表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はVRMMOで男と結婚する事になりました。  作者: カイロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/72

俺の、最後の戦いが始まりました。

 タワー真下へやってきたLinker達は、そこにあるワープポータルに触れるとボスの存在するマップへと転送された。

 だがそこは東京タワー上層部の景色ではない。四方六方を鉄の板で覆われ、外の景色を確認できるような窓がひとつもないそこは、出口のない箱のようだ。

 光源らしきものも見当たらないのに部屋の四隅が確認できるほどに明るいのはゲームの仕様だろうというので納得はできるが、なぜこんな本物の東京タワーには存在しない殺風景な場所が最後の決戦の舞台になるのかはLinkerにとって疑問でしかない。


「なんだ、また来やがったのか」


 首を傾げていると、どうやらイベントが始まったらしい。部屋の中央にいた黒髪の男が3人へと視線を向ける。

 他に誰もいない事から、恐らくはこれが悪神バアルなのだろう。ラスボスにしては普通っぽい印象だなあとLinkerは思う。


「まあ、何度来ようとどれだけ来ようと変わりゃしないさ。何度でも、どれだけも俺が殺して……ッ!?」


 初対面のはずのLinkerに何度も会った事があるような物言い。これはやはりループ系のオチなのではとLinkerは身構える。

 が、突如バアルの様子が変わる。何かに気が付いたように目を見開き、動きが止まった。どこか、怯えているようにも見える。

 視線の先は、どうもLinkerに集中しているようだ。それは当然と言えば当然だが。プレイヤー全員に同じ映像を見せているわけだから、それを認識できないLinker自身だけが注目されているように感じるだけだ。


「その炎……お前、まさか……!」

「えっ、炎?」


 バアルが指さす先は劫火の姫の加護の放つ紫炎のエフェクトへ向かっている。その台詞には流石にLinkerも聞き返さざるを得ない。

 進化カードもMLGも困惑している。炎を出すエフェクトなどLinker以外に発生させていないのだから当然だ。

 その反応を見てLinkerは理解する。つまり、これは。


「特定のユニーク装備を持ってる奴がパーティ内にいるとイベントの台詞が変わるのか……!」


 運営も最終ストーリーだけあって気合を入れているという事だろうか。もしかしたら、他のユニークアイテムを所持していたらそれはそれでまたイベント台詞が変化していたのかもしれない。

 超希少なアイテムを持っていたプレイヤーへのちょっとしたサービスという所だろうか。


「そうか、俺はお前が来るのを待っていたのかもしれないな」


 Linkerが納得したところでバアルも平常に戻ったらしく、台詞が再開される。


「だが、例えそうだったとしても、加減はしないッ! 全力で、お前を消し去ってやるッ!!」


 そして、戦闘開始だ。Linkerの視界上部にバアルのHPゲージが表示される。そして、それと同時に事前に聞いていた通りに無数のバフがバアルにかかる。

 強化効果解除のスキルが使用できるLinkerは早速それを消しにかかる。が、何かおかしい事に気が付く。


「シン、先輩」

「ああ、言いたい事はわかる」

「2人もか。という事は見間違いではないのだね」


 念のため確認しようと2人に声をかけると、内容を聞く前に肯定が返ってきた。という事はただLinkerが見落としているのではないわけだ。

 事前に聞いていた話では多数のバフの他に、災厄の護りと封印の楔という2つの強化不能なバフがあったはず。だが。


「どっちも、ない……?」


 そのどちらのバフも、バアルにはかかっていなかった。



 本来存在していたはずの災厄の護りと封印の楔。そのどちらもが消滅しているという事態にLinkerは驚きを隠せない。

 特別なギミックなどが存在するという噂もあったが、そんなものを解除する事は3人のいずれもしていない。

 となれば、自然と答えは絞られる。他のプレイヤーには起こらなかったであろうイベントを思い出せばいい。そして、1つだけその心当たりがLinkerにはある。


「もしかして、この劫火の姫の加護が……?」


 他にそれらしきものもないので、もしかどころか確定であろう。劫火の姫の加護が2つのバフを解除するアイテムだったのだろう。他のプレイヤーにそんな事があったと言った者がいない事を考えれば、ユニークアイテムならなんでもいいわけではなく、きっとこの装備だけが解除できるのだろう。

 運営も気合入れるんだな、という評価をLinkerは改める。最後の最後で、運営もやらかしてしまったなあ、と。

 ゲーム内に存在できる数が限られ、しかも地獄の底の更に底のようなドロップ率に当選しなくては手に入れる事のできない特定のユニークアイテムをよりによってストーリーのボスの攻略に要求してしまうとは。

