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扱いに苦慮する

この作品は『いや、自由に生きろって言われても。』のスピンオフ作品になっています。

 「このまま捨てて来る訳にも行かないだろうし…仕方ないよな。スタインのおやっさん、代金追加で俺の部屋に置いてもいいかな?」


 テルにしてみれば危機に陥っていた人を助けるのは普通の事であって、あの時点では深い考えは全く無かった。まさかその後の面倒まで見る羽目になるとは思ってもみなかったのだ。


 「そりゃあ、こっちも商売だから料金貰えりゃ文句はねえがよ…お前はその、いいのかよ?若い娘と同じ部屋とかよ?」


 「ああー。そうだよな。けど、あの娘の世話を頼めるような人も居ないし…。」


 「それなら、あたしがやるよ!1日に何回か傷薬塗って包帯代えて食事運べばいいんだよね?」


 ストラトが立候補してきた。確かに宿の仕事の合間になら出来るかも知れないとは思うがそこまで甘えていいのだろうか、とテルはストラトの申し出に躊躇する。


 「いや、しかし…」


 「もう、テル君!?包帯の交換とか汗拭いたりとか。女の子の裸見るつもり!?」


 「!…そうだった。すまない。ストラトの厚意に甘えさせて貰うよ。でも、流石に2部屋借りる余裕はないから部屋にソファを運んでいいかい?俺はソファで寝るからさ。」


 考えてみれば当たり前のストラトの指摘に懐事情を鑑みてスタインに訪ねてみる。 


 「それは、まあ仕方ねえな。そこのソファ持っていけ。」


 スタインが指差したソファは3人がけのヤツだった。このサイズならなんとか寝る位は出来るだろう。だが。


 「1人で二階まで運べるかよ!おやっさんも手伝ってくれよ!」


 「ちっ…」


 渋々手伝うスタイン。まあ、根はいい男なので手伝ってはくれる。だがしかし。


 「ええー?テル君ソファで寝るの?あたしのベッド半分貸したげるよ?」


 ストラトの落とした爆弾に、途端に凶悪な山賊面が憤怒の表情になる。


 「テル、てめえ…まさかストラトに手ぇ出したんじゃねえだろうなぁ?」


 「待て待て待て!それは無い!無い無い無い!」


 「なんだとコラァ!ストラトの何が不満だってんだてめえ!」


 「じゃあどうすりゃいいってんだよこの親バカ親父が!」


 「ああ!?そりゃあおめえ!叶わぬ恋に悶々としながら粗末な愛棒でも磨いてやがれ!」


 …とまあ、愛娘(ストラト)が絡むと異常に面倒な男なのである。しかも微妙に下品であった。その直後。


 『ガイィィィィン!』


 「痛え!何しやが…」


 後頭部を押さえながらスタインが振り向くとそこにはフライパンを振り抜いたストラトがいた。


 「お父さん。何バカな事言ってんのさ?あんまりバカ言ってるとあたし宿の手伝いなんかやめて冒険者になって旅に出るから。じゃあね。」


 しばらくボーッとしていたスタインだったが気を取り直し、外に出ていったストラトを慌てて追い掛けて行った。そしてソファを持ったまま1人取り残されたテルは。


 「全く、困ったおっさんだよ…どうすんだよ、これ。」


 仕方なしに念動力で部屋までソファを運ぶのだった。


◇◇◇


 ソファを部屋に運び込んで暫くの間、テルは少女の額に乗せた布を冷水で冷やしたものに取り替えたり汗を拭いたりして様子を見ていた。時折うなされる事もあったが熱も幾分下がって来たようなので今はソファに横になっている。


 「う、うん…」


 どうやら少女が目覚めたようだ。


 「はっ!?ここは一体!?  ぐっ!」


 状況が掴めなかったのだろう。少女は起きようとしたが体の痛みに顔を顰める。


 「おいおい、無理するな。まだ傷は塞がっていないんだぞ?ああ、そんなに警戒しなくてもいい。君はゴブリンに襲われていたんだが俺が助けに入った所で気を失ってしまったんだ。覚えているかい?」


 「…思い出した。貴殿があの異形の化け物共から私を救って下さったのだな。このような格好で申し訳ない。感謝する。」


 テルは確信した。まず少女の見た目。間違いなく日本人である。いや、モンゴロイドであれば日本人と似通った顔立ちの民族は他にもいるが、何より彼の耳が聞き取ったのはこの世界の言語ではなく、紛れもない『日本語』だったのだ。


 「君の事を聞かせて貰ってもいいかな?君も状況は知りたいだろう?」


 テルは敢えてこちらの世界の言語で話し掛けてみた。


 「そうだな。私も少々混乱しているのだが…」


 やはり言葉は通じているようだ。だが聞こえてくるのは日本語だ。少女は続ける。

 「ところで、ここはどの辺りであろうか?確か私は越中から春日山へ向かっている途中で…」


 なるほど、とテルは思う。この娘は自分とは違う時代からこちらに飛ばされて来たのだろうと。ただ、納得させるには骨が折れそうだな、と頭を抱えたくなるのを堪えて彼女に語る。


 「落ち着いて聞いて欲しい。ここは何処かと言う問いに関してだけど。ここは君の知っている日本ではないんだ。」


 「何をバカな…」


 「君が襲われていた魔物は『ゴブリン』といって、この世界ではそう珍しいものではない。」


 「『ごぶりん』?『この世界』?一体なにを言っているのか全く分からない。」


 これは予想以上に難航しそうだな、とテルは苦笑する。さて、どう切り崩していこうかと悩んでいるとドアをノックする音が聞こえた。



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