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第六話「旅支度」

 グロスハイムの中心部、宿屋が立ち並ぶ通りを歩いていると、俺は一軒の宿を見つけた。

 三階建ての宿で一階が酒場になっているのだろうか、冒険者の様な身なりの人達が楽しそうにお酒を飲んでいる。

 俺は宿の受付に進むと、中年の男性が卵を見つめた。


「一泊15ガルドだよ」

「それじゃ、一泊だけお願いします」


 俺は代金を支払うと、鍵を受け取ってから部屋に向かった。

 部屋は三階の一番奥の部屋だ。

 俺は卵を抱えながら、部屋の扉を開けた。

 暖色系のインテリアで統一されている雰囲気の良い部屋だ。

 部屋の天井にはランプが掛かっており、ランプの中ではファイアの魔法がユラユラと揺れている。

 魔法の炎か……。

 部屋には小さなベッドとソファ、テーブル、それから浴室まで付いている。


 俺は卵をベッドに置いて、荷物を下ろした。

 今日は色々あったな……。

 武具屋のバイエルさんとの出会い。

 魔術師ギルドのアンジェラさんに、酒場のダイスラーさん。

 それから育成師のファッシュさんに、フォルスターの権利を持っているアイクさん。

 一日でこれ程多くの人と出会えるとは。

 この町に来て良かった……。

 俺はベッドに寝そべりながら、卵に魔力を込めた。


「一体君はどんなモンスターなんだろう。俺の助けになる強いモンスターなら嬉しいけど……」


 魔力を注ぎながら話しかけると、卵の中からは返事をするかの様に、心地良い氷の魔力が返ってきた。

 早くこの卵が孵化してくれれば、仲間が増えてありがたいのだが、ゆっくり時間を掛けて魔力を注ぎながら孵化を待とう。

 俺は浴室に入り、久しぶりに湯に浸かった。

 浴槽の蛇口には魔法が掛かっているのか、蛇口をひねるだけで温かいお湯が出てくる。 

 きっと蛇口にウォーターの魔法とファイアの魔法が掛かっているのだろう。

 便利な魔法道具だ。


 ゆっくりと湯に浸かりながら、今後の人生設計を練る。

 まずは明日の早朝に魔術師ギルドに行き、アンジェラさんからクエストを受ける。

 モンスターを討伐して魔法を習得しつつ、お金を稼ぎながらフォルスターを目指す。

 野営をして宿代を浮かせながら、剣と魔法の訓練をする。


 まずはフォルスターに行かなければならない。

 廃村にどれだけ強いモンスターが蔓延っているのか、確認する必要があるからな。

 アイクさんの話では、フォルスターはグロスハイムから徒歩で五日、グロスハイムの南の森の中にあるのだとか。

 明日からも忙しくなるな。

 俺は卵を抱きながら横になっていると、いつの間にか眠りに落ちていた……。



 朝、目が覚めると卵は優しい魔力を放っていた。

 まるで朝の挨拶でもしている様だ。


「おはよう。今日は魔術師ギルドにクエストを受けに行くよ」


 不思議な事に、俺が話しかけると卵は魔力を使って返事をする。

 俺は部屋で簡単に朝食を済ませてから、すぐに宿を出た。

 まずは魔術師ギルドに向かってクエストを受ける。

 フォルスターに向かうまでの道で遂行出来そうなクエストを選んだ方が、一度の移動で二つの用事を済ませられるからな。


 朝のグロスハイムを、ゆっくりと観光しながら歩く。

 今日からついにフォルスターに向かうのだ。

 精霊の錬金術師、ジェラルド・ベルギウス氏が、加護の対価として提示した条件である村の再生とは、どこまで再生すれば良いのか聞いておけば良かった。

 フォレスターで彼の墓を見つけたら、村の再生について話をしよう。

 あれこれ考え事をしながら歩いていると、魔術師ギルドに到着した。



 魔術師ギルドの扉を開けると、香ばしい紅茶の香りがした。

 アンジェラさんが朝から紅茶を飲んでいるようだ。

 俺はすぐにカウンターに向かってクエストを受ける事にした。


「おはようございます! アンジェラさん」

「おはよう、アルフォンス。あなたの事を待っていたわ」

「クエストについてなのですが。グロスハイムからフォルスターに向かう道中にこなせるものってありますか?」

「ええ、勿論あるわよ。アルフォンスのレベルから考えれば……スケルトンの討伐。一体につき3ガルド」

「スケルトンですか?」

「ええ、マナシールドという防御魔法を使う知能の低いモンスターよ。生息数も多いし、フォルスターに向かうなら、移動をしながら討伐出来ると思うわ」


 スケルトンは闇属性の魔力が蔓延する地域に巣食う悪質なモンスターだ。

 人間を容赦なく襲い、金品を奪う。

 スケルトンの討伐か……。

 人間を襲うスケルトンを狩る事によって、地域がより安全になるなら、受ける価値がありそうだ。


「スケルトンって、何体倒してもいいんですか?」

「ええ、構わないわ。スケルトンを倒したら、右手でスケルトンの死骸に触れながら、左手にギルドカードを持つと討伐数が記録されるわ。ギルドカードに死んだスケルトンの魔力が流れると、討伐の証明になる仕組みになっているの」