 何度殺しても復活するという事から、2つのバフの内どちらかが死亡時復活の効果があると見て間違いない。

 しかも、これをドロップしたのはボスモンスターである。通常モンスターより狩れる数が少ない分ドロップ率が上がってはいるかもしれないが、正直言ってそんなもの大抵は誤差レベルだ。

 これは大荒れだろうなあ。直感的に、Linkerはそう思った。


「本気だって言ってんだよ、ボケっとしてんじゃねえッ!!」


 考え込んでいたLinkerに、バアルの鋭い蹴りが襲い掛かる。間一髪のところで回避には成功した。

 強化バフの解除も済ませてはあるが、当たれば致命傷という話、Linkerはバアル討伐へと意識を切り替える。


「俺が受ける! 先輩とシンはその隙に!」


 最近の狩りでよく使う戦法だ。劫火の姫の加護に付けられたターゲット集中効果でLinkerが敵を釣り、背後から2名の火力が安全に攻撃する。

 雑魚相手であれば必勝法に近いが、ボスともなればそう上手くはいかないようだ。


「おいおい作戦が丸聞こえだぞッ!?」


 攻めかかろうとした進化カードとMLGに、バアルは大鎌をどこからか取り出して横薙ぎに振る。もう1分が経ったらしい。

 2人はしゃがんでこれを回避した。後ろに逃げるも横に飛ぶも間に合わなさそうだったので、これが正解なのだろう。

 振り抜いた姿勢で背中を見せたバアルに、Linkerは剣で一撃を加える。火属性ではないが、耐性バフも消えているのでそこそこのダメージが通る。


「ッ、てめぇッ!」


 それに怒り狂ったように、バアルの怒涛の連撃が浴びせられる。どれも慎重に見ていけば回避できる程度のものだったのでひたすら回避に専念し続ける。

 その間にバアルの背後から進化カードの拳とMLGの二刀が次々と叩き込まれていく。ターゲット集中効果のおかげか、Linker以外からの攻撃にはまるで反応をしていない。

 1分おきに来る大鎌の一撃に注意しつつLinkerはとにかく攻撃を避け続けた。そして、数分で10パーセントほどのHPを削る。例の即死攻撃が来る頃合いだ。

 一度バアルは大きく跳躍して3人から距離を取り、再びどこからともなく銀色の銃を取り出した。


「ヒョイヒョイ避けやがって……! こいつで消し飛べッ!!」


 この攻撃もLinkerが対象だった。当たらないよう、横に回避。

 轟音を響かせ打ち出された銃弾がかわされ、バアルは大きく舌打ちをすると再びLinkerへと襲い掛かる。

 一つ一つの攻撃がすべて即死級というバアルだが、見切れないほどではない。

 この調子でいければ、勝てるかもしれない。初のクリア者となる事を目指し、Linkerは攻撃の回避に更に慎重さを増していく。



 バアル攻略は想像以上に順調だった。

 時間経過と残りHPで即死攻撃が飛んでは来るが、それらを含めたほとんどの攻撃がLinkerへと集中していき、メイン火力である2人はとても安全に攻撃し続ける事ができたからだ。

 そしてもう間もなくでHPが20パーセントを切るところまでやってきた。一度全回復し強化バフを張り直すという事で警戒していたが、その行動はおこらなかった。

 そのまま残りHPは19パーセント台へと突入していく。それと同時にバアルは膝を突いた。


「クソが、やってくれるじゃねえか……だがこっからは俺も本気で……おい喋ってる途中で攻撃してくるんじゃねえ!!」


 再び会話イベントのようなものが発生、かと思いきや膝を突いた状態のバアルには普通に攻撃が通る。安全な内に少しでも多くダメージを与えておきたいので3人はチャンスとばかりに攻撃し続ける。

 5パーセントほど削った所で大鎌が見えたので、即座にしゃがんで避ける。


「普通こういう時は黙って見守るだろ……マジで容赦してやらねぇからな」


 そう言ってバアルは右手に大鎌を、左手に銃を持つ。つまり、ここから先は全ての攻撃が完全に即死攻撃となる。今までも似たようなものだが、これから先のミスは取り返しがつかなくなる。


「2人共! ここからはより気を引き締めていきましょう!」


 Linkerの言葉に進化カードとMLGは頷きを返す。

 聞いていた話どおりならば攻撃が即死にはなるがバアルの攻撃パターン自体には変化がないはずだが、ギミックを解除された今、パターンに変化がおきないとは限らない。慎重に、慎重にいくべきだ。


