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第八話「旅の仲間」

 俺の頬に柔らかい感触が当たる。

 なんだ……? この感触は。

 しかし、いつの間に眠っていたのだろうか。

 目を開けると、俺の腕の中には可愛らしい猫が居た。

 青い宝石の様な美しい目で俺を見つめている。

 猫は嬉しそうに頬ずりすると、俺の胸に顔を埋めた。


「おはよう……怪我は大丈夫かい?」

「うん、もう大丈夫よ。私は妖精族、ケットシーのララ。魔法剣士をしているの」

「俺はアルフォンス・ブライトナー。グロスハイムの魔術師ギルドに登録している精霊魔術師だよ。ララはどうしてゴブリンに追われていたんだい?」

「私がケットシーの村を出て旅をしていた時、二本のダガーを扱うゴブリンと出会ったの。ゴブリンはきっと私のレイピアを狙っているんだわ」

「レイピア?」

「そう。このレイピアはジルベール家の家宝なの」


 ララは腰に差しているレイピアを俺に見せた。

 素材は白金だろうか、鞘には豪華な金の装飾が施されている。

 柄には緑色の魔石が嵌っている。

 強い風の魔力が、魔石の中で楽しげに動いている。


「俺もさっき双剣のゴブリンと戦ったけど、どうも普通のゴブリンより知能が高い気がしたよ。二本のダガーの連撃を防ぐだけで反撃までは出来なかった。あのゴブリンは仲間に対して撤退を命令していたし。きっとゴブリンの指揮官の様な存在なんだろう」

「そうね……とんでもないモンスターに目をつけられてしまった。ケットシーの村、クローデンを出てからずっと狙われているの……」

「大変なモンスターに狙われているんだね。ララは旅をしているのかい?」

「ええ。私は偉大な魔法剣士になるために、剣術の旅をしている」


 ララは俺の腕の中で目を瞑って頬ずりした。

 大きな猫の様でとても可愛らしいな。

 俺はしばらく白くて美しい猫耳をモフモフしていた。

 心が落ち着くな……。

 フリッツ村を出てから、モンスターとの戦いに身を置き、森の中で野営をし、体も心も休まる事も無かった。

 なんだかララとは良い仲間になれそうだ。


「ララ。俺はゴブリンの脅威に怯えながら生きるなんてまっぴらごめんだ。次に双剣のゴブリンと出会ったら、必ず俺が仕留めるよ」

「本当? 一緒に戦ってくれるの?」

「ああ。勿論だよ。ゴブリンを倒すまで、しばらく俺と一緒に居てくれるかい? 二人で居た方が安全だろう?」

「そうだね……私もそうしたい! アルフォンスと一緒に居たい!」

「うん。ありがとう。ララ」


 俺はララの頭を撫でると、ララは俺の体を強く抱きしめた。

 声や話し方は少女の様だが、見た目は完璧な猫だ。

 可愛らしい猫の仲間が出来るとは。

 これは運が良い。


 しばらくララを抱きしめていると、ララは俺の鞄に鼻を近づけた。

 まるで普通の猫の様に、4足歩行をしながら俺の鞄の匂いを嗅いでいる。

 そういえば、ララは荷物を何一つ持っていないのだな……。


「アルフォンス……私はお腹が空いているの」

「そうか。食べ物なら沢山あるから、好きなだけ食べると良いよ」


 俺は乾燥肉と堅焼きビスケット、チーズを取り出してララに渡した。

 ララはモフモフした手で受け取ると、器用に食べ物を掴んで食事を始めた。

 こうしていると人間の様だが、たまに猫にしか見えない時がある。

 ケットシーとはなんとも不思議な生き物だ。

 しかし、会話できる仲間が居るとはこんなに楽しい事なのか。


「ララは魔法剣士なんだよね? どんな戦い方をするんだい?」

「私の戦い方は、レイピアに風の魔力を纏わせて敵を切り裂く。風の魔力はレイピアの攻撃力を何倍にも増幅させるの。だけど私はまだ駆け出しの魔法剣士だから、戦闘中に魔力が枯渇してしまうの」

「俺も似たようなものだよ。さっきのゴブリンの襲撃で、体力も魔力も使い果たしてしまった。魔法を使えるようになってから、まだ二週間も経っていないんだ」

「え? そんな……今まで魔法が使えなかったの?」


 ララは食事をする手を止めて俺を見つめた。

 この子には自分の事情を話しておこうか。

 俺は十五歳まで魔法が一切使えなかった事や、ベルギウス氏から加護を頂いた事など、旅に出てからの話を全て聞かせた。

 ララは相槌を打ちながら真剣に俺の話を聞いてくれた。


「アルフォンスはベルギウスの加護を守るために、フォルスターという村を買い取り、再生しなければならないのね」

「そういう事だよ」

「私も手伝おうか……? フォルスターにはモンスターが巣食っているのでしょう?」

「それはそうだけど。良いのかい?」

「うん。私もフォルスターのモンスターを狩って剣の腕を磨くわ。だって、どこのモンスターを狩っても同じだからね。アルフォンスには命を助けて貰ったし……恩返しのためにも、私はあなたの剣になるわ」

