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俺は親友と付き合う事になりました?

「リン、やっぱり俺とリアルで付き合ってくれ!」


 翌日。

 小門進太郎は、開口一番にそれであった。


「頼むよリン、俺にはやっぱりお前が必要なんだ!」

「え、えぇ……?」


 凛花よりも若干遅くに教室へとやってきた進太郎は、凛花の姿を見付けるとハァハァ言いながら詰め寄ってそう言った。

 何かの冗談かとも考えるが、そうではないとすぐにわかる。なにせ目が必死さを凛花へ訴えかけているからだ。


「小門さんと桜野さんってそういう関係だったのね……」

「まぁ、凛花って割と見た目女子っぽいもんな……」

「私はそういうのアリだと思う……」

「俺もむしろこっちの方が……」


 大声であったため必然的に二人はクラス中の男女から注目されてしまい、蔑むような視線が飛んで……と思いきやそちら方面への理解が強かったらしく、肯定的な声ばかりが飛んでくる。

 それはそれでいかがものなのだろうかと困惑に言葉を失っている凛花に、進太郎はさらにたたみかける。


「頼む、今日一日だけでもいい! 俺と恋人になってくれないか、リン!」

「ぃ、いや、だから俺はそういうのは……」


 クラス全体が進太郎の告白の成否を固唾を飲んで見守っていた。

 誰か一人くらいは止めに入ってくれるのではないかと期待していた凛花だったが、そんな気配はまったくない。

 性別に関係なく人の恋を応援できるというのはとても素晴らしい事ではあるのだが、そんなん今はどうでもいいから誰か助けてくれというのが凛花の偽らざる気持であった。

 というか、進太郎と長年の付き合いである桜野凛花は知っていた。これは実質的な一択であると。

 見てくれこそ屈強なゴリラといった風体である小門進太郎は、ところどころナイーブな面があるのだ。

 きっと、これだけの衆人環視の中で告白が拒否されるような事になれば彼は酷く心に傷を負うであろう。最悪、死を選んでしまうかもしれない。

 しかし、だからと言って軽々しく「はい」とも答えられない。

 なにせ凛花がやっていいと言った事以外はしないと約束したわけだが、付き合うとなればだいたい何してもオッケーみたいなイメージが凛花にはあるのだ。

 いやいやそれでも親友だし乱暴な事はしないのではないか、いやいや優しければ別にそういうことをしていいという話でもなくて……

 と、考えがおかしな方向へ突き進みながら直立不動となっていた凛花は進太郎の入ってきた教室の扉に一人の女生徒が立っている事に気付いた。


「こちらにいらしたのですね、進太郎さん!」

「うげ……」


 つかつかと靴音を立てながら進太郎に歩み寄った女生徒は、体が触れるか触れないかの位置で止まると口付けするかの如き勢いで自身の顔を近付ける。

 進太郎は、心底嫌そうな顔をしながら凛花に視線を向ける。


「リン、そういう事だから、察してくれ……」


 そういう事ってどういう事だろう。

 紺色がかった髪が特徴的で気の強そうな女生徒はどこか気品溢れるたたずまいで、なんとなく凛花とは違う世界の住人であるように感じられた。もちろん進太郎ともである。

 一言で言うならばお嬢様っぽい。


「あれって二つ隣のクラスの夏条 涼(かじょう りょう)じゃないか?」

「夏条って、コンビニのアイス買う感覚でデパート買ってるって噂の?」

「いや、その噂はガセだって。小遣い毎週30万はマジっぽいけど」


 凛花の直感は正解だった。周囲の生徒が小声で話す内容によると夏条は相当なお金持ちのお嬢様のようだ。

 しかし女生徒の正体はわかったが、肝心の謎が解決されていない。むしろ深まった気さえする。

 なぜ進太郎は夏条にああも迫られているのだろうか。


「さあ観念なさってください! 今度はちゃんとお父様の許可を取って婚姻届も用意してきたのですから! さあ、ここにお名前を!」


 謎は更に深まった。

 なぜ進太郎は夏条にコンイントドケなる紙を突き付けられているのだろうか。


「い、いやだから俺にはもう別に好きな人がいてだな……」

「好きなだけならいいではないですか! 相手にまだ気持ちを伝えていないなら裏切りでもなんでもありませんわ! それにお相手の方を知りませんので断言はいたしませんが私もなかなかの優良物件ですわ! なにせたいていの物は買えますし、私自身も色々とお役に立ちますもの!」


 謎は更に更に深まり続ける。

 凛花の目にはまるで夏条涼が小門進太郎に恋をしているかのように取れる発言をしており、それを進太郎が断ろうとしているかのようにさえ見えているのだ。

 見る限り夏条涼に問題はない。平均を超える程度の容姿であるし、金銭感覚に多少問題はありそうだがそれを含めても断る理由の方が少ないほどだ。

 そして進太郎は凛花と同じく彼女いない歴イコール年齢。本人の言う通りの優良物件が飛び込んできてなぜこうも拒否しているのだろう。


「……いや、好きなだけじゃない。もう既に付き合っている」

「ッ!? ……そ、それは、どなたかしら」

「それは……」


 そして凛花に衝撃の事実が明かされる。自分と同じくモテない男だったはずの進太郎にはもう彼女がいたと言うのだ。

 まさか二人も親友に恋する人物がいたとは。はっきり言って凛花は羨ましかった。ていうか紹介してほしかった。親友なんだし。

 などと考えている凛花へと進太郎は向き直り、凛花だけに聞こえる声で「すまん……」と言うと肩を抱いて高らかに宣言した。


「俺は! この桜野凛花と付き合っている!!」


 そして、ようやく謎は解けた。

 夏条と付き合う事を頑なに拒否していた理由が。そして進太郎が付き合っているという人物の正体が。

 そう、進太郎と凛花は付き合っていたのだ――。


「えっ、ええええええええっ!??」

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