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魔導帝国の英雄譚 〜そして少年は英雄になる〜  作者: 愚者
2章 学院生活編(中)~黒の剣団と獣の少女~
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45話 黒の剣団

 

 アルテナ大陸には、様々な種類の勢力が、日々、しのぎを削っている。


 飛ぶ鳥を落とす勢いで他国を圧倒する強大な軍事力・技術・国力を誇る魔導大国「ガラード帝国」。


 その帝国と双璧を成す力を持つ数多の国家の集合体「連邦」。


 大陸の遥か東、極東一帯の地域を治める大国「アマテラス皇国」。


 ‟大陸の背骨”と呼ばれる巨峰「イルヴェリア山脈」の更に北に存在する「ドラグニア竜王国」。


 一民族ながらも全員が卓越した戦闘能力を持つのと同時に、圧倒的優位な地の利で他の「勢力」の侵攻を一切許さない「南原」の狩猟民族……このように、挙げれば本当にキリが無い。


 そして、これら巨大勢力の他に外すことが出来ないのが、戦場で稼ぎを上げることを生業としている傭兵団や各魔法「ギルド」、「研究院」、そして邪悪な意思の下に世界の暗部を蠢く魔法結社などの勢力だ。


 たかがその程度の勢力と侮ってはならない。確かに国や大集団ほどの規模は無いが……ある一個人によって結成された彼らの目的は、元を辿ればごく少人数で大事を成す、言わば極限の少数精鋭。中には一騎当千の猛者を抱えているところも少なくない。


 かつてアクトが所属していたのは、そういう集団の一つ「傭兵団」だ。各機関や国家、または私的に依頼され戦場を駆ける「傭兵団」の中には、数百人規模で構成される超大手と言うべき集団がそれなりの数存在する。


 それとは対照的に、アクトが剣を振るっていた「傭兵団」の構成人数はたった十数人。「傭兵団」の規模としては最弱の部類と言えるところなのだが――


 曰く、‟その者達、目で数えられる程度の人数でありながら、その全てが傑物。数多の戦場を蹂躙せし、無双の剣なり”――誰が言ったか、いつしか彼らの名はごく少人数で最大手とも渡り合える超実力派の「傭兵団」として、名実ともに各業界に知れ渡ることとなった。


 だが、その栄光も長くは続かなかった。三年前、とある小国と邪悪な魔法結社が血で血を洗う抗争を繰り広げていた戦場にて、派遣されたその傭兵団は、敵方の思わぬ奇襲によって部隊に甚大な被害を出し、流れるようにひっそりと歴史の表舞台から姿を消してしまった。


 それでも、一人一人が一騎当千の活躍をする彼らの名は、今でも他の傭兵団から羨望と畏怖の対象であり、表舞台を下りた後でも粛々と語り継がれている


 その名を――「黒の剣団(けんだん)」。


 ◆◇◆◇◆◇


「な、何でお前らが、こんな所に……!?」


 突如、アクトの前に現れた三人の男女――「黒の剣団」に所属していた戦友達の姿に、アクトはいつの間にか聖剣を構えるのも忘れて呆けたように呟く。まるで、‟居るはずも無い何か”を目の当たりにしかのように、心の芯から驚愕していた。


 彼らは、皆一様に似たような漆黒の装衣で身を包んでいる。そして左胸には、‟天高く伸びる黒の剣”の意匠――「黒の剣団」のシンボルが彫られた胸章を付けていた。それは、彼らが紛うことなき、あの音に名高き「傭兵団」の一員である事を示す何よりの証拠であった。


「そう驚くな。俺達が此処に居るのは全て予定通り、付け加えるなら、お前を襲った事自体が俺達のシナリオだからな」


 驚愕に震えるアクトに淡々と事実を告げるのは、先ほどアクトを《呪言》で縛った男性だ。


 年齢は二十代後半、長身痩躯な体型でありながらも、服装越しでも分かる程に鍛え抜かれた無駄のない逞しい身体。その総身を、溢れんばかりの力強い魔力が巡っている。漆黒の長髪を後ろで一括りにし、その蒼色の瞳からは研ぎ澄まされた刃物の如き鋭い眼光を放つ青年である。


