俺は親友とホテルにやって来ました。
というわけで、二人はホテルの前にやって来た。
何もしないという進太郎の言葉を信じてはいるが、凛花はガチガチに固まっていた。
「し、知り合いとかいたらどうしよう……」
「いたらいたでそれは問題だと思うが」
しかしいつまでも入り口で立ち尽くしているわけにもいかない。このままでは夏条に怪しまれてしまうだろう。
意を決して、二人中へと入った。
入ってすぐに二人は致命的な失敗をしていた事に気付く。
制服を着たままだったのだ。
当然すぐに見つかり、追い出される――
かと思いきや、すんなりと部屋へ案内されてしまった。受付のお姉さんが嬉しそうな顔をしていたのが印象に残っている。
「トントン拍子にコトが進みすぎだろ……。もしかして俺今ドッキリにでもかかってるのか?」
「まさか。俺の方がドキドキしてるさ、こんなところでリンと二人っきりなんだからな」
さりげなく肩に手を回してきたので凛花ははたき落とした。
ため息を吐いて凛花はベッドに腰掛ける。
「そんで、俺はいつまでここにいたらいいのさ」
「うーん、7分くらいか? 俺を参照すると」
「7分かぁ」
進太郎も人一人分のスペースを開けて凛花の隣に座る。
時間としては短めだが、この部屋の中だと長く感じそうだなあ、と凛花はピンク色の照明を浴びながら唸る。
「……ところで7分ってシンの何を参照しての7分なんだ?」
「そりゃあ俺の……」
「言うな!! 多分聞きたくない話だから!!!」
そんなわけでしばらく、進太郎の時間に少し上乗せして10分ほど経ってから出る事にした。
雰囲気のせいで会話が弾まなかったのでテレビでも見ていようかと電源を付けたが、凛花はすぐに消した。
10分後。
高校生にはそこそこ痛い金額を支払って二人はホテルを後にした。発案者という事もあり進太郎が全額負担したので凛花は払わずに済んだが。
「……本当に何もしないんだな」
「お? それはもしかして実は何かしてもよかったって事か? 嫌よ嫌よも的な話だったのか?」
「ばっ、違うからな!」
顔を真っ赤にして凛花は否定した。そして、急に声のボリュームを落としてもごもご言う。
「その、ちゃんと俺との約束守ってくれてるんだな、って意味で……」
「フッ、当然だろ。リンとの約束は基本守るさ」
「シン……基本てのが気になるけどとりあえずありがとう……」
そんな具合に進太郎との友情を確かめ合っていると、物陰に隠れていた夏条が二人の前に姿を見せる。
「……進太郎さん、そして凛花さん」
「夏条」
「だいぶ早くありません?」
「うっうるさいよいいだろそんなん人それぞれだし!!」
現れた夏条は明らかにショックを受けている様子だ。ほとんど親しくない凛花にもわかるほどだった。
そしてさらに畳みかける。進太郎が凛花を抱き寄せ、しっかりと夏条の目を見る。
「こういう事だ。すまないが夏条、お前のプロポーズを受けるわけにはいかん」
顔をちょっと傾ければ進太郎に息がかかる距離だ。凛花はかなり恥ずかしかったが、我慢する。
「……ええ、そうですわよね。なら、私もこれ以上食い下がれませんわ」
凛花の想像よりもあっさりと夏条は引き下がった。今まで長い事執着していたような話だったので拍子抜けである。
「そんな、簡単に諦めちゃうのか?」
「だって、進太郎さんは男性にしか興味ないのでしょう? でしたら、彼女になるのは諦めるほかありませんもの」
自身の敗北を認めるように、夏条は首を振るとつきものが落ちたようきりっとした顔になる。
「桜野凛花さん、しばらくの間あなたが進太郎さんを独占する事を認めましょう。……ですが、次会った時は私たちはライバルですからね!」
びしっと凛花に指をさしてそう言うと、夏条は踵を返して走っていった。
しばらく眺め続け、姿が見えなくなったのを確認すると凛花はため息を吐く。
「……帰るか」
「そうだな」
こうして凛花の親友、小門進太郎の危機はひとまず去った。
去ったはいいが同じ学校なのだし次あった時ってまさか明日の事なのだろうかと不安になったりもしているが、ともかく危機は去ったのだ。
どっと疲れたので今日はMSWはできそうにないな、と思いながら凛花は家へ向かうのだった。
「ところでいつまで手繋いでるんだよシン」
「そう言うなって、家近いんだし俺の家の前までこれでもいいだろ?」
「いいわけないだろ!!!」




