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魔導帝国の英雄譚 〜そして少年は英雄になる〜  作者: 愚者
1章 学院生活編(上)~魔法嫌いの剣士~
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03話 ようこそ我が箱庭へ


「すまない副会長、少し席を外してもらえるかね? 彼と二人きりで話がしたい」

「分かりました。では、話が終わり次第生徒会の方までご一報ください」


 学院長の指示に従い、シルヴィは部屋から出て行く。扉が完全に閉まる直前、彼女の瞳がアクトと交錯し、何か言いたげな様子を見せたが、それは完全に閉まる大扉によって遮られた。


「さて、邪魔者……おっと、この言い方は彼女に失礼だな。第三者の目も消えたことだし、ようやく話が出来る。ん? どうした、もっと近くへ来い我が弟子よ。久しぶりの再会を先ずは喜ぼうではないか」

「俺はアンタの顔なんて二度と見たくないと思っていたがな。それと、今の俺の師匠はアンタみたいな性悪魔女じゃねえ。撤回しやがれ」


 慈愛? 親愛? そのどれとも似ているが似つかない謎の感情が篭った、やけに優しげな学院長の言葉に忌々しげな表情を浮かべながらも、アクトは執務机の方へと近づく。話してみないことには始まらないと判断したのだ。だが、アクトは彼女の人間性をよく理解していた。目の前の魔女は間違っても慈愛などという温かな感情など決して抱かない事を。


「久しぶりだなアクト。見違えるくらい大きくなったじゃないか。それに、魔力の質も随分と鋭くなっている。やはりお前を『奴』の元に預けたのは間違いでは無かったようだ」

「あれから何年経ったと思ってる? 三年だぞ三年。そりゃ成長の一つや二つもするさ。まあ、『師匠』と俺を合わせてくれたのには一応感謝はしてるよ。……それに比べて、アンタは全く変わらないみたいだな、エレオノーラ」

「仮にも私は幼少期のお前を育てた親代りだぞ? それに魔道士としても最高の位階に位置している。もう少し礼儀を知ったらどうだ?」

「うっせ。アンタに送る礼儀なんざその辺の道端に捨てて来たさ。いくら親代りと言っても、アンタが俺にした事を忘れたとは言わせねえぞ」


 学院長とその客人、そんな関係はとっくの昔に忘れ去られ、二人は軽口と皮肉を叩き合いながら会話を弾ませていく。この場に第三者が居れば、なんて恐れ知らずなんだと思われていただろう。


 彼女の名はエレオノーラ=フィフス=セレンシア。かつて帝国とある国の間で勃発した大戦争の際、暴虐の限りを尽くして実に数万人の兵士をたった一人で殲滅したとされる大魔道士だ。付いた異名が「殺戮の天使(セラフィム)」、帝国が誇る七人の最強魔道士集団「七魔星将(セブンスターズ)」の一柱、「第五座・暴虐」の席を与えられた大陸最高峰の最強にして最凶の存在。そして、アクトの知る限り、「魔導の深淵」に最も近い人物。


 姓名がアクトと同じなのは、幼少期に両親を亡くした彼をエレオノーラが養子として引き取り、親代りとして育ててきたからである。アクトが拾われたのは本当に小さい頃なので両親の事など殆ど覚えておらず、エレオノーラが実際の親みたいなものだった。ちなみに、アクトは自分の名前を教える際、姓名を名乗らない。関係者と思われるのが嫌だからだ。


「私がお前にした事、か。確かに否定はせんよ。実際、お前の体には色々いじらせてもらった。魔力量の高かったお前は被験体としては持って来いだったからな。だがな、見返りとしてお前に教えた事なら沢山あるぞ。赤ん坊のお前を拾って育てたのは誰であろうこの私だし、サバイバル技術から料理の仕方、剣の手ほどきに魔法の知識など……対価としては十分だと思うがね。私はお前に感謝されるこそあれ、恨まれる筋合いは無い筈だ」