「お、おい? どういう事だよ、グレイザー?」


 動揺冷めやらぬままにアクトが問い詰めるその青年の名は、グレイザー=アインシュバルト。「黒の剣団」副団長にして、若きスーパーエース。戦闘や諜報、破壊工作など、ありとあらゆる任務を完璧にこなし、それぞれが歴戦の強者・曲者の団員の中でも極めて高い実力を誇る、まさに団の切り札と言うべき人物であった。


「そんな事は後じゃ後! しっかしまぁ、本当にひっさしぶりじゃのうアクト!! 元気にしとったか? うーむ、やっぱしラフィーちゃんの言う通り、あんまし背が伸びていないようじゃのう。ちゃんと肉食ってるか? ん?」


 そう言って、無遠慮にその太い腕をアクトの肩に回してにぃっ、と愉快そうに笑うのは、初老の男性。その男性、老人でありながらアクトなどよりも遥かに大柄で肩幅が広く、筋骨隆々。年齢相応に貫禄のある顔立ちで、纏う雰囲気はまさに歴戦の猛者のそれだ。だがそれとは対照的に、笑った顔はまるで悪戯好きのやんちゃ坊主のような若々しい精気で満ち溢れている。


「おっさん……いや、ガレス。アンタも相変わらず元気そうで何よりだよ。後、次に俺の身長の事で何か言ったら即・叩っ斬るぞ」

「おお、怖っ。それと、やめんかやめんか! そんな堅苦しい挨拶みたいなのは。前みたいに、おっさんとかジジィくらいで十分だわい!」


 割と本気で放ったアクトの殺気をもそよ風のように受け流して、無遠慮に彼の肩をバシバシ叩く彼の名は、ガレス=カリエンテ。「黒の剣団」の中でも最年長の魔道士であり、あの「リーン・フォール戦争」にも参戦した歴戦の古強者だ。


「その辺にしておいた方が良いですよ、ガレスさん。アクト君くらいのような年頃の子は、あんまり激しく絡まれると鬱陶しく思ってしまうものですからね」

「……むっ? そうかいの?」

「ラフィールさん……そんな事は無いですよ。ガレス……おっさんには色々と世話になりましたし」


 そんなアクトとガレスの様子を微笑ましそうに見ながら声を掛けるのは、赤みがかった濃い茶髪が特徴のうら若き女性だ。三年前の記憶では、まだどこか刺々しくて子供っぽい幼さも残っていたが、今ではすっかり大人びて慈母神のような穏やかな面持ちになっている。さらに、三年前からは考えられないほどに美しくなっていて、アクトも一瞬見惚れてしまった程だ。


 だが忘れてはいけない。普段はとても温厚なこの女性は、間違っても怒らせてはいけない類の人種である事を、アクトは身を以てよく知っている。そんな彼女の名は、ラフィール=レイネス。「黒の剣団」の後方支援担当にして、戦闘でもバリバリ前線に立って敵と戦う実働派の魔道士だ。


 単純な魔道士としての実力では、猛者揃いの団員の中では一歩劣るものの、ラフィールには彼女にしか出来ない「ある特技」がある。それを駆使すれば、決して彼らにも見劣りしない強力な魔道士なのだ。。


 ラフィールの専門は後方支援、前線で戦う仲間の支援や、負傷などで戦線を引いた仲間の穴埋めが主な任務だ。昔からアクトは独断専行や一人で突っ走ったりしたりすることが多く、ラフィールはいつもその後の隊の穴埋めを担ってくれていたので、アクトは彼女に対しては頭が上がらなかった。


「あら、アクト君も遂に遠慮とか配慮とかそういうものを学んだんですね。私、少し感激しちゃいました」

「からかわないでくださいよ。俺だっていつまでもガキじゃないんです。ちょっとくらいはは成長しますよ……多分」

「ふふっ……あっ、そうだ。すっかり忘れてました! 紹介しますね、アクト君。この子はサーシャ、サルーシャ=レギーナ。一年ほど前に『剣団』に入団した新人の魔道士ですよ。戦い方は体感してもらった通り、アクト君と同じ近接戦特化型。多種多様な武器を使いこなす近距離戦のオールラウンダーです」


