第二十二話「遺跡に巣食う闇」
ついに目的の遺跡に到着した俺達は、遺跡の奥の方から漂う闇属性の魔力を辿りながら移動を始めた。
この魔力がデュラハンの魔力なのだろうか……。
体の刺すような禍々しい魔力と殺気が、俺達を挑発するように遺跡の奥から流れてくる。
背の高い石の建物が点在する遺跡をゆっくりと進む。
先頭はララとゲオルグだ。
二人共既に武器を構えており、武器にはエンチャントが掛かっている。
ララのレイピアには強烈な風が纏っており、ゲオルグのダガーは力強い大地の魔力に包み込まれている。
リーゼロッテは俺の背後からゆっくりと歩いてくる。
俺はキングを鞄の中に入れ、ブロードソードを引き抜いた。
剣には予めファイアのエンチャントを掛け、攻撃力を強化しておいた。
ヴィクトリアは俺の肩の上の座り、辺りを注意深く見渡している。
ざらざらとした砂の地面には真新しい血が落ちていた。
ここでユニコーンが殺されたのだろうか。
地面にはユニコーンの角と思われる銀色の角が落ちていた。
この素材は持ち帰ってギレーヌに加工して貰おう。
ユニコーンの角を拾い上げると、遺跡の中の雰囲気が一瞬で変わった。
モンスターの唸り声が響き、俺達を取り囲む様に無数のモンスターが姿を現した。
敵はスケルトンとレッサーデーモンだ。
低レベルのスケルトンや下級の悪魔は俺達の敵ではない。
しかし、敵の数があまりも多すぎる。
スケルトンは七十体以上は居るのでは無いだろうか。
多すぎて正確に数を数える事も出来ない。
遺跡の上空には、槍を装備した無数のレッサーデーモンが旋回している。
一番最初に敵の群れに切り込んだのはララだった。
強い風を纏うレイピアの突きを放つと、一撃で五体ものスケルトンを粉々に砕いた。
信じられない威力だな……。
初めて彼女の本気の戦いを見ているのかもしれない。
ゲオルグもララに続いてスケルトンの群れに特攻した。
ゲオルグは優雅に踊りでも踊るように、スケルトンの攻撃を受け流し、ダガーの連撃を次々と叩き込んでいる。
上空を旋回するレッサーデーモンは、標的をララとゲオルグに定めたのか、槍を構えて急降下を始めた。
仲間を攻撃させる訳にはいかない。
徹底的に鍛え込んだ俺のメテオでレッサーデーモンを討つ。
俺は左手を頭上高く上げて魔法を唱えた。
「メテオストライク!」
魔法を唱えた瞬間、上空には大岩が現れた。
激しい炎を纏う大岩は、レッサーデーモンを蹴散らしながら、スケルトンの群れの中心に落ちた。
強い衝撃が起こり、スケルトンが姿勢を崩した瞬間、リーゼロッテのアイスボルトが次々とスケルトンの頭を撃ち抜いた。
仲間を殺されて怒る狂うスケルトンが俺とリーゼロッテを取り囲むも、ヴィクトリアが炎を撒き散らして威嚇した。
俺達に接近攻撃を仕掛けようと一歩近づくと、ヴィクトリアの炎がスケルトンを火だるまにする。
戦闘が始まると、鞄の中からキングが飛び出し、俺の足元でホーリシールドを展開させた。
キングはララとゲオルグに対して魔法による援護を行っている俺達を、敵の攻撃から守ってくれている。
ヴィクトリアとキングが居るだけで、俺達の防御力は大幅に強化されている。
俺は次々とメテオを落とし、スケルトンの群れを蹴散らすと、地上のスケルトンは全て消滅した。
残るは上空を漂う無数のレッサーデーモンのみだ。
「リーゼロッテ!」
ゲオルグがリーゼロッテを呼ぶと、リーゼロッテは翼を開いて飛び上がった。
いとも簡単にゲオルグの体を持ち上げると、リーゼロッテはレッサーデーモンよりも遥か上空を飛び始めた。
一体何をするつもりなのだろうか。
すると、リーゼロッテはおもむろにゲオルグの体を離した。
物凄い速度で降下を始めたゲオルグは、レッサーデーモンの体の上に着地すると、ダガーでレッサーデーモンの翼を切り落とした。
ゲオルグは次々とレッサーデーモンに飛び移り、翼を切り裂いて移動を続けた。
ゲオルグとリーゼロッテの作戦により、空を飛ぶレッサーデーモンは全て地上に落ちた。
これはチャンスだ。
俺はヴィクトリアをキングに任せると、ブロードソードにありったけの魔力を込めて、レッサーデーモンの群れに切り込んだ。
俺とララと取り囲む無数のレッサーデーモンは、次々と槍による攻撃を仕掛けてくるが、日常的にララやゲオルグの高速の攻撃を受けている俺には、まるで子供が初めて手にした武器で遊んでいるように見える。
