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時代の転換点へと進みだす

 「俺達も結構出来るつもりだったけど、井の中の蛙ってやつだったか…」


 「そうだな。スキルの使用を制限されたとは言え…完敗だ。」


 テルとユキが息を弾ませて休んでいる。その2人を囲んでカズト達が笑いかける。


 「どうだ?ウチの女の子達も強かっただろ?」


 「まったく、どんな鍛錬を積めばそんなに…」


 テルの方は呆れと尊敬が入り混じった複雑な表情だ。


 

 カズトから精霊王の加護を貰った後、カズトの提案で1対1の模擬戦が行われた。


 テルも女王一行が少人数で大軍を退けたとかそんな話は聞いていたが、大魔法を使ったのだろう、そんな認識だった。


 (殺す気で行った。初見殺しの必殺コンボもあっさり躱された。しかも反撃を食らって…)


 「それがテルさんのユニークスキルか。凄いな!」


 カズトは心底驚いている風だが、


 (凄いのはどっちだよ!)


 内心テルは突っ込む。何しろ『ほんの少しだけ殺気を込めたパンチ』で死を見せられた。これを食らえば必ず死ぬ。そこまでの凄まじい殺気が籠ったパンチ。スキル使用禁止の模擬戦で、テルは本能的に瞬間移動(テレポーテーション)で逃げてしまった。


 その後もテルとユキは対戦相手を変えて何度か挑むが最後には押し負ける。基礎ステータスの差だろうか。


 テルとライムの模擬戦を見ていたカズトにユキが話し掛ける。


 「カズト殿は日本にいる時は武人だったのだろうか?テルから聞いた話では私のいた時代とは違って日本は平和だったと聞いたのだが。」


 「はは、そうだな。俺は武人なんかじゃないよ。普通の会社員だった。護身術程度の格闘技はかじっていたけどね。」


 「かいしゃいん?」


 「ははは、後でテルさんにでも聞いてみてくれ。俺達の時代、大人になるとかなりの割合でその会社員ってやつになるんだ。」


 そんな会話をしているうちにテルがライムに敗れ、続いてユキもライムに挑むが敗れ去る。そして場面は冒頭へ。


 

 「テルさんなら分かってると思うがこの世界のシステムはRPGに似ている。要はたくさん敵を倒していけば経験値が溜まって強くなる。俺達はその敵を倒すって行為をとんでもなく濃密にやって来たんだ。」


 「なるほど、その説明が物凄くしっくり来るよ。」


 そんな会話をしている所へセリカが近寄って来てニコリと笑う。


 「お見事でしたよ、テルさん。今までカズトの一撃を無傷で躱せた者は誰1人いなかったのです。」


 さらに続けて


 「テルさん、ユキさん、改めて私達と共に来るつもりはありませんか?」


 女王陛下自らがスカウトである。しかしテルはブレなかった。離れている所でストラトが悲し気な顔で見つめているのを気付いているのかいないのか。


 「申し訳ありません。陛下。俺達はやっぱりこの街を守る為に戦いたいのです。」


 そこで意外にもカズトからの援護射撃だ。


 「セリカ。この2人はここに残って貰った方がいいと思うぞ?カムリの包囲網に穴があるとすればこのウフロン方面だ。この2人なら任せても大丈夫だろ。」


 カズトはちらりとストラトの方へ視線を向けながらセリカを諭す。


 「ふふふ、カズトは自分の事はさっぱりなのに周りの事はよく見えているのですね?確かにストラトさんにあんな悲しそうな顔をされては無理強いは出来ませんね。」


 言われて気付いたのかテルはストラトの方を見て力強く頷いて見せた。『心配するな』だろうか。それとも『俺が守ってやる』だろうか。どのように解釈したかはストラトしか分からないが少女が慕う男はこの街に留まってくれる事を断言してくれた。喜びと安堵で目を潤ませているストラト。


 「おい!みんな、少しいいか!?」


 そこへ急ぎ足でスタインがやって来る。やや表情には焦りが見える。


 「陛下に代官様からの使いがやって来ている。それから、テル、ユキ。お前らにはギルドから使いだ。取り敢えず戻ってくれ。」


 宿に戻り食堂へ行くと待っていたのは2人。身なりの良い老紳士。こちらが代官からの使者だろう。そしてもう1人はいつもギルドで見慣れているテル達担当のローランド。


 まずは代官からの報告から聞くようだ。


 「陛下、先程インテグラーレ公爵閣下より使者が参りまして、ウリアの援軍を含む1万2千が明日にも到着する予定です。」


 そしてローランド。


 「ギルドからの報告です。カムリ領に偵察に出していた冒険者がたった今戻りまして、カムリ公の軍が動いたとの事です。進軍方向は北西。つまりこちらです。」


 シモンズとシャーベルが戻って来たようだ。無事で何よりだがこれはかなり微妙なタイミングだ。インテグラーレ公の進軍速度次第ではこの街が戦場になる可能性もある。戦場は南になればなる程好ましいのでインテグラーレ公には急いでもらう他はないが…テルのような冒険者風情が進言出来る事でもない。周囲の空気がにわかに緊迫する。しかしセリカの対応は迅速だった。


 「代官へ至急インテグラーレ公へ急使を出すよう伝えなさい。進軍を急ぎこの街を戦場にする事のないように!街の駐留軍にも召集を!」


 「はっ!」


 老紳士は後ろも振り返らずに宿を飛び出して行った。


 「ギルドは至急戦える冒険者を集めるように!義勇兵も募りなさい!今夜は寝ている暇はありませんよ!」


 「は、はい!」


 ローランドが宿を出て行くのを見届けると、カズト達は静かに動き出した。そして。


 「スタインさん。悪いな。今夜の宿泊はキャンセルだ。ちょっと野暮用が出来ちまったからな。悪い。」


 セリカの一行は当たり前のように出発の準備を始めていた。


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