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カズトからの餞別

 「これが坊主に頼まれてたグローブだな。結構使い込んでたんでモーリスに一旦修繕してもらってから、ローレルがエンチャントした。」


 「そうだね、この左手の甲の部分にある魔法陣が空間収納の術式だ。術式自体とグローブが保護されるように状態保存の術式も編み込んであるから安心して使いな。あと、収納の容量は魔力量に依存する。常日頃から魔力を使う事を意識するんだな。そうする事で魔力の総量は上がって行く。」


 ガイアとローレルの説明にユキを目を白黒させていた。現代日本とは違い魔法やRPGなどの概念がないユキにとっては理解し難い事だった。その様子を見ていたテルは後でじっくりと教えてやらなきゃな、と苦笑する。


 それからモーリスはユキの忍刀とテルの片刃剣をそれぞれに手渡す。


 そして再びローレルの講釈。

 

 「それを見たガイアが相当の業物だってんでね、自己修復のエンチャントを付けといた。ベースはオーガの骨みたいだがミスリルでコートしてるって事は普段から魔力流して斬れ味を上げてるんだろ?その魔力を流す行為そのものがその刀を修復させる事になる。」


 剣を打ったモーリスは得意気だ。ここまでの仕事でモーリスはガイアを尊敬すべき師と仰ぐ程になっていた。そのガイアが称賛したのが自分の作品だったのだから無理はない。


 「お前ら、そんな事までしてたのか。やけに時間が掛かると思ったら…」


 時間が掛かりすぎている事に対し怪訝に思っていたカズトがその原因を目の当たりにして少し呆れているようだ。しかし、職人チームの暴走はそれだけでは無かった。


 「あー、坊主。まだあるんだよ。」


 少しだけ、ほんの少しだけ申し訳なさそうにガイアが言う。


 「テル、この脛当てを付けてそこの試し斬り用の木偶に回し蹴りを入れてみてくれ。魔力流して思い切りな。」


 モーリスがテルに促すとテルはいそいそと装着し始める。テルとしても早く試してみたいのだろう。


 「いいかい?爪先と踵から刃を出すイメージで魔力を流すんだ。それがうまくいけばアンタの足は風の刃を纏う。慣れて来れば足裏から槍みたいに突出させたりとか使い様はいろいろ有ると思うぜ?何にしても、大事なのはイメージとアイディアさ。」


 『大事なのはイメージとアイディア』。なかなかの金言と思われるローレルの言葉を頭に浮かべながらテルは木偶の前に立つ。ふっと小さく息を吐き、右上段の蹴りで木偶の首を斬り落とすとそのまま後ろ中段回し蹴りで胴体を両断する。そう、蹴りで木偶を斬った(・・・)


 美しい蹴りの形だった。今の様子を見ていたユキは目がハートマークになっている。


 「ただでさえ鋭いテルの蹴りがさらに切れ味を増し華麗に…」


 そしてテルは照れ臭そうに頭を掻きながら職人チームに向かい礼をする。


 「ありがとう。火力不足が悩みの種だったんだけどこれなら!」


 「まったく。随分サービスがいいじゃねえか。おっちゃん。ローレル。」


 そこへカズトが職人チームに冷やかしを入れたのだが、冷やかされた方のガイアは真面目な顔で言い切る。


 「この2人は坊主、お前とライム嬢ちゃんと同じ『匂い』がする。死なせちゃいけねえよ、こいつらは。」


 「そういう事だね。ま、アタシらからの餞別はこんなトコだよ。」


 まるで『アンタからはまだあるんだろ?』とでも言いたげなローレル。


 「…セリカ。加護、いいか?」


 「カズトがお2人を信じたのなら良いのではないですか?カズトの眷属なのですから。」


 少しだけ考える素振りを見せたカズトとそれに答えるセリカの言葉。テル達には何を言っているのか分からない。いや、言葉の意味は分かる。だが何が起こるのか想像がつかない。


 「…俺とライムは日本に戻る事を諦めちゃいない。でもあんた達はこっちで骨を埋める覚悟なんだろ?そんなあんた達に俺からの餞別だ。サンタナ、アクア。顕現しろ。」


 カズトがそう言うと眩い輝きに包まれた何かが現れた。直視出来ないのは眩さ故か神々しさ故か。徐々に柔らかくなる輝きに次第に目が慣れてくる。そこに見えたものは。


 【私は風の精霊王シルフィード。ご主人様より『サンタナ』の名を賜っております。】

 

 緑色の燐光に包まれて佇むその姿は若草色の髪と瞳。背には6枚の羽根。細かに振動するその羽根からは絶える事なく燐光が振り撒かれている。あれが風属性の魔力だろうか。


 【同じく我は『アクア』。水の精霊王ウンディーネじゃ。】


 こちらは清らかな水のヴェールに包まれた青い美女。碧い瞳に碧い髪。こちらは水属性の魔力が物質化してヴェールを形成しているようだ。


 テルとユキは2人を見てただぼーっとしている。それ以外に出来る事はなかった。それ程に精霊王とは美しく、神々しく、畏怖すべき存在だった。


 「サンタナ、アクア。2人に加護を。」


 【分かりました。ご主人様。】

 【うむ、承知した。】


 これだけの存在を人であるカズトが使役しているなど信じられないテルだったが、実際2人の精霊王はカズトの命に従っている。カズトに言われる通りにサンタナとアクアは緑と青の燐光でテルとユキを包む。そして一際煌めきを増した燐光が2人の体へと吸収されていくとテルとユキは強烈な魔力の昂りを感じた。


 「気に入って貰えたか?」

 

 声の方向にはにこやかに微笑むカズトがいた。

 

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