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オーシュー革命

 宿に乱入してきた冒険者達が勝手に始めたテルとユキの帰還祝勝会。旅の疲れと騒ぎ疲れのダブルパンチでテルは翌日の昼近くまで眠っていた。疲れているだろう事を察知してくれていたのだろう、ストラトもスタインも起こしに来る事は無かった。


 「ふわぁ~っ…と。寝すぎたかな?」


 目が覚めるまで体の欲するままに惰眠を貪る。少し頭がぼーっとする。部屋の反対側の隅にあるユキのベッドには既にユキの姿は無かった。


 まだ覚醒しきってない頭で部屋から出て顔を洗いに行く。厨房から聞こえるのは楽し気な少女達の声と珍しく機嫌のよさそうなスタインの声。


 声に誘われるようにテルは厨房へと顔を出す。


 「おはよう。」


 「あ、兄さん起きたの?おはよう!ってもうすぐお昼だよ!」


 「おはよう、テル。随分と楽し気な寝顔だったのでな。起こすのも憚られてそのままにしてきたのだ。」


 (楽し気な寝顔?何か夢でも見てたっけ?)


 「けっ、どんな夢見てたんだかこのスケベ野郎が。今飯準備してるからカウンターで待ってろ。」


 随分酷い『おはよう』の挨拶もあったもんだな、とスタインの言葉に苦笑しながら言われた通りカウンターで待つ。


 「ほらよ。ウチの娘たちがお前に食わせるんだってな、今朝から随分と材料を無駄にしてくれたぜ。しっかり味わって感想を言ってやれ。」


 出て来たのはオムレツと…握り飯だった。テルの想像ではユキが握り飯を、ストラトがオムレツを、だったのだが事実は違った。ユキが自分の世界の食文化をストラトに伝え、ストラトがユキの知らない料理を伝える。


 「…美味い。」


 それからのテルは完食するまで無言だった。心配そうに見つめる2人の少女。


 「ご馳走様。すごいな。おやっさんは味見したのか?」


 「いや。おめえが毒見役だな。」


 「ふ、そうか。これは美味いぞ。どっちも単純なようで奥が深い料理だろ。素材の味がダイレクトに来るから誤魔化しが効かない。」


 「ほう?テル、おめえ、料理には詳しいのか?」


 「そうでもないけどさ。これは多くの調味料を使ってない料理だからな。火加減、握り加減、そういうところで美味さに差が出て来るのは分かるよ。」


 感心したようなスタインとテルの高評価に安堵するユキとストラト。


 「その通りだ。見た目は同じように出来ても納得する出来栄えになるには随分と苦労してたぜ?」


 「ユキ、ストラト。ありがとう。美味かったよ。ところで3人は食べたのか?」

 

 「ああ、その…試食でな。」


 バツが悪そうに言うスタインとガックリと肩を落とすストラトとユキ。それだで何があったのか想像に難くないので追及はしないテルだった。


 「それじゃあユキ、ギルドに行こうか。ゼマティスさんが待っているかも知れない。」

 「うむ、そうだな。では親父殿、ストラト、行って来るよ。」


 そう言い2人は宿を後にしギルドへと向かった。



 「こんにちは、ローランドさん。無事帰還しました。」


 「テルさん、ユキさん。お疲れ様でした。ギルマスの執務室へどうぞ。」


 柔和な笑みで迎えてくれたローランドに案内されると執務室の中では書類の山に埋もれたゼマティスがいた。


 「おう、来たか。わりぃな。茶菓子でも食って待っててくれ。ローランド、頼む。」


 「はい、どうぞ。ユキさん、今日のも美味しいですよ?」


 「うむっ!」


 キラキラと輝く瞳は目の前の焼き菓子を捕らえて離さない。


 「それで、追撃戦の方はどうだったんですか?」


 結果は知っていてもやはり経緯は気になるのだろう、ローランドが尋ねる。食べるのに夢中なユキではなくて主にテルにだが。


 「うーん、特に何も無かったですね。領都で待ち構えてた陛下が一方的にカムリを殴り続けて終わりですよ。いやあ、セリカ様、怖かったなぁ…」


 「くっ、詳しくお願いします!その、決闘の詳細は何故かあまり詳しい情報が入ってこないんですよね…」


 ああ、とテルは納得する。あの決闘でセリカのイメージが激変した人はかなりの数になるだろう。情報操作がされているのかも知れない。しかし…


 「そうなんですか…あのお美しいセリカ様がそのように苛烈な………素敵です!」


 「「え?」」


 菓子に夢中だったユキまでもが反応した。


 実の所、インテグラーレの様に心底ビビってしまったのは権力がある一部の人間だけで大衆のセリカ人気は鰻上りだったりする。尤も、セリカの腹黒い一部を知らないからだと言う事も出来るだろうが。


 「待たせた。これが今回の報酬の明細になる。」


 ゼマティスが持って来た資料の数字を見てテルは固まってしまった。ちょっと豪遊したくらいでは金が減った事にすら気付かないかも知れない。


 「ちょっとこれだけの金額を下のカウンターでドン!って訳にもいかないからな。お前さん達の口座作って振り込んでおくからよ。」


 「はあ…」


 「なに呆けてやがる?Aランクってのはこれくらいは貰うもんだぜ?」


 そんなもんか、と思い直したテルはゼマティスに報告すべき事があるのを思い出した。


 「ゼマティスさん。これはギルドじゃなくて領軍の案件かも知れませんけど…」


 「うん?」


 「カムリの敗残兵が盗賊化して街道の旅人を襲っています。俺達も何度か襲われ駆除しました。」


 「やはりか。今まで停滞していた流通が一気に回復しようとするからな。獲物もいっぱいって訳だ。」


 「はい。護衛を雇う事を推奨した方がいいですね。相手は元軍人ですから低ランクの冒険者には荷が重い事も付け加えて。」


 「うむ。早速代官屋敷へ行って対策を練ろう。情報感謝するぞ。後は任せてゆっくりしてくれ。」


 こうしてギルドで依頼達成の手続きを終えた時点でテル達の「オーシュー革命」は終幕した。

 

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