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第五話「廃村の権利」

 ついに酒場でアイクさんを見つけた俺は、席を移動してアイクさんの隣に座った。

 フォルスターの権利を譲って貰えるように交渉しなければならないな。


「何か御用かな。小さな魔術師さん」

「え? どうして魔術師だって分かるんですか?」

「商人の感だよ。装備を見ればすぐに分かる」

「凄いですね……実はあなたに用があって来たんです。俺はアルフォンス・ブライトナーです」

「グレゴール・アイクだ。俺に用がある奴なんて、借金の取り立て人しか居ないと思っていたが」

「実は、あなたがフォルスターという村の権利を持っていると聞いたので、権利を譲って頂きたくて来たんです」

「なんだって! あの廃村を?」


 アイクさんはお酒が入ったゴブレットをテーブルに叩きつけて、嬉しそうに俺の顔を見た。

 借金を背負っている身で、買い手がつかない財産を買い取ろうとしている知らせに歓喜している様子だ。


「あの村は商人の仲間から貰った土地なんだ。かつては精霊が暮らしていたと聞くが、今ではモンスターしか寄り付かない土地さ。アンデッド系のモンスターの棲家になっているのだが、いくら倒しても俺の土地に侵入するのを止めない。モンスターに目を付けられているのだろうな」

「そうなんですか……」

「あの土地には1ガルドの価値も無い。どうしてあんな土地を欲しがるのか、俺には理解出来んな……」

「実は、知人からフォルスターの再生を頼まれているんです。俺はあなたからフォルスターを買い取って、モンスターを駆逐し、村を再生しなければならないんです」

「茨の道を歩む事になるぞ……若き魔術師よ」

「それでも良いんです。俺は大切な力を頂く代わりにフォルスターを再生すると、ある人と約束したのですから」

「話を詳しく聞かせてくれないかね?」


 俺はアイクさんに葡萄酒をご馳走して、これまでの経緯を説明した。

 十五歳の誕生日にフリッツ村を出てグロスハイムを目指していた時、精霊の錬金術師の加護を頂いた事。

 加護を得る代わりに、フォルスターを再生しなけれなならない事を伝えた。


「モンスターでも幼い子供でも魔法を使えるのに、生まれてから十五歳まで自力で魔法が使えなかった。魔術師を目指して旅に出た時、精霊ベルギウスの加護を頂いて魔法を使えるようになったと」

「そういう事です」

「モンスターの魔法を習得出来る魔術師か……これは面白い事になりそうだ。若者よ、フォルスターの土地を譲ろう」

「え? 本当ですか?」

「ただし条件がある。俺は今、多額の借金を抱えているのだ。その借金を代わりに返済してくれるという条件なら、フォルスターの権利を譲ろう」

「借金の金額はいくらですか?」

「三万ガルドだ」

「三万? そんな大金用意出来ませんよ!」


 三万ガルド稼ぐには、どれだけ働かなければならないのだろうか。

 十日間、ゴブリンの装備を集めてやっと90ガルド手に入れたというのに。

 アイクさんは微笑みながら懐に手を入れ、小さな指輪を取り出した。

 俺に指輪を見せると、声を潜めて話し始めた。


「ソロモンの指輪という魔法道具を知っているか? これはモンスターと意思疎通できる指輪なのだ。装備した瞬間から、全てのモンスターと会話が可能になる。もし俺の借金を肩代わりしてくれるのなら、この指輪を譲ろう」

「え……? この指輪とフォルスターの権利が三万ガルドという事ですか?」

「そういう事だ。この指輪を使ってモンスターを操り、お金を稼ぐのも良いだろう。俺は多額の借金を負う身、自分でこの指輪を使ってお金を稼ごうにも、借金の取り立て人から監視されている。グロスハイムから出る事すら出来ないのだ。モンスターと戦う力を持つ者が、大量のモンスターを従えてモンスターを狩り続ければ、三万ガルドはすぐに稼げるだろう」

