18話 仮初の契約
「それで、一体この子……エクスをどうするつもりなの? アクト君」
二人娘とエクスが和解した後、改めてこれからについての議論の場が設けられた。普段、朝早くから準備していたお陰で、登校する時間にはまだゆとりがある。
「俺も、精霊についてそこまで詳しい訳じゃ無いからな。……とりあえずエクス、君はその状態なら普通の人間と同じように暮らせるのか?」
「はい。しかし私達精霊に、人間が持つ空腹や睡眠のような概念はありません。その代わり、契約者であるマスターの魔力を糧にして存在を維持しています」
なら、特に問題は無いか……? と、アクトは心の中で自問する。日頃から魔力を食われるのは少々厄介かもしれないが、自分の膨大な魔力量ならそれも……
「……アタシは、一度その道の詳しい人に相談した方が良いと思うわ」
「コロナ……?」
そんなアクトの胸中を察してか、先程まで腕組みしながら沈黙を貫いていたコロナが横から口を挟む。
「エクスは上位精霊なんでしょ。学院で保管されている精霊武具に秘められてるような下級の精霊じゃなくて、正真正銘の強大な超常の力を持つ精霊。そんな精霊と契約しているような人間なんて世界に何人居るのか分かったものじゃ無いわ。なら、一度詳しく見てもらうべきよ」
「そうかもしれないが、俺なら――」
「また魔力切れで気絶したいの? あの時のようにね」
「……!」
コロナの的を射た指摘に、アクトの表情が強張る。確かに、「精霊」と戦った時にエクスから借り受けた莫大な力を、アクトは十全に制御する事が出来なかった。その結果が魔力の過剰放出による魔力切れだ。
あの時のように頻繁に魔力が不足して「魔力枯渇症」に何度も陥れば、それこそ命の危機だ。
精霊と契約するという事は、本人の意思とは無関係に魔力――生命力を吸われるのとほぼ同義なのだと、コロナの言葉で事態を重く見るようになるアクトであった。加えて、彼にはもう一つ大きな疑問があった。
「……そうだな。それと、エクスに一つ聞かなきゃならない事があるんだ。なあエクス、君は俺と契約したって言ってたけど、俺にはそんな事をした記憶が一切無いんだ。それはどういう事だ?」
そう、かつての主を失って契約を解消出来ないまま長い年月を彷徨い、霊験豊かで魔素が濃い学院の敷地で自分を見つけ、自分の剣に憑依した事までは聞いたが、肝心のアクトとの契約がまだ成されていない筈なのだ。にも関わらず、エクスは既に自分を主として慕っている……
「……分かりません。しかし、私の精霊としての意識内では確かにマスターとの魔力を通した繋がりがあります。契約していないという事は無いと思うのですが」
「うーん、分からねえな……どうやら、それも含めて相談する必要がありそうだな」
「……でも、此処まで来ると、学生の私達だけじゃどうにもならない事が多いね。何とか頼りになる人が居れば良いんだけど……」
魔法や精霊についての知識が豊富で、その対象が上位精霊でも対応出来る、そのような魔道士が学院に居るのだろうか……いや、居た。アクトの知る限り、それを可能に出来そうな人物が一人居る。しかも、つい最近彼はその人物と話したばかりだ。
「……一応、アテはあるにはあるぞ。あまり……いやかなり癪には障るがな。だが、何せこれは俺自身の命に関わる事だからな。此処は妥協しないでいこうと思う」
「「「……?」」」
コロナ、リネア、エクスの三人娘(?)の視線がアクトに向けられ、彼は学院制服のポケットから拳程の大きさの赤い宝珠――「遠隔交信器」を取り出す。
「こういう時、この魔導器って便利だよな……」
◆◇◆◇◆◇
「――それで、私の事を頼って来たという訳か」
「ああ。恐らくこの街で、一番精霊に精通している魔道士はアンタだからな」
話し合いが終わった後、アクト達は直ぐに学院に登校し、そのまま職員棟四階にある学院長室へと足を運んでいた。理由は勿論、その部屋の主である学院長エレオノーラに会う為だ。
今まで人外の力を持つ魔道士達と戦い、時として仲間と共に戦場を駆けたが……やはりアクトの中で一番の魔道士と言えば、目の前で紅茶片手に書類に目を通しながら話すこの大魔女だった。
「……成程。以前、お前がこの部屋に来た時から妙な気配を感じてはいたが……まさか、精霊の中でも強大な力を誇る上位精霊の一体に憑かれていたとはな。一体、どういう風の吹き回しだ?」
「だから、それを調べてもらいに来たんだろうが」
互いに軽口を挟みながら話す二人を前に、コロナとリネアは戦慄の表情で顔を青くし、両手を組んで身を寄せ合いながら小さく震えていた。
(こ、コロナ……アクト君、学院長とあんなに仲良さそうにしてるけど、だ、大丈夫なのかな!?)
