第三話「魔法都市グロスハイム」
俺は茂みに姿を隠したまま、ゴブリン達の頭上にメテオを作り上げる事にした。
予め剣を抜き、右手で構える。
左手を上空に向けて、魔法の完成形をイメージする。
体から魔力を振り絞り、魔法を作り上げる。
「メテオストライク……」
小声で魔法を唱えると、上空には炎を纏う岩が現れた。
左手を振り下ろし、ゴブリンの群れに向けると、岩は物凄い速度で落下を始めた。
俺が放ったメテオは偶然にもゴブリンの鍋の中央に落ちた。
鍋の中の料理が飛び散り、四体のゴブリン達が一斉に武器を抜いた。
どのゴブリンもダガーを使うのだろうか。
右手にはダガーを、左手には魔力を溜めている。
一体のファイアゴブリンが、俺が隠れている茂みに炎を飛ばしてきた。
ファイアゴブリンの炎が放たれた瞬間、俺は同時に魔法を唱えた。
「ファイア!」
俺の炎とファイアゴブリンの炎が空中で激突した。
威力は若干俺の方が高いのだろうか、ファイアゴブリンの炎を押している。
だが、俺の魔力は既に枯渇状態だ。
全ての魔力を使い果たす前に決着をつけなければならない。
俺は急いでファイアの魔法を解除し、ブロードソードでファイアゴブリンに切りかかった。
ファイアゴブリンはダガーで俺の攻撃受け止めたが、俺の力ずくの一撃に耐えられなかったのか、ダガーを落とした。
俺は敵の隙きを見逃さなかった。
瞬時に鋭い突きを放ち、ファイアゴブリンの腹部を貫いた。
まずは一体……。
これ以上戦闘を長引かせるのは危険だ。
残る敵はゴブリンが二体、ファイアゴブリンが一体。
ファイアゴブリンは俺に向けてファイアを放つも、俺はブロードソードを振り下ろして、魔法を切り裂いた。
最後の魔法を使おう。
俺はファイアゴブリンに対してメテオを落とす事にした。
左手を頭上高く上げ、魔力を放出する。
「メテオストライク!」
魔法を唱えた瞬間、炎を纏う岩がファイアゴブリンの頭部に激突した。
俺の魔法は、ゴブリン程度なら一撃で倒せる威力があるようだ。
しかし、俺は今の一撃で全ての魔力を使い果たしてしまった。
これ以上戦闘を長引かせる事は危険だ。
すぐにケリを付けなければ。
二体のゴブリンは仲間を殺されたからだろうか、怒り狂ってダガーの連撃を繰り出してきた。
俺はゴブリンのダガーの攻撃を受けながら、ゴブリンの左手に意識を集中させた。
ファイアゴブリンはファイアを使うが、通常のゴブリンはアースという土を放出する魔法を使う。
俺がゴブリンのダガーの攻撃を受けた時、片方のゴブリンが左手を俺に向けて魔力を放出させた。
瞬間、小さな土の塊が放たれた。
俺はゴブリンが放った土の塊を左手で殴りつけ、右手に構えたブロードソードで水平斬りを放った。
俺の水平斬りはゴブリンの腹部を深々と切り裂いた。
残り一体。
俺は残るゴブリンに対して剣を向けると、ゴブリンは恐れおののいた表情で逃げ出した。
「危なかった……」
体力と魔力の限界だ。
ゴブリン相手に手こずるとは情けない。
俺は戦利品を集めてから、急いでその場を離れた。
ゴブリンに見つからない場所で体力と魔力を回復させよう。
俺は手頃な木に登り、枝に鞄を掛けた。
太い幹に背中をつけ、鞄の中から堅焼きパンを取り出し、一口かじる。
それからドライフルーツが詰まった瓶を取り出し、色とりどりの小さなフルーツを口に放り込む。
ゆっくりと食事を摂りながら栄養を補給し、体力と魔力を回復させる。
魔力を回復させるには、栄養をしっかり摂り、体力が回復している状態になれば自然に回復すると、父さんは言っていた。
一時間ほど休憩してから、俺は再びグロスハイムを目指して歩き始めた。
魔力は多少回復したみたいだが、今日はモンスターとの戦闘は避けよう。
しかし、ゴブリン相手に手こずるとは……。
せめて仲間が一人でも居れば良いのだが。
グロスハイムに着いたら仲間を探してみようか。
俺の仲間になってくれる人が居るかどうかは分からないが……。
モンスターを買って育てるのも良いかもしれない。
グロスハイムには、モンスターを扱う店もあると聞いた。
その前に、まずは魔術師ギルドに行き、魔術師として登録しなければならない。
ギルドに登録すると、ゴブリンの討伐もクエストとして受ける事ができ、更に効率良くお金を稼げるのだとか。
しばらく森の中を歩き続けると、俺は下半身の筋肉に疲労を感じたので、早めに野営をする事にした。
まずは周囲にモンスターが潜んでいないか確認する。
それから木を集めて火を点け、ゆっくりと夕食を頂く。
夕食も堅焼きパンにチーズ、乾燥肉だ。
グロスハイムに着くまでは食料を節約しなければならない。
質素な食事だが、一口ずつ味わって食べると意外と美味しい。
それから俺は今日の戦利品を確認する事にした。
ゴブリン達が使っていた鋼鉄のダガーが四本。
現金は15ガルドだ。
ダガーが幾らで売れるかは分からないが、グロスハイムに持ち込むアイテムは多ければ多いほど良いだろう。
俺は魔力を回復させるために、早めに眠りに就く事にした……。
