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予定通りの撤退

 「撤退していくようだな。敵の被害もそれ程ではあるまいに。」


 本陣から下界を眺めるインテグラーレ。まだ夜明け前。松明の明かりが帯となりこちらから離れて行く。そこへ今回の戦では民兵とも呼べる冒険者や傭兵、志願兵を取りまとめていたギルドマスターのゼマティスが受付嬢のローランドを伴って現れた。


 「閣下。」


 「何か情報が入ったか?」


 「はい。テルの話によればカムリの領都が陥落したと。」


 「…まさかこのような短時間で…いや、カズト殿ならやりかねんな。ふ。」


 あまりの迅速さにゼマティスの言葉を疑ったインテグラーレだがカズトの事を思い出すとあり得る事だ、と乾いた笑いを漏らす。


 「テルもカズトさんならやる、と断言してましたね。それ程ですか。」


 「私も直接暴れっぷりを見た訳ではないがな。殺気を浴びた事はある。いっそ殺してくれと言いたくなる程に恐ろしいぞ。」


 テル以上の存在など理解の外にあるゼマティスは曖昧に頷くしか出来ない。


 「それで、本題が有るのだろう?」


 「はい、追撃に関してです。そのカズトからテルに連絡が入ったらしいのですが…」


 連絡と聞いていろいろと突っ込みたくなるインテグラーレだがカズトなら何でもアリだろうと考えるのを放棄する。


 「追撃は後を追うだけで攻撃は不要。退路を塞げばそれでいい、との事です。」


 情報では王都からの主軍も反乱分子の拠点を制圧しつつ南下し、別動隊も沿岸部を支配下に置きながら南下中。そこで我々が追撃をかければカムリは完全に包囲される。


 「諦めて降伏してくれればいいんですがね。」


 「ふふ、分かっていても口に出さずにはいられんか。」


 最後まで抗ってくる事を予想して苦い顔をする2人だった。


 


 「これから追撃に入るのだろう?テルも参加するのか?」


 前線の陣幕のなかでユキが尋ねる。カムリの軍は撤退したのだ。街の危機は去ったと言っていいだろう。ならば冒険者や志願兵はここで戻っても問題ないはずだった。


 「そうだな。俺達の仕事は街のみんなを守る事だった。その仕事は完遂したと言っていいだろうな。でも俺は最後まで見届けるよ。」


 「なら私も一緒だ。ストラトやスタイン殿には心配をかける事になるがな。」


 「それなら俺達が『森の梟亭』に伝えといてやるよ。それなら嬢ちゃんやおやっさんも安心するだろ。」


 「そうだね。アタシらは魔物の間引きから偵察任務、そしてこの戦で休みなしだったからさ、ちょっとくたびれちまったんだ。追撃からは抜けさせてもらう事にしたんだよ。」


 シモンズとシャーベルは街に戻るらしい。宿への伝言をしてくれると言うのでお言葉に甘える事にしたテルとユキ。


 「おう。お前ら、揃ってたか。」


 そこへ本陣へ行っていたゼマティスが戻って来た。


 「今公爵と話を付けて来た。現時点で街の防衛クエストは完遂扱いとなる。冒険者や傭兵、志願兵は街に戻っていいとの事だ。シモンズとシャーベルは悪いが『お触れ』を出してきてくれるか?」


 「了解だ。いこうか、シャーベル。」


 「あいよ。」


 「さて。お前さん達はどうすんだ?」


 「俺達は見届けに行きますよ。さっきもシモンズさん達と話してたんですけどね。」


 「そうか。そうだな。お前はそうするべきかも知れん。一軍の指揮を担った者として敗軍の将の運命を見定めるのが礼儀だろうな。」


 ユキも頷いていた。この辺りはテルには今一つピンと来なかったが戦国武将の倫理観とでもいうものに繋がるものがあるのだろうか。


 「実はな、防衛クエストは終了したがテルとユキには別途公爵から指名依頼が入ったんだ。軍師及び護衛扱いで同行しろってな。」


 控えていたローランドも苦笑しながら言う。


 「随分と気に入られたものですね。インテグラーレ公だけでなくウリアの将軍さんも『我が領に仕官せんかな』なんて言ってましたし。」


 「ははは。堅苦しい宮仕えは遠慮したいですね。な、ユキ?」


 「?私はテルが一緒ならどこでも構わんのだが…」


 天然で惚気てしまうユキである。


 「ごほん!それならテルとユキは公爵のところへ行って来い。今頃は部隊の編成作業をしている筈だが済み次第進軍するはずだ。こっちの後始末は留守番の部隊でやるはずだから後の事は気にしなくていい。」


 「わかりました。じゃあ後の事はお願いします。」




 「おお、来たか。夜が明けて、昼近くになったら出立する。それまで仮眠をとったらどうだ?」


 インテグラーレは甲冑を外して軽装になっていた。これから休むつもりだったのだろう。


 「はい、ありがとうございます。ところで俺達に指名依頼との事ですが。」


 「ああ、先程の戦いでそなたらの力は広く知れ渡る事になった。正直に言えば頭が多少切れるだけの若造と侮っていた輩もいない訳ではなかったのだ。だがそれも払拭されたのでな。そなたら2人が私の護衛に当たる事は平民を重視する陛下のご意思にも副う事になるので早々に実現させたかったのだが…」


 「なるほど。俺達の力が大っぴらになって文句も言えなくなった、と言う事ですか。」


 「そう言う事だ。」


 「分かりました。では明日から宜しくお願いします。」


 「うむ。こちらこそ頼む。」


 間近に迫るセリカの革命の結末を見る為にテルとユキは追撃に参加する。



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