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俺はメインストーリーを進める事にしました。

 そんなこんなで色々とあったが学校は終わり、凛花は家に帰って来た。

 ただいまー、と1階のリビングにいるだろう母へ言うと返事を待たずに2階の自室に駆け込む。

 進太郎は別の知り合いと用事があると言っていたので、とりあえずログインの前に情報収集を再開する事にした。


「そういえば公式アカとかあるって言ってたっけか」


 あの後の話でちらっと話題に出て来た某SNSの公式アカウント。あまり役に立つ話はしていない、とも言っていた気もしたがふと思い出したので凛花はスマホを取り出し検索してみる。

 検索をかけるとそれらしきものがいくつか出てきた。

 「ミリオンスターワールド公式」とそのものな名前があったので真っ先に呟いている内容を確認したが、話の通りメンテナンス時間の予告と大型アップデート等の情報があるにはあるがどれも公式HPで確認できるようなものばかりだった。


「うーん、まあフォローするほどでもないかな」


 凛花の予想していた通りではあった。予想を裏切られてはっちゃけられていてもそれはそれで困ったが、ともかく他を見る。

 MSW公式と同じく青のチェックの入ったアカウントだ。


『う~ん、このお店のケーキおいしいです~!』


 ミリスちゃん、というMSW公式マスコットキャラクターのアカウントを見ると、なぜかそんな呟きと共にケーキの写真が載せられていた。

 しかも1枚2枚ではない。ほぼ毎日、昼食と夕食の時間になると様々なケーキの感想と写真がアップロードされている。


「……公式?」


 一応、公式で呟かれたメンテナンス時刻やアップデートの情報はRTされているが総合的に見るとほとんどがケーキ。

 青のチェックマークがちゃんとついているし一般人のアカウントを覗いてしまったのではないはずだが、凛花は困惑した。

 「ミリスタを応援する公式マスコットのミリスちゃんです!」とプロフィールの欄に書いてあるので間違えてはいないだろう。

 しかしMSWじゃなくてケーキの応援してないか、と凛花は不安になった。


「あのマーク確かお金かかるはずだったよな……」


 よくわからない金の使い方をするもんだなあと凛花はもう1つあったMSWの公式アカウントを見てみる。


「公式マスコットが二人いるのか……」


 こちらにも青のチェックマークがついており、名前はミリスたん、というらしい。

 こっちはミリスちゃんと比べると、MSW寄りの内容だった。ではあった。


『おう詫びチケよこせや』

『メンテが予定より1分でも遅かったら詫びチケよこせ、1分でも早ければやっぱ詫びチケよこせ』

『よー星の子らミリスタやってるー? 私最近配信されたあのカードゲームやってるわーちょーおもしれー』


 ミリスちゃんと比べれば、確かにゲームと関連した話題が多かった。多かったが、そのほとんどが公式に対して非常に攻撃的なものだった。

 というか、MSWの話よりも他のゲームの話題が多かった。アイドルをプロデュースしたり星の島を探したり聖杯を探したり紅蓮の王を目指したり見れば見るほど凛花には何のアカウントだかわからなくなる。

