第二十五話「廃村奪還」
グロスハイムから馬車で移動する間に、俺達は作戦を練る事にした。
作戦は非常にシンプルだ。
俺のメテオストームとリーゼロッテのブリザードを使用し、短時間でフォルスターを落とす。
フォルスターには朽ち果てた建造物が点在しているが、一度全ての建物を破壊して、村を再生しようと思う。
ベルギウス氏の魂が眠る墓地だけは守らなければならないが、村に巣食うモンスターを討伐した後は、全ての瓦礫を撤去しなければならない。
不必要な過去の遺物は撤去し、新たな文化を築く。
俺は仲間を集めて今回の作戦について話し合う事にした。
「今回の作戦は、デュラハン討伐作戦よりも敵の数が少ないとは思いますが、グリムリーパーの正確な数が不明なので、敵に気づかれる前に、一体でも多くのグリムリーパーを討とうと思います。前回、フォルスターを偵察した時は、屋外にグリムリーパーが三体居たので、最低でも三体のグリムリーパーを狩る必要がありそうです」
「平均レベルが25のグリムリーパーが三体か、それ以外にもスケルトンも巣食っているのだろう?」
「はい。スケルトンは四十体程だと思いますが、低レベルのスケルトンに関しては無視して良いと思います。まずは先にグリムリーパーを叩きます。その後、残ったスケルトンを排除しましょう」
まずは高レベルのグリムリーパーを狩り、次にスケルトンを狩る。
厄介な敵から倒した方が良いだろう。
「陣形は決めているのか?」
「はい。前衛が俺、ララ、グレゴールさん。まずはこの三人で廃村に近づき、俺がメテオストームを放ちます。攻撃に気がついた敵が俺達に向かって来た瞬間、リーゼロッテが上空からブリザードを放ちます。多分、リーゼロッテのブリザードの一撃で、グリムリーパーに大ダメージを与え、スケルトンの大半を凍らせる事が出来ると思うので、敵の数は俺達パーティーの数と同等まで減ると思います。また、戦闘時の回復はキングに任せます。俺がキングを背負いながら戦うので、負傷した人はすぐにキングの手当を受けて下さい」
俺がキングを抱き上げると、キングは自信に満ちた表情で俺を見つめた。
「ブリザードが廃村全体にダメージを与えた後、ゲオルグとヴィクトリアは廃村の裏手から侵入し、グリムリーパーの背後から攻撃を仕掛ける。これで大丈夫かな?」
「うむ。任せておけ」
「私とゲオルグで不意打ちを掛ければ良いのね」
「そういう事だよ」
馬車とギレーヌは廃村から離れた場所で待機。
シンプルな作戦だが、メテオストームとブリザードで大半の敵は倒せるだろう。
グリムリーパーの強さに関しては未知数だが、俺達はある秘策を生み出した。
キングが聖属性のエンチャントの魔法を習得したので、パーティーメンバー全員の武器に聖属性が付与されているのだ。
これでグリムリーパーとの戦闘は圧倒的に有利になる。
それに、ギレーヌが今回の作戦のためにメンバー全員の防具を製作した。
物理攻撃に対する防御力も大幅に強化されている。
グリムリーパー討伐に向けてグロスハイムを出発した俺達は、二日間馬車を走らせて、フォルスターに到着した。
徒歩で移動すれば五日掛かる距離が、馬車なら半分以下の時間で来られるのだから、フォルスターが再生すれば、グロスハイムからの行商人や冒険者の訪問も期待できそうだ。
「みんな、配置に付いて下さい」
俺は仲間に指示を出すと、ついに作戦を決行する事にした。
フォルスターからは相変わらず禍々しい闇の魔力を感じるが、俺自身の魔力が大幅に強化されたからだろうか、フォルスターの魔力を肌に感じても少しも恐怖心が沸かない。
勝てる……。
勝つしか無いんだ。
廃村の入り口付近で身を隠す。
村には黒いローブに身を包み、大鎌を構えたグリムリーパーが五体徘徊していた。
スケルトンの数は以前よりも多く、村の至る所にメイスやランスを構えたスケルトンが巣食っている。
大体八十体程は居るのではないだろうか。
「あれがグリムリーパーか……」
「ええ。グレゴールさん、今日この戦いが終われば俺達の新たな生活が始まるんです。やりましょう……未来のために」
「ああ。俺達の力でフォルスターを奪還しよう!」
俺の隣ではララがレイピアを抜き、グレゴールさんが緊張した面持ちでロングソードを構えている。
俺は両手を上空に向け、魔力を放出した。
「メテオストーム……」
小声で魔法を唱えると、上空には炎を纏う大岩が三つ現れた。
レベル35まで強化した魔力から作られたメテオは、物凄い速度でフォルスターの大地に落下した。
巨大な爆発音が静かな森の中に劈いた。
今の一撃でグリムリーパーが一体下敷きになり、スケルトンの大半は吹き飛ばされた様だ。
これは都合が良い。
突然の攻撃に狼狽するモンスターの群れに対し、リーゼロッテが上空からブリザードを放った。
廃村は一瞬で強烈な冷気に包まれ、スケルトンの群れは氷漬けになった。
残るは四体のグリムリーパーのみだ。
俺は聖属性のエンチャントが掛かったブロードソードを握り締め、廃村に突撃した。
グリムリーパーは俺の姿を見るや否や、悍ましい表情を浮かべて大鎌の一撃を放ってきた。
俺は大鎌の一撃を回避し、予め左手に準備しておいた炎を放出した。
グリムリーパーは一瞬で火だるまになったが、ダメージは少ないようだ。
全身が炎に包まれているにも拘らず、表情ひとつ変えずに攻撃を続ける。
恐ろしいモンスターだ。
ララとグレゴールさんは残る三体のグリムリーパーの相手をしている。
早くこちらを片付けて加勢しなければ。
二体のグリムリーパーはララに対して交互に大鎌の攻撃を仕掛けるも、ララの回避速度の前では、グリムリーパーの大ぶりの攻撃がララの間合い入る事も無い。
圧倒的な回避速度で敵の攻撃を掻い潜り、敵に隙きが出来た瞬間にのみ、魔力を込めた強烈な突きを放つのがララの戦い方だ。
ララの剣には風のエンチャントと、キングが掛けた聖属性のエンチャントが掛かっている。
銀色の光と強い風を纏うレイピアの一撃がグリムリーパーの胴体を捉えた。
瞬間、グリムリーパーが爆発的な咆哮を発した。
耳を劈く巨大な咆哮が静かな森の中に響くと、廃村の周囲からは闇属性のモンスターが次々と姿を現した……。




