決着
カムリの領都に着くまでウフロンの軍は付かず離れずの距離を維持しながらカムリの軍を追う。
そして領都に着いたところで待っていたのは地竜のスタリオンに騎乗したセリカ女王。両脇にバイコーンに乗ったカズトとユニコーンに乗ったライムが侍る。そしてさらに領都の守備兵だったであろう4000の軍が従っている。
「ギャラン伯爵は半殺し状態だがまだ生きているようだな。王都からの主力も到着しているようだし勝負ありか。」
インテグラーレ公爵が遠くを見ながら呟く。
「俺達の仕事は敗残兵の捕縛ですか。」
テルも同じく遠くを見ながら言う。
「さてな。カムリ公の軍の士気は低い。抗おうとするものがおるかな?」
「戦わずして降伏、という訳か。あり得ん話ではないな。」
インテグラーレの問いかけにユキが答えた。しかし話を聞いた限りではカムリという男がこのまま引き下がるとは思えなかった。
傲慢で時勢を読めず民の心を顧みない。根拠のない自信から自分が負けるとは欠片も思っていない故に配下の兵士達を当たり前のように死地へと送り出す。それが思い通りにいかねば配下へ当たり散らし配下を無能と罵る。無能な男だ、とテルは思う。そしてこのような男に支配されている民を哀れに思った。
しかしその愚かな男も流石にこの情勢では勝ちは無いと思ったのか、とんでもない事を言い出した。
「しかしまあ、呆れて物も言えんな…」
ユキは腰に手をあてて首を振りながらそんな事を言う。
進退窮まったカムリが言い出したのはセリカとの一対一の決闘。自分が勝てば王位をもらい受けるという身勝手極まりない条件。セリカにとって決闘を受けるメリットは無い。決闘などせずとも勝ちは転がり込んでくるのだ。
「バカ…なんですかね?」
テルも心底呆れた様子である。
「違うな。大馬鹿だよ。兄である自分が妹に、しかも平民の血が混じっている女王陛下に自分が負ける訳がないと思っている。」
インテグラーレの物言いに苦笑するテルとユキだがふと思い至った点があった。
「陛下は受けるかもしれないな。この決闘。」
「ほう、何故かね?」
テルの一言が意外だったのかインテグラーレが尋ねた。
「いや、陛下は俺達でも後れを取る程の強者です。カムリが多少策を弄したところで陛下の勝ちは揺るがないでしょう。それに陛下は随分と兄弟姉妹からは虐げられてきたようですから公衆の面前でバカな兄をぶちのめす絶好の機会ですよね。それに、決闘を受ければ恐らく死人はカムリ一人で済むでしょう。」
テルの予想通りセリカは決闘を受けた。正々堂々という言葉をどこかに忘れて来たような自分に都合の良い事ばかりを並べ立てるカムリだが、セリカはその条件を全て飲み込んで決闘に臨んだ。地竜に騎乗したままでは卑怯だと言われれば地に降り立ち、魔法は卑怯と言われれば杖術で打ち合う。カムリの剣を弾き飛ばせばカムリは剣さえあれば負けぬなどと言い訳する。セリカはそれに付き合いカムリに剣を拾わせた上で徒手空拳で殴り飛ばす。
「うわぁ…これは兵の損害とかそういう無しで、完全に今までの恨みを晴らしてる感じだな…」
「ああ、普段はあんなに美人で優しそうなのにな。いや、今も優し気に微笑んでるのがすごく怖い。」
「わ、私は絶対に陛下に反旗を翻したりはせんぞ。絶対にだ。」
セリカはカムリの姑息な策など物ともせずに一方的にカムリを殴り続けていた。セリカは分類するなら魔法使いの筈だ。それが生粋の戦士であるカムリを一方的に殴り続けている。しかも、気絶したカムリをヒールで回復させてまた殴る。気絶したらまた回復させて殴る。それを延々と繰り返している。それを見ていたインテグラーレなどは心底恐れたようだ。
「も、もう殺してくれ…」
ついに心が折れたカムリの一言でセリカの『復讐』は終わった。同時にカムリ軍は全面降伏し、この国におけるセリカの革命は成った。
「なんだかな、終わってみればカズトさんの掌の上、みたいな感じだけど。」
「陛下の母上である摂政殿の手腕もあるのだよ。あれはなかなかに強かだ。」
テルとユキは摂政にしてセリカの母親であるコロナの事は知らないが、セリカの母親である、という一点で相当の曲者であるという認識で一致していた。なるほど、と頷く2人に苦笑しながらインテグラーレは今後の事を尋ねた。
「我らは暫く戦後処理の為にこの地に留まる事になろう。そなた達はどうするかね?」
「俺達は陛下とカズトさん達に挨拶して…戻りますよ。『家族』が待ってますからね。」
「そうだな、それがいいだろう。褒賞は期待して待っておれ。」
「ええ、期待しています。」
そう言い残してテルとユキはセリカ達の元へと向かって行った。