始まり~動き出す意思~
――それは、この世の何処でも無い場所に響いた七つの声であった。
――告、「神託」を受けし「代行者」の存在を検知、行動を開始した模様。
――幾億、幾星霜の時を超え、遂に「彼の者」が目覚めようとしている。このまま事が進めば世界の終焉は避けられぬだろう。
――一度目は辛くも凌いだ二度目の「終焉の刻」……最早、その結末、誰にも想像する事能わず。
――ならば、我らも動かねばなるまい。「神代」――我らが太古に敗走せし因縁の戦いに、今度こそ決着を付けなければならない。
――されど、「塔」は未だ起動するに及ばず。理を超えし最後の「賢者」……まだ世に現れてはいない。このままでは眠りにつきし我らも再起動する事、能わず。
――ならば待とう。「彼の者」が現れるならば必然的に、運命を切り拓く「賢者」も現れよう。故に来たるべき時に備え、我らは力を蓄えよう。
――然り。ならば、今一度我らも誓わねばなるまい。人類の――世界の未来の為に、我ら「七賢人」は「神代」より続く過去の戦いに終止符を打ち、彼の「終末機構」を討つと。
限りなき無限の闇が支配する空間に響く議論はその後も数時間――数十時間――数日――「無限」に続くが、七つの声の主以外に、この議論の内容を聞く者は終ぞ現れなかった……
◆◇◆◇◆◇
「――『天導師』様、全員、揃って御座います」
其処は、とある教会の礼拝堂だった。大理石によって造られた広大な空間の壁面一帯には、色彩優美なステンドグラスが張り巡らされており、天井には明かりは付いていないものの、豪華なシャンデリアが幾つも吊り下げられていた。
唯一の光源は窓から差し込む月の光と等間隔に設けられた燭台の火だけだが、礼拝堂その物の荘厳さも相まって、優美さと神聖さに満ち溢れていた。
「うん。ありがとう」
その礼拝堂の中央に敷かれた赤絨毯の最奥にある祭壇の後ろには、同じ大理石で何者かを象った威厳のある人型の偶像が置かれている。その下に、男は居た。
二十代後半の若い青年で、全身真っ白な礼服の上に謎の意匠を象った金色の外套を羽織っている。整った顔立ちに理知的な青色の瞳を持つ、誰もが認める絶世の美青年だ。
しかし、それだけに不気味だった。理知的な瞳の奥に秘める、その「無機質」さに……
「召集はかけたのですが、『黄金』は返答無し。『箱舟』と『幻鏡』の二名は別地にて任務中の為、欠席となります」
「うん、彼は相変わらずだね……それと、あの二人には今度の任務成功を期待しているよ、と伝えておいて欲しい」
「御意。誉れある『天導師』様からのお言葉、必ずや二人の力となりましょう」
その青年を前に、祭壇を挟んで片膝を付いて首を垂れながら会話をする男の後ろには、複数の男女が同じような体勢で青年に伏していた。
年齢や体格、人種……ほぼ全てがバラバラ……だが、その誰もが不気味な気配――この神聖で荘厳な礼拝堂とは真逆の、この世ならざる凶悪な気配を発していた。
「それと、もう一つ御報告が……『彼』が独自に動いたようです」
「そうか……僕に何の断り無く動いたって事は、そういう事なんだね……少し、『あの子』を束縛し過ぎたかな」
「止めなくてよろしいのですか?」
「良いんだよ。少し自由にさせてみよう。『あの子』は賢い子だから、きっと自分のするべき事を自分で見出したのだと思うからね…」
青年は、この場に居ないある人物に思いを馳せる。その表情は慈愛に満ちていた。そして一度佇まいを正し、男達を見下げると、
「さて……いよいよこの時がやってきた。今まで水面下で密かに活動を続けてきた僕達だけど、ようやく大陸各地に撒いた「種」を開花させ、回収する時が来た。僕が動くことで、『彼女』も行動を開始するだろう。これから僕達が進む道は、間違いなく血と怨嗟の地獄となるだろうね……だが、僕達は止まらない。いずれ来たる『再臨』の時までは……」
両腕を大きく広げ、青年はそう高らかに宣言する。丁度、背後のステンドグラスから差し込む月光と、そびえ立つ偶像の威容が青年に重なり、それはまるで、青年が偶像の写身であるかのように彼を照らし出していた。
「さあ、いよいよ君達の出番だ。僕の忠実なる三柱の将、その手足たる九人の鬼よ……僕達の大願を成就させる為に、より一層の奮闘を期待している。力を貸してくれるかい?」
青年の問い掛けに対し、彼に伏していた複数の男女は、
「「「「「はっ、全ては『神』を頂く為に」」」」」