 ラフィールは少女の後ろに回って彼女の両肩に手を置くと、紹介を代弁する。急に話を振られた少女――サルーシャは、暫く考えこむような素振りを見せると、やがてその無機質な表情をアクトの方に向け、


「ん……よろしく」

「え? お、おう、よろしく……」


 そう短く零すように呟いた。先程まで本気で命を狙われていた相手が次の瞬間には仲間になるというこの何とも言えない状況に、アクトは曖昧に返すことしか出来なかった。


「そういえば……コイツが使ってたあの大量の武器って、やっぱりおっさんが造ったのか?」

「ん? ああ、そうじゃ。お主が体感した通り、サルーシャは滅茶苦茶な武器を使い方をするじゃろ? だから、使ってる武器が壊れても手数をカバーするために、儂が錬金術でちょちょいとな」


 ガレスの得意分野は錬金術、特に地質や鉱物に干渉する土属性に適性がある。錬金術は本来、戦闘向きの魔法では無いのだが、それを如何なる状況においても運用出来るよう戦闘用に改造したのが、このガレス=カリエンテなのである。


 突如、アクトの前に現れたかつての戦友――グレイザー、ガレス、ラフィ―ル……彼らは「黒の剣団」の中でも全体の指揮や行動方針を決定する内陣のメンバーであり、傭兵時代のアクトが特に任務でチームを組んでいた仲間達が、この倉庫に集まっていた。


「……ん?」


 その時だった。今までアクトが握っていた聖剣がいきなり光り輝きだして倉庫内を眩く照らし……発光が止まったかと思えば、いつの間にかアクトの隣に銀の髪持つ一人の少女――エクスが立っていた。アクトの手には憑依元であるアロンダイトが握られている。


「エクス……出て来たのか」

「はい。戦闘思考にリソースの大半を割いていたので外の状況は認識していませんでしたが、マスターを害そうという気配が一切感じられなくなったので、勝手ですが憑依を解かせていただきました。それよりもマスター、この方達は一体……」


 現れた「黒の剣団」の面々に警戒心を向け、エクスはアクトの服の袖を引っ張りながら彼に問う。確かにエクスからして見れば、支えるべき自分の主が襲い掛かって来た連中といきなり親し気に話し出すものだから、状況が掴めなくなるのも無理はないだろう。


「そっか。エクスは知らなくて当然だよな。そっちのチビっ子は置いといて、この三人は『黒の剣団』っていう傭兵団で俺が傭兵をやってた時によく一緒に戦っていた仲間なんだ。そうだ、みんなにも紹介しておくよ。剣精霊エクス、訳あって俺と――」

「お前が契約している上位精霊とやらだな。『雇い主(オーナー)』から上がってきていた報告書に詳しく書いてあったぞ」


 アクトの言葉を遮るように、グレイザーが短く指摘する。確かに、上位精霊というかなり不確定にして強力な存在を従えるアクトに、情報不足のまま仕掛けるような真似を、歴戦の猛者たる彼らはしないだろう。


「なんだ、知ってたのかよ。……それで? こんな事までしてわざわざ俺に接触してきた理由をそろそろ教えてもらおうか」

「……そうだな。だが状況を説明する前に、お前に幾つか説明しておく事がある」


 懐かしき戦友達との再会もその辺にしておき、アクトは遂に本題を切り出す。これに答えを返したのは、副団長のグレイザーだ。彼は、その鋭利な蒼色の瞳でアクトを真っすぐ見つめ、


「最早、『黒の剣団』という傭兵団はもう存在しない。今の俺達は帝国軍直属、第十団『黒の剣団』という名の特殊作戦魔導部隊『軍団(レギオン)』として、帝国各地で活動している」

「……は?」


 割ととんでもない事実をのたまった。アクトにしても決して他人事では無い大事(おおごと)にしては、グレイザーがあまりにも感情の起伏なく淡々と告げるものだから、少し……いやかなり遅れたタイミングでアクトは表情を再三、驚愕に染めた。


