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一騎打ち

 ジェンマとか言う敵の騎士の正面5メートルの位置に立つテル。気負いも緊張もない自然体に見える。


 「Aランク冒険者のテルだ。俺が相手をする。」


 『Aランク』と名乗ったのに見た目の若さでジェンマはテルを侮ってしまう。


 「ふん、貴様のような若造がAランクだぁ?こんなひよっこを出してくるとはウフロンの騎士団は腰抜けばかりか!」


 テルは無言で背中の剣を抜き下段に構える。オーガの骨をベースにミスリルで鍛え自己修復のエンチャントを施した名剣。魔力を流す程に斬れ味が増すその剣はテルの魔力を吸い上げ薄緑色にぼんやりと光る。『鬼骨穿刀(きこつせんとう)』。テルはそう呼んでいた。


 構えたテルの放つ殺気に怯えた馬が棹立ちになりジェンマを振り落とし逃走する。尻もちをついた状態のジェンマはそのまま立ち上がる事が出来なかった。


 「!!」


 一瞬の間に間合いを詰めたテルの剣が喉元数ミリ先に突きつけられていたからである。


 「俺の勝ちだな。」


 振り返り自陣に戻ろうとするテル。対してジェンマは起き上がり抜剣しながら叫ぶ。


 「ふざけるなぁ!!今のは馬だ!あのような駄馬でなければ…!!」


 叫びながらテルの背後から斬りかかるジェンマ。


 「せっかく拾った命だったのにな。」


 テルが振り向きざまに『タンッ』と地を蹴り鬼骨穿刀を振り抜きジェンマと交錯する。ジェンマは上段に構えたまま動かない。テルはひゅん!と愛刀の血を払い納刀する。


 「馬のせいにすんなよ。」


 『ズルリ…』


 ジェンマの胸から上が斜めにずり落ちた。


 「…テルの奴…金属鎧ごと一刀両断かよ…」


 あまりに凄まじい一騎討ちの結末に両陣営とも静まり返っている。


 「くっ!討ち取れ!あ奴を生かして帰すな!」


 敵陣で誰かが叫ぶ。元々そういう手はずだったのだろう。無数の矢がテルに射かけられる。


 「テル!!!」


 堪らずユキがテルに向けて駆けだすが、


 「リッケン。頼むよ。」


 テルは一言呟いたのみ。瞬間、駆け寄るユキの背後から突風が吹き抜ける。風に押し戻され矢は一本としてテルには届かない。


 突風に煽られバランスを崩したユキがテルの胸に飛び込んで来るがテルはユキをしっかりと受け止める。ほっとした表情でテルを見上げながらユキは言葉を絞り出した。


 「…肝を冷やしたぞ…これは、自分の命の危機より恐ろしい。」


 ちょっとふくれっ面になったユキにテルは申し訳なさそうに、


 「悪いな。次からはもっと危なげなく勝つよ。」


 「何を言うか。危なげなど一つもなかったよ。一騎打ちそのものにはな。まあいい。次は私もやる。」


 ユキは両手で印を結び、バッカーに話し掛ける。


 「バッカー、今度は私の番だ。力を貸してくれ。水遁!」


 地面から噴き出してきた大質量の水が濁流となりカムリ軍を押し流す。元々カムリ軍は山裾から登って来ているのだ。重力を伴う濁流に抗える筈もない。


 濁流が収まったところで後方から声が上がる。


 「追撃!山から追い落とせ!」


 インテグラーレ公爵だろう。いいタイミングの采配だと思う。


 逃走する敵兵と追撃する味方を眺めていたテルの所へインテグラーレが近付いて来た。


 「この指示で良かったのだな?」


 「はい。『追い落とせ』が適当だったかと。陛下の思いを充分にくみ取った采配だと思います。」


 そう、普通なら追撃戦は敵に大打撃を与える絶好の機会であるにも関わらず『追い落とせ』とは控えめすぎる命令だった。


 「うむ。しかしまた寄せてくるぞ?」


 「また追い返しますよ。」


 「ふふ。そうだな。ご苦労だった。休んでおれ。」


 敵にも味方にも可能な限り被害を押さえて欲しい。そんなある意味甘っちょろい幻想を実現せんとする自分も相当に甘いな、と苦笑しながらも今回の戦果に満足するテルとユキ。あと数日もこのまま粘ればカズトが上手くやってくれるはずだ。


 

 カムリ軍本陣。


 壊走だった。一騎打ちは恥の上塗りに終わり敵に一矢も報いずに敗走。しかし逃げ延びた兵を掌握してみれば被害はそれ程多くない。これはどういう事だ?インテグラーレ、あるいはセリカが意図的に追撃に手を抜いたとしか考えられない。


 「余を舐めておるのかヤツめ…」


 この期に及んでもまだセリカの所在は掴めていない。もう流石にエツリアの援軍は期待はしていないが。


 「伝令!伝令!!」


 そんな時、けたたましく叫びながら伝令兵が転がり込んで来た。


 「やかましい!何事だ!?」


 「はっ!領都が…領都が陥落!城は破壊され瓦礫の山に!さらに国境はバンドーの兵によって封鎖されています!」


 こやつは何を言っている?領都が陥落?誰が?領都に残した5000の兵はどうした?腹心のギャラン伯爵はどうした?カムリの頭の中は疑問で覆い尽くされ正常な判断が出来ない。見かねた家臣の1人が伝令兵に尋ねた。


 「何者の仕業だ?」


 「それが…セリカ様とその配下数名で…」


 セリカの名を聞いてカムリの頭は瞬時に沸騰する。沸騰したが、セリカ憎しのその思いが本能で軍に命令を下させた。


 「全軍反転!領都のセリカを殺し、我が城を奪い返す!」


 出来る出来ないや勝ち負けは別にして、カムリに出来る事は自領に戻る事だけだった。


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