フリッツ村を出てから十日が経った。
森の中のメテオスライムやゴブリン、ファイアゴブリンを狩りながら進んでいると、俺はついに魔法都市グロスハイムに到着したのだ。
長かったな……。
ゴブリンが使用していたタガーやナイフ、シールド等が大量に手に入った。
まずはこのアイテムを売ってから、魔術師ギルドに向かおう。
立派な石の壁で囲まれた魔法都市は、フリッツ村とは比較にならないほど栄えている。
正門を抜けて町の中に入る。
町の中には綺麗な石畳が敷かれており、木造の美しい建物が並んでいる。
ここがこれから俺が暮らす町か……。
まずは森の中で大量に集めたアイテムを売ろう。
町の正門付近は、商業施設が立ち並ぶ商業区になっている。
魔術師の町とも呼ばれているグロスハイムには、魔法の杖の店や、魔導書の店。
ポーション作りに使用する素材の店など、様々な魔法関連の店が並んでいる。
俺は町をゆっくり見て回りながら、アイテムを売れそうな店を探した。
魔法関係の店が立ち並ぶ通りを抜けると、冒険者のための武具屋を見つけた。
木造の二階建ての建物で、ショーウィンドウには様々な武器が陳列されている。
店の名前は【バイエルの武具屋】。
この店に入ってみよう。
店の扉を開けて店内に入った。
店内には所狭しと、武器や防具が並べられている。
武器の種類が非常に豊富で、ショートソードやブロードソード。
グラディウスやカトラスの様な形状の剣まである。
防具も低価格な革製の物から、金の装飾が施された豪華な防具まで、様々なアイテムが並んでいる。
店のカウンターにはゆっくりと紅茶を飲む男性が居た。
この店の店主だろうか。
年齢は四十代ほど、革の鎧を身に着け、黒い髪を肩まで伸ばしている。
「いらっしゃい。冒険者かな?」
「いいえ。魔術師を目指している者なのですが」
「ほう。今日はどういった用事で?」
「アイテムの買い取りをお願いしたいのですが……」
「どれ、見せてごらん」
俺はカウンターの上に、集めたアイテムを並べた。
鋼鉄のダガーが十七本。
鉄のショートソードが二本。
青銅のシールドが一つ。
大量のアイテムをカウンターに載せると、店主はアイテムを一つずつ手に取って確認を始めた。
「これはゴブリンの鍛冶屋が製作した物だろうな。状態も比較的良い。どこで手に入れたんだい?」
「フリッツ村からグロスハイムまでの森の中で、ゴブリンを狩って手に入れたんです」
「そうか。なるべくなら高く買い取ってあげたいが、ここは魔術師の町だ。武器や防具の需要は少ないから、買い取りの価格も他の町に比べると下がってしまう」
「値段は気にしません。少しでもお金になれば嬉しいです」
「そうか……それじゃ全部で90ガルドでどうだろうか」
「え、そんなに頂けるんですか? ありがとうございます!」
思ったより高く買い取って貰えるんだな。
タダで手に入れたアイテムが90ガルドになるなんて。
ゴブリンよりも強いモンスターが使用するアイテムなら、もっと高額で買い取って貰えるに違いない。
俺は店主から代金を頂いてから、店の中を見て回った。
今は父さんから貰った白金のブロードソードと、ベルギウスの首飾りしか身に着けていない。
服装は普段の革のベストだ。
何か鎧の様な物があれば安全にモンスターを狩れるのだが、やはり魔術師を目指すならローブを身に付けた方が良いのだろうか?
新しい防具を買いたいがお金が無い……。
しばらくは今の格好で我慢しよう。
「ありがとうございました。またアイテムを売りに来ても良いですか?」
「ああ、いつでもおいで。俺はこの店の店主、ドミニク・バイエルだ。冒険者ギルドに登録している剣士だよ。レベルは32」
「俺はアルフォンス・ブライトナーです! レベルはまだ計った事が無いので分かりませんが。今日、これから魔術師ギルドに行って魔術師の登録をするつもりです」
「魔術師になるのだな。武器や防具を手に入れたらいつでも俺の店に来るんだぞ」
「ありがとうございます! バイエルさん! それでは失礼します」
俺はバイエルさんと握手を交わしてから店を出た。
さて、これからすぐに魔術師ギルドに向かおう。
俺は目的の魔術師ギルドを探しながら歩き始めた。
しかし、ゴブリン狩りはなかなか良い稼ぎになるな。
一人ではなくパーティーで行動すれば、更に効率良くアイテムを集められるかもしれない。
ギルドに登録したら仲間を募集してみようか。
それか、モンスターを販売している店で、仲間になってくれそうなモンスターを購入するのも良いだろう。
俺はこれからの魔術師としての生き方を考えながら、ゆっくりとグロスハイムの町を歩いた。
木造の小さな家が立ち並ぶ町を観光しながら歩いていると、ついに魔術師ギルドに辿り着いた。
二階建ての大きな木造の建物だ。
窓から室内を覗いてみると、ローブを身に纏う魔術師達が、ポーションを作成したり、魔導書を書いたりしていた。
ここが魔術師ギルドか。
やっと念願の魔術師登録が出来るんだ。
俺はすぐに魔術師ギルドの扉を開いた……。