「な、何だって……!? 剣団が、『軍団』の一つになったって言うのか!?」

「ああ。三年前、‟例の戦い”で多くの団員とお前を失った俺達には、どこか強力な後ろ盾が必要だった。そうでもしなければ、剣団はもうまともに機能しなかったからな。そんな時、『契約』という形で手を差し伸べてくれたある人物が居た」

「三年前、だと……?」


 三年前の戦い……忘れたくても忘れられない。自分が「黒の剣団」を脱退する原因となった死闘にして、自分が力及ばなかった為に大切な団員や「彼女」を永遠に失ってしまった、後悔と憎悪に彩られた忌まわしき過去。思い返せば、魔法に対する嫌悪感が急激に増したのも、あの頃からのようだった気がする。


(やっぱり、忘れたくても忘れられないもんだよな……いや、今はよそう。昔を捨てるつもりは毛頭無いけど、アイツに言われたように、今の俺は前を進むって決めたんだ……)


 脳裏に蘇る様々な記憶や因縁を、アクトは被りを振って払拭する。封印していた記憶の蓋が外れ、忌々しい過去がアクトの心をじわじわと苛むが、学院に転入して来た初日のように発作を起こすようなところまではいかなかった。コロナ達との出会いを通し、アクトも心身共に大きく成長しているのだ。


 それに――あの頃の彼が真の意味で後悔している出来事は、たった‟一つ”だけなのだから。


「……で、その人物って、誰なんだ?」

「別に隠すような事でも無いし、お前も薄々感づいているのではないか? お前もよく知っている人物……『七魔星将(セブン・スターズ)』第五座・《暴虐》のエレオノーラ・フィフス・セレンシア女史だ」

「なっ、エレオノーラが!? ……ああ、いや。やっぱり、と言うべきなのか……」


 激しく驚きながらも、グレイザーの言葉通り、アクトも心の奥ではそうではないかと思ってはいたのだ。今日の夕方、クラサメ経由で手渡されたエレオノーラからの手紙……今アクトの懐に仕舞われている手紙の封蝋には、「黒の剣団」のシンボルがしっかりと刻まれていたのだ。


 いくら傭兵時代のアクトがエレオノーラに仕事を斡旋してもらっていたとはいえ、傭兵団に入ってからはその関係も希薄になっていた。「黒の剣団」の事を直接知っている訳では無い彼女が、わざわざ手紙に剣団のシンボルを刻むあたり、キナ臭過ぎるのである。


「契約を交わすにあたって、俺達がエレオノーラ女史に依頼された事はたった一つ――即ち、帝国に巣食う『裏』の連中の一掃だ。そして、軍事上の余計な手間や工程を省く為に、俺達は『軍団』に所属していると同時に彼女の私兵の一つとして独自に行動している」

「エレオノーラの私兵として……? そうか、そういう事なのか……?」


 なるほど上手くやったものだと、アクトは一人納得する。その気になれば幾らでも人手を集められるであろうエレオノーラが、‟例の戦い”で疲弊していた「黒の剣団」をわざわざ引き入れる……そこで、アクトが転入してきた初日にエレオノーラが言っていた、‟動かせる手駒”の話に直結してくるのだろう。


 帝国の最高戦力たる「七魔星将」のエレオノーラは、自ら動く事が難しい立場にある。無論、彼女や他の「七魔星将」も、独自に動かせる私兵部隊の一つや二つ持っているのだろうが、それらは全て非公式の部隊。公で出来る事にも制限はあるし、もし動くとなれば、多方面から足はついてしまうものだ。


 そこでエレオノーラが目を付けたのが、アクトと関わりの深かった「黒の剣団」だ。少数ながらその誰もが一騎当千の猛者であると同時に、歴史の表舞台から姿を消した彼らは、エレオノーラにとって都合がよかったのだろう。「黒の剣団」を帝国の新設公式部隊として運用することで、彼女は軍とはまた違った独自の機動性を持つ非常に使い勝手の良い私兵を手に入れたのだ。


