俺は自室で目が覚めました。
目が覚めた時、凛花は天井を見ていた。よく見慣れたそれと体を受け止める柔らかさから、自分の部屋のベッドで寝ていると気付く。
それから、自分が今までどうしていたのかを思い出す。たしか風呂で気を失って、それで。
「あ、気が付きましたか凛花さん」
そして凛花の視界の中に夏条涼が入ってくる。手にうちわを持っていたので、おそらく今までずっと扇いでいたのだろう。
「急に倒れるんだから驚きましたわ。出たかったのならちゃんと出るって言ってくださればよかったのに」
「そんなの言ったら夏条、何かしてくるかなって……」
「しません。命に関わる事なんですから私だってそういう時は真面目です」
「そっか、ごめん」
真剣な顔で否定された。どうやら凛花は涼の事を誤解していたのかもしれない。
よく見れば全身汗をかいている。もしかしたら一人でここまで自分を運んだのだろうか。
普段は過激なまでに押しの一手だが、一応一線はわきまえているという事なのかもしれない。
そして非力とはいえ凛花も男子だ。それなりに重かっただろうにわざわざ2階まで運んでくれたのは感謝しておくべきだろう。
寝巻も着せてもらったようだが……そこは感謝するべきなのか恥ずかしがるべきか凛花にはわからなかった。まあ一応は男だし、同性という事でそちらは気にしないでおく。
「えと、ありがとな夏条。重かっただろ?」
「いえいえ、お母様にもお手伝いいただいたので。お気になさらず」
「あー、母さん」
それもそうだったと凛花は声を出す。気絶までしたのだからそりゃあ麗にも話がいくのは当然だろう。
という事は高校生にもなって母親に裸を見られたのだろうか。それは流石に恥ずかしい。ともすれば服を着せたのは母かもしれない。
考えるだけで死ぬほど恥ずかしいので凛花はそれ以上考えないようにした。
「とにかく、ありがとう。もう大丈夫だからさ、夏条もそろそろ帰った方が」
「もう平気ですか? では」
「なんで脱ぐの!?」
自然に上着を脱ぎ始めたので凛花は慌てて涼の服の裾を抑える。セーフ。臍は見えているがなんとかそれ以上は露出せずに済んだ。
「なんでって、それは命の危機が去ったんですもの。私だって不真面目になりますわ」
「だ、大丈夫とは言ったけど切り替え早すぎでしょ!?」
思っていた以上に涼の力は強い。このままだと服が破けそうだったので、凛花は涼の両手を掴んで抑える。
これはたから見たら自分が女の子の服を無理やり脱がせようとしてるように見えそうだなあ、と思いながらも決して凛花は涼の手を自由にはさせない。
しかしこのままでは状況は変わらない。倒れた直後という事もあり力の出せない凛花の方が先に力尽きる予感がした。
仕方がないので一度ベッドから起き上がり、涼の手を背に回してうつぶせの状態でベッドに押し倒す。
「夏条、お前ちょっとおとなしくしてろ!」
「凛花ー、お水持ってきたから、飲んで……」
ドアが開かれ、氷と水のたっぷり入ったコップを持った麗が入ってくる。
最悪のタイミングで現れた母に、凛花は硬直した。
「あらあら……お風呂でのぼせたと思ったら、もう。今はお水飲むどころじゃなさそうね」
「ちっ、違うよ母さん!? 俺は今夏条に襲われそうになってて!」
「え? でも凛花が上にいるじゃない」
「そうだけど! でもそういうのじゃないから! ただ夏条をおとなしくさせたいだけで……とにかく縄とか何か手を縛るもの持ってきて!」
自分で言ってみて、ああこれは俺が襲おうとしてるようにしか聞こえないなと凛花は気付く。
もうちょっと言いようがあったかもしれないが、茹だった頭ではそれしか言えないのだった。
「凛花さん! そんなもので縛らずとも私はあなたのリビドーを全て受け止めますわ!」
「だから俺そういうの求めてないから!」
「縄はないけど手錠ならあるわよ」
「よし、じゃあそれを……ってなんでそんなもん普通の家にあるの!?」
「それを説明すると凛花が生まれたヒミツも自然と明らかになるけど……聞きたい?」
「それ以上何も言わないで持ってきて!」
手錠で涼の腕を封じるとなると、ビジュアル的にとてもそういうプレイに見えてしまう気がするが、あくまでも凛花はただ涼に冷静になってほしいだけであると何度も心の中で唱える。
涼はと言えば、背中に乗って押さえつけられているのになぜか何かを期待するような潤んだ目でチラチラと凛花を見てくる。
女性の顔付きでそんな視線を向けられると流石に凛花でも何かしでかしてしまう気がしたので、できるだけそちらを見ないようにしながら母が戻るのを待っていた。




