運命の邂逅3
予想も覚悟もしていた。その為に領境の山中で魔物の間引きもやって来た。だが目の前のこの男、カズトが口すると俄然真実味を帯びてくる。
「未だ貴族主義を掲げセリカ陛下に反抗するカムリ公の討伐か…」
カズトに対する返答とも独り言ともとれるような呟き。
ここヨネーザの街にもそれなりに情報は入って来ている。魔物の間引きによる副次効果で商人の出入りも活発になっており信憑性の高い噂はそこかしこで聞く事が出来た。
カムリ公を包囲する為に軍が徐々に南下しており、ウフロンの北に位置するウリアの援軍を含めた軍勢がここヨネーザに駐留するだろうと。
「包囲され苦しくなってきたカムリ公は包囲の薄いこのウフロンに風穴を開けに来る可能性が高い。しかもセリカ陛下はエツリアに出張っている為ウフロンを攻めるのは陛下の退路を断つ千載一遇のチャンスでもある。…なるほど、この街が危ないか。」
今度は明瞭にカズトに対して返答するテル。カズトはひとつ頷くとテルに尋ねる。
「そういう事だな。あんたはこの先どうするんだ?」
「戦うよ。俺はこの街が、この街の人が好きなんだ。何処へ行っても疎まれ、親にさえ捨てられた俺を受け入れてくれたこの街がさ。」
一瞬も戸惑う事無くそう答えたテルに対しカズトが申し訳なさそうに、しかし頑として譲る事はないであろう決意の籠った声色で言う。
「そうか…悪いな。俺は日本人だからかな。身分の違いで抑圧されている人たちを見るのが我慢できなかった。セリカがそんな世の中を変えようとしている。だからカムリは倒さなきゃならない。」
半分くらいは自分のエゴが混じっている戦いにこの街を巻き込むかも知れない事に対するカズトの謝罪か。しかしテルはカズト以上にその気持ちが理解出来る。実際に魔法が使えない、それだけの理由で虫けらの如き扱いを受けて来た。
「カズトさん、俺も同じだ。だけどユキには…「待った!その先は言っちゃダメだ。もし聞かれたらめっちゃ怒られるぞ?」
ユキを巻き込みたくない、そう言おうとしたテルの言葉をカズトが強引に遮る。なんだろう?そうテルが思っていると、
「ライム、ユキさん。出て来い。盗み聞きは悪趣味だぞ?」
「!!」
テルは全く気付いていなかったがカズトは察していたようだ。改めてカズトの実力の一端を垣間見た気がした。
「てへっ、バレてたかぁ。」
「ま、まさか忍びの私の気配を!?」
ライムの方はバレるのはハナから決定事項だったのか悪びれる様子はないが、ユキの方は隠密行動に長けた自分の気配遮断が見破られているとは思わなかったのだろう、激しく狼狽している。
「今みたいなケースはさ、俺はライムにこう言うんだ。『一緒に戦うぞ』ってな。」
「えへへへへー、カズにぃったら~♡」
何やらいちゃつき始めたライムを引き剥したカズトは続ける。
「おそらく、ユキさんは同じ戦場に立つ事を望んでいる筈だ。それならその気持ちを受け止めて、その上で守ってやるのが正解だ。」
テルにしてみれば目から鱗が落ちる思いだった。守ってやる事。イコールトラブルから遠ざける事。基本的にはそう思っていた。
「そうだぞテル。カズト殿の言う通りだ。例えどんな危険な戦場でも、テルがそこにいるなら私も側にありたい。私にだけ生き延びろとか、そんな悲しい事は言ってくれるなよ?」
瞳を潤ませ見上げてくるユキの言葉に押さえようのない愛しさが込み上げて来るテルはユキを抱きしめていた。
「ユキ…」
「テル…」
「あー、げふんげふん!」
はっとして離れるテルとユキ。そしてカズトとライムはちょっと意味不明な事を言い始めた。
「ライム、2人に丁度いい様なダンジョン産の奴無かったっけ?」
「えっと確かユーゲンでレベリングした時とリューセン攻略の時のレアドロップが…この辺から選んで貰ったらいいんじゃないかな?」
ライムが空間収納から武器や装備品をまるで奇術の様にポコポコと出す様を見てテルとユキは呆気に取られる。
「この中から好きなの選んでくれよ。」
カズトがまるで友達に要らなくなった玩具を分け与えるような気軽さで無造作に並べられた『お宝』を勧めてくる。しかし勧められたからと言ってはいそうですか、という訳にはいかない貴重な品々だ。
「しかし、このような貴重品を…それに俺達は鑑定スキルが無いんだ。どれが自分に合うかとかは
分からないんだ。」
テルとしては体裁良く断ったつもりだった。
「じゃあ、ライム、2人にアイテムの効果とか性能教えてあげてよ。」
それからのカズトの言動にはテルとユキ、驚嘆の連続だった。世の中の常識というものが、どこに基準を置けばいいのかちょっと分からない。そんな気持ちになった。
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