第二十六話「決戦」
空を覆い尽くすほどの無数のレッサーデーモンと、巨大な棍棒を持つモンスター。
以前、モンスターに関する書物で一度目にしたことがある。
闇属性、レベル45。
一つ目の怪物、サイクロプス。
薄紫色の肌に筋骨隆々の肉体。
身長は五メートル以上あるだろう。
黒い金属から作られた鎧で全身を覆っている。
どうしてこれ程までに悪質なモンスターが、フォルスター付近に潜んで居るんだ?
今はそんな事を考えている場合ではない。
リーゼロッテは瞬時にレッサーデーモンの群れに対してブリザードを放ち、一撃で全ての敵を地上に落とした。
まるでデュラハンと戦った時の様な状況だ。
サイクロプスの出現に気を取られた瞬間、グリムリーパーの大鎌が俺の左腕を切り裂いた。
深々と切り裂かれた腕からは大量の血が滴り落ちた。
俺の左腕には経験した事もない激痛が走った。
すぐに回復させなければ……。
キングは俺の足元に飛び降りると、俺の腕に対して回復魔法を唱えた。
腕の傷は塞がったが、体中から脂汗が吹き出している。
魔力も集中力も限界だ……。
サイクロプスは俺を標的に決めたのか、巨大な棍棒を振り上げた瞬間、ヴィクトリアとゲオルグが姿を現した。
ゲオルグはサイクロプスの足首に対してダガーの連撃を放ち、アキレス腱を切断した。
姿勢を崩したサイクロプスが地面に倒れた瞬間、ヴィクトリアはファイアボルトを連射し、サイクロプスの体に風穴を開けた。
激痛にのたうち回るサイクロプスは、棍棒を振り回してゲオルグに攻撃を仕掛けるも、ゲオルグはサイクロプスの攻撃を回避し、サイクロプスの体に飛び乗った。
ゲオルグはサイクロプスの体を駆け上がると、二本のダガーを巨大な目に突き刺した。
グリムリーパーは俺に対して大鎌の一撃を放ったが、俺は咄嗟にしゃがんで敵の攻撃を回避し、瞬時に敵の懐に飛び込んで突きを放った。
剣を突き刺した状態で、ありったけの炎の魔力を込める。
「ファイア!」
全身から掻き集めた炎を剣に吹き込むと、グリムリーパーの体は爆発した。
辺りにはグリーパーのローブが飛び散り、闇の魔力が雪の様に舞った。
俺がグリムリーパーを倒した時、リーゼロッテも同時にグリムリーパーを倒した様だ。
リーゼロッテが豪快にグリムリーパーの頭部を殴りつけると、いとも簡単にグリムリーパーは息絶えた。
信じられない力技だな……。
グレゴールさんとララもなんとかグリムリーパーを倒し、地上に蔓延るレッサーデーモンと戦っている。
俺がこの戦いを終わらせなければ。
ゲオルグに目を潰され、怒り狂うサイクロプスは、巨大な棍棒を振り回して自分の周囲の建物を吹き飛ばした。
あの棍棒の一撃を喰らえば、たちまちで命を落とすだろう。
ヴィクトリアは俺の肩の上に乗り、次々と炎の矢を飛ばしてサイクロプスに攻撃を仕掛けている。
ヴィクトリアの攻撃を体中に受けたサイクロプスは、怒り狂って棍棒を振り回した。
ゲオルグはサイクロプスの攻撃を回避すると、瞬時に距離を詰めてダガーの攻撃を仕掛けた。
瞬間、サイクロプスは棍棒を投げ捨て、ゲオルグの体を両手で掴んだ。
まずい……あのままではゲオルグがやられてしまう!