(あわわわ……り、リネア、アイツって一体何者なの!? あの学院長に対してあんな口叩いて、消し炭にされたりしないよね!?)
(い、幾ら学院長でも自分の学院の生徒にそんな真似しないと思うけど……多分……多分……多分?)
(三回も「多分」て言った!? しかも、何で最後疑問形!? 全く信用出来ないわよ!?)
この学院に来て、初めて学院長室を訪れたコロナ達は怯えに怯えていた。この学院の長にしてこの部屋の主に――自分とは比べるのもおこがましい程の絶対的な力を持つ埒外の怪物に。
別に、二人の心が未熟な訳では無い。エレオノーラ=フィフス=セレンシアという魔道士に初見で遭った者は誰しも同じような反応をするだろう。
大抵の人間にとって、エレオノーラの事を聞かれて真っ先に思い浮かべるのは、ガラード帝国魔法学院の学院長という肩書よりも、「七魔星将」、「殺戮の天使」としての数々の武勇の方だろう。
特に、帝国と連邦の間で勃発した「リーンフォール戦争」にて、彼女が数万の敵兵をたった一人で殺戮したという伝説は、四十年経った今でも人々の記憶に残っている。
それだけでは無い。エレオノーラが帝国に根を下ろしたのが五十年前、其処から今に至るまでの戦いの記録はしっかり残されているが、それ以前の記録がまるで無いのだ。それ故、彼女には何時も輝かしいような武勇の裏に、得体の知れない不気味な噂が付いて回っているのだ。
曰く、禁じられた儀式によって己の肉体の寿命を固定し、永遠の生と美貌を手に入れた「不死者」だと――
曰く、この世の何処でも無い場所――「冥界」と「天界」から数多の悪魔と天使を下法で呼び出し、その権能と知恵を根こそぎ我が物とした「堕天使」だと――
曰く、その強大な魔力で太古に栄えたとある王国を一夜にして滅ぼした古の「魔王」だと――
曰く、大陸の遥か北に棲まう伝説の竜を単独で討伐した「竜殺之英雄」だと――
果てには、青く澄み渡る大空の遥か上空――人外の領域に棲まう怪物を倒したとか、エレオノーラにまつわる噂を挙げれば枚挙に暇が無い。彼女に近しい場所に居たアクトでさえ、詳しくは知らないのだ。そんな人物が今目の前に居るのだから二人の反応は当然の物だ。
「――ん? おーい、どうしたんだよ二人共。そんな所で突っ立ってさ。もっとこっちに来いよ」
「「え、遠慮します……(超小声)」」
そんな二人の胸中なぞ知らんとばかりに、アクトは入り口の扉の前で固まるコロナ達に手招きする。‟正直、私達には構わないで欲しいです……”と切に思う二人であった。
「一体何なんだ……?」
「フッ……大方、私の良からぬ噂でも思い出していたのだろう。心配するな、エルレインの娘、それにイグニスの娘。元々、この部屋に来る客人は少ないんだ。それに、折角来てくれた我が弟子の友人達だ。取って食ったりはせんよ」
「だから、誰の弟子だコラ。……とにかく二人共、コイツは血も涙も無いような冷徹無比の魔性の女だが、決して無益な殺生はしない奴だ。安心して良いぞ」
「……」
アクトとエレオノーラの言葉に二人は一度互いに顔を見合わせ……一度頷き合うと、やがて決心した様な表情で執務机に歩み寄って行った。彼らの言葉もあるが、このまま離れていても仕方無いという合理的な部分もあったのだろう……そんな訳でこの街で一番優れた魔道士を交えた会議が始まる。
「……さて、役者も揃った事だ。話を勧めようじゃないか。とりあえずアクト、お前が憑かれたというその上位精霊を見せてみろ。既に受肉化はしているのだろう?」
「ああ。じゃあ……エクス、居るんだろ? 霊体化を解除してくれ」
すると、アクトの言葉の応えるかのように、彼の隣に何処からともなく光り輝く金色の粒子が現れ、それらは密度を増していくと人型を形作るように集まり――
