55話 暴走
疾走、疾走、疾走する。道術《神足法》による脚力強化、全身から銀色の魔力光を漲らせ、霊体化したエクスから僅かな力のアシストも受け、アクトは一陣の烈風となって大勢の観光客達の合間を縫うように観光街を疾く駆ける。
そのあまりの速さに、一般人から見れば、一瞬、通りを街風と共に影が過ぎったようにしか見えないだろう。
(何処だ、何処に行ったアイリス……!?)
猛スピードで走り続けながらも、優れた動体視力を持つアクトの両目は、これだけ大量の群衆の中からただ一人の少女の姿を見つけようと左右に慌ただしく動いていた。
謎のチンピラの集団に襲われるという騒動を何とか切り抜け安堵するのも束の間、突如発覚したアイリスの不在。アクト達は飛び上がるように一斉に行動を開始した。既に警備官には事情を話して捜索隊を派遣してもらい、コロナ達には遠見の魔法を使って探してもらっている。
時間的に観光街を出た可能性は低く、三人分の遠見の魔法なら観光街をくまなく探し上げる事が出来るだろう。この街の地理に詳しい警備官達も捜索に加わってくれているし、発見は時間の問題……なのだが、何か嫌な予感がする。
一刻も早く彼女を見つけなければ取り返しのつかない事になりそうな気がする――そんな強烈な焦燥がアクトを突き動かしていた。
(これじゃ埒が明かねぇ……そうだ、上からなら邪魔されずに広範囲を効率よく見渡せる!)
思い至ったアクトは横道に逸れ、こちら側とあちら側の通りを繋ぐ狭い路地裏に入る。そして、発動中の《神足法》に更なる魔力を注ぎ込み、跳躍。左の壁を蹴って跳躍、右の壁を蹴って跳躍、左、右、左、右――狭い路地裏の壁を器用に蹴り上り、近場の建物の屋根に着地した。
「早く見つけなとヤバいな……けど、これなら……」
ふとアクトが空を見れば、南洋からやって来たドス黒い巨大な雨雲が、確実に目で分かる程の速さでオセアーノ一帯を丸々覆いつつある。降りだすのは時間の問題だろう。
魔力を収めて屋根に膝を付き、アクトは懐からごく普通の双眼鏡(予め警備官の一人に借りておいた)を取り出し、街並みを満遍なく見渡す。歩く観光客の何人かは屋根に昇っている彼に向けて訝しげな視線を向けてくるが、気にしてたらやっていられない。
(頼む、見つかってくれ……!)
アイリスが居ない事を一通り確認したら、屋根伝いに次の区画へと移動し、また双眼鏡で周囲を見渡す。こんな時に魔法を使えればと度々思う事があるが、それは魔法を嫌い魔道士と戦うための力を付けてきた自分の信条に反するのではないかとも思ってしまう。
だが今はそんな事を考えている場合では無い。まともな魔法を使えない自分に出来る事はこれぐらいしか無いのだ、ならばそれに全力で臨むのみ。藁にも縋る思いでアクトが同じ作業を繰り返している――その時、
『■■■■■ーーーーーッッ!!』
「~~~!?」
それはまるで、遥か彼方で轟く遠雷であった。人であって、人が発する物で無いような‟何か”の咆哮に、アクトの総身が震えた。際限なく膨れ上がる圧倒的で異常な存在感が、アクトの背筋を凍り付かせた。硬直する彼の手に握られていた双眼鏡が音もなく滑り落ち、地面に落下・無残に砕けた。
(い、今のは……!?)
