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色の契り  作者: ymd
0純白
8/10


「しきちゃんあったわ、ほらこれ、どうかしら?」


おばさんはちゃんと探してくれたらしい。

淡いベースの薄緑に、濃い緑の大きな花がたくさんついた、可愛らしい浴衣。それを広げて私の腕にあててサイズを図る。


「大きさも問題ないと思うの。だからよかったら着てちょうだい。もししきちゃんが着てくれたら、縁にも浴衣を着せるから」

「…なんだか私にはもったいないです」

「何いってるの、着てもらえない浴衣の方がもったいないわ。それにもうちょっと甘えてくれると嬉しいんだけどな」


おばさんは茶目っ気たっぷりにそう言った。

少しだけ、家色が頭によぎったけれど…そんな風に言われたら私も断れなくなる。それに、嫌ではないと思う自分も確かにいた。


「ありがとう、おばさん。私も、嬉しいです」

「本当にしきちゃんって、可愛いわ」


おばさんはにっこり笑って頭をぽんぽんと撫でてくれる。


「さて!女の子の方が着付けに時間がかかるから、先にしきちゃん、着せてもいいかしら?」

「はい。お願いします」


肌着の上から襦袢を合わせ、着物を重ねる。するすると慣れた手際で着物を着せてくれて、あっという間に帯を締めて、完成。更におばさんは更に髪まで整えてくれた。


「…うん!やっぱり可愛いわ!」


大満足の様子のおばさんに私は少し照れてしまう。


「次は縁ね。あの子のもやってくるから、ちょっと待っていてちょうだい。そう、まだ縁に見せちゃだめよ?二人でせーので見せましょうね」

「はい。なんだか楽しみです」

「そうね、わくわくしちゃう!じゃあしきちゃん、待っていてね」


おばさんが部屋から出て行ってしまうと、私は一気に手持ち無沙汰になってしまった。

外の方へ視線を向けると、既にもう、黄昏時。

裏山まで行くので、きっと着く時間は丁度いいくらいかもしれない。

いつもと違う格好というのは、そわそわするし、どきどきする。

その時。


ピンポーン。


軽快に、誰かの来訪の音が鳴った。

今おばさんは縁に着付けをしているから、きっと出られない。縁も同じく出られない。


ピンポーン。


再び、チャイムが鳴る。もしかしたら大事な用事なのかもしれない。

少し迷ったけれど、私は玄関へ向かう事にした。

廊下を渡り、横扉まで来ると、やはり向こう側には人影があった。


「どなたですか?」


そう声をかけて、横扉に手を伸ばす。

扉に手が触れた途端、ピシャン!と思いっきり扉が開いて突風が吹いた。

私は伸ばした手を引っ込めて、風が止むまで目を瞑る。

風が落ち着いてきて、そっと目を開ける。

そこには【黒】がいた。

女性と同じような黒髪に、黒い瞳。

そして、絶対的な、支配者がそこにいた。


「待たせてごめんね、しき。迎えに来たよ」


会ったことはないはずなのに、今初めて会ったはずなのに、私の胸はどうしようもなく騒ぎ、ざわついた。申し訳なさと、喜びと、悲しみと。そんな色んな感情が私の中でごちゃ混ぜになる。

この人は、この人は一体、


「しきちゃん、ごめんね、どなたが…」


遅れてきたおばさんが、奥からやってくる。けれど、玄関先にいる人物を前に言葉を失い、そのまま座礼をした。


「これは【緑】の奥方、突然の来訪失礼しました。今度改めて挨拶に伺おうと思います。それでは失礼」


おばさんに口を挟む隙すらみせない。彼はささっと挨拶を終えると、私に向かって手を差し出した。


「さあ、行こう、僕の伴侶」



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