「――呼びましたか? マスター」
コルセットドレス姿の銀髪の幼女――精霊エクスが現れた。先程までの眠たげな表情は何処へやら、今のエクスは僅かに表情を硬くしながらエレオノーラを見据えていた。やはり、上位精霊と言えどエレオノーラが放つ異様な気配には警戒せざるを得ないのだろう。
「ほう? それが剣精霊とやらか。流石だな、実体を見せるまでまるで気配に気付かなかったぞ」
「マスター、この者は……?」
「あー、コイツはな…そうだ、コロナには前に話したけどついでだしリネア聞いといてくれ。学院の人間には極力話さないようにしてたけどリネアなら良いと思うからさ」
自分を興味深げにじーっと隅々まで観察してくるエレオノーラに対して心なしか不快な表情をしながらアクトに問う。五分程時間を掛けたアクトの説明の間、エレオノーラは彼の説明に一切口を挟まなかったのだが、それが返ってアクト本人には不気味に思えた。
「――てな訳で、今の俺とコイツは別に師弟でも何でも無いって事だ。分かったか?」
「あの日教室に来て名乗った時から薄々思ってはいたけど、やっぱりアクト君てエレオノーラ学院長の関係者だったんだね……」
「で、だ。今日わざわざアンタに相談しに来たのは他でも無い。実は――」
リネアが感慨深そうに話すのを他所に、アクトが此処に来た経緯と朝の出来事を大まかに説明する。
「……ふむ、成程。この精霊にはお前と契約した痕跡があるにも関わらず、お前には無い。それと、契約した時に消費される魔力量の問題か。まあ、前者はともかく、後者は精霊を使役する者ならば一度は抱える問題だな」
「お、そうなのか? なら、魔力消費量の問題の方はどうにかなるって事だな?」
説明して早々、解決方法を知っていそうな口ぶりのエレオノーラにアクトは僅かに期待で胸を膨らませる。自らの命の危機に、やはり彼女に相談して良かった……そんなアクトに、彼女はフッ、と意味ありげな笑みを口元に浮かべ――
「気合と慣れだ」
「「「……は?」」」
そんな事をのたまった。とても帝国が誇る大陸最高峰の魔道士から飛び出た物とは思えない言葉に、アクト達人間組は思わず唖然としてしまう。当のエクスは妙に合点のいったようにポンと手を合わせる。
「……い、一応どういう事か聞いておこうか?」
「どういう事も何も無い。人間と、その者と契約した精霊は一心同体だ。人間はどれだけ精霊の強大な力を引き出せるか、精霊はどれだけ契約者に掛かる負担を減らせるかが肝要。これを仮に、『適合率』とでも言っておこうか。この適合率が高ければ高い程、消費する魔力量も減るのだよ。……私も、同じような物だしな」
そう言って、エレオノーラは右の掌を見せると目を閉じて静かに瞑想すると……
「「きゃっ!?」」
「おっ」
ボン! と音を立てて彼女の掌に小さな黒色の炎が出現した。魔力を熾した気配も無く、魔法を発動させた形跡も無い。つまりこれは、エレオノーラが元来持つ力の一つである……
「どうやら、アンタが契約している精霊も元気なようだな。名前は確か……」
「『死告天使』。コレはお前の剣精霊と違い、上位精霊でありながら明確な自我を持たない。故に、向こうに私に対する配慮など一切無いのだが、其処は私が上手く抑え込んでいるという訳だ」
そう、このエレオノーラも精霊使いなのである。百年程前に‟ある概念”を司る強大な上位精霊を彼女が腕っぷしで屈服させて、その自我を奪って強制的に自らの精霊としたとアクトは聞いている。
「……先程から妙な気配がすると思っていたらやはり、貴女も精霊を使役していたのですね。しかも、この感じ……私と同じ『始まりの精霊』より生み出された太古の精霊ですか?」
