第十話「双剣のゴブリン」
下半身が氷漬けになっているゴブリンは、俺達を睨みつけながらダガーを振り回した。
自由に動く事が出来ない状態でも、攻撃を仕掛けてくる凶暴性が恐ろしい。
「ゴブリンよ、二本のダガーを使うゴブリンの居場所を教えてくれないか」
俺が話しかけると、ゴブリンは驚いた表情を浮かべて俺を見つめた。
「ゴブリン語が分かるのか……? 人間」
「ああ、分かるぞ」
「信じられないな……ゴブリンの言葉を学ぶ人間が居るとは」
「うむ。質問に答えてくれるかな? この子にずっと付きまとっている双剣のゴブリンの居場所を教えてくれ」
「誰が教えるものか!」
「居場所さえ教えてくれれば、君の事は見逃すよ」
「そんな言葉を信じる程、俺が馬鹿だと思うかい?」
「信じられない気持ちは分かるが、俺はこうしてゴブリンの言葉まで学んでいる人間だ。他の人間の言葉よりは信用出来るだろう? こちらもしつこく付き纏われるのは困るんだよ」
「ゴブリン語を話す人間か……双剣のゴブリンは俺達のリーダーだ。名前はゲオルグ」
「なぜ俺の仲間に付きまとう?」
「リーダーはそのケットシーが持っているレイピアが欲しいのだろう」
レイピアか……。
強力な武器欲しさに、何度もララを狙って奇襲を掛けてくる敵は、早めに排除しなければならない。
「俺はそんなレイピアに興味はない! ケットシーを殺してレイピアを奪ってくれば、ゲオルグは多額の報酬をくれるんだ」
「多額の報酬?」
「ああ、1000ガルドだ。ゲオルグが人間を殺して奪い続けた金だ」
「人間を殺して奪った金か……君がゲオルグの居場所を教えてくれるなら、俺達はこれからゲオルグを討ちに行く」
「お前なんかがゲオルグに勝てる訳がないだろう。早くこの魔法を解除しろ!」
「君は自分が置かれている状況を分かっていないのだろうね。手荒な真似はしたくないんだ。俺が剣を抜く前に居場所を教えてくれよ」
俺がブロードソードを握ると、ゴブリンは手を上げて静止した。
「早まるな! 人間! わかった。居場所を教える」
「そうか。それじゃリーゼロッテ。魔法を解いてくれるかい?」
「わかったよ」
リーゼロッテがゴブリンの足元に両手を向けると、氷は一瞬で水に変化した。
ゴブリンはその場に座り込むと、ゆっくりと話し始めた。
「俺はゴブリン族の傭兵。ゲオルグのために命を捨てるつもりはない。ゲオルグの居場所まで案内しよう。俺の事が信用出来ないなら、武器を預ける」
「うむ。それでは案内を頼むよ」
俺はゴブリンが投げ捨てたダガーを拾うと、すぐにゲオルグの討伐に出発した。
ゲオルグの隠れ家は、ここから三時間程歩いた場所にあるらしい。
ゴブリンが先導し、俺達は後を追いながら森の中を進む。
しばらく移動を続けると、俺達はついにゲオルグの隠れ家に辿り着いた。
「案内はここまでだ。人間よ、さぁ武器を返してくれ」
「武器を返した瞬間に襲うんじゃないだろうね?」
「そんな事はしない。もう二度と氷漬けにされたくないからな」
俺はゴブリンにダガーを渡すと、ゴブリンは森の中に消えていった。
ゲオルグの隠れ家は、背の高い木に囲まれた木造の建物だった。
二階建てで、手作り感が溢れる素敵なお家だ。
まさかこちらから攻め込んでくるとは思ってもいないだろう。
隠れ家の周辺には見張りの姿も無い。
先手必勝。
「メテオストライク!」
両手を高く上げ、魔法を唱えた。
空中には炎を纏う岩が出現し、メテオは物凄い勢いでゲオルグの隠れ家を破壊した。
双剣のゲオルグが慌てて家の中から飛び出してきた。
ゲオルグは腰に差しているに二本のダガーを抜くと、俺に対してダガーの連撃を放ってきた。
俺は瞬時にブロードソードを抜いて炎のエンチャントを掛けた。
炎を纏う俺のブロードソードと、ゲオルグのダガーが激突する。
ゲオルグは二本のダガーで次々と切りかかってくるが、俺は不思議とゲオルグの攻撃を全て防御出来ている。
隠れ家の中からはゲオルグの手下が飛び出してきた。
瞬間、リーゼロッテの魔法が炸裂した。
ブリザードだ。
隠れ家から出てきたゴブリンの下半身が凍りついている。
とてつもない威力の魔法だな……。
「アルフォンス……もう魔力がないよ……」
リーゼロッテは俺の鞄の中に身を隠した。
今の強烈な一撃で全ての魔力を使い果たしてしまったのだろう。
ララがレイピアを抜くと、場の雰囲気が変わった。