鳥肌が止まらない、自分をして一瞬、完全に硬直させたとてつもなく強大な‟何か”の存在感に、アクトは戦慄しつつも冷静に気配の元を辿る。どうやら、出元は人気の少ない旧市街の方から発されたようだ。
『マスター……今の気配は――』
「……」
突如、放たれた‟何か”の存在感に脳内に響くエクスの声も心なしか強張っていた。
緊急事態の最中に現れた新たな脅威、アクトはこの二つはどうにも無関係だとは思えなかった。何となく、咆哮が轟いた方にアイリスが居るような気がする……そんな確信五割・疑心五割を抱きつつ、アクトはその場所に急行するべく臨戦態勢をとり、魔力を漲らせて駆け出した。
屋根と屋根の間を一息に飛び越え、時に強化された脚力を以て向かい側の屋根に飛び移り、時には壁をも走って駆け抜ける。風魔法による高速機動もかくやという速さで、アクトは旧市街地に向かう。幸い、気配の出元であろう‟何か”は、その圧倒的な存在感を垂れ流しにしているため、補足するのは容易だった。
オセアーノは「大航海時代」と共に発展した都市であり、再開発が始まる前はこの旧市街地こそが都市の中心部だったのだ。
しかし、時代の流れと共に多くの住人や商人が新しく作られた再開発地区――今の観光街に移住して店を開き、旧市街地は移住しなかった住人や観光街に店を持つ人々が帰って来る場所、程度にしか使われていない。
華やかな雰囲気と人々の喧騒で賑わう観光街とは打って変わって、がらんと静まり返った通りに既に店じまいをして長く経っているような古めかしい建物が並ぶ、住人の気配はあるものの少し寂れた雰囲気が漂う旧市街地にアクトが到着した――その時、
『ぎゃああああああああああああああーーーーッ!?』
「……!」
身の毛もよだつような若い男の絶叫が響き渡った。いや、只の絶叫では無い。抗えぬ圧倒的な絶望、想像を絶する恐怖を前にして、弾け飛ぶ理性が絞り出した魂が打ち砕かれるような、心の奥底から吐き出された悲鳴だ。
『マスター!』
「くっ……」
発信源は此処からそう遠くない。これは只事では無いとアクトは、声のした方へと全力で駆け出す。一体どういう造りをすればこれほど複雑になるんだという、建物を建てる際に敷地面積をまったく考慮していないような入り組んだ裏路地を手探りで進み、差し掛かったとある角を曲がったその先には――
「……ッ!!」
目の前に広がる光景に、アクトは思わず息を呑んだ。入り組んだ狭い路地の行き止まり、三方を建物の壁で塞がれた突き当たりの地面に、先程アクト達に襲い掛かって来たようなチンピラ風の若い二人の男が……血の海に沈んでいた。
「ぐぅぅ……」
「うっ、あっ……」
幾つもの痛ましい殴打痕が残る額は血で真っ赤に濡れており、四肢は強引な力で無理矢理折られたようにあらぬ方向へ捻じ曲がっている。どうやらまだ息はあるらしく、口から血を吐きながら掠れるような呻き声を上げていた。
……それよりも、だ。驚愕の表情を浮かべるアクトの眼差しは、地面に力なく倒れ伏した男達よりも、突き当たりの最奥に立って三人目の男の胸倉を掴む血濡れの少女に釘付けにされていた。
「アイ、リス……?」
絞り出すようなか細い声で、アクトが呻く。少女の方はアクトの接近に気付いておらず、彼に対して背中を向けている。その細腕が掴む男は他の二人同様に瀕死の重傷を負っており、辛うじて息をしている状態だった。
後ろ姿なので断定は出来ないが、目の前の少女は確かにアイリスだ。背格好から見てもまず間違い無い。だが、艶やかな黒髪は一転して、赤と桃色を足したような目に眩しい紫炎色の長髪に変色しており、何時も内気で弱々しげな彼女からは考えられない、その場に居るだけで息が詰まるような濃密な存在感を纏っている。
(これ、全部アイツがやったのか!?)