この中で唯一その存在を認識していたらしいエクスが警戒していたのはエレオノーラ本人ではなく、彼女の中に宿るアズライルだったようだ。
「その通りだとも。どうやらお前はこのアズライルと同格の精霊のようだ。ならば、私はお前に敬意を以て接するとしよう。なに、お前は武力と金属を司る精霊なのだろう? アクトを選んだのは間違いでは無い筈だ。アクト、お前もこの精霊に相応しいような剣士になる事だな」
「お、おう……」
「……感謝します」
アクトとエレオノーラ、同じ上位精霊を使役する者である二人の間に妙な空気が流れる。もっとも、それはエレオノーラが一方的にアクトを試すような一方的な物なのだが。
「……ゴホン! えー、魔力量の問題は解決という事で、肝心の契約についての話をしませんか?」
その空気に耐えかねたコロナが一つ咳払いをして新しい話を切り出す。
「アタシも授業で精霊について、知識として一通り知ってはいます。学院長も勿論ご存知かと思いますが、精霊を使役するのに最も重要な物、それは契約です。人間と精霊が誓いを立てて初めて両者は一心同体の存在となり得ます。その大事な契約に何らかの不具合が生じたならば、それはアクトのみならず、エクスにも重大な障害になりかねません」
エレオノーラという存在にようやく慣れたのか、急にコロナが饒舌になる。
「……ん? ああ、そうだな。俺の見立てでは、エクスにしか契約した痕跡しか無いのは、エクスが大昔に受けた呪いの影響だと思うんだが、アンタはどう思う?」
「そうだな、件の呪い…『呪縛』が精霊にでは無く、人間に根付くタイプの術なら……エクスだったか? この精霊がお前に接触した時点で、既に呪いは発動していると見て良いだろう」
「なっ……!」
エレオノーラの言葉にアクトは表情を硬くする。「呪縛」とは、現代魔法から外れた古代より続く古き呪法だ。主に、対象に仕掛ける事で、対象の行動・発言などのような特定の動作を禁じる「制約型」と、対象を著しく衰弱させたり能力を大幅に激減させる「妨害型」がある。
しかも、「呪縛」は大昔の割とシャレにならない強力な呪法を魔法的に応用発展させた物であり、それは現代魔法とは別ベクトルで非常に殺傷性が高い代物なのだ。それを知っているが故に、アクトの総身に嫌な悪寒が走ったのだ。
「イグニス、お前の言う通り人間と精霊の契約は両者にとっても神聖で不可侵な物だ。呪いの種類からして『妨害型』だろうが、精霊との契約に介入出来るような「呪縛」など、聞いた事が無い。だが、この世にはまだ無数の魔法適正・異能が存在する」
「……」
エレオノーラの言葉に、エクスは若干の反応を示した。本人の話では、前の主の適性や能力などは鮮明に覚えているのに、その人物像や思い出などは一切覚えていないという状態らしい。
「……仮に『呪縛』が仕込まれているとして、アンタの力で解呪は出来ないのか?」
「無理だな。お前も知っていると思うが、一度発動した呪縛の解呪は厄介だ。私もどちらかと言えば解くより仕掛ける側だからな。そうだな……世界でも有数の信仰系統魔法を操る術師の助けが必要だろう。此処の三年次生にも優秀な信仰系統の使い手が居るが、正直厳しいだろうな」
「そんな……」
呪縛を瞬時に解呪出来ない、それが魔道士にとってどれだけ精神に来る物だろうか。自分の軽率な行動一つで命を奪われかねないような状況と同じ……正に、喉元に刃を突きつけられているのだ。故に、魔法の道に生きる者は普段から呪縛に対する警戒をするのが常なのだが、既に発動してしまった物はどうしようも無い。
「ど、どうすれば良いんだ!? 俺、このままじゃ死ぬんじゃ――」
「落ち着け。心配するな。今お前がこうして生きているという事は、致死性の呪縛では無い筈だ。契約と使役に関する部分に障害が出るだろうが、日常生活に影響は無いだろう」
