俺はモンスターに喧嘩を売りました。
「よし。それでエスティメスだっけ、どこから行けばいいんだ?」
町を出てイラル平原にやってきたLinkerは自信満々に聞く。
羞恥の勢いに任せとりあえず平原までは来たが、どこへ向かって進めばいいのかはさっぱりなのだった。
「アリアナから出たらそのままずっと真っすぐ進めば分かれ道があるそうだ。それを右に曲がればエスティメスへ続く道があるらしい」
進化カードの言葉によし、と頷いてLinkerは進む。
道中、ワイルドラビットが出てきたら倒しながら進もうか、と考えていたが特に遭遇する事もなく、自然と無言の時間が増えていく。
親友とゲームで遊んでいるというのに沈黙が続くという状況に耐えられず、Linkerはずっと気になっていた話題を振ってみる事にした。
「そういえばシンのMSWに関する知識ってやたら「らしい」が多いけど、なんでなんだ?」
「あー、そんな大した話でもないさ。攻略サイトがあるからそこで見た情報は「らしい」って付けてるだけだよ」
「……えー、シンそんなの見てるのかよー」
「家庭用とかのゲームでは見ないんだけどなあ。オンラインゲームだと知識人ぶれて楽しくってな」
「うん、まあ確かに今はそのおかげで助かってるわけだからあんまり強くは言えないけど、ネタバレとかはナシだぞ?」
「そこは分かってるさ。ゲームってのは新鮮な驚きも楽しむ要素の一つだからな」
進化カードの情報源に不安を抱いたLinkerだったが、そこは長い付き合いだけあって確認するまでもない事だった。
そして、気付けば二つに分かれた道が遠くに見える。左方向は森へ、右方向は石で舗装された平地へと続いているようだ。
「お? あれは」
Linkerは分かれ道の手前に見た事のある顔を発見する。人型だが、プレイヤーではなくモンスターだ。
「あれはジェリフェルだな。本来は妖精郷に沸くモンスターらしいんだが、こんな所まで来るとは知らなかったな」
Linkerの思っていた通り、ゲームのあそびかたのページにいた妖精らしい。
パタパタと羽を動かし赤い髪の間から覗く、いわゆるジト目で行く当てもなく辺りを飛んでいる。
「なんにせよある意味ラッキーだ。普段ならジェリフェルは強力なアクセサリーをドロップするせいで沸いたそばから即狩られているらしいからな。妖精郷で見るのすら難しいだろうにこんな離れた場所で見られるとは」
進化カードの話を聞いて、見た目少女なジェリフェルが現れた瞬間に武器を持った多数の大人に囲まれ何もできずに即死していき所持品を漁られるという世紀末もかくやな光景を思わずLinkerは思い浮かべてしまった。
まあ、その辺はゲームだ。Linkerはあまり深く考えない事にする。それはそれとして、
「よし、倒そうぜ!」
強力な装備が出るかもしれないと聞いては黙っていられない。しかも滅多に会えないと聞かされてLinkerとしてはなおさら倒したくなった。
「いやしかしジェリフェルは……おっと。ま、リンがそう言うなら止めたりはせんさ」
何か言いかける進化カードだが、途中でハッとして言葉を換えた。
不思議に思ったLinkerだが、直後に了承されたのであまり気にせずにアイアンダガーを手に取る。
「よし、そんじゃあやるぜ!」
「ああ!」
進化カードが返事を返すと同時、ジェリフェルが都合よく背中を向けた。その好機を逃がさないように急接近し、Linkerのアイアンダガーが振り下ろされる。
今、戦いが始まる。