「恩返しだなんて、俺は当然の事をしただけだよ。俺は今まで一人だったから、こうしてララと話しているだけでも楽しいんだ。だから、しばらく一緒に居てくれると嬉しいな……」


 俺がそう言うと、ララは俺の胸に飛び込んできた。

 嬉しそうに頬ずりしながら、俺の体に抱きついている。

 そんな俺に対し、卵は寂しそうに魔力を放ってきた。

 優しい氷の魔力が俺の体に流れる。


 俺はララを膝の上に乗せ、卵をララに渡した。

 ララが卵を持つと、強烈な風の魔力が発生した。

 これがララの魔法か……。

 加護によって得た力ではなく、幼い頃から鍛えてきた本物の力だ。

 羨ましい。

 俺も自分自身を更に鍛えなければ。

 卵の氷の魔力と、ララの風の魔力が融合して、洞窟の中には涼しい風が吹いた。


「ララ。今日はこの洞窟で休んで、明日からはフォルスターに向けて移動するよ。きっと双剣のゴブリンとは再び剣を交える事になると思う。俺はグロスハイムでゴブリンとスケルトンの討伐クエストを受けているから、道中でモンスターの棲家を見つけたら、積極的に戦いを挑むつもりだよ」

「うん……私はもう眠いよ……アルフォンス」


 ララの頭を撫でながら話しかけると、ララは心地よさそうに目を瞑り、眠りに就いた。

 そろそろ俺も休むとしよう。

 洞窟のゴツゴツした地面に服を敷いて、卵とララを抱きしめながら眠りに就いた……。



「アルフォンス……」


 誰かが俺を呼んでいる。

 ララか……?

 ゆっくりと目を開けて起きると、俺の腕の中には小さなモンスターが居た。

 人間の様な見た目をしているが、背中にはドラゴンの翼が生えている。

 このモンスターはドラゴニュートか?

 人間とドラゴンの中間種。


 雪のような白い肌に、艶のある銀髪。

 紫色の目に白い翼。

 心地の良い冷気を目の前に居るモンスターから感じる。

 どう見ても人間にしか見えない、背中から翼の生えたモンスターが俺を見つめている。


「アルフォンス……」


 まさか、卵が孵化したのか?

 これは運が良い!

 今は仲間が多ければ多いほど良い。

 それに、ドラゴニュートの魔力は明らかに俺を上回っている。


「どうしたの……アルフォンス……」


 ララが眠たそうに起き上がると、驚いた表情を浮かべてドラゴニュートを見た。

 少女の様なモンスターは、俺の胸の中に飛び込んでくると、嬉しそうに俺を見上げた。

 身長は四十センチ程だろうか。

 生まれたばかりなのに会話が出来るとは。

 かなり知能が高いモンスターなのだろう。


「アルフォンス。卵が孵化したの? 強い氷の魔力を感じる」

「そうみたいだね。俺達の仲間が増えたよ!」

「ゴブリンと戦うなら、仲間は一人でも多い方が良いからね」

「その通りだね。こんなに早く孵化するとは……」


 俺の腕の中に居る小さなドラゴニュートは、俺とララの会話を楽しそうに聞いている。

 性格は温厚なのだろう、優しそうな笑みを浮かべている。


「アルフォンス。名前を付けてあげたら?」

「そうだね……この子に合う美しい名前が必要だね。リーゼロッテなんてどうだろう?」


 俺が名前を提案すると、ドラゴニュートは嬉しそうに頷いた。


「リーゼ……リーゼ!」

「ああ。君はこれからリーゼロッテだよ」

「リーゼロッテ! リーゼロッテ!」


 楽しそうに何度も自分の名前を呼んでいる。

 名前まで一発で覚えてしまうとは。

 人間よりも遥かに高い知能を持っているに違い無い。


「リーゼロッテ。俺達はフォルスターという村を目指して、これから移動するんだよ」

「知ってる。卵の中で全部聞いてたから」

「え?」

「言葉も卵の中で覚えた……アルフォンスが何度も話しかけてくれたから」


 信じられない。

 この子はとてつもなく高度な知能を持つモンスターなのだ。

 大切に育てなければ。


「アルフォンス。お腹すいたよ」

「今準備するよ。リーゼロッテはララと一緒に待っていておくれ」

「わかった!」


 リーゼロッテ小さな翼を広げて飛び上がると、ララの肩の上に飛び乗った。

 ケットシーと人間とドラゴンの中間種、ドラゴニュートか。

 素晴らしい仲間が増えてなによりだ。

 俺はすぐに朝食の支度を始めた……。

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