 恐らく、エレオノーラはかなり前から帝国の闇に蠢く「裏」の活性化を察していたのだろう。ただの一傭兵部隊を誇り高き帝国の「軍団」にねじ込むという暴挙を実行するにあたって、相当に念入りな下準備を重ねることで、来るべき激動の時代に優秀な手駒を、波風を立てずに盤面に揃えたのだ。きっと、彼女は剣団以外にも同じような手口で人手を集めているに違いない。


 大魔女が張り巡らした恐るべき策略と並々ならぬ熱意。不意に、アクトはここに至って、今までてんでバラバラだった要素が急に一つに繋がっていくような感覚を覚えた。


(要するに、俺がエレオノーラに協力、ひいては剣団に合流するところまでは、全て予め決まっていた流れだったって訳だ。俺、完全にエレオノーラの掌で弄ばれてるな……)


 まるで狙い済ましたかのような予定調和の如き状況の進行、逐一自分に説明する事を嫌ったのか、この局面で自分が全てを察する事すら予定に入っているかの如き伏線の数々。彼の大魔女の流れるような策謀に、今となっては笑うしかない。分かっていたつもりだったが、どうやら自分は彼女の事をまだまだ侮っていたらしい。


 となれば、だ。この局面で次にグレイザー達の口から出る言葉はたった一つしか無い。


「どこから支援を受けているのかは知らないが、『裏』の連中は日に日に力を増していくばかりだ。屈強な団員の多くを失った俺達では、これ以上に任務続行は困難を極めると推測する。故に、確実に事を成す為には、お前の力が必ず必要になってくる――協力してくれるな? アクト」

「この通りじゃアクト。お主が何で剣団を去ったのかは儂らも痛いほど分かっとるし、儂らだってあの戦いで色んなものを失った。けど今は、本当にこの帝国に未曾有の危機が迫っておるんじゃ。それを止める為に、このじじぃの顔に免じて、協力してくれないかの?」

「お願いしますアクト君。奴らに対抗するにあたって、『魔道士殺し』の力は大きな武器になります。私も精一杯皆さんの力になれるように鍛えてきました。この名に賭けて今度こそは誰も失わせはしません。だからどうか、私達を信じてください!」

「ん……お願い」


 相変わらず冷淡に迫る者、いつもは飄々として掴み所の無い雰囲気を、この時ばかりは真剣にして迫る者、その瞳に確かな決意と熱意を漲らせながら迫る者、やはり無感情に迫る者……四者四様に迫られるアクト。


 言葉にしなくとも分かっている。この誘いは、かつて自分が逃げた茨の道、決して報われることのない修羅の道への片道切符だ。一度踏み込めば最後、いずれ訪れるであろう血で血を洗う激動の時代を終結させるか、命の火種尽きるその時まで、自分は戦い続けなければならないのだろう。


 きっと、この場所に来る前の自分なら、この選択を迷っただろう。だが、ふと脳裏によぎる沢山の記憶――「誓い」を立て、その太陽のような力強さで自分を救ってくれた赤髪の少女、どこまでも寄り添うような穏やかな眼差しで自分を見てくれる金髪の少女。その他にも、形は違えど同じ学び舎で共に研鑽する生徒、教師……


 ‟あの日”以来、ずっと止まっていた自分の時間を動かしてくれた沢山の存在を思い浮かべ――答えは最初から決まっていた。


「……ああ。最初はエレオノーラに与えられたこんな場所、どうなろうか知ったこっちゃ無いと思っていた。……でも、今は守りたい、帰りたい場所が確かに其処にはあるんだ。だから、その場所を守る為なら、俺は何だってやってやるよ。それでも良いか? エクス」

「……はい。私はマスターの剣、貴方の前に数多の困難が立ち塞がるというのなら、私はその悉くを斬り裂く一振りの刃となりましょう」


 かくして、アクト=セレンシアはかつての戦友達と、自分に何処までも付いて来てくれる頼もしき剣精霊と共に、もう一度剣を取る事を決意するのであった。



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