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俺はVRMMOで男と結婚する事になりました。  作者: カイロ


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俺はお嬢様に親友を諦めてもらう事にしました。

 当然ではあるが、凛花と進太郎は付き合ってはいない。友人としてはそうでもないが、男女としてはそうだ。男女でもないが。

 もうすぐ授業の始まるタイミングであったため進太郎の言葉に目を見開いて驚愕していた夏条は自身のクラスへと戻っていった。

 授業の合間合間に事情を聴いた凛花は、休み時間になると同時に言葉に出してそれらを整理する。


「えっと、つまり夏条がシンに一目惚れして色々とアタックを仕掛けてきていて、それをシンはどうにかかわし続けてきたけど今朝はついに婚約届なんてものまで持ち出してきたわけか」

「簡単に言うとそんなところだな」

「恋愛モノのアニメだったら1話で切られるレベルの超展開だぞこれ」

「何を言うかリン。アニメはちゃんと全話見てから評価するべきだぞ」

「いや、そうだけどそこじゃねーから!」


 凛花がなんらかの思い違いをしているのかと疑いながら本人に問うと概ねその通りだと言われ、夢でも見ているような気分になる。

 特殊な詐欺か何かとでも思いたい所だったが、進太郎の家は凛花と同じくそこそこ裕福でそれなりに貧しい一般的な家庭である。大富豪に狙われる理由など存在しない。


「……にしても勿体ないよなぁ、シンが女に興味あれば絶対最高の相手だったろうに」

「? 何を言ってるんだリン、俺は普通に女性に興味はあるぞ?」

「は?」


 一瞬、進太郎が何を言っているのか凛花にはわからなかった。普通の言葉ではあったが、それが今はとてつもなく異常に感じられる。


「あ……えっと、友達になりたいとか、そういう感じのやつ?」

「いやいや、恋とか愛とか、そういうのだよ」

「……?? え、シン、俺の事が好きなんだよな?」

「おいおい、クラスのみんなが見てる前でそんなの……俺にだって恥ずかしさとかはあるんだぞ?」

「いや違うから! 今そういうのじゃねーから!!」


 今この時、凛花は本日最大の困惑に襲われていた。


「……改めて聞くけど、俺の事好きなのか?」

「ああ」

「じゃあ、女は?」

「もちろん興味あるぞ」

「???????」


 どっちもいける、という事なのだろうか。

 そう考えて納得しようとした凛花だったが、続く言葉に脳の臨界点が突破し、溶け始めるような気分となる。


「俺はリンが男だから好きになったんじゃなくて、リンがリンだから好きになったんだ。だが基本的にその辺はノーマルだからな、俺は」

「…………そ、そっか」


 凛花は非常に複雑な進太郎の恋愛機構については、「まあそんな気にするもんでもないよな」と結論付けて深くは考えない事にした。


「ともかく夏条が完全に俺の事を諦めるまでは、すまないんだが俺の恋人ということにしておいてはくれないか?」

「おう、任せとけ!」


 今までの話は置いといて、凛花は進太郎の力になる事を決意する。今聞いた事は一旦忘れ、親友として共に解決を目指す。

 進太郎は気合の入った返答を聞いて「そう言ってくれると助かる」と嬉しそうに頷いた。


「夏条の真剣さは伝わってくるんだが、先に俺が好きになった相手がいる以上この申し出は受けられないからなぁ」

「……おー一途だなあシン。かっこいいぞ」


 凛花が言うと、照れくさそう進太郎は笑う。

 まあその想われている対象が自分自身であるというのは非常に複雑ではあるのだが、一途なのが悪いわけでもないので凛花は気にせず褒めた。



 夏条涼が諦めるまで、という話ではあったが、凛花はすぐに終わると考えていた。

 なにせ進太郎の恋愛対象は男なのだ。本人談では女性でも問題なしとの事ではあるが、とにかく夏条にはそう認識されている。

 凛花が夏条と同じく女性であるならばなんとしてでも出し抜こうとするかもしれなかったが、凛花は男である。

 早い話が夏条はスタートラインに立てていないのだ。

 こればかりは生まれ持った物である以上如何ともし難い。というよりも学校での進太郎の宣言の時点で諦めていたとしてもおかしくはなかった。

 とはいえ念には念を入れて現在は高校からの帰り道、付き合っているように見せるために恋人繋ぎで二人は歩いている。

 校門を出てからずっとであったためすれ違う人々にことごとく何かを察せられたような顔をされ、高校の一部の生徒からはどういうわけか黄色い声援が上がった。

 特に何かを言われるような事はなかったものの、凛花は顔を真っ赤にして俯いていた。進太郎は満ち足りた表情だった。


「……なあ、シン。もうよくないか? 夏条も出てこないし……」

「ダメだ」

「そりゃシンは楽しいかもだけどさぁ……」

「そうじゃない。……いや、そうでもないがその話ではなくて、夏条はいるぞ」

「えっ?」


 言われて、不自然にならない程度に首を動かして周囲を見る。すると、やや後方で物陰から夏条涼が二人を見ているのに気付く。きーっ! という声が似合いそうな顔で睨みつけている。


「ううむ、仲睦まじく手を繋いで凛花と一緒のラブラブ帰り道デート(はーと)で折れないとは、彼女の愛は本物というわけか……!」

「お前すげえ表現するな……」

「こうなってはもっと進んだカップル感を出さねばならんか……?」

「もっと進んだ、って言うと……ち、ちゅーする、とか?」


 凛花なりの最大限実行できる範囲ギリギリの提案をした。できればファーストキスは異性とが良かったと思ってはいるが、親友の平和な日常のためならここまでは頑張れる。

 が、あっさり首を振られた。


「いや、あの目は『もうヤッてる所を確認するまでは絶対に進太郎さんの事を諦めませんわ、我が夏条家の誇りに懸けて!』って目だ。キスくらいじゃ退かないだろうな」

「目ぇ見るだけでそこまでわかるぐらい相性バッチリならもう夏条と付き合った方がよくないか?」


 声真似まで披露してくれた進太郎に冷静なツッコミを返し、しばらく間を開けてから凛花は言われた事を反芻する。


「……は? ちょっと待って、リン今なんて言った?」

「要約すると、もう夏条が俺を諦めるには凛花と俺がセ」

「待て待ていい! それ以上言わんでいい!」


 凛花のできる限界域をまるでそこがスタートラインだと言わんばかりに大きく飛び越えた要求に、唖然とした。

 冗談だろうかと顔を見るが、進太郎の表情は真剣そのものだった。


「確認したいんだけど、リンがしたいだけ、じゃあないんだよな」

「そこは断言できるぞ、夏条とも結構長いからな。今朝だってこれ以上恋人もいないのに断られたら心が壊れて、何しでかすかわからないって雰囲気が出てたからな」

「なあひょっとしなくてもお前夏条の最高のパートナーなんじゃないか?」


 いよいよもって凛花が強力しなくてもいいのではないか疑惑が出始めるが、そこは乗りかかった船というやつである。


「ともかく、直接その瞬間を見せる必要はない。ただ夏条に「した」と思わせればいいだけだからな」

「……やっ、でもシン、俺さすがにそこまでは」

「心配するな。リンが嫌なら俺も何もしないさ。だから、もう少しだけ協力してほしい」


 進太郎の目は真剣に訴えかけていた。何の根拠もありはしないが、本当に何もする気はないんだろうと凛花は思った。

 どんな手段を取るつもりかわからないが、凛花は黙って首を縦に振る。

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