「この指輪を売れば借金を返せるのではありませんか?」

「俺は商人としての信用を完璧に失っているのだ。借金を返済するまでは、まともな商人なら俺と取引はしないだろうな」

「そういう事ですか」


 三万ガルドの借金を肩代わりすれば、フォルスターの権利と、モンスターと会話が出来る指輪が手に入る。

 そして、権利を買わなければ、俺は自分に与えられたベルギウスの加護を失う事になる。

 人生で二度と魔法が使えなくなるという訳だ。

 三万ガルドか……。

 挑戦してみるか。


「その指輪、少しだけ借りても良いですか? まずは効果を知りたいです」

「良いだろう。今日から二週間この指輪を貸す。実際に指輪の効果を確認し、土地を見てからフォルスターの権利を買うのか決めてくれ」

「わかりました」


 俺はアイクさんからソロモン指輪と、フォルスターの場所が書かれた地図を受け取った。

 まずはソロモンの指輪の効果を調べなければならない。

 モンスターと意思疎通出来るのなら、強いモンスターを見つけて俺の仲間になって貰えば良い。

 仲間が多ければ狩りの効率も上がるだろう。

 俺はアイクさんにお礼を言ってから酒場を出た。


 ソロモンの指輪を嵌めると、心地良い魔力が体に流れてきた。

 早速モンスターを扱うお店に行ってみようか。

 モンスターを飼いならしてパーティーとして行動すれば、今以上に効率良くお金を稼げるだろう。

 俺は正門付近の商業施設が立ち並ぶ通りに戻った。

 しばらく店を見て歩いていると、俺は一軒のモンスター屋を見つけた。

 店のショーウィンドウにはモンスターの卵が飾られてる。

 この店に入ってみようか。


 店の中は、見た事もないモンスターが所狭しと展示されている。

 見慣れたゴブリンやスライムの姿もある。

 どのモンスターも比較的高価で、値段は500ガルド以上だ。

 俺の手持ちでは厳しい金額だな……。

 もっと安く買えるモンスターが居れば良いのだが……。


「いらっしゃい。初めてのお客さんだね」

「はい。俺はアルフォンス・ブライトナーです。魔術師ギルドに登録しています」

「俺はマティアス・ファッシュだ。モンスターの育成と販売をしている。今日は何をお探しかな?」

「実は、一緒に狩りが出来るモンスターを探しているのですが」


 四十代前半だろうか、赤い髪を肩まで伸ばしている。

 そして、肩はモンスターを乗せている。

 ガーゴイルだろうか、石のような肌で目は青い。

 頭には二本の美しい角が生えていて、人間と同様の四肢を持つ。


「ガーゴイルですか?」

「ああ。一週間前にダンジョンで出会ったのだ。怪我をして弱っていたところを助けたら、すっかり気に入られてしまってな」

「モンスターが人間を好く事もあるんですね」

「うむ。人間と敵対していない種族のモンスターは、人間と共に生きる事も珍しくない。ガーゴイルは比較的知能も高く、魔力も高い。ガーゴイルを飼っている冒険者も多いのだぞ」