あんな華奢な少女が作ったとは思えない惨状にアクトが唖然としていると、アイリスはだらりと力なく垂れさがる男の胸倉を華奢な左腕で軽々と掴み直し、血でべっとりと汚れた右拳を振り上げる。拙い、これ以上は本当に殺してしまいかねない。どういう経緯でこのような状況になったのかは知らないが、とにかく止めなければ――
「止めろアイリスッ!!」
「……!」
アクトが咄嗟に叫ぶと同時に、アイリスは血塗れの男をその場に投げ捨ててばっ、と素早く振り向き、プロの軍人顔負けの早さで即座に臨戦態勢をとる。そしてこのタイミングで彼女は初めてアクトの姿を認識した。互いの視線が交錯したその瞬間、
『――ッ!?』
「うっ……!」
両者は激しく動揺した。片方は純粋な驚愕、片方は……身も凍る程の強烈な恐怖。彼女の黒髪と似た灰色の瞳は――否、変色した獣の如き鋭き金色の眼光に射抜かれたアクトは、か弱い小動物が獰猛な肉食獣に睨まられ体がすくむように、身動きが取れなくなった。
「うっ……はぁ、はぁ、はぁ……!」
変な汗が止まらず、乱れた呼吸が元に戻らない。嘘だと思いたかった、だが他ならぬ自分が一番よく理解している。これまでに超一流の敵魔道士との幾度も戦いを切り抜けて来た自分が、目の前の少女が放つ圧倒的で獰猛な気配に飲まれかけていた。
それは精霊も主と同じらしく、先程からアクトの脳内を掻き乱れたエクスの感情がぐるぐると巡っている。何とか感情を冷静に処理しようとアクトの魔力を食いながら力を働かせているようだが、未知の存在を前に対処が追い付いていないようだ。
『うっ、うぅぅ……■■■■■ーーーーーッ!』
対するアイリスも、突如、両腕で頭を押さえて苦しみだした。人が発する物とは到底思えないような獣の如き唸り声を上げ、額から大量の脂汗を流して呻く。だが……その金色の鋭利な双眸だけは片時も揺らぐ事なく、己のアクトを真っ直ぐ睨み据えていた。
不測の事態により完全に動きが止まってしまう両者、そこから先に立ち直ったのは……アイリスの方だった。
謎の苦しみを強引に振り払った彼女は、一体何処にそんな力が秘められているのだろうか、尋常でない脚力を以て地面を蹴り砕き、激風を纏ってアクト目掛けて飛び掛かる!
『■■■■■ーーーーッ!』
狙いは、貫手による胴体への一撃。魔力放出はおろか、魔法すら使っていない素手での攻撃など何の脅威でも無い――そんな常識を、アクトは一蹴した。
彼の元・傭兵としての迫り来る「死」に対する嗅覚が全力で警鐘を鳴らしているのだ。アレをまともに喰らえば、一息に心臓を穿たれ命を絶たれると。
「くっ!?」
遅れて硬直から立ち直ったアクトはギリギリ横っ飛びで回避するが、目にも止まらぬ速さで放たれた貫手は彼の右腕を浅く掠める。だが、制服の切れ端から滴り落ちる鮮血もお構いなしに、アクトはナイフ持ちを制圧したのと同じ要領で、振り抜かれて無防備となったアイリスの腕を掴んで引き寄せ、その場に組み伏せた。
あのナイフ男と比べて恐ろしく速いが、動きが直線的で読み易い。故に、アクトは基本的な組み技で難なくアイリスを制圧する事に成功したのだが――
『■■■■■ーーーーーッッ!!』
(ぐっ!? なんつー力だ……!? これ、下手したらヴァイスの野郎やあのチビッ子よりも遥かに……!)
力の入りにくい不安定な体勢であるにも関わらず、上から抑えつけているアクトを吹き飛ばしそうになる程の膂力を以て、アイリスは必死の形相で藻掻きまくる。アクトはそれを全力の魔力放出で苦悶の表情を浮かべながら何とか抑えつけようとする。
(ぐぅぅ……、このままじゃ……!)
今は組み技による体勢の有利で何とか拮抗している力勝負が崩れかねない。最早、人外の咆哮を上げながら必死の形相で藻掻くアイリスを抑えるアクト……その時、彼の視界の隅に、少々破損しているが見覚えのある物が地面に転がっているのが映った。
(あれは、アイリスの眼鏡……? まさか!)
以前、アイリスは自分に言った。あの眼鏡は彼女の生来の「病気」を抑える魔道具なのだと。もし、彼女のこの豹変ぶりが、あの眼鏡が自分達と同じようにこの男達に襲われた時に失われたのが原因だとするなら……
確証は無い……だが、今のアイリスを完全制圧する有効な策が無い以上、やってみる価値はある。意を決したアクトは――動く!
