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テルの提案と評判

 「なるほどな。それでたった一晩でこの戦果か。お前ら何やってんだ?普通なら罰金物だぞ?」


 ここはギルマスの執務室。ゼマティスはお冠だった。ルーキーを引率する役割のはずのシモンズとシャーベルが逆にルーキーを危機に陥れしかもそのルーキーの活躍で危機を免れる。


 「「うう…面目ない。」」


 「それに引き換え…テル、ユキ、よくやったな。お?ユキは相変わらず美味そうに食うな。お代わりいるか?」


 「うむ!」


 それはもう輝かんばかりの笑みを浮かべ頷くユキに周囲はほっこりする。ゼマティスに至っては孫におやつを与えるおじいちゃんの様だ。


 「おいテル。お前今物凄く失礼な事考えてなかったか?」


 無言でブルブルと首を振り否定する。


 「それで、魔物の間引きについて提案があるそうだな?」


 ここで漸く本題に入る。ゼマティスの人柄とユキの愛らしい食べっぷりで今一つ緊張感が無い執務室の中だがちゃんと本来の目的が果たせればテルとしても文句はない。


 「はい。魔物の間引きと言っても地道に探して歩いてたんじゃ効率が悪いですよね?それで今回のシモンズさん達のアレやソレがヒントになったんですけど…」


 「「おい!」」


 テルの発言にシモンズ夫妻が突っ込むがここは華麗にスルーする。


 「魔物と言ってもいろいろあるでしょうが、昨夜の感触では個体としての強さは大して脅威になるとは思えませんでした。怖いのは数だけで。」


 「それで?」


 ゼマティスはテルが何を言い出すのか興味津々といった顔だ。


 「こっちもある程度人数揃えてきっちり体制を整えれば負ける事はないかと。餌を撒いておびき寄せて一網打尽にしちゃいませんか?」


 「準備万端整えたところで魔物を迎撃するって事かい?」


 シャーベルが問うが確認の意味合いが強いだろう。しかしテルの答えは。


 「少し違いますね。餌に喰いついた魔物に襲撃をかけるんです。」


 「なるほどな。あくまでも積極性を前面に出す作戦か。待ちながら攻めるねえ。面白えじゃねえか。でもよ。」


 テルの答えにゼマティスは一定の理解を示すが。


 「大物が出たらどうすんだ?」


 テルは思う。ゼマティスさん、それはフラグだ、と。


 「そういう事を言うとホントに出るから止めて下さい。」


 「お?おお…」


 「まあ、危険なら撤退しましょう。手は考えて有ります。」


 「そうか、なら詳細を詰めるか。ローランド。内容を書き起こしてくれ。」


 これから作戦会議が本格的に始まるという時、ユキの目はテルの茶菓子の皿に釘付けだった。


◇◇◇


 「なるほどなあ。魔物が張り巡らした糸に引っ掛かるとこの鳴子がカタカタ鳴る訳だ。しかもどの鳴子が鳴ったかによって魔物のいる方向が分かると。」


 「そういう事です。」


 今回の作戦も以前のゴブリン討伐作戦同様ギルドからクエストが発布された。リーダーはテルとユキのパーティ『グンシン』である。まだ経験の浅い若造が、などと侮る者は誰一人いない。何しろ2人ともAランクに昇格し、この街ではトップランカーなのだ。


 参加パーティは『グンシン』以外に6パーティ。30人程になった。シモンズとシャーベルも参加しているが今回は臨時で『グンシン』の中に組み込まれていた。


 その参加者たちの前でテルが作戦を説明している。まずは自分達のベースキャンプ地の選定からだ。これは崖を背にした場所がありあっさりと決定する。次に長さ数キロにもつなぎ合わせた糸を半径500メートル程の範囲に張り巡らせ鳴子に繋ぐ。鳴子は3つ。エリアをA、B、Cの3つに分けそれぞれに鳴子を一つずつ。これでどのエリアに魔物が侵入したか分かる。


 「それで6組のパーティをそれぞれのエリア担当として分配する訳か。」


 「はい。それぞれのエリアに2パーティ。但し出撃は1パーティ。残りのパーティは救援が必要な場合に備えて待機ですね。」


 「テル達はどうするんだ?」


 「ユキを斥候に使って戦場を巡って貰います。その報告を受けて俺が指示を出します。」


 「なるほど、了解だ。始めようぜ。」


 今回の戦場にするエリアを3つに分けてそれぞれ糸を張り巡らせる。一つのエリアに鳴子が一つ。さらに一つのエリアに2パーティが担当。テル達『グンシン』は今回は後方支援兼司令塔の役割を負う。そして張り巡らせた糸の内側に餌を撒く。


 全員がベースキャンプに戻り待つこと数十分。


 『カタカタカタ』


 「1班担当のエリアです!くれぐれも慎重に!」


 「おうよ!任されて!」


 2パーティの内先発のパーティが飛び出して行く。もう1パーティは待機だ。こうして交代で休憩を取りながら稼働時間を長くしていく。


 「流石だな、テル。こうまでお前の作戦が当たるとはな。もう撒き餌がねえし素材も馬車1台満タンだ。」


 「いやあ、これは俺にも予想外ですね。次回からはもっと人員を増やした方がいいかも知れません。」


 待機しながらシモンズと会話を交わすテルだが改善案を頭の中で模索する。こうして魔物討伐隊は派遣される度に問題点を潰していき大きな戦果を上げる。


 「魔物討伐隊のおかげで街が潤って来てるよな。」

 「ああ、魔物素材が大量に流通してるおかげで商人の出入りが増えたからな。」

 「知ってるか?討伐隊の指揮を執ってるの、まだ若い冒険者の2人パーティだってよ。」

 「傷面(スカーフェイス)だろ?今はみんな名前で呼んでるけどな。テルって。」

 「そうそう、それと相棒の黒髪黒目の嬢ちゃんも1人でオーガをやっちまう腕利きだって。」

 「まったく、大したもんだよ。なにせ、あの頑固者のスタインやモーリスが認めてるらしいからな。俺達も応援してやらねえと。」


 街を守るどころか街の発展にも一役買っているテル達の評判は鰻上りだ。街の発展云々はテルの意図する所ではないが、テル達の頑張りは確実に街に受け入れられていた。

 

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