第二十七話「勝者の宴」
フォルスターの再生を記念して、俺達は宴を開く事にした。
自宅に仲間達を招き、盛大に祝おう。
パーティーのメンバーとアンジェラさん、それからギルドマスターのティファニーさんを招いて宴を始めた。
木造の小さな家に仲間達が集まった。
アンジェラさんは手作りの肉料理を、ティファニーさんは葡萄酒を持ってきてくれた。
魔法道具屋の仕事を終えたギレーヌとグレゴールさんも駆けつけてくれた。
俺達はテーブルを囲む様に座り、早速宴を始める事にした。
「皆さん、今日はお忙しい中、集まって頂いてありがとうございます」
「堅苦しいぞ、アルフォンス」
ゲオルグが微笑みながら俺にウィンクをした。
「パーティーの目標であったフォルスターの再生は終わりました! これで俺の役目は終わりですが、これからは更にフォルスターが発展するように、皆の生活を支えながら生きていこうと思います」
俺は仲間達の顔を見つめた。
みんな俺の人生の目標に付き合ってくれた、かけがいのない仲間達だ。
フォルスターは再生し、仲間達は新しい生活を歩み始めているが、俺達が一つのパーティーである事は変わりない。
俺は今までに受けた恩を返すべく、仲間達がより豊かな生活を送れるように働くつもりだ。
俺は葡萄酒が入ったゴブレットを持ち、乾杯の音頭をとった。
宴が始まると、アンジェラさんは俺の隣の席に座った。
今日は深紅色のローブを着ていて、腰には杖を差している。
「アルフォンス。フォルスターの再生、おめでとう」
「ありがとうございます。これもアンジェラさんの協力のお陰ですよ」
「私は何もしていないわ。ただアルフォンスの魔術師としての人生をサポートしたかったから……」
「そうですか……それは、俺が魔術師ギルドのメンバーだからですか? それとも……」
俺に好意があるからですか? と聞けたら良いのだが。
グリムリーパーを討伐した後も、俺達は時間があれば食事をしたり、グロスハイムで一緒にお酒を飲んだりしていた。
次第にアンジェラさんに対する気持ちは強くなり、俺はついに決意した。
今日、アンジェラさんに告白しよう。
「アンジェラさん。ちょっと外の風にあたりましょうか」
「そうね……お酒が回ってきたみたい。体が熱いわ」
俺はアンジェラさんの手を取って外に出た。
家はフォルスターの中心に位置しており、周囲には従魔と魔術師が暮らす家が建っている。
「アンジェラさん。俺はアンジェラさんを見た時から、ずっとアンジェラさんの事を意識していました。こんなに素敵な女性と付き合えたら、どんなに良いかってずっと考えていたんです」
「……」
「アンジェラさん。ずっと好きでした。俺と付き合って下さい!」
アンジェラさんは驚いた様な表情を浮かべた後、俺を優しく抱きしめてくれた。
「ありがとう……私もあなたの事が好きよ。アルフォス……」
「アンジェラさん……!」
俺はアンジェラさんのしなやかな体を強く抱きしめた。
ついに人生で初めての恋人が出来たのだ。
やはりフリッツ村を出て魔術師を目指したのは正解だった。
幼い頃から魔法が使えない事を悩み続けていた俺は、十五歳の誕生日を迎えると、魔術師になる事を決意した。
魔術師になる方法は分からなかったが、小さな村でくすぶっているよりは、魔法都市で魔法に囲まれながら暮らした方が良いと思ったからだ。
炎の杖の様な、魔力を込めて魔法を発動させる道具を駆使して魔術師になろうと思っていた。
そんな時、俺はベルギウス氏が製作した首飾りを手に入れた。
最初はベルギウス氏から頂いた強大な力に振り回されていた。
魔法を使っても魔力が持たず、魔法本来の力を引き出す事も出来なかった。
だが、俺は自分の魔力を開花させるために、徹底的に魔法を練習した。
寝る時間を削り、遊びたい欲求を抑え、仲間を守るために己を鍛え続けた。
何か何でも魔術師になると、旅に出る前から決意していたからだ。
人生は決意した瞬間に変わるんだ……。
俺はアンジェラさんに口づけをした。
人生で初めての口づけだ。
アンジェラさんは俺の体を強く抱きしめ、俺達はしばらくお互いの愛を確認しあった。
「アルフォンス。これからどうするつもり?」
「そうですね。俺は幼い頃から魔術師になるのが夢でした。俺の夢は叶いましたが、これからも魔法の練習を続けるつもりですよ。俺はいつかレベル70を超える大魔術師になるんです」
「私はこれからもあなたの人生をサポートしてあげる。魔術師ギルドの職員としてではなく、一人の女として、恋人として……」
「ありがとうございます。アンジェラさん……」
宴を開いた日から、俺の人生は急速に動き始めた。
グロスハイムの魔術師ギルドのマスター、ティファニーさんの提案により、俺はフォルスターに新たに魔術師ギルドを設立する事になったのだ。
フォルスター周辺の治安の維持、魔術師の育成を目的とする、フォルスターの魔術師ギルドが誕生した。
俺はフォルスターの魔術師ギルドのマスターになり、魔石の力を使って新米の魔術師をサポートする生活を始めたのだ。
大陸中を回って凶悪なモンスターを討ち、様々な魔法を習得し、魔石として作り出す。
俺とキングが製作した魔石は、魔術師ギルドの新米魔術師の育成のために使用した。
魔法を使う感覚を魔石を用いた状態で教え、魔石が無い状態でも魔法が使えるように練習をする。
そうすると新たな魔法が習得出来るのだ。
地域に魔術師が増える事によって、フォルスターの防衛は強化され、廃村だったフォルスターには魔法教育を希望する魔術師が多く訪れるようになった。
俺はベルギウス氏から頂いた加護を活用し、ありとあらゆる魔法を習得し、魔石として後世に残す活動をしている。
モンスターのみが使用出来る魔法を、魔術師が習得する事により、新たな魔法が急速に普及し始めた。
アンジェラさんはフォルスターの魔術師ギルドの職員になり、フォルスターの魔術師をサポートしながら暮らしている。
リーゼロッテとヴィクトリア、ララは一年の大半をモンスター討伐と魔法の訓練に費やしている。
家に戻ってくる事は少ないが、モンスターを狩りながら旅をしているのだとか。
ゲオルグは理想のマイホームを完成させ、俺と共に魔術師ギルドで働いている。
ギルドにはゲオルグの剣技を学びに来る魔術師や冒険者も多い。
彼はゴブリンなのだが、人間を助けながら生きているので、ゲオルグを慕う人も多い。
ギレーヌとグレゴールさんは共に魔法道具屋を経営している。
二人は共にいる時間が長いからだろうか、交際はしていないが、恋人同士の様な関係だ。
フォルスターを再生してから二年後、俺はアンジェラさんと結婚した。
これから俺とアンジェラさんの新たな生活が始まる……。