俺はお風呂に入りました。
凛花の家に戻り、間もなく夜になる時間という事で進太郎、月光門達も自宅へと帰っていった。
帰宅を見送り、凛花は今お風呂に入っていた。
「いやあ、今日は色々なゲームやったなあ」
「ダークファンタジーに三国志に童話にロボット、それから麻雀なんかも……」
「うん、ホント最近は色んなゲーム出てるもんだな。しかもどれも独特な筐体で、据え置きのハードじゃ遊べないだろう感じ! 通いたくなっちゃいそうだよ」
「でも、お金が……」
「足りないからなー。しかもうちの高校バイト禁止だし。母さんにお金貰ってまで、ってわけでもないし」
「へえ」
「そして、俺が今一番気になっているのは!」
「……なんで夏条まだいんの?」
ごく自然な事のように、夏条涼は凛花と共に風呂場にいる。
湯船に浸かっている凛花はできるだけ視線を上方向に持っていきながら、なんてことないように体を洗う涼に疑問をぶつけた。
「だって、私元々凛花さんと2人っきりで遊ぶつもりでしたから」
「……だとしても一緒に風呂入るのはおかしくない? 夏条って一応女でしょ?」
「えー、今の私は男ですよ? 性別が一緒なんですし、そんなにおかしくはないでしょう?」
上方向を向き続けるのは疲れるので、徐々に視線が下がってしまう。
全体的に泡で隠れてはいるが、ちらりと視界に入った胸の部分は凛花には膨らみがあるように見えた。
「いや、でも、胸とかあるじゃん……」
ドキッとして、涼とは反対方向に首を向ける。壁を見ながら凛花は涼の言葉を聞く。
「ああ、これは父が。「気が変わって女の子に戻りたくなるかもしれないから、お願いだからそのままにしておいてくれ」って懇願されまして」
「じゃ、じゃあやっぱり女じゃ」
「胸はありますけど、下はちゃんとありますよ。見ます?」
「いいから! 座って!」
背後で立ち上がるような気配を感じ、凛花は壁に向かって叫ぶ。
そうですか……と残念そうに呟いてしゃがみこんだ涼は、引き続き体を洗う。
「どうすりゃいいんだよこれ……」
誰にも聞こえないよう小さく呟く。はっきり言って凛花は限界だった。
このまま湯船に入っていれば、あと数分とせずにのぼせる。凛花自身にもそれがわかるほどに体の熱が上がっている。
だから、さっさと風呂から上がるべきなのだろう。
このままいけば涼が凛花と共に風呂に入ろうとする、という予知めいた確信も相まって、早く出るべきだとはわかるのだ。
しかし風呂場から出るには涼の反対側に行かねばならない。そこに扉があるのだが、あまり広くない風呂であるため涼が座っている間は通れない。体が触れてしまう。
触れるくらい大した事ではないかもしれないが、もしかしたらそれをOKサインだと取ってそのまま襲われるかもしれない。
素直にのぼせそうだと言えばいいのかもしれないが、それはそれで普通に通すと見せかけて同上かもしれない。
まあ凛花としてはやはり夏条涼は概ね女の子であるので、別に嫌ではないのかもしれない。
が、概ねではない一点が凛花には駄目なのだ。世の中にはそこを喜ぶ層もあるかもしれないが、少なくとも凛花はそうでない。
そんなわけで、凛花は今機会を覗っている。
髪を洗う時こそ立ち上がり目をふさぐので、それを待っているのだ。
とはいえ、チャンスは一度きり。凛花はもう意識が薄れかけ始めている。
女性の体を見慣れていない凛花には依然壁の方を向いている事しかできないので覗うとは言っても音で判断するしかないのだが。
そうして耳をそばだてていると、水を被るような音がした。体の泡を洗い流したのだろう。
次いで涼が立ち上がる気配。ついに待ち望んだ好機が訪れたかと凛花は軽く涼の方をちらっと見る。
すぐ横に涼の顔があった。凛花をじっと見つめている。
「顔真っ赤ですよ。大丈夫ですか?」
「え、えっと、なんでも……」
心配そうに凛花を見る涼から視線を逸らそうと、咄嗟に下を見てしまった。
泡が洗い流され、お湯で若干の光沢を持った胸が視界の真ん中に入ってしまう。
それと同時に、限界が訪れた。
一気に体温が上昇し、世界の全てが遠のくような感覚を覚えながら、凛花は気を失った。




