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テルの本質

 「こ、ここここ公爵閣下!?」


 「…閣下。このような前線に出張られては困るのですが?」


 「固い事を言うな。布陣する時はしっかりと後方で踏ん反り返っておるわ。」


 一同公爵の物言いに苦笑する。


 「ここまで出向いたのはな、テル。そなたと話をしてみたかったのだ。どうにも発想が違うように思うのでな。我々とは。」


 「そのような事はありませんよ。買いかぶりすぎです。」


 「ふん。私には遠い未来には当たり前になっているかも知れん事を時代に先立ちやろうとしている様に思えるな。」


 公爵の言葉にテル以外の全員が納得してしまった。魔物をおびき寄せ、交替制を導入して稼働時間を延ばすなど、この世界では革新的な手法を取り入れたのだから。


 「カズト殿と同じ匂いがするのだよ。そなたからは。」


 「!!」


 カズトの場合はその圧倒的な力で物事を解決して来ているように思われがちだが実はかなり合理的な作戦を練って臨んでいたりする。テルは圧倒的な力こそ無いが現有戦力をどこまで有効に使えるかを突き詰めていくやり方だ。贅肉を削ぎ落してギリギリ限界の力を吐き出させるカズトと幾何かの余裕を持たせて最高のパフォーマンスを発揮させるテル。相反する2人の様に思える。しかし。


 「戦術、ですか。」


 「そうだ。我々の概念では戦に勝つにはどうするか。幾人かの強者と相手より多くの兵だ。」


 つまり物量で勝れば余程の事がない限りは敵に勝てる、そんな原始的な戦闘が主流だったこの世界にカズトとテルが『戦術』をもたらした。現にカズトは圧倒的物量差を覆して幾度も勝利している。それをカズト個人の武力によるものだと断ずる者もいるが、カズトは自分自身の戦闘力を計算した上で戦術を組み立てている。


 「まったく、異世界人とはその力、その知識、恐ろしいものだな。この世界には一体そうした者達が何人おるのだろうな…」


 「…閣下。少なくとも俺もユキも。そしてカズトさんもライムさんも野心はありません。ただ…」


 「ただ?」


 「人は生まれ落ちた時に生きる為のライセンスを与えられている筈だ。それを理不尽な圧力で奪い去るような事は許さない。エツリアの魔法至上主義然り。オーシューの貴族主義然り。」


 「なるほど。そなたらの行動理念はそこにあるか。」


 「セリカ陛下も同様かと。」


 「うむ。肝に銘じよう。」


 「ところで閣下。なぜ俺が異世界人だと?」


 ゼマティスとインテグラーレが『やべっ!』って顔をしている。幸い、シモンズとシャーベルは公爵を前にカチコチになってる上に公爵に気後れせずに対応しているテルに感服していて話の内容はなんとなくしか聞いていなかったし、ローランドはもうテルに見惚れて話なんか聞いちゃいない。


 「すまんな。そなたと話しているとどうにも気持ちが緩んでしまう。カズト殿とは違った魅力のある男よな。そうそう、わざわざここに出向いたのはな。先刻の代官屋敷でのアレだ。」


 なにかしら処罰でもあるのかと緊張するテルだったが、

 

 「家臣一同貴君の心意気に感服した。もはや若輩だ平民だと侮る者はいない。安心してその力を示すがよい。」


 「は!ご期待に副えるよう全力を尽くします!」


 声色が変わり『公爵』の顔になったインテグラーレの言葉にテルも背筋を伸ばして敬礼して返した。


 満足気に頷くと公爵は後方に戻っていった。


 「いやあ、テル、あんたってとんでもない大物だねぇ!大物貴族の中でも筆頭格のインテグラーレ公を逆に威圧するなんてさ!」


 「俺は逆にハラハラしちまったぜ…。」


 「テルさん、素敵でした!どこかのギルドマスターに見せてやりたかったですよ!」


 「……見てたよ。」


 「ふふ。惚れ直したぞ、テル。さすがは上杉の血流だ。」


 懸念事項だった貴族の反発はなさそうだ。ならばテルのやる事は一つだけ。力の限り守るだけだ。


◇◇◇


 「いかがでございましたか?閣下。」


 「うむ、お前はどう見た?」


 「は。少々生意気ではありますが己が信念に正直な故でしょうな。まだ16,7の歳とは思えない老獪さもあるように思いました。」


 「…そうよな。精神的には成熟しているように見える。少々頭が切れるだけの小僧ならば取り込んでやろうかと思ったが…」


 「お止めになられた方が宜しいかと。」


 「……あれは獣だな。決して飼いならす事など出来ぬ狂暴な獣だ。」


 「先程閣下が『異世界人』と口にされた一瞬の事でしたが。」


 「どうした?」


 「奴の纏う『気』が豹変したのですよ。優男を装っていますがアレの本質は戦場で発揮されるでしょうな。」


 「ふむ。楽しみが増えたな。」

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