「それは画期的ですね! 他に俺が挑戦できるモンスターは居ませんか?」

「そうね……あとはゴブリンかしら。ゴブリンなら一体につき2ガルド。それから、モンスターの討伐数が三千体を超えると、グロスハイムから勲章が授与されるわ」

「勲章ですか?」

「ええ。モンスター討伐によって地域に貢献した者だけが装備出来る勲章よ。グロスハイム防衛章という勲章なのだけど、その勲章を装備しているだけで、グロスハイムの大半の店では割引になるの」

「それは凄いですね……」


 モンスター討伐が三千体か……。

 一体何年掛かるのだろうか。

 だが、三千体を目標にするのも良いかもしれないな。


「クエストを受けた上で、クエストの対象となるモンスターを三千体討伐する必要があるわ。地域を守るために討伐クエストを受け、モンスターを倒し続け者ただけに与えられる、非常に名誉な勲章なのよ」

「三千体ですか……俺、挑戦してみます! ゴブリン討伐とスケルトン討伐のクエストを受けさせて下さい」

「わかったわ。それではギルドカードをカウンターに置いて頂戴」


 俺がギルドカードをカウンターに載せると、アンジェラさんは杖を抜いた。

 杖をギルドカードに向けて魔力を注ぐと、ギルドカードには新たに進行中のクエストの項目が表示された。

 これでフォルスターを目指して移動を始めれば良いのだろう。


 アイクさんからソロモンの指輪を二週間借りている訳だから、残り十三日。

 十三日でフォルスターの状態を調べ、グロスハイムに戻らなければならない。

 徒歩で五日の距離にあるのだから、往復で十日。

 かなり余裕がないスケジュールだな。


 馬でも居れば良いのだが……。

 今は馬を買うお金も借りるお金も無い。

 モンスターの卵を買ってしまったから、金銭的な余裕がなくなってしまった。

 フォルスターまでの道中で大量のモンスターを狩り、一気にお金を稼がなければならないな。

 早くこの卵が孵化してくれれば良いのだが。


「アルフォンス。くれぐれも気をつけてね……アルフォンスはメテオストライクの様な強力な魔法が使えるから大丈夫だとは思うけれど。そうだ、これは私からのプレゼント。良かったら使って欲しいな」

「え? プレゼントですか?」


 アンジェラさんは小さな袋を俺に差し出した。

 袋の中を開けてみると、魔力を回復させるマナポーションが入っていた。

 これはありがたい。


「マナポーションですか。ありがとうございます! アンジェラさん」

「いいのよ。私にはこれくらいしか出来ないけれど……アルフォンスの帰りを待っているわね」

「はい。二週間以内に戻ります! それでは俺はこれから出発します」

「気をつけて行ってらっしゃい……アルフォンス」


 アンジェラさんは少し寂しそうな表情を浮かべて俺を見送ってくれた。

 魔術師ギルドを出た俺は、旅の食料を買うために、正門付近の商業施設が立ち並ぶ通りに戻った。

 俺は冒険者向けの道具屋で、保存が利く食料を買い足した。

 ソロモンの指輪を返却するまでの十三日間を、全てモンスターとの戦いに身を置くつもりだ。

 フォルスターまでの旅で、徹底的にゴブリンとスケルトンを狩り、己の剣の技術と魔法を磨く。

 次にグロスハイムに戻るのは十三日後だ。


 俺は鞄に入るだけの食料を買い足して、使う機会のない炎の杖を売った。

 今回は堅焼きパンの量を減らして、薄くて栄養価の高い堅焼きビスケットを多めに持つ事にした。

 生地に乾燥フルーツが練り込まれており、通常の堅焼きビスケットよりは値段が高いが、ビタミンが豊富なのだとか。

 それからスパゲッティの麺と調味料を買い込んだ。

 スパゲッティは堅焼きパンよりもタンパク質が多く、乾燥した状態なら重量も軽いので、長距離の移動に適していると思ったからだ。


 旅の荷物は軽ければ軽い程良い。

 体に掛かる負担を軽減出来るからだ。

 しかし、馬を使わずに一人で運べる重量は限られている。

 それに今回は旅の荷物以外の卵も運ばなければならない。

 荷物と卵が合計で十五キロ程だろうか。

 これ以上荷物持てば、不意の敵襲に対する反応が遅くなるだろう。

 荷物の準備を終えた俺は、ついにフォルスターに向けて出発した……。

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