強烈な風の魔力を感じる。
ララは足元が凍りついているゴブリンに対して、目にも留まらぬ速度で突きを放った。
俺は次々とゴブリンを仕留めるララを横目に見ながら、ゲオルグの連撃を受けている。
ゲオルグは状況が不利な事に気がついたのだろう、大きく後退すると、二本のダガーを鞘に戻した。
「俺の負けだ! 殺せ! お前には勝てん!」
ゲオルグは地面に座り込んで目を瞑った。
流石に武器を収めている無抵抗のゴブリンは殺せないな。
しかし、潔いゴブリンだ……。
「ゲオルグ……どうしてララを狙うんだ?」
「別にそのケットシーを狙っている訳ではない!」
「今更そんな嘘を……正直に話してくれよ」
「人間を殺して金を稼いでいた時、たまたまそこに居るケットシーを見つけた。見るからに高級そうなレイピアを持つケットシーをな。これは良いカモだと思ったのよ」
「それで? 殺そうと思ったのかい?」
「ああ、そうだ! だがその女は強かった。いくら追いかけても倒せなかった。俺は傭兵を雇った。しかし、今の戦闘で俺は全ての兵士を失った」
「だから観念したという訳かい?」
「そうだ……さぁ早く殺せ!」
俺はブロードソードを鞘に戻した。
右手をゲオルグの肩に置くと、彼は驚いた表情を浮かべて俺を見上げた。
「殺さないのか……?」
「ああ。負けを認めて剣を収めている相手を殺す事は出来ない……ゲオルグよ、もう俺達を狙わないと約束してくれ。俺達はフォルスターに向かわなければならないんだ」
「わかった。約束しよう、人間」
「ありがとう」
背中に矢を放たれた痛みは忘れられないが、負けを認めているゲオルグを殺す事は出来ない。
俺はララにゲオルグを許すように頼むと、彼女は快くゲオルグを許した。
「人間。フォスルターには何の用で?」
「俺達はフォルスターに巣食うモンスターを駆逐し、村を再生しなければならないんだ」
「再生?」
「うん。ある人と約束しているんだよ。村を再生すると」
「人間……俺も付いて行って良いか? 俺はお前に家を壊された。念願のマイホームを……少しずつ金を貯めてリフォームしていた大切な家を……」
「それは悪い事をしたな。本当に申し訳ないと思っているよ」
「人間。フォスルターのモンスターを倒す手助けをしよう。全てのモンスターを討伐したら、俺にフォルスターの土地を分けてくれ」
「なんだって?」
「俺がお前と従魔の契約をしてやろうと言っているのだ。喜べ、人間よ」
「従魔の契約?」
「ああ。俺がお前の従魔になってやる。ただし、俺の新しい家を建てる土地を確保してくれるなら。この双剣のゲオルグが力を貸そう!」
俺はララとリーゼロッテに相談すると、二人共ゲオルグの提案を受け入れた。
新たな仲間が増えるのか。
これは運がいい。
俺達を狙っていた強力な敵が仲間になるのだからな。
「よし! 良いだろう。俺の名前はアルフォンス・ブライトナー。双剣のゲオルグよ。俺の従魔になってくれ」
「うむ。承知した」
ゲオルグは自分の親指をダガーで切った。
どうやら従魔の儀式の様だ。
俺も自分の親指を剣で切ると、ゲオルグの親指に当てた。
瞬間、俺の体にはゲオルグの魔力が流れ込んできた。
「これで従魔の契約は完了した。今日から俺はお前の従魔だ。アルフォンス」
「しかし、どうして俺の従魔になろうと思ったんだい?」
「ゴブリン語を話せる人間が珍しかったからさ。それに、俺は自分より強い奴が好きだ」
「俺達はゲオルグの仲間を殺してしまったが、恨みはないのか?」
「仲間? こいつらは金で雇っている傭兵、死ぬ覚悟が出来ている者達だ。勝者こそが正義! 負ける方が悪いのだ」
「随分あっさりしているんだな……」
こうして双剣のゲオルグが仲間になった。
ゲオルグは焼け落ちた家の中からお金をかき集めてくると、俺とララに渡した。
ゲオルグはララに対して、何度も頭を下げて謝罪した。
ララはゲオルグの頭を撫でると、ゲオルグは嬉しそうに涙を流した。
ゲオルグの説明によると、人間は従魔の契約を交わしているモンスターを自由に召喚出来るらしい。
地面に対して魔力を込め、頭の中でゲオルグを意識すると、俺の目の前にはゲオルグが召喚された。
従魔の契約をする事によって習得出来る召喚魔法だ。
俺達は焼け落ちたゲオルグの家を後にし、すぐにフォルスターを目指した歩き始めた……。




