊の一人が手負いの人間相手に随分酷な真似を為さる、と言いたいところですが、この際良いでしょう。それよりも、負傷している今の私なら、容易に捕まえられるとお思いで? 【あまり舐めないでいただきたいですね】」
操意《道化ノ欺言》。言葉に乗せて放つ幻術は、既に発動している。同時に、固有魔法《潜伏幻術》も深層意識化で既に発動し、クラサメを限りなき幻に絡め取る用意を整えていく。
超一流の幻術使いや精神支配使いを相手に、即座に捕縛せずこうして時間を与えるなど愚の骨頂。不意打ちでもして自分を捕えなかった己の失態を呪うがいい、とミラージュは内心、侮蔑と共にほくそ笑み――
「悪いが、私にその手のまやかしは通じない」
「……何ですって?」
ミラージュの心を全て見透かしたかのように、クラサメは左手に嵌めた手袋を脱ぎ、手の甲を突き出すようにしてミラージュに見せつけた。その左手の甲には、不思議な紋様の紋章が刻印されている。
「それは、‟永劫の信仰を象徴する主天使の戯画”――旧アレクサンドラ聖堂騎士団の聖印!? 貴方、『祓魔師』だったのですか!?」
「昔の話だ。今の私はガラード帝国魔法学院の教師にして、ただの一帝国軍人に過ぎない」
「祓魔師」、それは悪魔や邪霊、不死者のような人々を惑わし、陥れ、その暮らしを脅かす強大な「魔なる者」と戦う、聖なる者達の総称。彼らは大抵の者が何処かの教会や聖組織に所属し、神や天使といった存在から加護を得て、人々の及び知らない場所で人外の怪物共と日夜、熾烈な戦いを繰り広げている。
聖職者の中の聖職者たる祓魔師が、何故軍人に? と、ミラージュは思わない。邪悪なる存在と戦う祓魔師は、彼らに魅入られた邪なる意思を持つ人間とあらば、所構わず見敵必殺・悪即斬を信条とする者達も決して少なくない。
より多くの悪を殲滅するため、自ら軍人の道を志す者(しかも、大抵は魔法の力を超えた加護を持つ稀有な人材と評価される)も多いからだ。
「茶番は終わりか? なら行くぞ」
「【暗澹なりし黒霧よ】ッ!!」
クラサメから身の凍るような裂帛の殺意を向けられたミラージュは、迷いなく逃げの一手を選択した。重度の視界不良に加え、術者以外の認識をも狂わせる漆黒の霧が周囲一帯に充満し、銀月に照らされた樹海は再び暗闇に包み込まれた。
(くっ……流石に相手が悪い! 確か聖印の持ち主は、悪魔などが語り掛ける悪辣の甘言に惑わされないよう、精神攻撃に対する絶対の耐性を神罰の代行者たる主天使より与えられし存在であった筈。私と彼の相性は最悪と言っても良い!)
まさに自分の天敵。精神に入り込む隙がなければ、《潜伏幻術》も機能しない。かといって、純粋な魔法戦を持ちかけたところで超一流の魔導兵たるクラサメに勝てる保証も無い。故に、逃げるしかない。
(この暗闇と地形に乗じ、門まで一気に逃げ切る、それしかないッ!!)
この真っ暗な視界に中においても、黒霧を操るミラージュの目には、進むべき道が鮮明に見える。このような目くらましでクラサメの追跡を躱せるとは流石に思わないが、視界のある無いとでは雲泥の差の筈だ。ミラージュは左腕の傷口も構わず、ひたすらに全速力で走る。
「……警告はしたぞ」
周囲の全てが暗黒に包まれていながらも、クラサメはまったく動じることなく腰の鞘から魔剣を引き抜いた。そして、魔剣に練り上げた自らの魔力を注いで地面に突き刺し、
「【主を賛美せよ】」
一言。
たった一言唱えただけで、全てが氷に閉ざされた。
充満していた黒霧は跡形もなく消え去り――クラサメを中心に、木々も、植物も、動物すらも、何もかもが凄まじい勢いで凍り付いていき――瞬く間に、樹海に白銀の氷結世界が生み出された。
「うっ……ぐぁあああああああああッ!?」
逃走間際、胴体の上辺りまでを氷塊に閉じ込められたミラージュは、襲い掛かる激痛に悲痛な叫びを上げる。アクトに斬られた左腕の切断面すらも完全に氷の中で、神経を直接冷やされたことによる痛みもあって壮絶なものであった。
「ぐぅぅぅ……!! 何だ、これはぁ!?」
「あまり動かない方が良い。この氷は、邪な意思持ちし者の動きを封殺する《絶魔の聖氷》、その気になれば強力な上級悪魔ですら行動を縛ることが出来る代物だ。下手に動かせば、皮膚が根こそぎ千切れるぞ」
激痛に呻くミラージュを見据え、膨大な冷気を放っている魔剣を片手に、クラサメは凍り付いた大地を踏みしめ近付いていく。
「どういう心算があったのかは知らないが、貴様が表立って戦闘を行わなくてはならなくなった時点で、貴様は撤退すべきだったのだ。なるほど、世界広しと言えど、隠形と偽装において貴様の右に出る者は確かに居ないだろう。……後方要因としてはな」
