運命の邂逅
魔物の間引きクエストが終わり、数日はのんびりと過ごしていたテルとユキ。のんびりと言ってもゴロゴロしていた訳ではなく、定宿だった『森の梟亭』の手伝いをしていたりする。『定宿だった』と過去形なのは宿主のスタインとテルが養子縁組を結んだ事で家族となり、テルがもはや宿の客ではなくなった事が理由だ。
ユキの方は…敢えて言うならば有耶無耶だろうか。ユキと一緒に寝泊まりしていた部屋をそのままテル達2人の私室としてあてがわれている格好だ。当の2人はどちらも初心ゆえにまだ男女の関係になっている訳ではないが周囲から見れば一目瞭然の親密さだ。義父になったスタインも義妹となったストラトも半ばテルの婚約者の位置付けで納得している為今まで通り、テルと同室で暮らしている。
「そういえばさ、エツリアに行ったセリカ陛下が向こうで暗殺されそうになったらしいんだ。」
この日は体が鈍らないようにと2人でギルドの依頼を受け魔物の討伐をして来たのだが、その帰り道、ムスタングの背に揺られながら穏やかではない噂話を口にするテル。
「それは…女王陛下はご無事なのか?」
「ああ、無傷で返り討ちにして交渉を有利に進めたらしいな。どうやら相当にしたたかな女王様らしい。歳は俺達とそんなに変わらないんだってさ。」
「女王陛下とはそれ程にお強いお方なのか?」
「ああ、陛下も規格外の強さらしいが従者もみな陛下と同等には強いらしい。でも、陛下が召喚魔法で呼び寄せた2人の男女、これがもう人外の強さらしい。それに。2人とも黒髪黒目なんだって。」
「ほお?我らと同じ日本人かもしれぬな。」
「そうかもな。」
そして宿に到着して扉を開ける。
「ただいまー。」
「あっ、お帰りー。2人にお客さんなんだけど…」
ストラトがいつもの様に出迎えてくれるがいつもと違うのが見覚えのない客がいた事。当然テルは警戒する。エツリアからの追手かと。
待っていたのは20代半ばくらいの黒髪黒目の男。『冒険者のカズト』と名乗った。女王陛下が召喚したという男だろうか?名前も日本人ぽい。権力に取り込もうとする為に接触してきたのかもしれない。テルは一層警戒する。
だが、その男が発した言葉にテルは出鼻をくじかれた。
「『グレッチ』って名前に聞き覚えは?」
忘れる筈もない。テルが10歳になるまで通っていた学校の同級生で、一番の親友と言える少年の名前だったからだ。その名前を知ってるという事はエツリアの人間なのだろうか?テルはこのカズトという男と話してみたくなった。
「場所を変えたい。」
テルはユキと共にカズトを連れて裏庭に移動した。そこでカズトから聞かされた話とは。
カズトは女王陛下に召喚された日本人である事。
エツリアへの同盟交渉に同行しエツリアから帰還した途中にテル達の噂を聞き会いに来た事。
エツリアからの出国時に国境守備隊と宴を共にした際にグレッチと出会い、もしオーシューでテルに出会ったなら伝えて欲しいと伝言を頼まれた事。
「それでグレッチ君なんだがな。10才の誕生日を境に学校に来なくなったテリー君を心配して辺境伯の屋敷に何度も行っては門前払いを食らっていたそうだ。そして5年後、辺境伯一家の変死事件が起こる。時をほぼ同じくしてテリー君によく似た男がウフロン領へと脱出するのを目撃したとの情報が流れた。」
カズトはテルが学校をやめさせられてからエツリアを脱出するまでの事を話してくれた。
「グレッチ君は言っていた。これから自分達が頑張ってエツリアを変える。だからいつか顔見せに来い。そんなトコだな。」
カズトによると、女王暗殺を企てたエツリアの宰相は魔法至上主義の中心人物でバンドーの影響を強く受けていた。その宰相が排除された為に魔法至上主義者たちは急激に勢いを失いつつある。これからのエツリアは魔法使いが偉そうにのさばる国から生まれ変わろうとしている。グレッチは生まれ変わったエツリアをテルに、いやテリーに見せたいのだろう。
「いい話を聞けた。ありがとう。」
テルは心からカズトに感謝した。学校を辞めさせられて以来知りえなかったエツリアの事を知らせる為にわざわざ訪ねて来てくれたカズト。女王陛下の従者ならそんなに身軽ではないだろうに。少なくともテルはそう思っていた。しかし、そこでテルは違和感に突き当たる。
「国境守備隊と飲んだって…女王陛下もか!?」
それに対しカズトの返答は特に考えるでもなく自然に口をついて出た様に見えた。
「あいつは相手が平民でも、いや、平民だからこそ一緒に卓を囲む事を躊躇しない。」
たしか女王陛下は貴族主義を掲げる国王を排除して平民が虐げられない世の中を目指していると聞いた。そこでテルは漸く納得する。
(そりゃそうか。自分から平民に溶け込む事でより一層陛下のやろうとしている事に真実味が増す。信じてもいいかもな。この国も。)
「それで本題なんだが…」
カズトが切り出す。
「テルさんは元日本人、ユキさんは現役日本人、そんなトコで合ってるか?」
そう、カズトはずっと『日本語』で話していた。見た目が日本人のユキはともかくテルの見た目は西洋人に近い。そのテルが普通に日本語で会話してたらそういう結論に至るだろう。
「ああ、概ね。けどユキに関してはやや複雑だ。彼女は戦国時代の人間だ。」
「なんだって!?」
カズトがここまで驚愕するのはカズトの仲間もあまり見た事がないレアな光景なのはテルもユキも知る由もない事だった。
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