俺は全ての魔力を掻き集めて、上空にメテオを作り上げた。
「メテオストライク!」
魔法を唱えた瞬間、炎を纏う巨大な大岩がサイクロプスの頭部に直撃した。
体内の全魔力を掻き集めて作り上げた俺のメテオは、一撃でサイクロプスの命を奪った。
俺の全力のメテオストライクを目の当たりにしたレッサーデーモンは、恐怖のあまり一目散に逃げ出した。
しかしララとリーゼロッテはそう甘くなかった。
逃げ出すレッサーデーモンに対して、リーゼロッテは無数の氷の矢を放ち、ララは風の刃を飛ばした。
終わった……。
俺達の戦いが終わったんだ。
俺は勝利を実感すると、力なく地面に倒れた……。
「アルフォンス! アルフォンス!」
目を開けると、心配そうな表情を浮かべた仲間達が俺を見つめていた。
急いで起き上がると、フォルスターには無数のモンスターの死骸が散乱していた。
これは後片付けが大変だな……。
「みんな。俺の戦いに付き合ってくれてありがとう! ついに俺達はフォルスターを奪還した! これから村作りを始めよう!」
「おう。この時を待っていたぜ。アルフォンスに破壊された理想のマイホームを、俺はこの地に再び建てるんだ」
ゲオルグはダガーを仕舞うと、嬉しそうに俺の胸に飛び込んできた。
仲間達は皆、満足気な表情を浮かべている。
ついにフォルスターに巣食う闇を駆逐したんだ。
俺達の村作りを始めよう……。
フォルスターを奪還した日から俺達の村作りが始まった。
まずはアンジェラさんとティファニーさんにフォルスター奪還を報告し、村に散乱するモンスターの死骸撤去した。
廃村内の建物はサイクロプスがほぼ全て破壊したので、俺達は瓦礫を村の外に運び、村を一度更地に戻した。
俺はフォルスターをモンスターの手から奪還した事を、ベルギウス氏の墓の前で報告した。
これから村の再生を始める事を伝えると、彼は気長に待つと言ってくれた。
ゲオルグは念願のマイホームの建設を始めた。
元々建築の知識があったのだろうか、驚異的な速度で家を立てている。
俺はキングと協力して魔石を量産しながら、時間がある時にはグロスハイムの魔術師ギルドでモンスターの討伐クエストを無償で受けた。
討伐したモンスターの素材をフォルスターに持ち帰り、ギレーヌに納品すると、ギレーヌは魔法道具を作ってくれた。
ギレーヌは夢だった魔法道具屋を手に入れた。
皆で協力して、木造の小さな魔法道具屋を建てたのだ。
ギレーヌの魔法道具屋が完成してからは、グロスハイムから冒険者や魔術師が訪れるようになった。
俺はララ、ヴィクトリア、キング、リーゼロッテと共に暮らす家を建てた。
まだまだ俺達の新生活は始まったばかりだが、これからこのフォルスターは目覚ましい発展を遂げるだろう……。
フォルスターを奪還してから五ヶ月が経った。
村には獣魔を持つ魔術師が増えつつある。
住人も徐々に増え始め、フォルスターの人口はついに百人を超えた。
フォルスターは急速に発展を遂げ、魔術師と従魔が暮らす村として栄え始めたのであった……。
今日は久しぶりにベルギウス氏の墓に報告しに行く日だ。
もはやフォルスターは再生したといっても過言ではないだろう。
墓の前に立つと、優しい魔力が俺の体を包み込んだ。
「アルフォンス。廃村だったフォルスターを、よくぞここまで再生してくれた」
「ベルギウスさん。俺の役目はそろそろ終わりみたいですね。これからは村人達がこの村を盛り上げてくれるでしょう。俺はこれからも仲間達とこの村で暮らします」
「ああ。感謝しているぞ、アルフォンス。俺はもうこの世に未練はない。ベルギウスの加護を使い、これからもフォルスターを守り続けてくれ……」
「お任せ下さい」
俺が墓の前で跪くと、ベルギウス氏の優しい魔力が消えた。
やっとベルギウス氏との約束を果たす事が出来た。
今日は盛大な宴を開こう。
俺は仲間達を自宅に集めて、フォルスター再生の宴を開催する事にした。
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