俺はクリスマスイブを友人と過ごしました。
約束していた時間となり、凛花の家にいつもの3人がやって来た。
悩んだ末に、せっかく貰ったのだし食べないのも勿体ないと考えて凛花はシュガーフェストのケーキをみんなで食べる事にした。
熱いお茶のような温度を持つ事と、口に入れると一瞬だけなにかがツーンとくるのを除きさえすれば、それはごく普通のケーキの味だった。
その2つのせいで今何を食べたのかは全員わからないような顔をしていたが、凛花は気付かないフリをする。というか、凛花も本当にこれがケーキだったのか確証を持てない。
「さて、それでは本日はクリスマスイブという事ですが」
それはともかくとして、全員あらかたケーキを食べ終わったところで涼が話題を提供する。
「クリスマスというのが本来は何の日だったか、皆様ご存知でしょうか?」
「ええと、キリストの誕生を祝う日、とかだっけ」
凛花もよくは知らないが、大雑把に言えばそんな日だったと思う。
が、涼は凛花の回答に首を横に振った。
「正解はこの日に初めて観測された惑星の、水星の日なのです」
「へえ」
それは知らなかった。凛花は声を出して涼の博識さへ素直に感心している。
「……なあ、もしかしてそれはメリークリスマスとメルクリウスとをかけてたりするのか?」
「ふっ、流石は進太郎さん、鋭いですわね」
進太郎の言葉を受け、涼は笑う。その反応を見るに、水星は関係ないらしい。
「ああ、今の冗談、なんだ?」
「はい、本当はおいしいチキンとケーキを食べる日ですわ」
それはそれで何か違うような気もするが……まあ、日本においてはそれも正解という事でいいのかもしれない。
そしてクリスマスと言えば、と月光門が切り出してくる。
「今年こそサンタさんは来てくれるだろうか」
顔に似合わず、月光門はそんなかわいらしい事を言った。
どうやら月光門は高校3年生の今でもサンタクロースの存在を信じているようだ。そんな夢をわざわざ壊す必要もないと思うので凛花はそのまま話を続けさせてみる。
「今年こそ、って事は先輩の家には来てないんですか?」
「うん。毎年この時期にはその話になるんだが、なぜか母が悲しそうに顔を伏せて小さく頷くばかりなんだ」
「……」
重い。
もっと乙女チックな流れになるかと思ったが、突如として流れがせき止められる。その場にいる月光門以外の4人は空気が自身を押し潰してくるような錯覚に陥る。
「悪い子の家には来てくれないと言うからね。私もできるだけ良い子でいるように努めてはいるのだが、今年は一体どうなるか」
「そう、ですね……来てくれると、いいですね……」
「そうだ、凛花くんの家には来ているのかい? サンタさん」
話を振られる。どうしよう、何と答えるべきか凛花は悩みに悩む。
一応、来ているといえば来ているが、ここは月光門に合わせ来ていない事にしておいた方がいいのではないだろうか。
いやしかし来ていない事にすれば思い空気が更に重くなってしまうのでは、とも思う。
考えた末、凛花は正直に言う事にした。
「ええ、まあ来てますね」
「そうなんだ、いいなあ」
頷いた凛花を月光門は羨ましそうに見る。実際の所は、そう羨まれるようなものではないのだが。
凛花の家にやって来るサンタクロースというのは母、麗である。
一応サンタの衣装を着てはいる。とは言ってもサンタと言うより季節と色合いと担がれている袋を考えればサンタという結論に至れる可能性のあるスリングショット水着の姿である。
申し訳程度にブーツと皮手袋でサンタ感を出そうとしているが、特に意味があるとは思えない。
しかも、プレゼントの内容は「妹か弟」の二択である。これに「そろそろ自分の歳を考えてくれる母さんが欲しい」と答えるまでが凛花のクリスマスとなっている。
まあ、そんな詳細を語れるはずもないので詳しく聞かれたら適当にはぐらかそうと凛花は心に決めている。
「あら、呼んできましょうか我が家のサンタさん」
「やっ……やめろ先輩の夢を壊す気か!!!」
自室にしまってある衣装を取りに行こうとした麗を凛花は全力で止める。
月光門がどうしてもというのならば最悪致し方ないとも思ったが、涼と進太郎にだけは見られたくなかったのが大きい。
「心配いらないわ! えっちなサンタさんは男の夢だってお父さんも言ってたもの!」
「先輩は女だってのー!」
「なにいえっちなサンタさんだとぉ!?」
「今後の参考にするのでぜひ見てみたいですお義母さん!」
「ええい散れ散れ阿呆ども! あと夏条は人の母親勝手にお義母さんって呼ぶな!!」
暗い空気を蹴飛ばすためか、本当に人の母のエロサンタ衣装が見たかっただけなのかはわからないが、詰め寄る2名を凛花は追い払う。
その隙に母が要望に応えるべく自室に向かおうとしたのでそちらも阻止する。
静寂に包まれているよりはこの方がいいかな。いつもの活気が戻り始めた空間に、凛花はそう思った。