 一応「ミリスタを応援する公式マスコットのミリスたんです☆」と申し訳程度にプロフィール欄に書かれていた。


「……公……式……?」


 ケーキを食らい続けるマスコットもそれはそれで意味がわからなかったが凛花には他のゲームの宣伝をするマスコットというより意味のわからない存在を目にしている。

 この後、凛花は30分ほど「公式」という言葉の意味について調べ続けたという。



「すまんなリン、いつもよりアイツがしつこくってな……。待たせたか?」


 進化カードがログインしてきたのは桜野凛花の帰宅から1時間後の事だった。今からインする、とメールが来たのでLinkerもすぐにログインした。

 アイツ、というのが誰かは知らないがまあそれはいいだろう。Linkerとしては何よりもMSWの話がしたい。

 進化カードにトドメを刺した場所で二人は再会した。


「待ってはないよ、ずっと調べ物してたし。ところでシンに聞きたいんだけど、このゲームってチケットとかあるのか?」


 ミリスたんの呟きによく出てきた「詫びチケ」なる単語。おそらくは基本無料ゲームによくあるガチャガチャのようなものに使うのだろう。

 まあ凛花も進太郎も高校生なのでお金に余裕もなくあまり縁のない話ではあるが、詫びと付くからにはタダでそういうものに挑戦できる機会もあるのだろう。とLinkerはワクワクしている。


「チケット……? あー、そういえば町にあった気がするな、中世感溢れるファンタジックな世界には似合わないガチャガチャみたいなの。それに使うやつの事か?」

「おお多分それだと思う! メンテとかあった時に貰えるらしいからいつか挑戦してみようぜ」


 どうやらあるらしい。言われてみれば、Linkerも昨日初めてログインした時にちらと見ていたような気がする。


「あ、それと星の子らとかって単語も聞いたんだけど、これって何かわかる?」

「ん? 知らないのか?」


 もう一つMSWに関連していそうな言葉を思い出したので聞いてみると、意外そうな顔をされた。

 頷きを返すと、進化カードは続ける。


「もしかしてリン、チュートリアル飛ばしたのか?」

「え? あー、シンをあんま待たせるのも悪いかなーって思ってさ、スキップできるみたいだからしたよ」


 大抵の事は公式HPにも書いてあるだろうとも考え、ともかく親友を待たせないのを優先しようと当時の凛花は考えていたのだが、もしかしたらチュートリアル中でしか聞けない情報があったりして飛ばすのはまずかったのだろうかとLinkerは心配になってきた。


「そうか。まあ内容はそこまで他のネトゲと変わらん。公式に書いてあるストーリーから始まって、基本的な操作説明が受けられるだけだ」


 進化カードの説明は続く。どうやら星の子というのは主にプレイヤーを指す名称らしい。

 神様の一部である星の欠片を身に宿したプレイヤーはチュートリアル内でモンスターに襲われている少女を助け、その子の住む町であるアリアナまで送り届けた所からゲームが始まるとの話だった。


「レベルが5になったらその女の子、マリーからメインストーリーを進めるためのクエストが受けられるようになるから後で会いに行ってみるといいぞ」

「へえ、そうなのか」


 というわけで、Linkerの今日の目標はレベルを5まで上げる事に決まる。進化カードも手伝ってくれると言うのでパーティを組んで狩りをする事になった。


「レベル1ならまずはここ、イラル平原のワイルドラビットだな。初期装備でも1しかダメージ受けないしレベルもすぐ上がるぞ」


 昨日見かけたアレか、とLinkerは思い出す。

 周りを見れば他のプレイヤーもほとんどいない様子だったので、これは楽に狩りができそうだな、とLinkerは上機嫌だった。

 そこまで大きくはないがレベル差のある進化カードにはやく追い付きたい。

 そんな思いを抱きながら、Linkerは進化カードと共に獲物を探し始める。


 狩り開始から30分と経たずにLinkerはレベル5になった。進化カードはレベル7になった。

 レベルが5もあったおかげか進化カードの一撃でワイルドラビットは即死かほぼ瀕死までHPを削られていったので、Linkerはほとんど後ろをついていくだけだった。

 目標達成までもう少し時間がかかるだろうと踏んでいたがワイルドラビットを10匹倒したか倒さないかくらいでコレなのでLinkerはひどく肩透かしを食らった気分になる。


