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第十三話「虚無の可能性」

「アルフォンスよ。実はお前さんがフォルスターに行っていた間、俺もただ酒を飲んで待っていた訳ではない。地の底まで落ちた信用を取り戻すための、起死回生の一手を考えていた」

「そうなんですか?」

「うむ。アルフォンスも知っているだろうが、この町には魔術師向けの店が多い。モンスターから武器や防具を剥ぎ取って地道に金を作るよりは、新たな魔法道具を作製して、魔術師向けに商売を始めた方が確実に儲かる」

「それはそうでしょうけど、魔法道具を作るとはどういう事ですか?」

「魔法道具を製作する魔法、クラフトという魔法を使いこなす少女が居る。名前はギレーヌ・カーフェン。彼女はアルフォンスが旅に出てから、すぐにこの町の魔術師ギルドで登録した、駆け出しの魔術師だ」

「ギレーヌ・カーフェン……」


 俺は膝の上に乗っているリーゼロッテの頭を撫でながらアイクさんの話を聞いている。

 ララは俺の隣で静かに話を聞きながら、美味しそうに葡萄酒を飲んでいる。


「少女はモンスターの素材と金属を特殊な溶解炉で溶かし、新たなアイテムとして作り上げる魔法を使えるのだとか。現在は低レベルのモンスターを狩りながら、地道にアイテムを作り、日銭を稼いでいるらしい」

「アイテムを作る力ですか……それは凄いですね。強力なモンスターの素材さえあれば、良質なアイテムを作れるという訳ですか」

「そういう事だよ、アルフォンス。そして彼女は、自分のためにモンスターの素材を集めてくれる仲間を探している。アルフォンス、お前さんがその子のためにモンスターの素材を集めて、俺がアイテムを売買する。三人で組めば効率良くお金を作れるんだ。間違いない」