「うぉおおおおおッ!」
アイリスから手を離したアクトは、低い体勢から転がるように地を蹴ってその場所に滑り込み、落ちていた眼鏡を拾い上げる。当然、拘束から解放されたアイリスは、瞬時に拳を構えて無防備なアクトの背中に襲い掛かる――彼の想像通りに。
「フッ!」
『■■■■■ーーーーーッッ!!』
瞬時に身を翻してからのバックステップで大気を引き裂く亜音速の一撃目を空振りさせ、続く地面を割り砕く大振りの二撃目を、拳を振り抜いたアイリスの腕を足場に頭上を大きく跳躍して回避。その背後に着地するや、再び地を蹴って振り向く前の彼女に組み付いた。
『■■■■■ーーーーーッッ!!』
「ぐっ……! こいつで、どうだ!」
やはり驚異的な膂力で拘束を振り解かんとするアイリスに、負けじとアクトも全力の魔力放出で対抗し……拮抗がほんの少しだけアクト側に傾いた瞬間、彼は余力を振り絞って手に持っていた眼鏡を彼女に掛け直させた。
『■■■■■ーーーーあああああああッ!??』
直後、アイリスが苦しむように暴れ出すと同時に、変化は起こった。アイリスが叫ぶ大気を轟かせる人外の咆哮が、徐々に人が発する小さな物へと戻っていく。アクトを飲み込みかけていた圧倒的な気配も徐々に薄れていき、それにつれて紫炎の髪色が抜け落ちるように元の黒髪へと戻っていき、組み付くアクトに掛かる力が格段に弱くなった。その隙を突いて、
「悪い」
とんっ、一言断りを入れ、目にも止まらぬ速さで首筋に手刀を打ち込んだ。
「あっ、ぐ……!」
苦悶の声を上げ、瞬時に意識を刈り取られたアイリスはがくりと膝を折り、力なく地面に倒れ込み……直前、アクトはそんな彼女を優しく抱き留めるのだった。
「……ふぅ。何とかなった、か。我ながら結構な博打だったか……」
裏路地を支配していた圧倒的な気配から解放されたアクトは、大きな溜め息を吐くと脱力したようにその場に尻餅を付いた。もし、眼鏡の紛失が原因ではなかった事を想定して次の作戦も練っていたのだが、無駄になってしまった。いや、無駄になってよかったと言うべきだろう。
抱き留めたアイリスをそっと地面に横たえ、丁度持っていたハンカチで傷口をキツく縛っておく。治癒魔法なら一発で治る程度の傷だが、魔法に頼らない戦いを信条としているアクトにその選択肢はなかった。それにこの程度の傷、彼がその気になれば直ぐに治る。
(何はともあれ、アイリスが無事でよかった……とはいかないんだろな)
応急処置を終えたアクトは再び大きな溜め息を吐き、ちらり、と意識を失い地面に寝かせたアイリスを横目に見やる。
出会った当初から自分がずっと彼女に抱えていた謎の違和感……その正体の片鱗が、恐らく今の暴走(?)なのだろう。魔法や魔力放出抜きで全力時のアクトと同等の驚異的な身体能力もさることながら、普段の彼女からは考えられないような凄まじい凶暴性や攻撃性が隠すことなく顕著に表れていた。
人間どれだけ怒り狂っていても、生物としての生存本能が、身を焦がす怒りに自らが滅ぼさないよう無意識に感情を抑えているものだ。それをこのアイリスという少女は、感情のリミッターなどまるで無いかのように、鍛えられている自分を完全にすくませてしまう強烈な攻撃性を向けてきたのだ。
あれだけの攻撃性を面に出せるのは、まさに悪鬼・羅刹の類い……もしくは本能の赴くままに己が標的を食らう獰猛な「獣」のそれだ。
(アイリス=ティラルド……この子は一体、何者なんだ?)
脳内に様々な推測を立てつつ、アクトがこれからどうするか考えていたその時、
「――駄目です班長、見つかりません!」
「いや、住人の証言によればここら辺の筈だ。よく探せ!」
「はっ!」
此処から少し離れた所で、数人の男性の声がアクトの耳朶を打った。複雑な造りの裏路地をよく反響して伝わる会話の内容から察するに、どうやらこの街の警備官のようだ。
(やべっ、さっきのコイツらの叫びを誰かが聞いてて、警備官に通報したのか!? ったく、息つく間もねえな!)
