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防衛戦、開幕

 エツリアがバンドーの要請を蹴った事で後顧の憂いは無くなった。これで前方から迫るカムリ軍に対応を集中出来る。まだカムリ軍は到着していないがだからと言ってのんびりしている訳ではない。


 「おいテル、櫓の配置はこんなもんでいいか?」


 「そうですね、ここにもう一か所建てると死角が減りますね。それでここに柵を巡らして…」


 領境の山は急ピッチで要塞化していた。また後方では街に通じる街道も整備が進んでいる。


 「これで水源を確保出来ればなかなか堅固な砦になるな、テル?」


 確かにそうだがテルに水脈を探る知識はない。


 「それは俺にはちょっとどうにもならないかな…」


 そんな時、ユキの肩に座っていたバッカーがパタパタと飛び回って何やらアピールしているように見える。


 「どうした?バッカー?」


 ユキがバッカーに話し掛けるとバッカーがユキの耳元でなにかこしょこしょと言っているようだ。


 「水脈なら自分に任せろとバッカーが言っている。」


 なるほど、水の精霊王の分身だから分かるのか、水に関する事は。テルはバッカーの言い分も尤もだと思いバッカーに案内を頼むのだった。


 バッカーが案内したのは本陣にほど近い比較的平坦な場所。


 「へえ。こんな所に水脈が…バッカー、ありがとな。」


 テルが感謝の気持ちを込めて人差し指でバッカーの頭を撫でてやると嬉しそうにユキの肩へと戻って行った。


 本陣近くでやや騒がしくしていた為警備の兵がやってくる。


 「こんな所で何をしている?」


 「ああ、この山で籠城するんなら水源を確保した方がいいと思ってね。で、どうもここに水脈が有るらしいんだ。ここを掘りたいんだが公爵閣下に許可を頂けるかな?」


 ここはゼマティスが対応した。事を荒立てないような上手い対応だと思うテル。仮にも戦時中なので兵士はいろいろ過敏になってる事もある。


 「なるほど、水源か…少し待て。閣下にお伺いを立ててみよう。」


 そう言い兵士は幕舎に向かって行った。


 「本陣近くって事はいざここに砦を造る時はこの辺りが『本丸』になるって事だろ?なかなかいい場所じゃねえか。」


 テルもユキも納得の場所だった。本陣を置くくらいだからこの場所が最も敵が攻めあぐねる場所という事だ。そんな場所に水場が出来るのは大きい。


 「そなたらも忙しいな。今度は井戸掘りか?」


 幕舎からは公爵自ら出張って来た。


 「恐縮です。それで、妖精がこの場所を推薦するので井戸掘り工事の許可を頂きたいのですが。」


 「ああ、構わん。何より大事な物だからな。遠慮せずにやるが良い。必要な分だけ人数も使え。」


 「は。ありがとうございます。」


 「うむ。ではな。今日は遅い。明日から取り掛かるの良いだろう。」


 そう言って公爵は幕舎へと戻って行った。


 翌朝。


 井戸掘りの監督はゼマティスに任せ、テルとユキは魔物の間引きで使った鳴子の設置に余念がない。今回はより大規模に設置する為人数も多く投入しており、間引きクエストの常連のシモンズとシャーベルも鳴子設置の指導に当たっている。


 「かなりのエリアに設置が終わったな。後で部隊編成しなきゃならんが一苦労しそうだぜ。」


 シモンズがそんな事を言う。テルもユキも同感なのだがいつもはこういった仕事はゼマティスがやってくれていた。その彼が今は井戸掘りの監督なので仕方ないと諦める。だが。


 「大丈夫です!ギルドマスターは置物です。編成の殆どは私がやっていましたから皆さんは少し休んでいて下さい!」


 ローランドがふんす!と気合を入れて腕まくりをしている。なるほど、ゼマティスは置物だったのか、と評価を下方修正するテルとユキ。


 「ふわぁ~、しんどかったぜ…ん?なんだ?」


 そんなタイミングに戻ってくるゼマティスは天に愛されているのか。白い視線を浴びる意味が分からず戸惑うばかり。


 そんな時に斥候が戻って来た。弁解しようとしたタイミングで弁解すらさせてもらえなくなったゼマティスはやはり天に愛されているのだろう。


 「なんだ!?」


 「報告!敵軍、麓近くまで接近中!」


 「ご苦労だった!本陣の公爵にご連絡差し上げろ!」


 「了解!」


 「…来たようですね。」


 「よし、テル、お前の初仕事だ。」


 そう言いゼマティスはテルの肩を叩く。流石のテルも少々緊張している様に見える。


 「案ずるな、テル。私がいつも側にいる。」


 そう言いユキはぎゅっとテルの手を握る。


 「そうさ。お前一人で戦う訳じゃねえんだからよ。」

 「アタシらをもっと頼んなよ。」


 シモンズ夫妻にも励まされる。


 テルは大きく息を吸い込み大音声で叫んだ。


 「小隊長以上は本陣に集合!残りの者は警戒を密に!敵が近付いているぞ!」


 こうして防衛戦の幕が上がろうとしていた。


 

 

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