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少女に対する親近感

本作品は同時連載中の『いや、自由に生きろって言われても。』のスピンオフ作品です。

 馬上で気を失っている少女になるべく負担をかけないようにテルは【能力】を使う。


 彼が使う【能力】とは俗に言う『超能力』と呼ばれるものである。前世の地球では彼の様な能力者は『エスパー』とか『サイキッカー』とか呼ばれていた。


 テルが生家である辺境伯の屋敷を脱出する際の戦闘で多用したのが【瞬間移動(テレポーテーション)】だった。自分及び視認した物体を任意の場所へ瞬間移動させるという能力である。自分が認識出来ている場所であれば障害物等は関係なく移動させられるらしい。ただ、精神的に疲弊するので無限に使える訳ではない。


 今日は少女をムスタングに乗せる際に【念動力(サイコキネシス)】、つまり手等を触れずに物体を動かす【能力】を、ゴブリンの死体を焼き払う際に【発火能力(パイロキネシス)】を使用している。そして今、街の入口付近まで【瞬間移動(テレポーテーション)】で飛んで(・・・)来ていた。


 テルは定宿にしている『森の梟亭』にムスタングを付けると少女を両腕に抱える。お姫様抱っこと言う奴だ。【念動力】を発揮しているので大して苦労せずにムスタングから下ろして抱きかかえている。この先は誰に見られるか解らない為【能力】は使わずに爪先で『コンコン』と宿の扉をノックする。


 「なんだ、テルか?どうしたんだソレは?」


 『森の梟亭』の主人で『スタイン』という。180㎝以上の身長にボディービルダーのような筋肉の塊で出来ている厳つい男だ。年齢は40絡みで15才の娘が宿を手伝っている。奥さんは娘が生まれてすぐに亡くなったらしい。


 「森でゴブリンの群れに襲われている所を助けたんだが気を失ってしまったんだ。俺の部屋に寝かせておくから済まないが医者を呼んでくれないか?あと、水と清潔な布も頼むよ。」


 「ストラト!テルを手伝ってやってくれ!ケガ人だ!俺は医者を呼んでくるからよ!」


 「はーい!お父さん! あ!テル君。その子酷いケガ!」


 スタインの娘の『ストラト』に手伝って貰い部屋のベッドに寝かせ止血などの応急処置と傷口の消毒をする。やがてスタインが医者と若い女の助手を連れて来たので処置を任せてストラトと共に部屋を出た。


 「おやっさん、ストラトも手間を取らせちゃったな。ありがとう。」


 「別に構いやしねえよ。お前は物騒な見た目の割に優しい所があるからな。はっはっは!」


 「そっくりそのままお返しするよ、スタインのおやっさん。」


 テルは苦笑いで言い返す。


 「そうだよ、お父さん!テル君のどこが物騒なのさ!お父さんなんて山賊顔じゃない!」


 ストラトはテルによく懐いていて、こういう場合は10割の確立でテルの味方である。多分ストラトは母親似なんだろうな、とテルも思う程にはストラトは整った容姿をしていてスタインの顔は凶悪だ。


 (それにしてもあの少女…)


 容姿という点で助けた少女の事が気に掛かっていた。まず服装。まるで前世の時代劇などで見た忍者のような黒装束。厳密に言えば黒ではなく濃いグレーなのがなぜかリアルさを感じさせた。顔は目の部分以外を頭巾で覆っている。しかし応急処置の際に頭巾を外したその姿は艷やかな黒い髪。森でちらりと見た少女の瞳も漆黒だった。


 (日本人か…?この世界に? しかもあの衣装。こっちの世界にあんな衣装があるのか?コスプレなんて文化はないだろうしな。しかし…)


 (鎖帷子、武器。間違いなく実戦用の物なんだよな。)


 「テル君、変わった服を着た人だったね。それに、今の時代に黒い髪なんて珍しいよね。」


 ストラトの言葉に頷く事で同意し、また思考に耽る。


 (大昔、黒髪黒目の先住民は大陸から来た異民族に追いやられたんだっけ。)


 暫くすると部屋から医者と助手が出てきた。


 「ゴブリンの集団と交戦している所を助けたと言っていたが、ゴブリンは剣で武装していたのかな?いや、打撃によるダメージは殆ど無かったんだが鋭い刃物で斬られた傷が多くてね。ゴブリンがそんな斬れ味鋭い剣で武装していたとなると問題になるだろうからね。」


 この医者の言う事は当然だ。最弱の魔物と言われているが質の良い武器を持てばそれだけ驚異度は跳ね上がる。しかし。


 「ああ、言っている事は解ります。でもゴブリンは全て棍棒で武装していて刃物を持っていたのは居なかったのです。あの少女は既に別の場所で戦闘をしダメージを受け、そこをゴブリンに襲われたのではないでしょうか?」


 ふむ、と医者は考え込み、テルとその場にいたスタイン、ストラトに告げた。


 「あの少女は少々血が足りない状況になっていましてな。目が覚めても暫くは動けないでしょう。栄養のある物を食べさせてゆっくり休ませる事です。あと、高価なポーションでも使えば傷は消えるでしょうが、通常の医術では傷までは消せないでしょう。何かあれば診療所まで来て下さい。これは1日に一度、傷口に塗って包帯は取り替えてやって下さい。それでは私達はこれで。」


 薬を受け取ってテル達は医者に深く礼をして見送った。


 「おい、テル。お前あの娘、どうすんだ?」


 今一番考えたく無い事をスタインに言われて現実逃避を阻止されたテルだった。

 

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