「な、に……?」
「貴様が操る幻術は脅威的なものだ、認めよう。だがそれは、あくまで隠密行動と工作……裏方に徹することによって初めてその力を十全に発揮する技能、戦闘向きとは言えない。並の相手ではそれで封殺も出来るのだろうが、真の使い的には通じない。あの少年――アクト=セレンシアのようにな」
「あ、貴方、何処まで知って……!?」
秘密研究所での戦いに居合わせた者しか知らない筈の情報も交え、まるで教師が生徒に物を教えるように、まるで一つずつ心をへし折っていくように……クラサメはミラージュの間違いを次々と指摘していく。
そして最後に、ミラージュの思惑の全てを挫く絶望を告白した。
「貴様の能力を用いれば、密偵を送り込むことなど造作もなかった訳だが……残念だったな。入念な内定調査の結果、オーフェンと魔法科学院内に潜入していた貴様らの仲間と思しき者は既に全員捕縛・処分した。あれだけの数をよく忍び込ませたものだが、恐らくは先の学院襲撃事件における混乱の折だろう。違うか?」
「そ、そんな……!?」
もしもの時のために潜入させておき、失敗した計画の再起を図るために用意しておいた要員を、全て排除された……帝国が自分を貶めるための嘘であると思いたい。だが、クラサメは軍の命令でもつまらない嘘を吐くような男ではない。
その真面目さが今は逆に、彼の語る事が覆しようのない厳然たる事実である事を否応なく認識させられてしまう。
「うっ……」
「……精神的ショックで気絶したか。都市伝説としてまで語られる『九魔鬼』にしては、惰弱な」
完全に無力化すべく、クラサメが意識を失ったミラージュの額に「魔封じの刻印」を刻もうとしていた――その時。
「いや~流石ですね、クラサメ先生」
「……!」
自身の背中を打つ朗らかな少女の声に、即座に反応したクラサメは魔剣を構え戦闘態勢をとる。だが、その相手が何者かであるかを悟ると、微かな呆れの感情と共に警戒を解いた。
「それとも、この場ではこうお呼びした方がよろしいでしょうか――元・祓魔師にして、第六軍団『猟犬牙団』団長クラサメ=レイヴンス殿?」
「……どちらでも良い。肩書など、些細なものだ」
暗闇の中から姿を現したのは、年の頃、十五から十六くらいの小柄な少女だった。月明かりを受けて煌めく金色の髪を垂らし、見る者を自然と笑顔にするような人懐っこい笑みをクラサメに向けている。彼を「先生」と呼ぶように、実際にガラード帝国魔法学院の制服を身に纏っている。
「この凍らされている人が、例の『九魔鬼』さんとやらですか? 実体と戦闘能力を持った分身を生み出すなんて、もう『幻術』の域じゃありませんよね? ちょっと自信失くしちゃうなーー」
「さっき言ったとおりだ。諜報や裏工作などの化かし合いをやらさせれば、この男は世界最強クラスの魔道士だろう。だが、こと戦闘に限ればお前の『幻術』の方が遥かに強力だ」
「いえいえ、私の得意技なんて、情報を集める為の嘘とハッタリと小技ばかりですよ。だから、手負いとはいえそんな規格外の術を操る相手を一瞬で制圧してしまえるクラサメ先生も、十分化け物じみてるとは思いますけどね」
氷塊に囚われたミラージュの姿を、少女は興味深そうにぐるりと回って観察する。気絶しているとはいえ、凶悪なテロリストの主要メンバーの一人を前にしても、少女に物怖じする様子はなかった。仮に目覚めたとしても、動きは縛られているし魔法能力は封じられているので、何か出来る訳も無いのだが。
「それにしても……こうして本命を捕えるダシに使ったとはいえ、新設された『第七軍団』の方々の働きは想像以上のものでした。『軍団』というのは、全員があの人達やクラサメさんのような強い人ばかりなんですか?」
「そういう訳でも無い。聞けば、彼らは『七魔星将』・《暴虐》のエレノーラ=フィフス=セレンシア学院長が直々に集めた部隊らしい。ならば、選りすぐりの実力を持つ者が集められたのも道理だ」
つい最近、新たに軍団が設立されたのはクラサメも聞き及んでいた事だ。
どうやら前々から密かに活動を開始していたようであり、他の軍団には無い独自のフットワークで数々の任務に従事する、魔導関連の各省庁間でも密かに期待されていた部隊であると。
実際、今回の一件で蓋を開けてみても、彼らが総合的に挙げた戦果は素晴らしいものであった。ともすれば、帝国最強の軍団と言われている第一軍団に勝るとも劣らない活躍ぶりだ。
彼らの存在は、必ずや帝国に巣食う闇への強大な抑止力となる筈だ。ただ……