「テ、テメェ……!」


 冷ややかに非難を受け流すエレオノーラにアクトは思わず歯ぎしりして怒りを露わにする。だが、今の言い分を完全に否定出来ないのも事実だった。実際彼女が居なければアクトはとっくの昔に何処かで野垂れ死んでいたかもしれないし、良くも悪くも彼女は自分のかつての師匠だ。力の差は絶対的だし強くは出られない。


「クソッ! ああもう分かったよ感謝しときゃ良いんだろどうもありがとうございます!」

「それで良い。素直なのは良い事だ」


 そんなやり場の無い怒りを発散させるかのようにその場で大きく地団駄を踏んだアクトは、何とか煮えたぎるそれを無理矢理飲み込むことが出来た。それに対しエレオノーラはおもちゃで遊んでいるかのように楽しげだ。


「まあ良い、本題に移るぞ。どうして俺をこんな所にわざわざ呼び出した? 魔法嫌いな俺に対する当てつけか? お陰様で嫌な記憶が蘇ってさっきの副会長に浄化魔法で鎮められたんだぞ」


 浄化魔法、その言葉にエレオノーラの眉が僅かに動く。


「何? 浄化魔法だと? そこまで……いや、奴が三年かけて鍛えた男だ。まさかその程度で折れる程柔くは無いだろうが……少し試してみるか」


 後半は一人でブツブツと何かを呟くエレオノーラにアクトが怪訝な視線を向けると、


「よし、アクト。本題に入る前に少しテストの時間だ」

「テストだと?」


 いきなり訳の分からない事を言い出した元師匠にアクトが困惑していると、


「なに、簡単な物だよ。お前がこの三年でどれ程強くなったのかを、なっ」


 エレオノーラは自身の左手をアクトに向ける。直後、その場で急速に高まる魔力の流れをアクトは感じた。そして、それが自分に向けて牙をむこうとしている事にも。


「お、おい!? 一体何を――」

「【爆ぜよ】」


 たった一言、エレオノーラがそう命じただけで、彼女の体内に秘められた「叛逆」のチカラたる魔力により、世界の事象が一時的に書き換えられていき――


 ドガアアァンッッ!!


 凄まじい轟音、そして爆発。放射状に発生したエネルギーによる白き大爆発はアクトを巻き込み、その後ろの大扉を粉微塵に吹き飛ばした。それでも溢れ出した衝撃波は治まることを知らず、扉の外の窓ガラスを見並粉砕した。


「はっ、はっ……あ、あっぶねえ……」


 徐々に煙が晴れていく中、露わになる人影ーーアクトはなんと、全くの無傷だった。咄嗟に引き抜いたらしい剣を地面に突き立て、乱れた呼吸を繰り返している。煙に巻かれて服はかなり汚れてはいるが、爆発とその衝撃を受けた筈なのに、肌は全くの無傷だ。


「ほう? また随分と奇妙な物を持っているな」


 エレオノーラは感心した様子だ。爆発によって床は見るも無残に大きく抉れていたが、何故かアクトとその周辺の床だけは綺麗に残っていたのだ。よく見れば、剣の美しい刀身には何か幾何学的な模様や文字が浮かび上がっていた。


「なるほど、それはお前の『特性』を利用したルーン刻印だな。興味深い」

「おいテメェ! いきなり何すんだ!? 俺の反応がちょっと遅れてたら死んでたぞ!?」


 いきなり人を爆撃しておいて何事もなかったかのようにしているエレオノーラに、今度こそアクトは激怒する。昔から彼はこの魔女のこういう所が本当に大嫌いだった。


「本当はもう少しまともな手段で防いでくれる事を期待していたんだが……まあ良い、合格だ。本題に入ろう」


 採点基準が何だったのかは分からないが、とりあえずご期待には添えられたようだ。此処に来てようやくエレオノーラはアクトを呼び出した件について話し始める。


「最近、帝国内で不穏な影が忍び寄りつつある。現在帝国は『連邦』と極度の冷戦状態にあり、一瞬たりとも気が抜けない状態なのは知っているな?」

「あ? まぁ、人並みにはな。帝国と『連邦』のいざこざが昔から続いて来たのは今に始まった話じゃ無いだろう」

 