重量のある槍を使いこなす事すら出来ていないレッサーデーモンの攻撃では、俺を捉える事すら不可能。
レッサーデーモンの槍の攻撃を右手のブロードソードで受け流し、左手に溜めた炎を放出して敵を燃やす。
戦いから逃げ出そうとするレッサーデーモンには、ロックストライクの魔法を唱え、大岩を直撃させる。
ロックストライクとファイアの魔法を連発し、全ての魔力を使い果たす勢いでレッサーデーモンを狩り続けた……。
最後のレッサーデーモンが息絶えた時、遺跡の奥の方から一体の鎧が歩いてきた。
デュラハン……。
今頃ボスのお出ましという訳か。
手にはクレイモアだろうか、巨大な両手剣を持っている。
銀色の鎧の体からは禍々しい闇の魔力を感じる。
敵の姿を見たキングは、急いで俺の鞄からマナポーションを取り出して、俺の足元に投げた。
俺はマナポーションの一気に飲み干すと、ブロードソードを握り締めてデュラハンに切り掛かった。
ついにデュラハンとの戦闘が始まった。
俺とララは交互にデュラハンに攻撃を仕掛けた。
ありったけの魔力を込めた垂直斬りを放つも、デュラハンは俺の攻撃をいとも簡単に受け止めた。
巨大なクレイモアに対しては、俺の攻撃では威力が足りないのだろうか。
ララはデュラハンが防御の際に見せた一瞬の隙きを見逃さなかった。
レイピアに風の魔力を込めると、瞬時にデュラハンの背後に周り、腹部に強烈な突きを放った。
デュラハンは鎧の体だろうか、ララの突きを喰らってもダメージは少ないようだ。
ララが突き破った鎧の隙間からは、闇の魔力が少しずつ流れ始めた。
俺はデュランと距離を取ると、ファイアの魔法を唱えてデュラハンの体を燃やした。
敵は火に耐性があるのだろうか、全身が炎で燃えているにも拘らず、クレイモアの水平斬りを放ってきた。
俺は瞬時に後退したが、デュラハンのクレイモアが俺の腹部を切り裂いた。
瞬間、感じた事も無い痛みが腹部に走った。
俺の腹部は深々と裂け、大量の血が滴り落ちている。
キングは俺を守るように、俺の足元でホーリーシールドを展開させつつも、ヒールの魔法を掛けてくれた。
傷は塞がったが、デュラハンの攻撃に対する恐怖が芽生えてしまったのだろうか、俺はこの場から一歩も動けなくなってしまった。
もし俺があの時、後退せずにクレイモアを受けていたら、間違い無く剣を砕かれ、体を真っ二つに切り裂かれていただろう。
デュラハンの攻撃の威力はあまりにも高い。
ララはデュラハンに対してレイピアの突きを放ち、ゲオルグはダガーの連撃を放っているが、デュラハンは巨大なクレイモアを器用に扱い、全ての攻撃を受けている。
剣での戦いではデュラハンには勝てない……。
魔法で勝負しなければ。
俺は上空からアイスボルトの魔法を放つリーゼロッテを呼び寄せた。
作戦を練らなければ。
単純な攻撃ではデュラハンに防御されてしまうだろう。
一撃必殺のメテオストライクを使用したところで、デュラハンの反応速度なら回避されるに違い無い。
一撃ではなく、メテオ級の破壊力を持つ魔法を同時に落とせば、もしかするとデュラハンの体を捉えられるかもしれない。
「ララ! ゲオルグ! 時間を稼いでくれ! 一分で良い!」
「一分? 馬鹿を言うな! こいつの攻撃を一分も防げるものか!」
ゲオルグはデュラハンのクレイモアの攻撃を回避しながら怒鳴った。
複数のメテオを上空に作り上げ、一気に落とす。
そのためには時間が必要だ。
俺はブロードソードを鞘に戻し、マナポーションを飲み干してから両手を上げた。
全ての魔力を使い果たしても良い……この戦いに勝てるなら。
上空にメテオを作り上げ、更にもう一つのメテオを出現させる。
二つの魔法を制御する練習は日常的に行っているが、メテオストライクの様な魔力の消費が激しい魔法を、一度に二つも制御すれば、俺の体内からは尋常ではない速度で魔力が失われた。
もう立っている事も厳しい……。
意識も朦朧としてきた。
俺の魔力が枯渇しかけた瞬間、ヴィクトリアが俺の体に手を触れた。
失われた魔力が一瞬で回復した。
信じられない……。
こんなに小さな体に、俺の魔力を全て回復させる程の魔力を蓄えていたんだ。
借りるぞ……ヴィクトリアの魔力。
俺は更にメテオを上空に作り上げ、三つのメテオを完成させた瞬間、地面に倒れ込んだ。
「メテオストーム……」
魔法を唱えた瞬間、俺は意識を失った……。