「安心しろよ、どれだけ気を付けようが当たろうもんなら一発で御陀仏だからなぁ!」


 叫びながら、バアルはLinkerの脳天めがけて大鎌を振り下ろしてきた。すぐに横へ移動して回避する。

 今までは横薙ぎだけだったのに、やはり攻撃方法が追加されているようだ。2人にも警戒を呼び掛ける。


「気を付けて! 多分、銃の方もさっきとは違う攻撃になってるはず!」

「勘がいいなぁ、それじゃあ答え合わせといくかッ!」


 Linkerへと狙いを定め、銃弾が放たれる。射撃速度が上がるなどではないらしく何なく避けられ、追撃もない。

 が、やはりそれだけでは終わらなかった。続けざまの銃撃が、進化カードとMLGへと順番に撃ち込まれる。

 Linkerの言葉があったからかそれとも予想はできていたのか、両者とも回避する。


「……チッ、いい加減当たりやがれってんだ」


 そこからしばらく、Linker達はバアルの攻撃パターン変化を確認する事にした。

 どうやら大鎌での攻撃に縦攻撃が追加され、銃撃は順番はランダムに3人へと撃ってくるようになったようだ。

 どれもしっかりと見ていけば回避は容易なのだが、一瞬の油断とミスが命取りとなる状況に、3人の攻撃ペースは著しく落ちるのだった。



 Linker以外を攻撃する頻度も増え、安全に攻撃し続ける事のできる状況も少なかったが、それでもヒットアンドアウェイで徐々に徐々にタメージを与えていく。

 30分近くかけて、残りのHPは1パーセントとなっていた。もはや勝利はすぐそこである。


「……俺が死ねば、世界に平和が戻る。俺も、本来あるべき場所へ戻る事になるんだろう」


 息を切らしたバアルは再び喋り始める。が、今度は3人から距離を取っているので一方的に攻撃すると言った事はできない。


「だがな、例えそうだったとしても俺は最後まで負けてやるつもりはねぇ。……勝つのは、俺だぁッ!!!」


 バアルは目を見開くと銃を構える。凄まじい速度で連射しながら、Linkerへと走り寄る。

 バアルの周囲を回るような軌道でそれを避け続けた。残り2メートルほどの距離まで来ると大鎌をいつでも振り下ろせるように構えながら、跳躍。

 それを見てLinkerはバアルから離れ、進化カードとMLGはバアルへと接近する。

 鉄の床に叩きつけられた大鎌が深々と突き刺さるのと同時に、これで最後とばかりに集中攻撃を浴びせる。

 だが、削り切れない。バアルが銃を進化カードの眉間に突き付けるのが見え――。


「うおあああああッ!!」


 Linkerはバアルに切りかかる。それが、最後の一撃だった。

 バアルのHPゲージは0パーセントになる。

 そのまま数秒が過ぎるが、最大値まで回復するといった事にもならない。つまり、倒したのだ。


「負けたか……手を抜いたつもりはなかったんだけどなあ」


 バアルは、すっきりしたような顔でそう言うと、Linkerへと向き直った。


「ともかく、これで俺は元居るべき場所へ帰れる。お前には褒美として俺の祝福を与えようじゃないか」


 そう言ってバアルはLinkerへと手をかざす。特に何も貰った感じはしないが、おそらくイベント終了後に何かのアイテムが追加される形だろう。


「ニンゲン相手に礼を言うなんて、正直ガラじゃないんだけど……感謝するよ。お前の事、ずっと見てるからな」


 頭を下げて感謝を述べると、バアルは鉄の壁へと歩み寄り、そこに両手を突き入れて壁に穴を開ける。

 そこから外へと抜け出す際に、バアルはLinker達へと振り返り、手を振った。


「じゃーな!」


 ブツン。

 そんな音を立て、突如視界が真っ暗になった。

 唐突に何も見えなくなり、驚きで凛花の心臓がドクンと跳ねあがる。

 何事かを把握できずに混乱状態になっていると、しばらくしてから見慣れた画面が表示される。凛花のPC、そのデスクトップだ。

 どうやら、何らかの原因でMSWが落ちてしまったらしい。


「な、なんだ……ビックリした」


 盛り上がりに水を差された気分だ。とりあえず、MSWのアイコンをダブルクリックし、再度ログインを試みる。

 ……が、どれだけ待ってもMSWが立ち上がらない。一瞬だけウィンドウが表示されるが、すぐに閉じられてしまう。


「まさか、このタイミングでサーバーでも落ちたのか?」


 何度試してもログインどころか会社のロゴすら見る事ができない。

 そんなところに進太郎から電話がかかる。


「シンか? 悪い、なんかMSW起動できなくってさ」

「リンもか……」


 リンも、という事は進太郎も同じ状況という事か。凛花はため息を吐いた。なぜよりにもよってこんなタイミングで。


「さっき電話がかかってきたんだがな、月光門先輩も同じく起動できないらしい」

「って事は、運営側で問題が発生したって事だよな……」


 ログイン画面にすら辿り着けないとは、相当である。

 こればかりは一プレイヤーの凛花にはどうする事もできない。早い段階で運営の声明と対応が出される事を祈るしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