「……早くね?」

「序盤はかなり上がりやすいらしいからな。俺はもう経験値減衰が始まってるから、狩場を移すついでに一度町まで戻るか」


 あまりにも早すぎた目標レベル到達に今なお若干呆然としながらLinkerはアリアナへと戻るのだった。




「あっ! あなたはあの時の! またいらしてくださったのですね!」

「え? えっと……」


 狩りを終え、アリアナへと戻って来たLinkerは進化カードと共にマリーの所までやってきた。

 チュートリアルを終えたゲーム開始地点、そこからすぐ左の家の前に立っていた少女の前まで行くと嬉しそうな顔でLinkerを見てきた。

 Linkerよりも若干背の低い少女にまるでどこかで会った事があるかのように言われ、困惑していると進化カードがあー、と納得したような声を上げる。


「チュートリアルやってる前提だからな。リンには面識なくても向こうはそのつもりで話が進むわけだ」

「あ、そうなんだ」

「ちなみに話は返事とかしなくても自動で進むから安心していいぞ」


 進化カードの言うように、Linkerはマリーに返事をしていないが話は進んでいっている。リアルの人間のようにコミュニケーション能力を必要としないのは確かに楽だが、Linkerはなんとも言えない気持ちになる。


「それに、あの時よりもまたお強くなっていらっしゃるようです。……はい、実はあなたに届けてほしいものがあるのです」

「ん、これは」


 そう言われ、マリーに手渡されたのは木で編まれた蓋付きの篭だ。それと同時にLinkerの視界の隅に『貴重品インベントリに「兄への届け物」が追加されました。』と表示される。


「これを、エスティメスの門番をしている私の兄に渡してほしいのです。実は今朝、兄がこれを持たずに仕事に行ってしまって、今頃お腹を空かせているはずなんです」


 なるほど、中身はお弁当か。Linkerも以前弁当を忘れてしまったという経験があるのを思い出す。ついでに、母がそれを届けに学校の前で自分の名を叫んでいたという非常に恥ずかしい思い出も。

 記憶の隅に追いやっていた恥ずかしエピソードはともかく、空腹が辛いのはLinkerも知っている。ゲームの中ではあるがマリーの頼みを受ける事にした。


「……まあ、話はわかったよ。それで、お兄さんの名前は?」

「はい、私もそうしようと思ったのですが、私にはなんの力もなく、平原のワイルドラビットさえ倒せませんでした」

「なるほど。それでお兄さんの名前は」

「ええ、ですから以前よりも強くなられている様子のあなたにお願いしたい、というわけなのです」

「いやお兄さんの名前をね」

「……引き受けてくださるのですか! 感謝します!」

「お兄さんの名はって聞いてんだろうがァァ―――!!!!」


 視界にメインストーリークエスト受注の表示が出て、マリーがお辞儀をするとそれで会話は終わった。

 会話内容は変わらない、と言われてもついつい怒涛の勢いで問いかけを無視され、思わずLinkerは叫んでしまう。

 兄の名前が分からないままだった事についてどうしようか悩み始めると、進化カードが大丈夫だ、と口を開く。


「そう心配するなリン。エスティメスの男の門番は一人だけらしいからな。誰に渡せばいいかわからない、なんて事にはならんさ」

「そ、そっか。それ聞いて安心したよ」


 そもそも町の名前すら聞いたことのない場所だ。昔プレイしていたネトゲで似たようなおつかいクエストをやった時に道に迷い、行き先も帰り道もわからなくなった経験を持つLinkerはちょっぴり不安だった。

 だが、今回は進化カードが助けてくれている。色々と知識も豊富であるようだし、リアルだけでなくゲームでも頼れる親友だ、と改めてLinkerは思う。らしい、が多いのは気になるが。


「ちなみに、NPCとの会話は他のプレイヤーからはプレイヤーだけが喋っているように見えてるからあんまりでかい声出すと目立つぞ」

「そっか。それはもっと早く教えておいてほしかった」


 顔を赤くしたLinkerは町の外へと向かって足早に去っていく。

 どおりでさっきからやけに笑いを堪えた様子のプレイヤーが自分を見ているな、と気になっていたLinkerはようやくその理由に気付くのであった。

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