「仲間に出来るのは人間と敵対していない種族のモンスターに限りますか?」

「そんな事はない。信頼関係があれば、どんなモンスターでも仲間になる可能性はある」

「そうなんですね」


 俺はふとファッシュさんの肩の上のガーゴイルを見つめると、ガーゴイルは俺の肩の上に飛び乗った。


「お前……人間とは違う魔力を感じる!」

「え?」

「お前の言葉が分かるぞ! 人間!」

「まさか……」


 俺は今、ガーゴイルと会話をしているのだろうか。

 信じられないが、これがソロモンの指輪の効果なのだろう。


「お前、人間なのにどうしてガーゴイルの俺と会話出来るのだ?」

「それは……ソロモンの指輪のお陰なんだよ。モンスターと会話出来る指輪なんだ」

「そんなアイテムがあるのか。俺はずっとファッシュさんにお礼が言いたかったんだ。助けてくれてありがとうと伝えてくれるかい?」

「ああ、勿論いいよ」


 俺はガーゴイルをファッシュにさんに返すと、俺達の会話を聞いてたファッシュさんは愕然として表情で俺を見つめた。


「ファッシュさん。ガーゴイルが『助けてくれてありがとう』と言っていましたよ」

「まさか……ガーゴイルの言葉が分かるのか?」

「はい、わかります」

「信じられない! どこでガーゴイルの言葉を学んだのだ?」


 もしかして、ソロモンの指輪はかなり高価な魔法道具なのではないだろうか。

 この指輪はモンスターを扱う仕事をしている人にとっては価値ある物だろう。

 指輪を借りている俺が、アイクさんの指輪の効果を他人に教えるのはまずい。

 ここは適当にはぐらかしておこう。


「以前本で読んだのですよ。挨拶程度なら分かります」

「そういう事か。しかし、ガーゴイル語を理解出来る魔術師が居るとは、何とも不思議なものだな。それで、モンスターを探しているのだったな。予算や好みの属性はあるか?」

「予算は200ガルドなんですが……」

「200ガルドか。うちの店にはそこまで安いモンスターは居ないのだが……モンスターの卵ならいくつか売れる物があるぞ」

「卵ですか?」

「うむ。ダンジョン内で拾った卵だ。この三つの卵なら、どれでも200ガルドで譲ろう」

「卵の中身はなんですか?」

「それが俺にも分からないのだ。二つの卵からは強い闇の魔力を感じる、残る一つの卵は氷の魔力を持っている様だ」


 ファッシュさんは卵をカウンターの上に載せると、闇属性の卵が俺に対して魔力を放ってきた。

 恐ろしい卵だな……。

 鋭い殺気の様な魔力を感じる。

 この卵には関わらない方が良いだろう。


 俺は残る一つの卵の上に手を置いた。

 心地の良い氷の魔力が俺の体に流れてきた。

 なんだかこの卵は俺に心を許してくれて居る様だ。

 試しに闇属性の卵に手を触れてみると、禍々しい魔力が俺の手に流れてきた。

 瞬間、俺は身の危険を感じた。

 これはまずい……。

 強烈な殺気を感じる。


「ファッシュさん。闇属性の卵は、ここに置いておいたら危険かもしれませんよ」

「それはどうしてだ?」

「説明は出来ませんが、強い殺意の様な魔力を感じます。孵化したらファッシュさんを襲うかもしれません……」

「ふむ……ガーゴイルと会話出来る小さな魔術師は、卵の中の魔力まで感じ取れるのか。アルフォンスといったかな? 君は将来偉大な魔術師になるだろう。モンスターの仲間を増やせば、偉大な冒険者にもなれる」

「え? 本当ですか?」

「ああ。間違いない。モンスターの育成に精通している育成師以外には、卵の中の魔力を感じる事は出来ない。長年モンスターと触れ合ってきた者以外にはな。ご忠告ありがとう。この卵は後で処分する事にしよう」

「それじゃ、俺は氷属性の卵を頂いてもいいですか? 200ガルドですよね」

「うむ。勿論いいとも」


 俺は代金を支払って、卵を受け取った。

 高い買い物だったが、仲間が一匹増えるんだ。

 大切に育てて強いモンスターになって貰おう。


「アルフォンス。卵は育成師の魔力を糧に成長する。卵に魔力を注げば注ぐ程、生まれてくるモンスターは強靭になり、孵化までの期間も短縮される」

「魔力を注ぐんですか? その際、どんな属性の魔力を注げば良いのでしょうか」

「無属性で構わないぞ。卵に手を当てて自分の魔力を注ぐのだ」

「そうですか……わかりました。色々教えて下さってありがとうございます! 卵が孵化しからまた来ますね!」

「うむ。楽しみに待っているぞ」


 俺は卵を抱きかかえて店を出た。

 しかし、随分大きいのだな。

 一体どんなモンスターが生まれるのだろうか。

 楽しみで仕方がないな。


 外はすっかり暗くなってしまった。

 俺は急いで今夜の宿を探す事にした……。

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