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高まる評価。拡がる評判

 領境の山中での魔物の間引きも順調に進み、一月も経った今は撒き餌に釣られて来る魔物も大分少なくなって来た。同時に間引きに参加する冒険者達も場数を踏んで練度が上がるという副次効果をもたらしている。これにはギルドとしては微妙な表情をする。


 「本来はテルさんとユキさんの経験を積ませるためのクエストだったんですけどねぇ…」


 「いや、本人達も剥ぎ取りとか魔物の生態とか知識面でのスキルはどんどん上がってるじゃねえか。」


 「それはそうなんですけどね。私なんかが企画立案するよりもテルさんの直感で動いた方がいい効果が出そうだなって。ホント、可愛くないですよね?ウフフ…」


 ギルドホールのテーブルの一つ。ゼマティスとローランドが休憩中だ。今の会話の流れの通り、テルとユキの成長を促すハズのクエストがテルの提案により他の冒険者も巻き込む形となり、ギルドとしてだけではなく街としても金銭的な利益と冒険者の質の向上という大きな効果が出ている。


 当然、ギルドの計画の上を行くテルに対しギルドはプライドを刺激される事になる。しかし、プライドを刺激されながらもどこか嬉しそうなローランドを見る限り、この街のギルド組織そのものも自己啓発して行かない事には冒険者に置いて行かれてしまう。そういういい意味での対抗意識が芽生えているようだ。


 「今まで、ギルドと冒険者が切磋琢磨する、そんな事があったかねえ…」


 ゼマティスはしみじみとそう呟いた。


◇◇◇


 「ふむ…領境の山で魔物の間引きをか。」


 ここはウフロンの太守インテグラーレ公爵の執務室。領内の近況報告を受けている。


 「国内の情勢を鑑みて、このウフロンへカムリ公が仕掛けて来る公算が高いと読んだか。目端の利く奴がいるようだな。代官の発案ではあるまい?」


 「は。ヨネーザのギルドマスター、ゼマティスの発案によるものらしいのですが…」


 「ん?」


 「はい。商人共の情報をまとめますと、テルという少年とユキという少女の冒険者2名が近頃Aランクに昇格したらしく、その2名が中心となって魔物の間引きを行っているらしいのです。その効果は経済面のみならず冒険者の練度向上にも繋がっており、その功績は多大であると言えましょう。」


 「セリカ陛下も情報は掴んでいるだろうな。」


 オーシュー女王のセリカはエツリアと同盟を結ぶ為にこのウフロン領内を移動中だ。当然情報収集も怠ってはいない。諜報活動を得意とする組織『クノイチ』の構成員も一行の中にいるのだ。


 「は、恐らくは。」


 「陛下は取り込もうとするだろうが…いや、オーシュー国内に留まるならどちらでもよいか。エツリアやバンドーの工作員が近付かんように手配しておけ。やがて重要な戦力になるだろうからな。」


 「は。ただちに。」


 報告に上がっていた男が執務室から退出していく。


 「少し、身辺を洗ってみるか…」


◇◇◇


 ここはウフロン領都から少し離れた街。交易商人達が集まり賑わいを見せている。


 1人の冒険者風の身なりをした若い女が商人達の噂話に耳を傾けている。


 「なんでもヨネーザの街のギルドがカムリ領との領境の山の魔物を間引いてるらしいんだがね。」


 「ああ、聞いてるよ。まだ若い冒険者の男女がAランクに昇格したってなぁ。その2人が中心になってやってるんだろう?」


 「そうそう、なんでもその2人で3体のオーガを斃したとかでねえ。物凄く腕が立つらしい。」


 (ほう…2人でオーガ3体か。私ならどうだ?1人で2体は厳しいだろうな。1体ならいけるだろうが。)


 商人の話を聞いていた女は感心する。自分の腕には自信があるが、どうも自分以上の実力があるらしい。


 「しかも腕が立つだけじゃなくてね。見た目もいいらしい。特に少女の方は黒髪黒目だってね。今時珍しいね。変な貴族なんかに目を付けられなきゃいいんだけどねえ。」


 (!黒髪黒目だと!? まさかな…一応マスターに報告しておこう。)


 瞬間、話を聞いていた女の姿は消えていた。


◇◇◇


 「そろそろ間引きも完了だな。魔物を狩り尽くしても不味い事になるからな。」


 領境の山から帰還している一行。確かに山中の魔物もかなり減ったのだろう。成果も少なくなっている。


 「戻ったら少しのんびりしたいよ。俺達4人はこのクエスト皆勤だからな。」


 「うむ。私はテルと一緒に数日くっついて過ごしたい。茶菓子を食べながら。」


 「いいなあ、お前らは。俺達は次の仕事が入ってるんだよ。ギルドからの指名依頼。」


 シモンズが羨ましそうに言う。


 「指名依頼ですか?」


 「ああ。カムリ領へ行って偵察してこいってよ。」


 いよいよ本格的にきな臭くなってきたか、とテルとユキは眉を顰める。


 「そうなんですか。危なくないんですか?」


 「大丈夫だろ。冒険者って言っても一般人だしな。しかもバンドーに行けってんじゃない。一応は王国内だ。」


 「そうそう、街の噂話を拾って来るくらいの仕事だ。そんな危ない事にはなりゃしないよ。」


 シモンズとシャーベルが気遣うテル達を安心させるように言う。


 「そうなんだ。ところで今日はウチで晩飯食っていきませんか?奢りますよ?」


 「お?いいな。ご相伴に預かろうかな。」


 「なに!?テルの奢りか?俺達も行こうぜ!」

 「おう!やっぱ仕事の後のおやっさんの料理は格別だからな!」


 ほかの冒険者も便乗しようと話に乗って来るが、


 「おいこら!お前らは自前で食え!そうだな…エール一杯くらいなら出してやる。」


 テルの一言にブーイングが起こるが


 「やったー!タダ酒だぞー!」


 別にどうでもいいようだ。


 (戦争なんてやらなきゃいいのにな。この日常は壊して欲しくないもんだ。)


 近付く争乱を前にテルは平穏な日常を噛みしめていた。

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