 アイクさんは意外な提案を持ちかけてきた。

 モンスターの素材と金属を溶かして新たなアイテムを作る力を持つギレーヌ・カーフェンという少女。

 彼女はモンスターの素材を収集してくれる仲間を探している。

 アイクさんの説明によると、例えばファイアゴブリンの素材と金属を溶かして杖を作れば、ファイアの魔法を使用出来る魔法の杖が作れるらしい。

 筋力が高いドラゴンの手と金属を溶かし、ガントレットを作れば、自身の筋力を増幅させる、強力な魔法道具を作る事も出来るのだとか。


「アルフォンス。どうだろうか、一度その少女に会いに行ってみないか?」

「そうですね……実は俺達もこれから魔術師ギルドに行くところでしたから。一度会ってみてから考えましょう」

「それじゃ早速行ってみようか」


 俺達はすぐに酒場を出て魔術師ギルドに向かった……。

 しかし、アイクさんは商売の話になると一気に表情が変わる。

 初めて会った時は、随分寂しそうに酒場の隅でお酒を飲んでいたが、今では人が変わったように明るく前向きに生きている。


「アルフォンス。俺の事はグレゴールと呼んでくれ」

「わかりました! グレゴールさん」

「うむ。そろそろ魔術師ギルドだな。ここに入るのも随分久しぶりだ」

「グレゴールさんは魔術師ギルドのメンバーなんですか?」

「いいや、俺は冒険者ギルドに登録している。若い頃は魔術師ギルドの連中とパーティーを組んでモンスターを討伐していた」


 グレゴールさんは元々冒険者だったんだ。

 パーティーでは剣士として魔術師を守りながらモンスターと戦っていたらしい。

 レベルは25なのだとか。

 年齢は三十五歳。

 彼は実際の年齢よりも遥かに若く見え、町を歩いているだけで若い女性から色目を使われている。

 グレゴールさんって意外とモテるんだな……。

 羨ましい限りだ。

 魔術師ギルドに到着した俺達は、すぐに扉を開けて中に入った。


 やはり久しぶりの魔術師ギルドは落ち着く。

 紅茶の香ばしい香りが充満している、雰囲気の良い空間だ。

 天井には火の魔法が込められた魔石が漂っており、美しい光を放っている。

 優しい光が壁際に陳列されている色とりどりの書物を照らしている。

 なんとも幻想的だ。


「アルフォンス!」

「アンジェラさん!」


 カウンターの奥から、アンジェラさんが駆けつけてきた。

 久しぶりに会うアンジェラさんは相変わらず美しい。

 アンジェラさんは嬉しそうに微笑みながら俺の手を握った。

 優しい魔力が俺の手に流れる。


「ずっと戻ってこないから心配していたのよ」

「心配かけてすみません。久しぶりですね、アンジェラさん」

「ええ、ずっとあなたの事を考えていたわ。旅の話を聞かせて頂戴」


 俺はアンジェラさんにこれまでの旅の話を聞かせた。

 借金の話をすると、一瞬表情を曇らせた。


「アルフォンス。あなたが借金を肩代わりしたら、この町から出られなくなるんじゃない? 借金の取り立て人はアイクさんを監視していたのでしょう?」

「あ、確かにそうですね……」

「もう、アルフォンスの馬鹿。自分がグロスハイムから出られなくなったら、モンスターを狩りに行く事も出来ないじゃない」

「それは考えていませんでした……どうしましょう」

「そうね。それなら魔術師ギルドがアルフォンスの借金を支払うわ」

「え? そんな事までして頂いても良いのですか?」

「ええ。魔術師ギルドにとって、三万ガルドなんて大した金額じゃないの。優れた魔術師に対しては、魔術師ギルドはいかなる投資も惜しまないわ。若い有望な魔術師が、これから才能を開花させようとしているのに、借金まみれで話にならないわ……私からギルドマスターに掛け合ってみる」


 グレゴールさんの借金を肩代わりすれば、俺自身もグロスハイムから出られなくなる。

 こんな単純な事に気が付かなかったとは。


「魔術師ギルドのマスター、ティファニー・キルステン氏には今日中に話を付けておくわ。彼女は既にアルフォンスの事を知っているの。精霊の錬金術師、ジェラルド・ベルギウスの秘宝を持つ精霊魔術師だと私が説明すると、マスターはアルフォンスの魔術師としての人生をサポートしたいと言っていたわ」

「よろしくお願いします! アンジェラさん。それから俺達はギレーヌ・カーフェンという人物を探しているのですが」

「ああ、ギレーヌね。ついさっきまで私と紅茶を飲んでいたのだけど、確か魔法の杖の店に行くと言っていたわ。彼女に用があるの?」

「はい、仲間を募集していると聞いたので、一度話をしてみたいと思いまして」

「そうね、レベル的にも丁度良いんじゃないかしら。ギレーヌのレベルは8よ。確かアルフォンスはレベル7だったわね」

「そうでしたね。今はレベル19ですが……」

「レベル19? それは本当なの?」


 俺はギルドカードを見せると、アンジェラさんは俺のレベルの上昇を自分の事の様に喜んでくれた。


「信じられない……二週間でレベルを12も上げてしまうなんて! それにギルドカードに表示されているのはゴブリンとドラゴニュート? 随分高レベルのゴブリンを仲間にしたのね。レベル17のゴブリンなんて聞いた事もないわ」

「そうなんですか?」

「ええ。ゴブリンのレベルはどれだけ高くても10。通常はレベル3からレベル5程度よ。このゲオルグというゴブリンが、並外れた戦闘力を持つモンスターだということは間違いないみたいね。ギルドカードの情報を更新しておくわ。アルフォンスのパーティーの情報をギルドマスターに見せれば、確実に彼女は首を縦に振ると思うの」

「本当ですか!」

「間違いないわ。二週間でレベルが12も上がった魔術師なんて、私は見た事もないから。一体どんな訓練を積んで魔力を鍛えたのかしら……」


 体力の限界まで徹底的の己を鍛え、魔力の消費と回復を短期間に何度も繰り返した。

 やはり俺の魔法の訓練は正しかった。

 短期間で強くなるには、他人よりも何倍も努力する。


「これはこの町の魔術師ギルドが始まって以来の快挙だわ。私が想像した以上の成長速度で、あなたは着実の大魔術師への道を歩んでいる。間違いなくあなたは将来、レベル70を超える大魔術師になるでしょう」

「レベル70ですか。その前に俺はレベル25のグリムリーパーを狩らなければならないんです」

「アルフォンス。闇属性を討つには聖属性の魔法を習得すればいいの。アルフォンスの場合なら、聖属性のモンスターを討伐して新たな魔法を習得すれば良いのだけれど、聖属性のモンスターというのは、基本的に人間に害がなく、神聖なモンスターが多い」

「神聖なモンスターを狩る訳にはいきませんよね。それなら、どうやって聖属性の魔法を習得すれば良いでしょうか」

「そうね……聖属性の魔法が込められた魔法道具を使用するしか方法は無いと思う。もしくはパーティーのメンバーに代わりに習得してもらう」

「やはり魔法道具が必要なんですね。人間に害がないモンスターを殺すわけにはいきませんから」


 魔法道具製作師のギレーヌ・カーフェンの力を借り、聖属性に特化した装備を作って貰えば、闇属性のモンスター相手には有利に戦える。

 早速彼女に会いに行こう。

 俺はモンスター討伐の報酬を頂いてから、すぐに魔術師ギルドを出た……。

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