 建国から数百年、周辺の弱小国家の吸収と魔導技術によって大きく発展したガラード帝国は、大陸最大で最も力を持っている国となった。その帝国に対抗する為に、周辺諸国たちはかつての様な争いによる統合では無く、経済協力や支援という名目で同盟を組み始めたのだ。


 そうして、十、百と幾つもの国を纏めて西側に出来上がったのが「連邦」、今や帝国と双璧を成す共同国家だ。東の「帝国」と西の「連邦」、そして、今でこそ目立った争いは起こっていないが、極東の「皇国」と、その他を合わせたのが現在の大陸の勢力図となる。


 連邦の登場でアルテナ大陸には新たな秩序が生まれ、一時の平和が訪れた…しかし、今から三十年前、領土主張によるいざこざで遂に帝国と連邦は戦争状態へと陥り、両国は共に甚大な被害を被った。エレオノーラはこの「リーン・フォール戦争」で凄まじい活躍を遂げ、丁度空席だった七魔星将の一席に着いたのだ。


 両者痛み分けという形で平和条約が結ばれ、この戦争は終結したのだが、幾つもの国が協力し合う連邦は、戦後の内政が非常に不安定になった。その結果、発展速度の面で帝国に大きく差を付けられてしまった。戦争とは良くも悪くも国を大きく変えるのである。


 ……そして、遅れた分を全て取り戻すかのように凄まじい速度で力を取り戻しつつある連邦は、帝国と常に睨み合っている状況にあるのだ。公にはされていないが、水面下では激しい抗争が起きているいう噂もある。


「その通りだ。それ故、現在帝国政府は国内の治安維持・調査に適切な人員を割く事が出来なくなっている。かくいうこの私も七魔星将の一人ではあるが、個人で動かせる戦力は限られている。私自身が動く訳にもいかんからな。そこで、だ」

(あ、やべっ、この話の流れ見えたな。しかもこの上なく面倒臭い方向に…)


 予想される嫌な結末に心底うんざりな表情を浮かべるアクトに、エレオノーラは告げる。


「お前を呼んだのは他でも無い。お前には私の手駒の一つして帝国の『裏』に巣食う愚か者どもを殲滅するのに協力してもらう。その剣の腕、使わせてもらうぞ」

「……やっぱりそういう事かよ。断る……とは言えないな。というかアンタ、俺を逃がす気無いだろ」


 先程から気付いていたが、この部屋をぐるっと囲む様に奇妙な魔法が展開されているのが感知出来た。この手の魔法の正体は大抵何かしらの結界魔法だ。つまり、


「俺が首を縦に振るまでこの部屋から出すつもりは無いって事か」

「理解が早いようで助かる。七魔星将の権限を使って無理矢理お前を従えるのも可能ではあるが、わざわざそんな真似をするのもわずらしいからな」


 まるで、こうなる事が分かっていたかのようににエレオノーラは不気味な笑みを浮かべる。この大魔女がその気になればこの程度の結界など無くとも彼を捕らえて服従させるなど簡単だ。この部屋に足を踏み入れた時点で勝負は付いていた訳である。


(……分かっているさ。コイツの掌の上でいいように弄ばれているって事は……そして、この件に関わるって事は、否応なくかつての記憶に触れることになる。だが、それが俺を送り出した師匠が言っていた俺の弱さなら……)


 アクトの脳裏に先程の発作がフラッシュバックする。あんな思いは二度と御免だが……この件を乗り越えて、それを打ち破り、成長出来るかもしれない。「あの一件」からずっと止まっていた時間が動き出すかもしれない。そんな希望がアクトの意思を決定づける。僅かな沈黙の後、アクトは、


「……良いぜ、協力してやるよ。アンタのお望み通り、戦場に戻ってやる。どの道、知っていて放置出来るような案件でも無さそうだしな。ただし、その働きに見合うだけの報酬は用意してもらうからな」


