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家族

 結局モーリスはテルの片刃剣と同様にオーガの骨をベースにミスリルでコートしたユキの忍刀、テルのナイフを2本。そして2人分のレザーアーマー。これはやはりオーガの骨を魔物の皮で覆っているもので軽くて硬く、金属鎧のようにガチャガチャと音もしない優れものだ。


 「これで素材は全部使い切ってやったぜ!がっはっは!」


 「それで、モーリス殿。お代の方なんだが如何ほどだろうか?」


 流石のユキも心配になったようだ。


 「あん?昇格祝いの餞別だって言ったろうが?」


 「モーリス。アンタの1週間分の労力分くらいは払わせてくれよ。片方だけいい目を見るのはお互いにとって良くないだろ?」


 「うーむ…」


 モーリスは暫く唸っていたが、


 「よし!それならレザーアーマーの皮の分は請求しよう。それは俺の自腹だからな。それで文句ねえだろ。」


 「ああ、それでいいよ。で、いくら?」


 かなり上等な皮を使っていたらしく、その値段を聞いてテルとユキはちょっと泣いた。


◇◇◇


 「ねえ、お父さん。私ね、あの夜お父さんとテル君の話、聞いちゃったんだ。」


 『森の梟亭』の中。カウンターを挟んで親子が向かい合っている。


 「…そうか。」


 「あの時ね、テル君は誤魔化さずに誠実に向き合ってくれたでしょ?なのに私ったら逃げ出しちゃって。あれじゃあこの先も気まずいままだと思ってさ。戻ってテル君に謝ろうとしたの。」


 「…ああ。」


 「あれってさあ、ズルいと思わない?結局は私の事を気遣ってくれたって事だよね?」


 「…そうだな。」


 「もっと好きになっちゃったよ。もう!」


 「………」


 「…でもね、私はユキちゃんみたいにテル君と同じようには戦えない。今から冒険者を目指したってきっと足手まといになるだけ。そんなのはイヤなんだ。だからさ、お父さん。」


 「……」

 コップの水を口にしながら目線だけストラトに向けるスタイン。


 「テル君をウチの養子にしようよ!それでユキちゃんはテル君のお嫁さんになるの!そしたらテル君は私の兄さんでユキちゃんは私の姉さん。みんな家族になる。どお?」


 『ブフォォォォ!!』

 

 なにか色々と突き抜けた感じのストラトの提案に思わず飲んでいた水を吹き出すスタイン。


 「うわっ!ちょっと!お父さん、汚いなぁ!」


 「いや、だってお前、それは色々といきなりすぎてよぉ…」


 「そうかな?」


 「まあ、テルが来たら聞いてみよう。どうせ今も家族みたいなモンだからな。」


◇◇◇


 モーリスの工房から宿に戻って来たテルとユキ。宿の扉を開けようとしたが何やら話し声が聞こえたのでなんとなしに扉を開けるのを躊躇した。いつもなら構わず開けて中に入るのだが。


 そうなってしまうと聞き耳を立てるのが自然の流れだろうか。2人は気配を消して中の会話に聞き入った。


 「……」


 「……」


 (俺とユキが結婚してストラトが妹?)

 (私とテルが夫婦(めおと)に?)


 「しかしテル。これはどうしたものだろうか?」


 「俺と関わりを持つ事の危険さをもう一度説明しよう。宿主と客の関係ならともかく家族となると、な。」


 「そのっ、テル?あのっ夫婦(めおと)になるというのは…」


 「今はまだ、先行きが不透明だけど…いろいろと落ち着いたら2人で考えてみようか。」


 「う、うむっ!」


 しかし2人共ストラトの言葉が文字通りのストラトの気持ちだとは思っていない。恋に破れた少女の精一杯の強がりだと思えた。


 「話も済んだようだし、中に入るか。」


 「そうだな。」


 ギィっと扉を開いて中に入る。


 「ただいまー。」


 「お帰りー!!」


 いつもと変わらぬ様子で出迎えるストラトにテルもユキも安堵するが、スタインの方はオドオドしているように見える。ゴツい見た目に反してシャイな男だ。どうやって先程の話を切り出すか決めかねているのだろう。


 「あー、テル、ちょっとここに座れ。」


 一度覚悟を決めてしまえばなかなか父親振りが堂に入る。


 「ユキちゃんもお帰り!今日はね、おいしいクッキーが焼けたの!」


 多少わざとらしいストラトの誘いに苦笑しながら乗っていくユキ。いや、クッキーに釣られて素で付いていった可能性もあるが。


 「…お前、ウチの養子にならねえか?」


 ど真ん中の直球だった。


 「おやっさん。俺の話を聞いた上で、それでも気持ちが変わらないなら喜んで養子にでもなんでもさせてもらうよ。」


 「…話してみろ。」


 「俺はエツリアの辺境伯の長男だったんだ。家族家臣を全員殺して逃げて来たのは前に話しただろ?俺がここにいると知れれば追手が来るかも知れない。俺と家族になったとあればおやっさん達にも塁が及ぶだろう。」


 「…続けろ。」


 「知っての通り、エツリアは魔法至上主義を掲げている。俺はその魔法の才能が無いからな。敢えて見逃されている可能性もあるのさ。だが、ギルドの活動を通じて俺の能力がエツリアに知れ渡れば何らかの形で接触はしてくるだろうな。」


 実はテルの認識と事実は若干異なっている。テルが辺境伯の元から脱出し、エツリアを出奔する事情は殆どの人間が知る所だった。もちろんテルを犯罪者として捜索はされたのだが、魔法至上主義に反発している一般兵達は敢えてテルを見逃したのである。その境遇に深い同情を示して。テルの目撃情報は現場で黙殺され、上層部に情報が上がる事なく今日に至る。


 「おめえは、この街を。ストラトを守るんだろ?」


 「ああ。守るさ。」


 「なら、この街もおめえを守るだろうな。」


 「!!」


 「だからよ。俺達もおめえを守るさ。俺の、息子になれ。ストラトは一人っ子だからな。兄貴が欲しいとよ。」


 「おやっさん…悪い…これから世話になるよ。」


 「おう、ユキとの事も相談に来い。俺はおめえの親父になるんだからよ。」


 この日、テルに『本当の家族』が出来た。


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