俺は新年を迎えました。
12月31日は終わり、新年となった。
凛花も母と共に年越しそばを食べたり、年末特番の「絶対に笑ってはいけないデスゲームVRMMO」を見ながら新しい年を迎えた。
近所の神社で初詣も済ませ、そのまま正午近くまで眠っていた。
目が覚めると、母が手作りしたおせちと雑煮を食べながらそろそろ誰かメインストーリーをクリアした人間が出始めているのかとぼんやり考える。
凛花の父は帰ってきていない。正月くらいは家にいるかと思いきや、顔すら見せていない。もはや毎年の事なので凛花はもう気にしない事にしている。
去年に冗談のつもりで「母さんに愛想尽かして、もう戻ってこなかったりして」と言うと静かに涙を流しながらストーブの燃料タンクの灯油を頭から被ろうとする凶行に及んだので、凛花もそこを茶化す事はしない。
ともかく、満腹になった凛花は早速自室へと戻りPCの電源を付ける。
昨日週末の4騎士が本スレとやらに攻略情報をまとめると言っていたので、ログイン前にそちらを見てみる事にした。
掲示板に立てられた無数のスレッドの中から「ミリオンスターワールド総合」と付いているものを発見し、恐らくこれの事だろうな、と凛花は開いてみる。
そこに書き込まれていたのは、無数の罵詈雑言だった。
どれもこれもが感情的で単純な罵倒の書き込みばかりだが、その中から比較的まともな内容を拾い上げて纏めると、「殺しても復活するのは仕様で、最後のストーリーを簡単にクリアされたら悔しいと感じた運営が撃破不能のラスボスを用意した」という事らしい。
「いやいや、そんなはずないだろ」
思わず凛花は一人で突っ込んだ。敵として出した以上、負けイベントかボット等の駆除以外で勝てない敵を登場させるはずがない。
何かしら対抗策はあるはずだ。少数派だが、スレッドの書き込みにもそういった意見はある。追加されたマップ内でモンスターがドロップする何かを所持している必要があるとか、同じくマップ内のクエストをクリアしていくと手に入るアイテムがなくてはならないだとか。
だが、それらも既に探しつくされたようだ。一晩で多数のプレイヤーが余すところなくマップ内を歩き回り、モンスターを倒し続けたが、それらしきものは何も発見できなかったという。
既存のマップもまた隅々まで見回ったそうだが、それらしきイベントはどこにも発生していないという。
挙句の果てにはバアルのHPを複数回ゼロにすればイベントが進むのでは、と考えられて極限まで戦い続けたが少なくとも100回殺しても何も起きなかったという。
そして少数の意見の1つに新たに追加されたユニークアイテムが必要なのでは、とも考えられたがこれは即座に一蹴された。
凛花も同じだ。所持できる人数の限られたアイテムを誰もが挑む事になるストーリークエストで要求するはずがない。……まあ、オンラインゲームの運営は時に狂った行動をとるので絶対とも言い切れない所ではあるが、ともかく除外してよい可能性だろう。
そんなこんなでスレッドの内容には全て目を通した凛花だったが、どうやらクリア者は誰一人として現れていないようだ。
「そういうわけで、これ俺達の結婚無理じゃね?」
本スレを読み終えて即刻ログインしたLinkerは進化カードにそう言った。
東京タワーの前は実装当日の盛況ぶりが嘘のように閑散としていた。どうやら大半のプレイヤーはクリアを諦めたようだ。いるのはごく少数の最速クリアを目指そうと試行するランカーが何人か。
先にログインしてMLGと話していた進化カードへ自身が見聞きした情報を公開しつつ言うと、唸り声を上げた。
「ううむ、俺の方も似たような話ばかり聞くんだ。運営は倒せないラスボスに何度も挑み続けるというループオチエンディングにしようとしているって」
「聞いた話だけでも無理ゲーっぽそうだもんなー。倒しても復活するとかどうしろってのさ」
これが一部の廃人プレイヤー達に向けたエンドコンテンツボスであれば不満もそこまで上がらなかっただろう。挑む挑まないは自由であるから。
が、ストーリー最後のボスに難解でヒントも無く一歩間違えば即、死んでやり直しとなるようなものを用意するのは流石に不満の声も出ようというものだ。
Linkerがスレッドで知った話によれば、ボスを攻略して倒そうとするプレイヤーよりも運営に修正希望のメールを送ってボスを弱体化させる事がギミックであると考えるプレイヤーの方が多数いるという話だ。
しかしそんな攻略組の奮闘も空しく、運営からの回答は何もないそうだ。
Linkerも諦め、進化カードの宣言とは変わってしまうが先にとっとと結婚だけしてしまおうかと思う。
「でも、一回くらいは戦ってみたいとは思わないかい?」
MLGがそう言う。Linkerはきょとんとした。
「え、いや、勝てないんですよ?」
「そうかもしれないが、それでももしかしたら私達だけが見つけられる突破方法があるかもしれないじゃないか」
「えぇ、そうかなあ……」
MLGは諦めていないような口調で言うが、しかしその前に幾人ものランカーが試行錯誤していたはずだ。流石にまだ誰も知らない抜け道が残っているとは考えにくいのだが。
「……まあ、確かに評判だけ聞いてチャレンジしないのはよくないかもしれないな」
「シンもやる気なのか?」
しかし、進化カードはMLGの言葉に何かを感じたのか、考えた末にそう言った。
2人の言葉を聞くと、Linkerもだんだんとその気になって来る。ひょっとすればランカー以外の目線からでないと見付けられない何かはあるかもしれないし、自分で触れもせずに他人の言葉を信用してしまうのも馬鹿馬鹿しく思える。
「……ま、まあ先輩とシンがそう言うなら、俺も黙って見てられないよな。このメンバー唯一の盾役だし」
そして2人に乗せられる形でLinkerも戦う事に方針を変えた。このまま逃げては折角の強化されたユニーク装備の使いどころも逃がしてしまう。そう思ったのだ。
「話はまとまったね。……では行こうか2人共! 悪神バアルを打ち倒し、この世界に平和を取り戻すのだ!」
「おうとも!」
「ああっしまった先輩に決めのシーンを持ってかれた!」
こうして、3人はバアルへと挑むことにした。
本当に倒せるのかどうかはわからないが、なんだか今のLinkerにはそれも可能な気がしてくる。