 その要求を承諾したのだった。


「勿論だ。お前が納得しそうな物を考えておこう」


 こうしてアクトとエレオノーラ、かつての師弟による協力関係が成立した。この契約により、アクトの前には様々な苦難・困難・悲劇が立ち塞がっていくことになるのだが……今の彼に、それを知る由など無かった。


「で、俺はどうしたら良い?アンタの言う、帝国の『裏』を掃討するのは直ぐに出来るような物じゃ無いだろ。間違いなく長丁場になる。その間、住む場所も必要なんだが…」

「それについて問題無い。考えがある」


 そう言って、エレオノーラは執務机の引き出しから数枚の書類を取り出し、アクトに見せる。彼がそれを受け取って内容を確認していくと…その書類には、彼自身の顔写真が添付されており、簡単な経歴が書かれていた。この書類の正体、それは、


「……おい、何で此処に俺の顔写真があるのかはこの際良い。これってまさか――」

「この学院への転入申請書類だ。喜べ、この私、エレオノーラ=フィフス=セレンシア直々の紹介だ。お前にはこの学院の転入生として、私の手駒となってこの街を拠点にした学生生活を送ってもらう」


 最初、アクトは目の前の大魔女が何を言っているのかさっぱり理解出来なかった。いや、正確には意味は分かっていても頭がそれを理解するのを拒んでいたのだ。


「じ、冗談、だろ? アンタの性格がねじくれてるのは重々承知だが、それにしてもタチの悪い冗談だぜまったく……」


「おい、現実逃避をするな。もうこれは決定事項だ。既に学院側には私名義でこの書類を複製して提出し、講師総会で認められている。お前は今年で十七歳……『私立ダムシリアン魔法科学院』から来た二年次生としてもう正式にうちの生徒だ」


 一口に魔法科学院と言っても、その全てを国が運営している訳では無い。ガラード帝国魔法学院が実力至上主義というスタンスをとっているのは、此処を運営している帝国の富国強兵政策の影響だ。


 帝国内には様々な機関や組織が魔法科学院を運営しており、独自の校風を貫いている所もある。取り扱われる魔法と其処に通う生徒の私物化を防ぐ為に、厳しい監査はあるが、余程魔道士という規格から外れない限り、特に制限はなかったりする。


「効率化と実用化を切り詰める様なスタンスの我々と違い、ダムシリアンはあらゆる魔法体系に寛容的だ。故に様々なタイプの生徒が在籍している。あそこを運営しているダムシリアン財閥の当主は少し、いやかなり変わり者ではあるがな……あの学院からならば多少変わり種な魔道士が転入して来ても、気には留められない筈だ。ん? 聞いているのか?」


 遠い目をして呆けているアクトをエレオノーラが諌める。冗談などでは無かった。それによってようやくアクトは我に帰った。先程までエレオノーラが話していた事は勿論微塵も頭に入ってはいない。続いて湧き上がって来たのは、激しい怒りだ。


「アンタ、俺が大の魔法嫌いなのを知ってるだろうが! なのに、よりにもよってそれを学ぶのに一番うってつけなこの学院に転入だと!? ふざけんな!」


 バンッ! と、執務机に両手を叩きつけて抗議するアクト。今の彼のとって、「魔法を学ぶ」ということは地獄に落ちるよりも更に苦痛な事だった。それこそ、先程エレオノーラと契約した「裏」の掃除よりもずっと。それを本人の同意も無しに決めるのだから彼が怒るのは当然の道理だった。


「キャンセルだキャンセル! さっきの依頼は取り消させてもらう。俺は帰るぞ!」


 結界で封鎖されている事も忘れ、アクトが身を翻し、立ち去ろうとしたその時だった。


「ふざけているのはお前の方だ。私がどれだけお前に戦い方を教えた? お前は今までどれ程の人間を殺してきた? お前が戦場を離れてからはや数年経つが、魔法から縁を切るには、もうその手は血で汚れ過ぎている。お前はこの先永遠に魔法と向き合わなければならない……いい加減目の前の物から目を背けるのは止めたらどうだ?」