何故こんな状況になったのかは分からないが、魔道士のアイリスと自分がこの場に居るのは非常に拙い。大体察しは付くというもだが、アイリス側に外傷が一切見られない以上、駆け付けた警備官達にどう見られるか分かったものじゃ無い。
幸い、男達はかなりの重傷を負いながらも息はまだある。警備官達が見つけて保護されれば助かるだろう。少なくとも、アイリスから詳しい話を聞くまでは、下手に関わらない方が良い。そう判断したアクトは疲弊した体を奮い立たせてアイリスを背負い、
「【第一深域到達・縛を解かれしは・人の理を外れし下法・我は駿馬の威を体現せし・一陣の疾風なり】――エクス、辺りをうろついてる警備官達に見つからないよう周囲の警戒を厳に頼む。よっと!」
『お任せください、マスター』
既に感情と情報の処理が終わったらしいエクスに指示を出し、脚力強化の道術を発動させる。そして、三角跳びの要領で左右の壁を巧みに蹴り上って屋根上に登り、その場から離脱するのだった。
◆◇◆◇◆◇
――旧市街から抜け出し観光街に戻って来たアクト達は、散開する前に予め決めておいた集合場所に向かうことにした。到着する頃には決めておいた時間を少し過ぎており、既にアクト達以外の全員が揃っていた。ちなみにエクスは何か考える事があるとかで霊体化したままだ。
「アイリス!」
「よかった、無事だったんだね!」
アクトに背負われたアイリスの姿を見た途端、彼らの表情が喜びと安堵に染まる。皆、心の底から彼女の事を心配している何よりの証拠であった。
「寝てるのか?」
「……ああ。あの男達から必死の思いで逃げ出したかと思ったら、大量の人込みに酔って体調を崩したみたいなんだ。俺が見つけた時にはもう、向こうの方の街路脇で寝込んでたよ」
マグナの問いに、アクトは咄嗟に思い付いた嘘で誤魔化す。まだアイリスの謎や襲って来た男達の素性が分からない以上、下手な事は言えないと判断しての嘘だ。
いつも自分の嘘を簡単に見抜くコロナにはバレるのではないかと危惧するアクトだったが、幸い彼女は二人の話を聞いてはおらず、頭上を険しい顔つきで仰いでいた。
「……そろそろ戻った方が良さそうね。もうとっくにクラサメ先生が言ってた時間を過ぎてるわ。さっき、警備官が観光客に注意勧告をしに街を周ってたし、他の生徒達も宿舎に帰ってる筈よ」
コロナの言う通り、既に頭上の空は真っ黒な雲で覆い尽くされており、いつ大雨が降りだしてもおかしくない状況だ。
「此処からアイリス達の宿舎までは結構距離がある。ちんたら向かってたらその間に降られてずぶ濡れ確定だ。アイリスから詳しい話を聞くためにも、とりあえず俺達の宿舎に運ぼう。マグナすまねえ、俺が運んでいた分の荷物も頼めるか?」
「おう、任せとけって。お前にもさっきの騒動で助けてもらった借りがあるからな。これぐらいお安い御用だぜ」
アイリスを背負い直したアクトの頼みに、コロナはにっ、と笑って気前よく応じる。さっきは荷物持ちをあれだけ嫌がってたのに、ここぞというときは頼りになる友人の笑顔に、アクトは信頼と感謝を込めて微笑み返した。
「じゃあ、行こう!」
「おう!」
そうして、彼らは宿舎の旅館に向けて走り出す。直後、彼らの頭に天から一滴の雫が降り落ちた。それはまるで彼らにとっての不吉の予感を表すかのように勢いを強めて次々と降り注ぎ、彼らの体を強く打ち付けるのだった……
ストックが尽きたので連続更新は今日までとなります。明日から大学の授業も始まるので中々執筆し辛い環境になりますが、頑張って書いていくので気長に待っててください!




