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敵の意図は?

 街を先発したテル達先陣組はこれと言った混乱もなく山頂の制圧に成功した。思ったよりカムリ軍の進軍速度は遅いようだ。


 後続の主力部隊へ山頂制圧の報を知らせる伝令を走らせ、先発隊は陣地の構築に入る。木を伐採し木材として柵を作る。斜面にも登って来る敵軍を阻むように先を鋭く削った木材を埋め込み馬防柵としたり櫓を作ったり。また敢えて登頂し易そうなルートを作ってそこにトラップを仕掛けたり。


 また、主力部隊が到着して人工が増えてからはさらに作業は急ピッチで進む。また、カムリ軍の動向によっては長期にわたり山頂に布陣し続けなければならず補給の問題も無視出来ない。


 テルとユキ、それにゼマティスとローランドはこれまでの報告とこの先の事を進言するためにインテグラーレ公の元に赴いている。


 「随分と陣地構築のスピードが速いな。これもこの事態を予測して魔物を間引きしておいた事が大きいか。よくやった。ゼマティス。」


 「は。しかし閣下。魔物討伐の折にあらかじめ地形を念入りに把握し防御陣の構想を練っていたのはテルですので。」


 ゼマティスは決して謙遜したわけでもテルを持ち上げた訳でもなく、事実をそのまま述べただけだ。それはテルもインテグラーレ公も分かっているがテルの方は少しこそばゆい。そしてユキは自分が褒められたかのようにドヤ顔だ。


 「閣下、戦場となる地を選定しておきそこで戦うよう敵を誘導するのも戦術の内です。戦う前から戦は始まっていると考えます。」


 「なるほどな。先程簡単にだが縄張りを見て回ったがアレは敵も攻めあぐねるであろうな。昨日までただの山だったのが堅固な砦と言ってもよい出来だ。」


 「それで閣下。ひとつ進言があるのですが。」


 「うむ。」


 「輜重部隊の補給路を整備しておいた方が良いかと。」


 「『道』を作れという事か?」


 テルの考えとしてはこの山頂は単にカムリ領との境であるだけでなく、エツリア、バンドーの国境にも近い。いっその事この山を本格的に砦にしてしまえと思っている。兵の移動、民の避難、いろいろな事を鑑みてもこの山と街を繋ぐ街道は整備した方が良いと思えた。


 「そこまで考えておったか…」


 テルは自分の考えの詳細をインテグラーレ公に説明したが、聞いていた公爵の側近や家臣団、さらにゼマティスとローランドの視線が驚嘆から尊敬するものに変わっていた。ただユキだけは戦国期にも行われていた事柄だった為むしろ当然と言った顔をしている。逆にテルの意見に補足を入れたり穴を指摘する場面もあった。


 「ふっ、興が乗って来たな。敵の到着も遅れているようだしこのままこの事案を詰めようではないか。そなたらも残って参加せよ。」


 この世界にとっては斬新な事柄を次々と出してくるテルと横で大人しく護衛をしているだけだと思っていた可憐な少女が場合によってはテル以上に的確な指摘をしてくる。面白かった。公爵も家臣もゼマティスもローランドも。テルやユキの話を聞いているとまるで脳細胞が活性化していくような、そんな感覚の虜になっていた。


 白熱した会議で一応の今後のビジョンが見えて来た為一旦解散となりテル達は本陣から退出して前線の司令部とも言える幕舎に戻っていった。


 「何やら頭が若返った気がしますなぁ、閣下。」


 「ああ。テルとユキか。それに陛下に同行しているカズト殿にライム殿。彼等異界の若者がこの世界を変えるやも知れん。我らは幸運だぞ?生きて世界が変わる瞬間に立ち会えるやも知れぬのだからな。」


 「仰る通りですな。この老骨もまだまだ長生きしとうなりましたわ。」


 先代公爵の時代より仕える老臣は心底楽しそうに笑うのだった。




 パチパチと焚き木が爆ぜる音とそちらこちらでグループを形成し話に盛り上がる兵士たちの声。虫の鳴き声と何かに驚いて鳥が飛び立つ音。テル達はシモンズ夫妻とゼマティス、ローランドと6人で火を囲んで食事をしていた。


 「それにしても、鈍いですね。」


 ふと気に掛かっていた事をテルが口にした。放っている斥候もまだカムリ軍を発見していない。大きく迂回している事も考えられるがこちらが街道を押さえれば敵は退路を失う事になる。現実味は薄いと言える。


 「そうだな。俺が見て来た感じからするともう一当てしてもおかしくない日数が経っている。」


 一番疑問に思っているのが実際偵察に出ていたシモンズだ。そんな時、ふとテルとユキの肩の上で何かが輝き始めた。テルの肩の上には薄緑の燐光。ユキの肩の上には水色の燐光が。


 「お、おう?なんか光ってるぞテル!」


 「ああ。カズトさんから伝言だな。」


 ゼマティスが驚いていると肩の上の光が形を成し、愛らしい妖精がちょこんと2人の肩に座っていた。テルには『リッケン』と名付けられた風の妖精。ユキには『バッカー』と名付けられた水の妖精。


 「精霊王様から伝言が来たんですよ。この子達は精霊王様の分身体です。」


 そう言うとリッケンがテルに耳打ちをする。要件を話し終えると妖精は楽しそうな表情で足をパタパタさせて肩に座っている。それを見たローランドとシャーベルの女性陣は蕩けそうな顔だがテルとユキは難しい顔で考えこんでいる。


 「どうした?」


 突然現れた妖精が精霊王の分身だと聞かされて魂が抜けかかったゼマティスだがすんでの所で魂を繋ぎ止めてテルに問いかける。


 「陛下の一行が敵軍を捕捉したようなんですが…位置が余りにもここから離れすぎている。意図的に進軍を遅らせているとしか考えられないんです。」


 「わかった。公爵の所に行こう。そのおチビちゃん達はそのまま出しておいた方がいい。その方が説明が早いだろ。シモンズはその辺の兵達を集めて今の件を周知してくれ。気を抜くなってな。」


 そしてテルとユキ、ゼマティスの3人は本陣へと向かった。


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