数多の魔道士と剣一本で渡り合って来たアクトとて、呪縛の脅威は十分に認識している。だからこそのこの慌てぶりなのだが、エレオノーラの制止と説明によって意外とあっさり鎮まった。人間としては全く好きになれないが、彼女の魔道士としての知識をアクトが信頼している証だ。
「そ、そうか……でも、それじゃエクスと俺はまだ正式な契約を結んでいない事になるんだよな。そんな状態で俺がエクスを連れ回すのは何だか些か抵抗があるな……」
加えて、朝の騒動から此処に至るまでてんやわんやで気持ちの整理をする暇が無かったが、今のアクトは、本当にこの精霊の主になるべきなのか、なる資格があるのだろうかと自身に疑念を持っていた。
(コロナが言うように、精霊も魔法と同じ様に、自らが行使出来る力の一つなんだろう。だが、無色の力じゃ無い。エクスには、精霊には明確な意思がある。そんな彼らを俺が振るう力の一つとして捉えて良いのだろうか……)
精霊を只の力――‟武器”として扱う事にアクトは強い抵抗を感じていた。だが、そんなアクトの心中を察してか、隣に立つエクスが静かに語りだす。
「マスター、例え正式な契約が為されていないのだとしても、私は貴方の精霊であり、剣です。其処に、余計な感情や心などは不要です。マスターはマスターの望むままに私を使えば良いのです」
「エクス……違うんだ。さっきも言っただろ? 俺は人間と精霊を区別して考えたくない。エレオノーラも言ったように人間と精霊は一心同体、俺達は対等の存在なんだ。だから、俺はエクスに盲目的に従って欲しくないんだ。それに、俺達はまだ正式な契約してる訳じゃ無い。そんな状態で対等の関係を保とうなんて――」
「違います」
アクトの言葉を遮るように、彼の顔を真っすぐ見つめながらエクスがこれまでに無い強い口調で再び語りだす。
「畏れ多くも訂正させていただきますが、私はそういう事を言っているのではありません。確かに、私達精霊とマスター達人間が共に在るには、契約が必要不可欠です。しかし、そのような事は最早関係無いのです」
「……!」
「私は、貴方が主に相応しいと思ったから、貴方に従うのです……ですが、マスターの人間と精霊は対等という考え方、非常に気に入りました。改めてお傍で仕え、お慕い申し上げたいと思います」
此処まで率直に仕えたいと言われるとは、アクトも想定外だった。だが、エクスは今此処でに主であり対等な関係である彼に心からの誠意を見せた。ならば、それに全力で応えるのも対等な者としての義務なのだろう。
(……そうだな。エレオノーラも言ってたじゃないか。今の俺が、この精霊の主であり対等な者である資格が無いのだとしても、これだけ慕ってくれるエクスの為にも、俺も頑張らなきゃな……)
やがて、意を決したアクトは体ごと視線をエクスの方に向ける。
「……本当、俺の周りには、俺なんかには勿体無いような眩しい奴ばっかり集まるな」
「何か言いましたか?」
そして、その右手を差し出す。それを見たエクスは、
「いや、何でも無いんだ。……じゃあ、お言葉に甘えて、これからよろしく頼むな」
「……! はい、私は何処までも貴方と共に在ります――」
その小さな右手を同じ様に差し出し、固い握手を交わす。かくして、剣士・アクト=セレンシアと剣精霊・エクスの、この世で最も歪みに歪んだ仮初の精霊契約が為されたのだった――
お久しぶりです! 少しモチベーションが下がり、期間が空いてしまいました。最近は物騒なウイルスが流行って外出出来ない日が続きますが、そんな中で皆様の暇を少しでも解消出来るようなストーリーを描いて参りますので応援よろしくお願いします!