大漁
「はあ、はあ、いいか、テル、ユキ。あんまり大騒ぎするとこうなるって教訓だ。はあ、はあ…」
「はぁ、はぁ、よく分かったよ…はぁ、はぁ、くそ、とんでもねえ師匠だな…」
シモンズとシャーベルの大騒ぎによって集まって来た魔物の群れとなし崩し的に戦闘に突入した4人は準備とか作戦とかそういった事を全てすっ飛ばして戦う羽目に陥った。
それでもテルは広い視野で戦場を見据えて仲間に被害が及ばないように能力を駆使していく。
まず4人を順番に近くの大木の周囲に瞬間移動させる。
「大木を背にして戦うんだ!」
次いで弓使いのシャーベルを大木の丈夫そうな枝の上に念動力で持ち上げる。
「え?なにこれ!?」
「落ち着いて!シャーベルさんは上から狙撃に専念して下さい!」
突然持ち上げられてパニックになりかけたシャーベルに声を掛けて落ち着かせ、さらに役割を指示するテル。
(この修羅場でどんだけ冷静なんだよ!)
襲い来る魔物を斬り伏せながらテルの冷静さに感嘆するシモンズ。
ユキは黙々と魔物を斃している。オーガとの戦闘以来、ユキのテルに対する信頼感は揺るぎないものになっていた。故に、ただひたすらに目の前の敵を屠ればよい。ただそれだけに集中していた。それでもシモンズが双方向から攻撃されるような状況を防ぐ為に苦無を投擲したりこっそり忍術を発動させていたりとフォローも抜け目なく行っている。人知れず自軍を勝利に導くのが忍びの務め。面目躍如と言った所か。
シャーベルはブランクを取り戻すのに苦労していた。当初は弱めの魔物を相手にリハビリしようなどと考えていたのに自らの不注意が原因でこの状況である。
それでもテルの【能力】で一方的に狙撃出来るポジションを確保出来た事に感謝するシャーベル。射る度に甦る感覚。矢を撃ち尽くした頃には往年の冒険者の実力を取り戻していた。
現在襲って来ている魔物達に亜人タイプは確認できていない。殆どが動物や虫などの姿に似た巨大な魔物だった。
(亜人タイプがいないのはラッキーだったな。組織だって攻撃されると厄介だった。)
ゴブリンやオークなどの人型の魔物は知能が高い傾向にある。組織的な行動をしてくるのでこうした状況で亜人タイプの魔物がいないのは有難かった。ただ本能に従って襲い来る魔物の対処をするだけならこちらも生存本能に従って動けばいいだけだ。そしてテルが最後の魔物を両断した。
そして話は冒頭の場面に戻る。
「少し休んだら魔物の素材を回収すんぞ。後は死体の処分をきっちりしねえと死体目当ての魔物が寄って来るからな。」
こうした後処理に関してもテルとユキにはいい経験になる。見た事もない魔物もいるし、どの部位が高値で売れるとか用途はどうだとか、剥ぎ取りのコツはこうだとか、シモンズとシャーベルの手際と知識に感嘆するテルとユキだった。
「なあ、シモンズさん。一度の戦闘で馬車が一杯になっちまったぞ?魔物の素材で。」
テルが呆れてシモンズを問い詰める。
「そうだな…しかしさっきの騒ぎで馬が逃げちまったか。仕方ねえ。素材は捨てるか…」
「いや、ちょっと待ってくれ。」
『ピイイイイイイィィィィィィ』
テルが指笛を鳴らす。少し待っていると。
「あら!?随分と賢いのね!」
「しかも馬車馬の方まで連れて来たのか。」
どこからともなくムスタングが馬車馬を引き連れて現れた。
「テルの馬ってアタシの旦那より賢いんじゃないのかい?」
「おいこら、そりゃいくら何でも…」
「はい!そこまで!また魔物呼び集めるつもりかよ!?」
「「あ…」」
少しの間2人の師匠には正座で反省してもらい、テルは今後の事について考えていた。
「なあ、シモンズさん。魔物の間引きについてなんだけど。」
「ああ?どうした?」
「今回は予想外だったにしても、通常であれば俺達の方から魔物の痕跡を辿って魔物を探し出して討伐するっていう流れだと思うんだけど。」
「ああ、その通りだな。そこら辺の知識もお前に授けるつもりだったんだが。」
「いや、さっきみたいに魔物集めて一網打尽ってなかなかいい手だなって思ったんだ。もちろん、きっちり事前準備すれば、だけど。流石にノープランでやったら命がいくつあっても足りないからな。」
「…今日はとりあえず街に戻ろう。詳しい話はギルマスのいる所で頼めるか?」
「ああ、俺もそれがいいと思う。組織的に動かなきゃならないしな。」
「ユキもそれでいいだろ?」
大人しく話を聞いていたユキに話を振ったテルだが、ユキの反応に思わず笑みを漏らす。
「うむっ!ギルマスの所にいくのだな!?あそこは美味しい部屋だ!」
美味しい部屋ってなんだ…一同は一瞬考え込むがテルとシモンズはすぐに思い至った。
「「茶菓子か!」」
「「ん?」」
なんの話か分からないシャーベルと自分の発言のどこがおかしいのか分からないユキは奇しくも同し反応だった。
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