運命の邂逅2
「もし日本に戻りたいなら俺達と行動した方がいいと思ったんだが…500年近く時間軸がズレてるとはなぁ…」
カズトはそのように申し出たがさすがにユキが戦国時代からの転移者だというのは予想外だったらしく、少々困っているように見えた。
しかし、テルには戻る理由が見つからなかった。この世界で、この街で築き上げてきた絆。そしてユキという存在。これらを捨ててどうして日本に戻れようか。
それに…今となっては日本で生きてて良かったと言える思い出が無い。それに、元の世界では自分は死んだ人間なのだ。そう思うと日本に未練は一切無い事に改めて気付く。
「申し出は有り難いが…気持ちだけ受け取っておくよ。何しろ向こうじゃ俺は死んだ人間だしな。」
そしてユキも。ユキも忍びになるべく訓練を積む日々と任務に明け暮れる日々。日本での記憶はそれだけだ。親も知らぬし故郷も知らぬ。越後上杉家に仕え軒猿という組織の同僚こそいたが所詮は忍び、素性などあって無いようなものだ。こちらも日本に欠片程の未練は無い。そしてユキがここに留まりたい最大の理由。
「テルは命の恩人なのだ。テルが戻らぬのなら私も残るよ。」
それを聞いたカズトは目を細める。
(ああ、このユキって子はライムと同じなんだな。)
「そうか、分かるよ、そういうの。お互いがお互いを大事に思ってるんだな。俺にもそういうのがいる。」
そんな会話を交わしていると、カズトの仲間と思しき一行がやって来た。一番先頭を駆けてくるのが黒髪黒目の見目麗しい少女だった。恐らくこの少女が召喚されたもう一人だろうとあたりを付けたテルとユキ。
「私はライム!名前はこんなだけど正真正銘純血の日本人だよ!よろしくね!」
そして女王陛下と他のメンバーが現れ自己紹介を交わす。セリカとの自己紹介の場面では流石のテルもユキも緊張でカチコチになり、さらにカズトがテイムしたという地竜が来た時にはなぜかテルは死んだフリをしてしまい周囲の笑いを誘った。
女王陛下の一行は比較的年齢層が近い事もあってテルやユキ、そしてストラトとも打ち解けており夕食を共にする事になった。
(女王の一行って事だからもっと堅苦しいのかとおもったけど、随分とフランクなんだな。)
共に食事を楽しむ面々を見てテルはそう思った。顔に出ていたのだろうか、カズトが心を読んだように説明を入れる。
「全然らしくないだろ?セリカの母親は今王都で摂政なんて地位について頑張ってるんだが平民出なんだ。それでセリカも随分と苦労してきたみたいなんだよな。サニーは元ギルドの受付嬢だしグロリアは元騎士団員。ローレルはエルフの錬金術師だしガイアは見たまんまドワーフの鍛冶師だ。向こうにいるソアラは『クノイチ』って組織の出身だ。殆ど貴族の匂いがしないだろ?」
そして話は進み日本人4人、身の上話で盛り上がる。日本でのカズトとライムの出会いの話にユキは乙女心を揺さぶられ、テルの前半生の話でライムは号泣する。今までのカズトの戦果にテルが驚愕し、ユキが転移してくる直前の戦闘相手の名前を聞きカズトのテンションが爆上がりする。
「ユキさんの相手の事なら俺達の時代まで名前が伝わってるよ。本来忍びなんてのは氏素性を知られるのは不都合の方が多いんだろ?それが後世まで名が残るってのは相当に凄い奴って事じゃないのかな?」
カズトがそのように言う。
「ああ、あの2人は忍びの世界では既に名前が知れ渡っていた。こちらに飛ばされて来る瞬間も、奴らの術かと思ったのだがどうも違うようだ。もしかしたらこちらの世界に来ているやも知れぬ。」
そう言いユキはゴトリ、とテーブルに十字手裏剣を置く。
「これは『飛び加藤』が使っていたものだよ。これがこちらにあると言う事は…」
「なるほど、戦闘中に一緒に巻き込まれた可能性が高いな。」
「うむ。どこで何をしているかは分からんが、小柄な爺と妙に色気のある婆だ。かなりの手練れ故、気を付けられよ。」
「ああ、忠告感謝する。」
そんな話をしながらも食事は進む。
「そういやさ、俺、リューセン村ってトコの宿屋でちょっと向こうの料理のレシピを伝授したら結構評判になってさ。ここのおやっさんにも何か教えてやったらどうだい?」
カズトがそんな提案をして来た。テルは宿の助けになりそうだな、と興味が湧き、カズトに尋ねる。
「へえ?どんな料理を?」
「なに、そんなに難しいもんじゃないよ。主に揚げ物だな。ほら、ポテト系とかチキン系。それからおにぎりとか卵焼きにタコさんウインナー。」
そういえばこの世界では揚げ物は殆ど見かけないな、と思い返すテル。油が高価だからだろうか?でもおやっさんに相談してみよう。そう考えたところでカズトが真面目な顔でテルに話し掛ける。
「ちょっと外の空気でも吸いに行かないか?」
テルとしても美味い飯と少しのアルコールで火照った頭を冷やすのもいいかと思い付き合う事にする。
2人で裏庭に出た後カズトは唐突に切り出した。
「近々、この街は戦場になるかも知れない。」
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