「え、エレオノーラ……?」


 突然何を言いだすかと思えば、背後で感じる猛烈な気迫に思わずアクトは首だけを振り返らせる。すると其処にはもはや殺気を伴う程の表情でアクトの目を見つめるエレオノーラの姿があった。彼女の殺気の中に潜む、心臓を鷲掴みにされた様な「魔人」ーー人外の領域を垣間見たアクトはゴクリと唾を飲む。


 だが、不思議だった。かつて普段は彼を散々しごき倒し、おもちゃ扱いしていたエレオノーラが、今この時は真剣な様子で彼と向き合っていたのだ。


(何なんだ急に……クソッ、訳分かんねえよ!)


 背中越しでも感じる、彼女の鋭利な視線は煮えたぎったアクトの頭を冷ますのに十分だった。お陰で、この部屋がもう脱出不可能だった事も思い出す。


 脳裏に先程の言葉が蘇る……アクトにとってはとても耳が痛い話だった。エレオノーラの言葉は正に正論だった。


 エレオノーラが単純にアクトの力を借りたいだけなら、わざわざ此処までの事をする必要は無かっただろう。だが、彼女はあえてアクトの地雷を踏み抜くような真似をしたのだ。あえて自らの地雷に触れさせて、向き合わせる為に。


(目の前の物から目を背けるのは止めろ、か……今思えば情けねえ話だぜ。さっき過去と向き合うって決めたばかりじゃねえかよ。だが、それでも俺は魔法を学ぶなんてまっぴら御免だ。それは昔の俺と、かつて共に戦った戦友達、そして、「アイツ」への冒涜に他ならないからな……だったらーー)


 意を決したアクトは大きく息を吸い直し、もう一度、勢いよく身を翻してエレオノーラの目をしっかり見据える。


「……分かったよ。お前の学院に入ってやるよ! ただし条件だ。学院生として、最低限の事はこなしてやる。だが、それ以外は好きにさせてもらうぞ。良いな?」

「よかろう。私は学院長としての用事や『依頼』の件以外では、基本お前には干渉しない……だが、大丈夫か? 知ってると思うがウチは魔法科学院の中でもトップクラスの学生が通う場所だぞ。当然授業のレベルも非常に高い。万一成績不振で退学になるような真似があったらどうする? 完全実力主義の学院では、成績による生徒に対する退学は学院長の私でも突っぱねられんぞ。他の講師どもの反論がうるさいからな」


 エレオノーラの言い分はもっともだった。魔法嫌いなアクトがその魔法についての知識を熟知しているは到底思えない……だが、彼にとって魔法の知識とはこの世界で最も嫌悪すべき対象であると同時に、自身が生きる為に必要な生命線だった。


「フン、その点は心配無いさ。耄碌して忘れたのか? 俺は、かつて剣一本と己の魔力だけで数多の魔道士と戦い、そして勝利し、一時期帝国に仇なす魔道士達を震え上がらせた男だぞ? 魔法についての知識なんざ、そこらの学生よりも豊富だ。それに、魔法が使えなくてもやり用はあるってもんだ』


「……ああ、そういえばそうだったな。私としたことが、お前のその『異常性』について失念したようだ。フフ、すまない」


 アクトの不敵な笑みにエレオノーラは一瞬唖然としていたが、合点の入ったように元の妖艶な笑みを浮かべる。正確には、アクトの魂胆については一つ、だが極めて重大な欠点が存在していたのだが、この時ばかりは「殺戮の大魔女(セラフィム)」でさえも失念していた。


「では改めて……ようこそ、私の箱庭、私の学院(せかい)へ――」


 こうして、アクト=セレンシアのガラード帝国魔法学院への転入が決まり、そんな彼を祝福してか、それともこれから始まる苦難へのせめてもの手向けなのか……エレオノーラの背後、暗いカーテンの隙間から僅かに差し込んだ光が彼を照らすのだった。



まとめて投稿しようと考えましたが、この辺りが丁度キリが良いと思ったので字数は短いです。今回から改行する時に一行空けることにしましたが、見やすくなれば幸いです!

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