「この人を捕まえた事、彼らに知らせなくて良いんですか?」
「上からの指示だ。この男は最重要隔離収容施設にて拘束・尋問を行うらしい。この男の仲間による奪還を未然に防ぐ為、情報を知っている者は少ない方が良いとの事だ」
「なるほど。……でもそれ、彼らにとっては働き損ってやつだと思うんですよ。ずっと追っていた標的をここまで追い詰めておきながら、最後の最後で手柄を持っていかれるなんて、私、軍人にだけは絶対なりたくないですね~」
うへぇ、と少女は心底嫌そうな顔をする。腕利きの「情報屋」たる少女にとって、自分が必死こいて集めたネタを他人に横取りされるなど、死んでも御免な話であった。何ならそいつをぶちのめすまである。
「それで、もう一人の協力者からは何と?」
「……」
唐突に話題を変えた少女の問いに、クラサメは何も答えない。事前に話しやすい話題を振っておき、自分が知りたい話題へ唐突に振ることで口が軽くなっている事を期待する――他者から情報を聞き出す時の常套手段を用いたが、どうやら通用しなさそうであった。
「まぁ良いです。クラサメ先生があまり話したがらないのはよく知ってますしね。最近、学院をこそこそ嗅ぎ回ってたネズミさんも駆除出来たことですし、私は満足ですよ。それに……学院では見ることのなかった『先輩』の本気も見れたことですし」
「……そうか」
おもむろに、クラサメはぱちんと指を鳴らす。直後、全てが凍る氷結世界は、ミラージュを捕えた氷塊を除き、まるで嘘だったかのように綺麗さっぱり消滅した。木々や植物は元の瑞々しい緑を取り戻し、氷塊から解放された無傷の動物達は、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「引き続き、俺は表から、お前は裏から、帝国に巣食う闇を追い詰めていくとしよう。頼むぞ、■■■」
「はいはーい、任せておいてください」
一人の少女を巡って繰り広げられし今宵の戦いは、この場に介入した第三勢力によって、人知れず終結するのだった――
◆◇◆◇◆◇
東の空も白む明け方頃、未だ都市の大半が深き眠りにつく時間。
港湾都市オセアーノのとある一角、都市郊外から伸びる山道の麓にて、コロナ、リネア、グレイザー、ガレス、ラフィール、サルーシャ……アクトやアイリスに関係のある者達ばかりが集まっていた。
オセアーノ魔導工学研究所防衛の戦いを制した後、彼らは他の「黒の剣団」の団員に捕縛したルクセリオンの連行と事後処理を任せておき、グレイザーがアクトと約束したという集合場所で、二人の帰りを待つことにしたのである(若干一名、舟を漕いでいる者も居るが)。
「「「……」」」
誰も、何も喋らない。それぞれが其々の思いを胸に、ただただ少年と少女の無事な帰りを、今か今かと待っていた。
――そして。
「……相変わらずしぶとい男だ」
民家の壁に背を預けて腕を組み、無言で瞑想していたグレイザーが顔を上げてそんな事を呟くと、
「……あっ! コロナ!」
「え? ……まったく、いつまで待たせるのよ」
山道から姿を現し、一行の元に向けて歩いて来る二つの人型。どちらも酷くズタボロで、遠目に見ただけでも重傷と分かるような怪我もある。……それでも、五体満足で互いに肩を貸し合い、確かに生きて其処に居る。
「アクト!」
「アイリス!」
自分達も満身創痍一歩手前である事など忘れ、安堵と歓喜が混じった表情で、コロナとリネアは駆け出した。その姿を認識したアクトとアイリスは、どちらも傷だらけの相貌に出来る限りの笑みを浮かべて応えた。
「ただいま帰ったぞ、と」
「た……ただいま、です」
言いたい事は色々ある。聞きたい事も一つや二つでは済まない。……でも、そんな事はこれからいつでも話せる事だ。だから、コロナとリネア、そしてアクトとアイリスも、無事に帰ったら一番最初に何をするかを決めていた。そしてそれは……奇しくも、綺麗に一致していた。
「「お帰り!」」
次の瞬間――四人は固く抱きしめ合うのだった。
「……ふん。世話の焼ける」
「アクト君、学院に来て良い仲間に恵まれたようですね」
「そうじゃな。美少女三人に囲まれるとは羨まけしからん奴め」
「ん……みんな、良い感じ」
そして、その掛け値なしに尊い様子を、「黒の剣団」の面々は静かに見守るのであった。
様々な策謀が飛び交い、多くの矜持がぶつかった帝国とルクセリオンの争い……かくして、‟獣の少女”を巡る彼らの戦いは完全に終結した。長い、長い夜が遂に明け、差し込んだ暖かな陽光が平穏なる日常が還ってきたことを告げた――




